森田理論学習のすすめ

森田理論学習のすすめ

2016.12.12
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宇野千代さんが、「幸福を知る才能」(海竜社)という本にこんな話を紹介されている。

九州に住んでいるある男が、強度の神経痛にかかった。福岡の大学病院に入院した。
豪農の息子で金に糸目をつけず、あちこちに手を出したが治らない。
そのうち京都の大学病院に入院したが治らない。
最後の望みを託して東大病院に入院した。しかしここでも治らなかった。

絶望の末に、ある街に住む高名な漢方医を紹介されて、その診察を受けた。
丁寧に診察したその医者は言った。
「あなたのこの病気は、あなたにとって死病です。多分、あなたはこの病気で死ぬでしょう。
しかし、ただ一つ、これは試しにやってみるのですが、この薬を飲んでみてください。

もしそうなればあなたは助かるが、しかし、多分、この薬も効き目はないと思うが・・・」
と言って、一包みの粉薬を渡した。
その男は顔面蒼白になって、もう死んだようになってその医師のもとを立ち去った。

ところが、その翌朝あわただしくその男が駆け込んできた。
「先生、私は助かりました。真っ黒な便が出ました」
「出たか。そうか。助かったのか」と医者もともに手をとって喜んだ。
その男はそのまま九州に帰ったが、先生にいただいた薬のおかげで、難病の神経痛がけろっと治った、というお礼の手紙が来た。

その薬というのは、飲むと腹の中でなんとかというものと化合して、真っ黒な便が出るものと決まっている。そういう薬であった。
いまでいうプラセボ効果(プラシーボ効果)満点の薬だったのだ。
薬効として効く成分のない薬(偽薬)を投与したにもかかわらず、見事に神経痛が治癒したのが面白い。
これは原因不明の慢性疾患で長らく治療を続けている人にも参考になる話だと思う。


つまりこの病気は確かに痛みがあるが、器質的な疾患に加えて精神交互作用によって増悪の一途をたどっていたのである。
必要以上に自分自身の気の持ちようで増悪させていたのだ。
普通の医者は症状をこまごまと訴える患者が来れば原因を類推して治療に取り組む。
ときとして、こういう医師は慢性疾患を治しきらない。

この漢方医はある意味で神経症の患者も治せる可能性がある医師である。

精神的な気の持ちようが病気の最大の原因なのである。

この場合治るという希望を持っている限りいつまでたっても治らない。
万策尽きて一生治らないとあきらめたときに初めて扉が開ける。
以前玉野井幹雄さんという方が、治すことをやめて、地獄に家を建てて住むという覚悟を決めたときにはじめて神経症の苦悩から逃れることができたと言われていた。
つまり症状と格闘することに精魂つきるということが神経症の克服には福音となるのである。

普通はますます絶望的になって自暴自棄になってしまいそうだ。
そこのところで症状と闘うのをやめて、治すことをあきらめることが肝心なのである。
その状態は痛さ、苦しみを持ちこたえる。
共存しながら仕方なく目の前のなすべきことに目を向けていくことだろう。

この神経痛の人は偽薬で治ったと勘違いして、神経痛と闘うことをやめてしまった。
それが心機一転のきっかけになっている。
そして治すことに精力を使うことから、そのエネルギーを仕事や生活面に転換していったということに興味がつきない。





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Last updated  2016.12.12 06:59:29
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森田生涯 @ Re[3]:強情と盲従の弊害について(02/27) ststさんへ 今の生活は日中のほとんどが…
stst@ Re[2]:強情と盲従の弊害について(02/27) 森田生涯様、返信アドバイスをしていただ…
森田生涯 @ Re[1]:強情と盲従の弊害について(02/27) ststさんへ コメントありがとうございま…
stst@ Re:強情と盲従の弊害について(02/27) 森田生涯様、こんばんは。 過去に何度かコ…
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