ミステリの部屋

ミステリの部屋

2006年01月08日
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石垣島にダイビングに行き、大時化の海で遭難した六人は、お互いの身体をつかんでひとつの輪になって生き延びます。
荒れ狂う海で死と隣あわせの体験をした彼らは、この上ない信頼感で結ばれた仲間になったはずでした。
ところがその後、仲間の一人、米村美月が青酸カリを飲んで自殺してしまいます。
残された五人は四十九日に集まって彼女の死の意味をもう一度見つめ直すうちに、一枚の写真に不審を覚えます。
青酸カリの入っていた褐色の小瓶のキャップは、なぜ閉められていたのでしょうか?彼女の自殺に、協力者はいなかったのでしょうか?



これまでの作品同様、途中でやめられなくなるような牽引力がありました。

けれども、読んでいる途中に感じていた違和感が、だんだん大きくなっていったのも確かです。

そもそも、生死を共にする体験をした者は、絶対的な信頼感で結びつくものだという事から、自分の中では素直に肯定しきれません。
そういう体験をしたことがないから、と言ってしまったら話は終わってしまいますが。

その設定を受け入れるとしても、次第に矛盾が出てくるんですよね。

彼女は本当に自殺だったのか、協力者はいたのか、と彼らはビールを飲みながら議論します。
一見どうでもいいようなことから、ああでもないこうでもないと議論を展開させるタックシリーズのような話は好きですが、これは少し様子が違います。

それは彼らがメロスを待つセリヌンティウスだから。

「美月がそれを考えないはずはない」
死んだ人の気持ちを決め付ける自信があるほど、信頼していたということでしょうか。

ではなぜ彼女は人に迷惑をかける方法を選んだのか?矛盾です。

最後のシーンは印象的ですが、残された者たちはますますつらい目に合うと思います。

美月の行動に怒りを覚えて、否定的なことを書きましたが、裏表紙の著者のことばを読むと、ああ、そういうことを意図していたんだと、わかるような気がします。

友人の不審な死を目の当りにしたとき、
関係者の間には疑心暗鬼と敵対心しか存在し得ないのか。
この本に描かれているのは、そのようなことに懊悩する、
普通の、けれど気高い人たちです。
この本を手に取ったすべての方が、登場人物の一人であると信じています。
 」

信じることから始まるミステリというのは、これまでにない新しい試みだと思います。
常に疑うことから始まるようなミステリの読み方しかできない私は、登場人物にはなれなかったということのようです。



セリヌンティウスの舟 : 石持浅海








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最終更新日  2007年02月03日 11時43分44秒
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