やっぱり読書  おいのこぶみ

やっぱり読書 おいのこぶみ

2005年01月28日
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カテゴリ: 名作の散歩道
『ダロウェイ夫人は、お花は自分で買いに行こう、と言った。』(冒頭)

「人間のたゆたうような意識の流れを、こころに雨のようにそそぎここむ独特の文体」(カバーの文)で書かれた美しいダロウェイ夫人(50歳を過ぎた)がパーティを開いた日の一日の出来事。

なのだけれども、彼女の意識から意識がはみ出して、登場人物があたかも一人の人間の流れる意識のように現れ、様々な過去、今、行動していることどもを追っていく。私は映画が先だったので、構図を理解できたがちょっと筋がこんぐらかるかもしれない。

青春の日々、ヒロイン、クラリッサは魂の交流のような恋の相手のピーター・ウォルシュを振って、無難なリチャード・ダロウェイを選んだ。同じように心の友サリー・シートンを同性愛のように好きだったけど、ピーターを選ばなかったことで、仲たがいになってしまっていた。

気持ちの良い風の流れる六月のロンドンのダロウェイ邸で催されるパーティ、みんなが一同に会することになる。

ほら、筋は少しも複雑ではない。人生は様々なるやりかたで現れ、その人のおよばない力が加わってなだれ落ちる。こう書くとむなしいようだが、厭世的でもない。何事もないというわけでないが、あまりにも通俗的なほどの普通の日。

さて、あらすじは難しくないのだけれど、ヴァージニア・ウルフの新手法が読みどころ。

自分の頭の中だけで恣意した意識が、流れ出て他人の意識と触れ合って繋がっていくなどということは、神様でなければわからないのに、この小説ではウルフの虚構なのだ。

何とも不審な感覚なのだが、自分も経験しているのだろうか、わかるので不思議だ。知る由もないのだがテレパシーのような電流が飛び交っていて、キャッチしてその意識の流れを他者が続けていってるということもあるのだろうか。



クラリッサの娘、エリザベス(17歳)の青春が時代背景を加味してよく描かれていると思う。母クラリッサの青春の思い出を際立たせている。

だが、作家ヴァージニア・ウルフが序で述べている、考えていたもう一つの草稿の筋、結末と、作家自身の結末がこの作品に陰影を与える。(何かはあえて伏せるが)

私はこの本を読むのに時間が掛かってしまった。慣れない「新手法」が読みにくかったとも言える。興味があって図書館で同じ作者の「波」を借りパラパラと見たが、こんどはさざなみのようなモノローグの連続、読みづらいこと「ダロウェイ夫人」の比ではない。ほんとに噛み応えがあること!でも惹かれるのだなー。



「ダロウェイ夫人」ヴァージニア・ウルフ(角川文庫)






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最終更新日  2005年01月28日 12時07分47秒
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Re:「ダロウェイ夫人」ヴァージニア・ウルフ(01/28)  
柊♪  さん
ウルフの小説、読んだことがないのですが難解そうですね…。
映画「めぐりあう時間たち」を観た後、興味を引かれてぱらぱらとめくって読んでみたりしたのですが(笑)
いつか挑戦してみたい、という意欲を掻き立てる作家さんですよね。 (2005年01月28日 13時47分56秒)

柊♪さんへ Re[1]:「ダロウェイ夫人」ヴァージニア・ウルフ(01/28)  
ばあチャル  さん
>いつか挑戦してみたい、という意欲を掻き立てる作家さんですよね。

そう、私も読んでいなくてずっと心に留めていた作家。やはり、英米の人々には人気があるようです。文学史上も重要な方らしい、特に女性を描く小説にとって。 (2005年01月28日 16時21分48秒)

Re:「ダロウェイ夫人」ヴァージニア・ウルフ(01/28)  
るり4241  さん
 ウルフは、オーランドーで挫折しています。ダロウェイ夫人も、ばあチャルさんのお話を読んだだけで挫折しそうな気がしました。w

 ばあチャルさんて、本当に守備範囲が広くて柔軟なのですね。


 ところで、ノートル・ダム・ド・パリは潮出版の5400円の本以外は抄訳のようです。

 朝日出版は原文を縮めた薄いテキストだったし、ニュートンクラシクスは、抄訳の対訳形式だそうです。

 やはり、これは5400円出さないと読めないのでしょうか!? 残念です。。。
(2005年01月29日 08時13分56秒)

るり4241さんへ Re[1]:「ダロウェイ夫人」ヴァージニア・ウルフ(01/28)  
ばあチャル  さん
> ところで、ノートル・ダム・ド・パリは潮出版の5400円の本以外は抄訳のようです。

> 朝日出版は原文を縮めた薄いテキストだったし、ニュートンクラシクスは、抄訳の対訳形式だそうです。

> やはり、これは5400円出さないと読めないのでしょうか!? 残念です。。。

子供の頃、児童全集の中に「ノトルダムのせむし男」という題であって、それを読んでとても面白かった記憶があるのです。抄訳はそんな感じでしょうか。

うーん、これは図書館さまかしらん。でも、読むのに時間が掛かりそうな気もしますしね~。
(2005年01月29日 10時24分08秒)

ウルフの中では。  
isemari  さん
ダロウェイ夫人が一番完成されてるかな~と思います。特にね、ラストの文が秀逸だと思います。
そうそう、あれは映画も良かったですね。映画にするの大変そうな作なのに、主演の女優(名前忘れてしまった...)がすごく抑えた中にも情緒ある演技で魅せましたね。肝心要のバルコニーのシーンはちょっと安っぽくって残念でしたが、モノローグのシーンは映像ではキツイんでしょう...。岩波ホールで並んでみた記憶が(笑)。

あちこちで特にセプティマスによって象徴される「死」。バルコニーのシーンで、クラリッサがその死と和解し受け入れる、それによってあったこともないセプティマスをクラリッサが完全に理解したと感じるところはすごく印象的でした。それによってクラリッさは周りの人間の中にいながらも、その人達とは別の側に歩み出る感じが。その対象的な存在としてパーティでセプティマスのしについてかたる医者(が象徴するもの)の無神経さ、無感覚さをちくりと指すウルフらしい部分もあって。

まあそれはともかく、「波」は確かウルフがすごい印象派かなんかにこってた時期で場面場面の描写が絵画的で異常に美しいですよん。 (2005年01月30日 00時57分51秒)

isemariさんへ Re:ウルフの中では。(01/28)  
ばあチャル  さん
まあ、お久しぶりにコメントすごく嬉しいです!!

>ダロウェイ夫人が一番完成されてるかな~と思います。特にね、ラストの文が秀逸だと思います。

さすがー、そう、そうです。丸谷才一は「『ミセス・ダロウェイ』という題は、実は本当の中心人物はミスタ・ダロウェイとほのめかす」と書いてらっしゃいますが、むしろ、「クラリッサがいる」というすばらしさは私たちにえもいわれぬ至福を与えてくれます!

>そうそう、あれは映画も良かったですね。映画にするの大変そうな作なのに、主演の女優(名前忘れてしまった...)がすごく抑えた中にも情緒ある演技で魅せましたね。肝心要のバルコニーのシーンはちょっと安っぽくって残念でしたが、モノローグのシーンは映像ではキツイんでしょう...。岩波ホールで並んでみた記憶が(笑)。

よく、覚えていらっしゃいますね。やっぱり、若い時っていい!(私はつい最近TVで観たので…)その通り、なんですもの。

>まあそれはともかく、「波」は確かウルフがすごい印象派かなんかにこってた時期で場面場面の描写が絵画的で異常に美しいですよん。

読み通すことが出来るといいんだけれど...。 (2005年01月30日 09時00分15秒)

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