やっぱり読書  おいのこぶみ

やっぱり読書 おいのこぶみ

2021年02月08日
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カテゴリ: 読書メモ
離婚した佐藤愛子が母シナと老耄になってしまった紅緑を看取り、血は争えず小説家になろうとする。かたやサトウハチローという異母兄はあんなに美しい詩を醸すのに、ケチで下劣で最低男なんだと、愛子に聞こえてくる。ハチローの妻や子たちの尋常ならざる生きざまを知り、自身の再婚相手にはこれまた、けたはずれの借金に悩まされる運命。

観察者(語り手・作者)兼中心人物愛子が老境になり、紅緑ハチローのかかわった女たち、紅緑の孫子たちの運命を見定めていく、圧巻だった。

若い頃の私は紅緑の小説を造り物だと批判しハチローの詩を噓つきの詩だと軽蔑していた。だが『血脈』を書くにつれてだんだんわかってきた。欲望に流された紅緑も本当の紅緑なら、情熱こめて理想を謳った紅緑も本当であることが。ハチローのエゴイズムには無邪気でナイーブな感情が背中合わせになっていたことも。・・・・・・この始末に負えない血に引きずられて死んでいった私の一族への何ともいえない辛い哀しい愛が湧き出・・・世間の誰もが理解しなくてもこの私だけがわかる。我がはらからよ。

この​著者のあとがきは秀逸である。読む者にとても響き『血脈』を書きたかった著者の胸中がわかるのである。

これでもかこれでもかの波乱万丈人生模様。「自己中」のようで「鼻持ちならない」と読み捨てられないおもしろさ。平易な文章なのに誰でも書けるかというと、書けやしまい軽妙さ、やはり才能だなあ。
というか、愛子さんの生まれ育った阪神間の土地風土に関係あるかと。

「阪神間」、 関東人のわたしには土地的には漠然としているが、文学ではおおいに出てくるので理解はできる。 「風がちがうのよ」 と須賀敦子さんは言ったそう。谷崎潤一郎『細雪』の時代と世界も思い出す。

文学でもなくても、わたしのそこ出身の友人たちの言動、立ち居振る舞いは、良くも悪くも独特で、どぎもをぬかれた経験がある。今思うとおもしろくもなつかしい、いい異文化経験だったと​。違うものには新鮮味、深い興味とを感じる。






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最終更新日  2021年02月08日 10時17分45秒
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Re:『血脈 下』佐藤愛子(02/08)  
alex99  さん
サトウ・ハチローがそんなに悪者・無頼だったとは(笑)


阪神間
私が以前書いた東京印象記(笑)
あれは60年ほど前ですからね
それから東京および阪神間
その力関係はは大きく変わったと思います

60年前の東京は、まだ東北の影響下にあり(笑)
人々も暗く真面目(笑)
阪神間の方が快適・先進的であった部分がありました

東京の当時の味覚・料理は、私には濃く辛く
その後関西料理が東京の味覚を一変し
今は東西間に味覚の違いはほとんど無い

それに私を鬱にした(笑)真っ黒な関東ローム
今では完全舗装で隠されている(笑)
一方、阪神間は六甲山系が花崗岩
その影響で白っぽく照り返し、明るかった

空気の違いは判らなかった(笑)
でも、同じことを言ってるのかもしれません

海もすぐ近くで開放的
その気分の違いは大きかったですね
阪神は山(六甲山系)と海が迫っていて
登山と海水浴が同時にできました
芦屋浜・甲子園・香櫨園などは白砂の海水浴場
家族でよく行ったものです
今はすべて埋め立てられ
海水浴は須磨まで行く必要がありますが

関西は私鉄が発達していて
特に阪急沿線は「阪急モダニズム」なる生活圏で
阪急電車に乗れば
梅田・京都・嵐山・宇治・箕面・宝塚・神戸が直結
宝塚には、少女歌劇(笑)・動物園・遊園地
子供には夢の世界でした(笑)
ただ、宝塚歌劇の観劇強制は、男の子には抵抗が(笑)

その当時の東京よりはるかに便利で明るかった
昔の東京の電車は、国鉄も東横線もダサかった(笑)

でも今は様変わりで東京一極集中
阪神間も落ちぶれました(笑)
私、今も阪神間は好きですけれどね
車窓から見る世界がいつも明るい

もう一つ発音の問題があります
先日見た動画
米国人や発音コーチが指摘していたのですが
東北日本の日本語の発音は喉を緊張させて固い
一方、南西日本の日本語は喉をリラックスさせて柔らかい
後者の方が英語には適しているそうです

私はもともと、濃い大阪弁はしゃべれないのですが
上京後、共通語に切り替えほぼ訛り無しに
でも、関西人の共通語は完全にアクセントを矯正しても
喉を柔らかく発音するので、どこか関東人とは違うのです
私には温かく聞こえる

以上、自分でも意外ですが、
この発言に限っては、関西(阪神間)びいきのコメントでした(笑)

佐藤愛子先生(笑)
関西人の率直さとユーモアがあるように思います
それも、田辺聖子先生とは少し違うものが
「心の故郷」と言う神戸を出て、いろいろ各地を転々としても
やはり、神戸っ子だったんだろうと思います




(2021年02月08日 15時26分52秒)

Re[1]:『血脈 下』佐藤愛子(02/08)  
ばあチャル  さん
alex99さんへ

そうでした、田辺聖子さんも好きな作家です
でも、阪神間生れではないですね、だから小説も微妙に違いますけどね

おもしろいですね
生まれ育った土地や永らく住み暮らした土地に影響を受けて、作風や人となりが出来てくる、ということ


わたしは14歳から結婚まで暮らした、ここ山手線の内側(今、終の棲家にしている)がとても落ち着きます

確かにその東京は60年前と言わず30年前でも、空が煤煙でくすんでいるような感じでした、雑踏や車の音もひどかった、でも都会のざわめきとして当たり前だったのですね(今、空気はみちがえるほどきれい!)

上野からの連想で「東北の影響」とは面白い観察(笑)
わたしだって父方母方両祖父母は山梨県人、寄せ集まりの東京って面もありますね

食べ物
これも昔と様変わりですね、どこの土地、もちろん外国の料理も、なんでもあります、東京

狭くなった日本、だけどコロナ肺炎はみんなの足止めを・・・

元気なうちに(もう外国は身体的に行くのが大変だから)日本の各地をあちらこちら行けるようになってほしいですね~
(2021年02月08日 16時46分47秒)

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