書評日記  パペッティア通信

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Oct 12, 2006
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  諸君 私は革命が好きだ


     産業革命が好きだ
     国民革命が好きだ
     フランス革命が好きだ
     フェルキッシュ革命が好きだ
     農業革命が好きだ
     勤勉革命が好きだ
     8月15日革命が好きだ
     太閤検地封建革命が好きだ
     少女革命が好きだ



▼  なんか違うものまで、交じっているような気がするが……… というわけで、このブログを愛読している方には、まったく意外に思われないかも知れないが、内容がなんであれ「革命」と名前がつくものが大好きな私は、いつだって火の出るように熱い小説を好む。そんな人にお勧めしたい小説は、笠井潔『バイバイ、エンジェル』である。


▼  死んだはずの人物から届いた手紙。パリのアパルトマンに転がった、首なし死体。ラルース家をめぐる連続殺人事件。これを解決するために立ち上がる、日本人留学生、矢吹駆。かれはいう。

集められた諸事実は真実にたいして権利上同等である無数の論理的解釈を同時に許す

そう嘯いて、「本質直観」による「現象学的推理」を駆使して、有機的全体から、全体の支点にあたるものを見出して、解決に導いていく………本書における支点は、首無し死体。首は、なぜ切り落とさなければならないのか? 


▼  とにかく意味不明に格好いい。「認識論的還元を超えて、私の生そのものの還元を企て」る矢吹の生活は、「あらゆる剰余を剥ぎ取って、もっとも単純な生の形を露呈」させるため、家には暖房も友人も恋人も所有物もない。そして、近代精神のグランメール、観察と推論と実験の操作が真理への唯一の道、という考えを批判する。反ナチ・レジスタンス、フランス共産党員の父(警視)をもつ、女子大生ナディア・モガールを道化師(ピエロ)として、本書は怒濤のクライマックスを迎える。未読の方は、以下、ネタバレもあるので、ブログを読むのをやめて、本書を読んで確認して欲しい。 応援 してくれれば言うことはない。


▼  なによりもこの書の熱さは、かつて新左翼の革命運動に従事していた著者・笠井潔が、「ヘーゲル=マルクス主義」と呼ぶものを打倒・清算するために書いたことに起因しているだろう。最後、矢吹駆は、このラルース家殺人事件の真の黒幕、世界革命組織「ラ・モール・ルージュ(赤い死)」の幹部と対決するのだ。その詳細を転載しておこう。 

お喋りは終わりにしましょう。わたしたちは必要な話をしなければなりませんわ。あなたは組織の統括者になるべき人間です。組織の中央委員になるべきなのです。……… わたしの組織は…究極の革命組織です。人類史が生み落とした最後の革命組織なのです。


その綱領は?


私たちはあらゆる革命の敗北の、その究極の根拠を発見したのです。なぜ、一切の革命は常に絶対に敗北するのでしょうか。歴史は、破れた革命の残骸に埋め尽くされているではありませんか。なぜ、革命はいつだってまるで悪い運命に呪われているかのように絞殺され続けてきたのでしょうか


なぜです?


理由は、そう、わかってしまえば実に簡単なことなのです。それは、革命の中にいつも解きがたい矛盾と背理が含まれていたからです。革命は、胎内に、敵対者の罠をはらんでいたのです。その罠とは、<革命は人民による人民のための事業である>という愚昧な命題です。この命題こそが、革命の敗北の根拠なのです。革命そのものとこの命題のあいだにあるものは、決して解くことのできない矛盾と撞着だけです。

そうです。革命と人民とは本質的に無関係です。いいえ、あらゆる歴史の現実が露骨に示しているのは、革命の最悪の敵が人民そのものであったという事実なのではありませんか。革命の真の敵は、刑務所や軍隊や政治警察や武装した反革命ではなく、…人民という存在だったのです。……………

<人民>とは、人間が虫けらのように生物的にのみ存在することの別名です。日々、その薄汚い口いっぱいに押しこむための食物、食物を得るためのいやいやながらの労働、いやな労働を相互の監視と強制によって保障するための共同体、共同体の自己目的であるその存続に不可欠な生殖、生殖に男たちと女たちとを誘い込む愚鈍で卑しげな薄笑いに似た欲情 …。この円環の閉じこめられ、いやむしろこの円環のぬくぬくした生温かい暗がりから一歩も出ようとしないような生存のかたちこそ<人民>と呼ばれるものなのです。つまり人民とは、人間の自然状態です。……………

だから人民は、本質的に国家を超えることができないのです。国家とは、自然状態にある個々の人間が、絶対的に自己を意識しえない、したがって自己を統御しえないほどに無能であることの結果、蛆が腐肉に湧き出すように生み出された共同の意志だからです。制度化され、固着し、醜く肥大化した観念、生物的存在と密通し堕落した観念、これが国家だからです。


あなたの理論によれば…人民と国家は永遠の共犯者なのですね。人民とは、国家の足元で、窮極のところ生物学的な殺人に還元される利害抗争に明け暮れ、ある時は飽食して眠り、ある時は飢えて暴徒化し、この両極を無意味に機械的に往還するだけの自然状態にあるような人間たちの別名なのですね。………


政治こそが革命の本質を露わに体現する場所です。組織は革命が棲まう身体です。私たちは、最後の、決定的な放棄を準備するための武装した秘密政治結社なのです。社会を全的な破滅へと駆りたてる武装蜂起こそ、観念の激烈な輝きが世界を灼きつくす黙示録の瞬間の実現なのです。


けれども、蜂起はいつも、あなたの憎悪する人民の反乱の頂点で、なんらかの政治スローガンを掲げて組織されたものです。


平和、土地、パン、自由ですか。いいえ、スローガンになど本当の問題はないのです。それは、季節に合わせて適当に着け替える衣服にすぎません。どんなスローガンでもいいのです。問題はただ蜂起が体現する観念の激烈さと純粋さだけにあるのです。………


しかし、蜂起の現実的目標は、権力です。


権力……。あなたは、わたしたちがあの愚かな髭面のユダヤ人やその使徒たちのように国家に身を売るとでも考えているのですか。あらゆる革命は、人民に拝跪することによって国家に粉砕されるか、国家に拝跪することによって人民を奴隷化するか、つまり敗北か堕落かのいずれかに逢着したのでした。しかし、これはただ、人民と国家とが革命にとって二重の敵であることを理解しなかったために惹き起こされた結果にすぎません。わたしたちは、違います。


すると、あなたたちの窮極の目標はなんなのでしょう。<赤い死>の最大限綱領は…


わたしたちが介在しなければ、どのように激しい反乱であろうといずれ沈静するものです。国家と人民は二本の脚のように互いを必要としているのですから。諍いは一時のもの、暗黙のうちに将来の和解を計算しながら、国家と人民は争うのです。

しかし、わたしたちは、この予定調和の円環を噛み破ってしまう。あらゆる詐術と陰謀によって、後戻り不能の場所にまで人民を駆りたて、暗黒と腐敗と<赤い死>の、混乱と暴力と破局の一時代を現出するのです。………そして革命は、内に向かっては社会の永続的な破壊を推し進め、外に向かっては、国際社会の秩序をずたずたに切り裂くための策謀を絶え間なく実践しなければなりません。その最大の武器が、そう核兵器です。あなたは、わたしたちが核戦争だけは避けねばならないといった迷妄に毒されていると思いますか。いいえ、全面核戦争こそが、世界革命の本当の中身です。核の炎となかで世界が焼け落ちることによってのみ、社会と文明は決定的に破壊されるのです。

私たちの最大限綱領は、 国家と人民の廃止 です。それはまた、文明と社会の窮極の、最終的な破壊でもあります。文明そして社会とは、国家と人民の永遠の共犯体制の別名なのですから。………全面核戦争を頂点とする世界革命戦争は、世界人口を少なくとも現在の4分の1以下、うまくいけば10分の1以下まで引き下げることでしょう。そして、1世紀にわたる混乱の時代から新しい集団が成長してくるのです。 ………

破局を生き延びた一握りの人々は、性によっても、労働によっても強制されることのない、ただ観念と意志にのみ依存した自由な集団を築くことになるでしょう。必然の罠はついに永遠に追放されるのです。………そのとき、全人類は単一の結社の成員になるのです。全人類はただ厳格な論理と理性によってのみ結合される。



▼  凄い。 あまりの熱さに火傷しかねない。 これほどまで、ヘーゲル=マルクス主義のもつ醜悪な側面を徹底的に戯画化した作品を、私は知りません。 なぜ推理小説という形態をとって、こんなやりとりを描くのか。 議論を巻きおこしたことは、ある意味当然。 本格推理小説としての体裁があまりにもキチンと整えられているだけに、かえって不気味なまでに革命というテーマがうきあがってしまう。本格推理小説として完成されたものが読みたい方は、『サマーアポカリプス』の方がお勧めです。





▼  そんな私だから、北朝鮮が核武装しても、なんか面白そうなことが、待ちかまえていそうに感じられてしまう。 アメリカ相手に、良くやるよなーというのは、無論のこと、世界が終わるんなら文句言わない、って優香、核で焼け落ちて国家にかわってアソシエーションになるっつーのが萌えを刺激して止まないのですね。


▼  いったい、なに騒いでるんですか、皆さん。 とくに、北朝鮮は核実験できない、とかバカにしていながら、いざ核実験に成功するとあわてたのか、ならば日本も核保有だと、騒いでる皆さんは醜悪ですよ。 日本が核武装してもしなくても、北朝鮮が打ってくればどーせ死ぬんだし、核武装しても喜ぶのは、相互確証破壊を口実に核シェルターに待避できる、安倍ちゃんとそのお仲間たちだけじゃん。あなたは、どーやったって、死ぬんです。ジタバタしたり、チマチョゴリ切っても、チキンに見られるだけでっせ。 


▼   制裁、大いに結構。戦争、大いに結構。むろん米朝妥協で、日本右翼がハシゴ外され大困惑するのも大いに結構。小泉首相じゃないけれど、「勝って良し、負けて良し」。そんな気分で、核実験騒動を楽しんで見てはいかがだろう。どうせ、かわんないんだし。


▼  退屈しないからいい、と思うのは、ライトスタッフだと思うんだが。


評価  ★★★☆
価格: ¥ 672 (税込)



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Last updated  Dec 14, 2006 12:46:41 AM
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どーもお久し  
ショータ さん
なんか珍しく小説を取り上げてるなあと思ったら『バイバイ、エンジェル』wwww
正直、春秋子さんらしすぎて爆笑しましたがな。

>正直、かなり萌え萌えになったことは、告白しておかねばなるまい。

アナーキズム革命戦士(別名/若者の暴走DNA)の血がたぎった、と正直に書けばいいのになぜそこで萌えるw 
「萌える」は理解できんですがこの本を読んだあとの血のたぎりなら共感できちゃうなー。安田講堂にも成田闘争にも参加できなかった世代のジレンマもあるんじゃないですか? なーんて考えてしまいまする。
え? 私? 当時大学生だったらもちろんドカヘルかぶって角材握りしめて山本義隆代表のもとに馳せ参じてましたよ。だからいまロマン派ネトウヨなんぞをやっとるわけでww
最後の革命組織かー。胸を打つなー。もはやこれ一周回って完全なロマン主義ですなー。
でもね。

>どうせ、かわんないんだし。

インテリはそんなこと言っちゃ駄目デス。
血を吐くまで人民の蒙を啓き続け、「性によっても、労働によっても強制されることのない、ただ観念と意志にのみ依存した自由な集団」という輝けるユートピアの必要性を説き続けましょう。いひひ。 (Oct 13, 2006 06:54:11 PM)

Re:★ 北朝鮮核開発と世界革命  笠井潔 『バイバイ、エンジェル』 創元推理文庫 1995年 (初出は角川書店 1979年)(10/12)  
エスエム銭湯団 さん
はじめまして。これってまるっきりハルマゲドンを考えてたオウムそのものですね。死ぬべき側の愚昧な人民の立場にある私としては「萌え萌え」はわかりかねます。こんな理論純水みたいなありえない観念の党を考えるのがインテリならば、そんな奴らは絶滅しろと呪詛したい気分の三日熱革命家(@埴谷雄高)志願の私です。おじゃましました。 (Nov 9, 2006 08:26:14 PM)

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