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サイド自由欄

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トールも製作に関わったオラクルカードです♪
2009年07月27日
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家の横、並木を見渡す位置の木陰に、大きな木製のブランコがかけられている。
トールと緑の少女はそこに並んで座り、のんびりと花を眺めていた。

「あれから、考えたんだけどさ」

足先を伸ばして地面を蹴り、軽くブランコを揺らして、花を見つめたまま少女が言った。

「……わかんなくなったんだ。むこうのツインとして会議に出たのもあたしで。黒いのもあたしで。でもここにいるのもやっぱりあたしで」

「うん」

「だけどあたしは、黒いほうはぜんぜん認識できてない。強いて言うなら、アエルじゃなくてカイル。ぜんぜん女っぽくないんだ。むこうのツインとして会議に出てるのも、黒じゃない。といってアエルでもない。あたしそのままじゃないけど、あたし、で」

言葉を探しながら思考を追う少女の横顔を、トールは静かに見つめている。さわやかな初夏の風が、満開の花の香りを乗せて二人の間を吹きすぎた。

「そしたらさ、わかんなくなった。今ここにいる『あたし』は誰?って。トールのことを好きなあたしは誰? 下にいるあたしは誰? 黒は誰?って。
そしたら……そしたら、すごく混乱して、どんな顔してトールに会えばいいのか、わかんなくなった」

怒っているような表情で、少女はまた爪先で地面を蹴った。さっきよりも大きくブランコが揺れる。

「どんな顔でもいいんだよ」

組んだ足を持ち上げて軽く地面から浮かせ、ブランコが揺れるままにしながらトールは微笑んだ。振り返ったエメラルドの瞳を見つめて繰り返す。

「どんな顔でもいい。それは笑っててくれれば一番嬉しいけれど、泣いていようが怒っていようが拗ねていようが、黒かろうが今のあなただろうが、本体の姿であろうが、私にとっては何も変わらないからね」

「……」

少女は目をしばたたいた。泣いたり怒ったり拗ねたりを頻繁に繰り返している身としては、なんと答えていいかわからない。
一陣の風に紫の花吹雪が散ったあと、ようやく口をひらく。

「ああ……でも、あたしもそうだ。どこの時代でもトールはトール。グラディウスだって同じように感じるよ。今の本体さんは女性だから、そのまま一緒、とは思えないけど、でもその関係でうまくいってるんだし」

「まあね。あのごついグラディウスと同じに見えると言ったら、きっと本体は落ち込むだろうよ」

冗談に少女は笑った。同じく微笑んでトールが続ける。

「私にとって、あなたは最初から黒と緑の子だからね。だから、他の人とは違う見え方をしているのかもしれない」

調子が悪くなりはじめた当初、少女がルキアで静養していたときに、黒の女性とかぶって見えたり、明滅して見えたことを彼は言っていた。

いつも男みたいにさばさばしていて、不安を口にしたり、泣く黒の女性は想像がつかないと皆が言う。本体が落ちているときは、いつも行方不明になるだけだったと。

黒の女性が魂としてより均整のとれた存在であるなら、彼が見たのは純粋なアエルの部分とでも言える存在かもしれない。
だからなのか、ルキアで明滅して現れた彼女は、ずっと奥のほうで子供のように泣いているように見えた。

「わたしがわたしだけだったら愛してくれたの?」と彼女は言った。

トールが今の二人をそのまま愛してくれていることは知っている。けれど、ルシオラの混ざらない純粋なアエルの部分はそれでは不安なのだと。
自分はルースと一緒になったから、だから愛されているだけなんじゃないか、という無言の叫びが胸に届く。

「あなたはルースだったら、どんな次元でもどんな星屑の中からでも見つけ出せるって言う。じゃあわたしのことは見つけてくれないの?」

追い詰められた表情で彼女は泣いた。

今のあなたなら見つけ出せるよ、と答えても駄目なのだった。ルースをもたないわたしを探して、と言うのだ。

しかし、融合したとはいっても個性を保っているのだから、アエルの内心としてはさもありなんとトールは思った。
自分の本体のことを考えても、もうひとりのツインの前でのルシオラのことを考えても、今口先だけのこの場逃れをしてはいけない。
そう強く感じた彼は、真剣に考えて伝えたのだった。

明るいルキアの庭で、ベニトアイトの瞳がまっすぐに少女を見る。あのときの言葉を、もう一度ここで語ろう。

「正直なところね……もしもルースがロストしていなかったとしたら、アエルを探せるかというとわからない。
だけど、そのときにはアエルの傍にはカイルがいて、どこにいても探しだしてくれるだろう」

ゆっくりと、一言ずつを噛み締めるように語る彼に、少女は真剣な表情でうなずいた。

「だが実際は、ルースはロストして、アエルと一緒に生まれなおした。その瞬間を、二人から一人になった輝きの強さを、私は今でも覚えている」

それはルースの輝きだけではなかった。
生まれたばかりの、ほんとうに無垢な、無邪気な部分というのを、アエルの部分はもう持っていないと思うかもしれない。
けれども本当はそんなことはなく、ルシオラの無邪気な輝きは、アエルの輝きでもある。
アエルの持つ、経験に裏打ちされた訳知りのしたたかさ、それだってルシオラの持つ部分でもある。

「あなたたち自身は気づいていないかもしれないけれどね。本当はあなたたち二人は、とてもよく似ているんだよ。
表に出ている部分が違うだけで、魂の本質は、その輝きの強さは驚くほどそっくりだ。
ルシオラが単体で経験を重ねていったとしたら、きっとアエルのようになっていたよ。アエルだって、今は無邪気さの表出をルースの部分に任せているだけで、そういう部分を持っていないわけじゃないのだから」

トールの声は穏やかで、大地にしみこむ雨のように少女の心を潤した。
彼女のすべてを奥底まで見通し、そして包むような瞳が続ける。

「黒のあなたも今の緑のあなたも、私から見ると二人は同じなんだよ。どちらにシフトしようと、調整されようと変わらない。
ルースと一緒になったからアエルの部分を愛しているのではなくて、アエルのぶんを足すように、以前より深くあなたそのものを愛していると思う。
だから……黒やアエルのあなたがもし行方不明になってしまったとしても、どこにいてもやっぱり探してみせるし、迎えにゆくよ」

ゆるやかに、しかし確固とした調子で彼は言い切った。
彼がそうして言い切ったことは必ず実行するということを、少女は誰よりもよく知っている。

「……うん、ありがと」

風で膝元に流れてきた長い銀髪の先をもてあそびながら、少女はうなずいた。


安心した顔で青紫の花びらを集めはじめた少女を見ながら、トールは微笑んだ。

そう、どんな彼女であっても、こちらの想いは変わりはしない。

けれども逆に、たとえば黒の彼女にどう思われているかというと、彼にはよくわからなかった。
嫌われていると思っているわけではない。
黒の女性のほとんどがカイルなのだとしたら、かつてのように同僚、同朋だと思ってくれている可能性が高いだろう。

それこそ生まれたときから知っているルシオラの魂に比べると、カイルとアエルの魂に関しては知らない部分が長いのは当たり前だ。
それを忘れてはいけないのだ、と彼はあらためて肝に銘じた。

ひとつの魂から分離してツインとなっていたカイルとアエルは、同一人物になることも多かったという。
ならば、今の彼女には二つではなく、カイルとアエルとルシオラという、三つのかけらが同居していると考えるほうがいいのかもしれない。

好きな人に対して、自由でいてほしいと思う。
同時に、一番でありたいと思ってしまう自分もどこかにいる。
エゴであると知ってはいるが、その気持ちをないと誤魔化すことはできない。

そしてさらに、カイルのことを考えると、今彼女の隣に立っていることさえも、これでいいのかと思ってしまうことがある。
やってはいけないこと、立ってはいけない場所に、自分は立ってしまっているのではないか。

もちろんそんなことはない、今あるものを大切に享受していい、という思いもあり、気持ちは打ち消しあいのシーソーのようだった。


緑の少女の部分。
純粋なアエルの部分。
そしてカイルに近い、黒の女性の部分。

おそらく全部違うのだ。

それらが個々で違うと認めることも、どれも同じだと認めることも、きっと両方が必要で、究極的には同じ意味なのだろう。

ブランコを立って並木道で遊ぶ少女を眺めながら、彼の思考は漂った。

ひとつの魂の中に同居するどの面が現れても、必要な立場からそれを支えられる存在でありたいと思う。

彼の愛するひとの魂は、ちょっとばかり複雑なのだ。
それはよくわかっているではないか。

ならば、そこに統一された解を求めるのは無粋というものだろう。
複雑ならば複雑なまま。
せっかく組まれた精緻な細工物を、中が覗けないからと無理に壊してしまうのは良い方法ではない。
こちらの見方を変えればいいだけだ。

ジャカランダの花の下、トールは目を閉じてゆっくりと息を吸い、そして吐いた。
ふたたび開けたときには、シーソー遊びはもう終わりだ。


一部には恋人であり、一部には庇護者であり、一部には同朋であり。

それでいい。

どの立場であれ、信頼に足る、よりよき存在でありたいと彼は思った。


















*************

>>【銀の月のものがたり】  目次1  ・  目次 2

>> 登場人物紹介(随時更新)



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7/28 セラフィムヒーリング   トール&緑ちゃんのヒーリング第二弾♪♪








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最終更新日  2009年07月27日 14時43分36秒
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