ミステリの部屋

ミステリの部屋

2006年09月25日
XML
その優しさが好きな作家さん、光原百合さんは寡作です。

「時計を忘れて森へいこう」で推理小説界へデビュー、その後のミステリには「遠い約束」、「十八の夏」、「最後の願い」( 感想 )があります。
詩集、絵本、童話、ファンタジーを合わせても、これまで出された本は10冊ほどです。

だから、友人が「光原さんの新作が出たみたいだけど、図書館に予約した?」と言ってくれた時には、嬉しくて、あわてて予約を入れていました。

読んでみたら、この作品はファンタジーでしたが、「ケルト民話に触発されて生まれた一つの異世界の物語」と光原さん自身あとがきの中で語っておられるように、ヨーロッパで語り継がれてきた物語といった雰囲気です。

そして、ファンタジーでありながら、人の想い、という謎を解く物語でもあります。

伝説の祓いの楽人(バルド)-オシアンと相棒のブランは、様々な思いを残しさまよっている魂を、音楽を奏でる事によって、安息の場所に送り届けます。





ある者は嫉妬から、またある者は愛から、そして時には誤解から、想いは様々ですが、それぞれ魂がさまよわざるを得ない切ない物語があります。


後悔するに違いないのに、不器用にしか生きられない人間が悲しい。

なぜその場所に留まるのか、本人たちでさえ気づいていない想いの強さ。

物言わぬ楽人オシアンは竪琴を奏でる事で、その想いを解きほぐし、迷う魂を送る時には、楽の音が絹糸の雨のように柔らかに降り注ぐ情景が目に浮かびます。
魂がしかるべくところへ送り届けられたときには、心癒され、温かい気持ちになりました。

言葉が必要な場面でオシアンを助けるブランは、やんちゃで明るく、時には大人のように生意気な口をきくところがかわいく、癒される存在です。

後半登場する、獣使いの呪い師・ヒューと黒猫のトリヤムーアのコンビも、個性的で憎めないキャラクターです。


オシアンは人間のような妖精のような不思議な存在ですが、まだまだ知らされていないことがあります。

なぜ声を失ったのか、ブランとの出会い、伝説のオシアンと物語のオシアンとの関係など、今度はオシアンが中心となる物語を読んでみたいと思いました。

獣使いヒューと黒猫のトリヤムーアにもまた会いたいので、まだまだこの美しい物語を紡いでいってほしいものです。


銀の犬 銀の犬 : 光原百合



2008年文庫化されました。









お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  2009年02月08日 20時06分27秒
コメント(4) | コメントを書く
[ミステリ以外の小説] カテゴリの最新記事


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

PR

バックナンバー

2025年11月
2025年10月
2025年09月
2025年08月
2025年07月
2025年06月
2025年05月

コメント新着

月見草@ Re:夜のピクニック:恩田陸(07/06) 「夜のピクニック」のご紹介ありがとうご…
アルビレオ@ Re:白馬への旅、2日目(07/30) 白馬 行って見たくなりました。ワタスゲ…
アルビレオ@ Re:マフラー(01/29) samiadoさんの優しさがしみます。36ufh
アルビレオ@ Re:冷凍ロールケーキ(02/07) 書き出しの「待っていたロールケーキが届…
アルビレオ@ Re:節分もどき(02/03) 恵方巻きって確かに子どもの頃 福岡には…
アルビレオ@ Re:つらいときは(02/02) 「情けは人のためならず」って、何か辛い…
アルビレオ@ Re:マフラー(01/29) samiado さん 編み物も🧶されるんですね…

お気に入りブログ

『新訳 冬物語/シ… shovさん

未定の予定~ラビ的… みっつ君さん
留年候補生W2.0… 留年候補生W2.0さん
魔女の隠れ家 たばさ6992さん
ちょっと休憩 ときあさぎさん

キーワードサーチ

▼キーワード検索

サイド自由欄


© Rakuten Group, Inc.
X
Mobilize your Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: