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バタ足の ふと軽くなる一瞬あり
水は静かにわたしを 恕す(ゆるす) 佐藤きよみ
(注)恕=相手を思いやること。ゆるすこと。
バタ足の慣れないうちは、前に進むことよりも水をバシャバシャ打つほうに、エネルギーをとられるような感じだ。それが、ふとしたコツを会得することによって、変わる瞬間がある。それまでは、人間の体に抵抗していたかのように思われる水が、急に優しくなって体を前進させてくれるものとなる。その変化の感じを「水は静かにわたしを恕す」と作者はとらえた。全身で水と対話した人でなくては、生まれない表現だなあと思う。
水泳の体験が、感受性豊かな一首にまとめられたというだけでも、読みごたえのある歌だが、さらに全体が、人生の比喩のようにも感じられる。一人よがりにもがいていた時には、障害だったものも、ちょっとした視点の切り替えや考え方の変化によって、思いがけなく自分を支えてくれるものになる・・・そんな解釈も可能ではないだろうか。いかにもという押しつけではなく、さりげなくそういう広がりを見せてくれるところが、またこの歌の魅力だろう。
〈俵 万智「三十一文字のパレット2」より〉