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読レポ第2050
カール・ロジャーズ
~カウセリングの原点~
著:諸富祥彦
発行:㈱KADOKWA
第6章 1955年ロジャーズとジャンドリン
1955年のロジャーズとジャンドリン(6/6)
興味深いのは、チーム・ロジャーズのメンバーたち、そしてロジャーズやジェンドリンがこの「事件」に対して示した反応である。カートナーが修士論文を提出した翌年、カートナーの研究を一部紹介したディスカッション・ペーパー(Cartwright,1956)がカウンセリングセンターのスタッフのもとに届いた。1956年のことである。この研究結果が配布されたとき、カウンセリングセンターのスタッフは一同激怒した、という(ジェンドリンの回想により)。とても信じられなかったのだ。この研究の結果によれば、自分たちが会っているクライアントには、成果が上がらないとあらかじめわかっている人たちがいるということになってしまう。しかも、カウンセリングの面接が始まってほんの数回で、このケースが失敗するかどうか、おおよその見当がついてしまうという。「きっと何か間違いではないか。間違いに違いない、と私たちは口々に言った」(Gendlin,2002)。自分たちは、面接を続けても結果は変わらないことがあらかじめわかっているクライアントに会っている。それはやはり、ショッキングであったことは間違いない。ジェンドリンはこのリサーチに加わっていなかったので、カートナーの結果は予期していないものであった。この場面で、ロジャーズはどうしたのか。ほかのたくさんの弟子がいるなかで、一人の弟子から、「あなたの理論は間違っています」「これが十分条件である、などと大胆なことは言えません」と、研究データを付けられたのである。
ジェンドリンは、その様子をこう言う。
ただ、そんな中で、ひとりロジャーズだけがじっと黙っていた。そしてこう言ったのである。「事実はいつだって味方だよ」(Gendlin,2002)
部屋に戻ったロジャーズのあとをジェンドリンは追った。 ジェンドリンは、カートナーの研究のことでロジャーズに喰ってかかろうとした、という 。その時、ロジャーズはこう言ったのである。 「今回の研究結果が、きっと次の研究への足がかりになると思うよ」 。ロジャーズはカートナーの研究に真実が表現されていることをわかっていたに違いない。
別れ際にドアのところで、ロジャーズは私の方にしっかり手を置きこう言った。
「いいか。大切なのは、ここからどう進んでいくかだ。君はそれを発見していく人間の一人だ」 。ロジャーズはただ例として、私のことを出したのかもしれない。しかし私は、ロジャーズのこの言葉を深いところで受け取った(Gendlin,2002)
この時何かが、ロジャーズからジェンドリンに手渡された。そうしてこうした出来事があった1955年から1956年を一つの区切りとして、それぞれは、やはりこの「出来事」なくしてはそちらの方向には向かわなかったであろうような「その後の展開」を迎えていく。
共通する一本の柱は「クライアントが変化する、とは、どういうことかであるか」というテーマである
。クライアントが変化するとは、どのようなことであり、それはどのようにして生じるのか、というテーマであった。その鍵となったのがジェンドリンの
experiencing(エクスピング: 経験する)概念である。
と著者は述べています。
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