教授のおすすめ!セレクトショップ

教授のおすすめ!セレクトショップ

PR

Profile

釈迦楽

釈迦楽

Keyword Search

▼キーワード検索

Shopping List

お買いものレビューがまだ書かれていません。
February 16, 2013
XML
カテゴリ: 教授の読書日記
 近代ナリコ(「辛酸なめ子」みたいなもので、「キンダイ・ナリコ」と読むのかと思ったら、「コダイ」と読むんですね。知らなかった・・・。)さんの『本と女の子』(河出書房新社)を読んだのですが、これが意外に収穫だったので、ご紹介しておきましょう。

 副題に「おもいでの1960-1970年代」とあるように、本書のテーマはこの時代にさかんに刊行された「女の子のための本」であり、より具体的に言えば、サンリオの前身である「山梨シルクセンター出版部」の「ヤマナシ・ミニブック」や、新書館が出していた「フォア・レディース」シリーズ、はたまた内藤ルネがインテリア・コーディネーター的な立場で活躍した雑誌『私の部屋』であるとか、あるいは池坊が出していたモダンな婦人雑誌『新婦人』などを扱いながら、この時代の女子と本との関係について種々考察しているんですな。

 で、批判を恐れずに言ってしまえば(っていうか、私ではなく、この本が言っていることですが・・・)、女の子の本の読み方、集め方というのは、男のそれとは明らかに異なる。男にとって、本はそこから何かを学ぶためのものであり、そういうものとして存在するし、そういうものとして蓄積していく。一方、女の子(ここで女の子というのは、ティーンエイジャーから当時の結婚適齢期であった二十代前半くらいの女性を指す)にとって本とは、何はともあれ「可愛いモノ」であった。だからこそ女の子たちは、気に入った雑貨のようにそれを集めるのであり、その時々の気分でパラパラっと一部分だけ読んで、その気分にふける、といったものであった。それゆえ、可愛いくてちょっと洒落た装丁の「詩集」みたいなものは、当時、相当な「女の子需要」があったというわけですな。

 で、そんな需要を当て込んで作られたのが「ヤマナシ・ミニブック」であったり、その後のサンリオ本であったり、「フォア・レディース」シリーズであったと。

 ところが、そんな、いわば軽い感じのスタートであったとはいえ、その作り手の哲学というのは決して軽いものはなく、実際、それらの本の作り手・書き手には錚々たるメンツが揃っていた。

 で、その代表格が寺山修司であり、宇野亜喜良であったわけですよ。

 例えば寺山が文を書き、宇野がイラストや装丁を担当した「フォア・レディース」シリーズ初期の傑作の数々。これはもう、こんな豪華な組み合わせで「女の子本」を作っていたのかよっ!と驚くようなものばかり。もちろん寺山や宇野ばかりではなく、書き手の方ではサトウハチローとか白石かずことか落合恵子とか安井かずみとか岸田理生とかがいるし、装丁・イラストの方でもやなせたかしとか水森亜土とか横尾忠則とか佃公彦とか内藤ルネとか、これまた凄いメンバーが揃っている。

 そんな世界が、1960年代から70年代にかけて、あったんですなあ・・・。

 で、特にこの世界に入れ込んでいたのが寺山修司だったわけですけど、彼がどうしてこの時代、本好き、詩集好きの女の子たちのためにせっせと本を作っていたのかを探っていくと、逆に寺山修司の何たるかが分かってくる、というところが面白いところで。



 だが、それは純粋に利他的な行為であったわけでもなく、寺山自身、若い女の子が寄せる詩を読みながら、それによってそういう文学少女たちの独特の感性を知り、またその感性に刺激を受けて、自らの創作の糧にしていた、というのです。そして時にはそうした女の子たちの詩を自分流に換骨奪胎し、自らの創作物へと加工もしてしまった。

 寺山修司は、よく知られているように、若い頃から「盗作疑惑」を受け続けた人でもあるわけですが、寺山にとってはそれは確信犯的であり、むしろごく自然な行為なのであって、「誤読」を介して自らの血肉と化した他人の創作物をコラージュ的に自らの創作物に昇華させてしまうことこそ、芸術の本質だと思っていたところがある。だから彼が、この時代の「女の子本」を通じて若い本好きの女の子たちと真摯に付き合ったことには、彼にとっても大きな意味があったと。

 そんなことも、本書『本と女の子』を読むと、理解されてくる。そういうこともあって、本書は寺山修司という人間を理解する上でも、極めて重要な資料なのではないかと思います。

 その他、『私の部屋』という雑誌に深く関わった内藤ルネのインタビューだとか、サンリオ社長であった辻信太郎氏の哲学に触れる部分など、ものすごく面白い記事が満載。しかも、話題に上がっている各種の本の実物の写真なども沢山あって、「見る本」としても魅力たっぷり。

 そして本書をすべて読み終わると、ある時代の日本の女の子たちの世界観がそこはかとなく見えてくるというのが面白いところであって、それはおそらく私の実の姉の世代の世界観であり、それを弟として下から見上げていた私にとっても、非常に懐かしいものでもある。確かに1960年代から70年代にかけての「女の子」の世界ってこんなだったよな、という感じがふつふつと思いだされてくる。それがすごくいい。

 ということで、この本、意外に、と言ったら失礼ですけれども、実はきわめてレベルの高い「昭和本」なんじゃないかと、私は思うのであります。

 ってなわけで、近代ナリコ氏の『本と女の子』、教授の熱烈おすすめ!です。これは今時の若い女の子ではなく、むしろ私の世代か、そのちょっと上のおっさん、おばさんが読んで楽しい本だと思いますので、表紙の若さに恥ずかしがらず、ズバッとレジへ持っていきましょう!


これこれ!
 ↓
【送料無料】本と女の子 [ 近代ナリコ ]

【送料無料】本と女の子 [ 近代ナリコ ]
価格:1,680円(税込、送料込)






お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  February 16, 2013 03:50:18 PM
コメントを書く
[教授の読書日記] カテゴリの最新記事


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

Calendar

Comments

釈迦楽@ Re[3]:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 丘の子さんへ  ああ、やっぱり。同世代…
丘の子@ Re[2]:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 釈迦楽さんへ そのはしくれです。きれいな…
釈迦楽@ Re[1]:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 丘の子さんへ  その見栄を張るところが…
丘の子@ Re:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 知らなくても、わからなくても、無理して…
釈迦楽 @ Re[1]:京都を満喫! でも京都は終わっていた・・・(09/07) ゆりんいたりあさんへ  え、白内障手術…

© Rakuten Group, Inc.
X
Mobilize your Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: