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明治33年9月8日、漱石は早朝に句を詠みました。
秋風の一人を吹くや海の上
漱石が新橋駅に行くと文科大学国文学の芳賀矢一、農科大学の稲垣乙丙、軍医の戸塚機知、第一高等学校教授でドイツ文学者の藤代禎輔らがいました。午前5時45分発の汽車に乗り、6時40分に横浜停車場についています。
午前8時に出発する一行を見送ったのは、妻・鏡子のほかに中根重一、および熊本以来の愛弟子の寺田寅彦でした。
寅彦は『夏目漱石先生の追憶』に、次のように記しています。
先生が洋行するので横浜へ見送りに行った。船はロイド社のプロイセン号であった。船の出るとき同行の芳賀さんと藤代さんは帽子を振って見送りの人々に景気のいい挨拶を送っているのに、先生だけは一人少しはなれた舷側にもたれて身動きもしないでじっと波止場を見おろしていた。船が動き出すと同時に、奥さんが顔にハンケチを当てたのを見た。「秋風の一人を吹くや海の上」という句をはがきに書いて神戸からよこされた。
プロセイン号では、戸塚機知と同室でした。プロセイン号を選んだのは藤代素人。漱石は日記に「遠州洋にて船少しく揺く。晩餐を喫するあたわず」と書きました。
漱石は、すぐ船に酔ってしまうことがわかります。
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