先ほどのデータが示すように、地方小売業はとにかく元気だ。また、このランキングにまでは入らなかったものの、イオンやイトーヨーカ堂、セブン-イレブン・ジャパン、さらにはオートバックスセブン、コジマ電機、マツモトキヨシ、大創産業といった、それぞれの業態ではトップブランドにある小売業をたじたじさせるような地方小売業も少なくない。筆者は、その強さの秘密として、
もちろん、地方小売業は企業規模ではトップブランドに歯が立たない。だが、局地戦や限定したマーケットでは、“ホームグラウンド”の強さを発揮できるため、トップブランドと互角もしくはそれ以上の業績を上げているケースもある。実際、あまりにもリージョナルチェーンが強いため、大手チェーンが尻尾を巻いて撤退したような事例もある。
必勝プロトタイプを引っさげて他州へ進出開始
ウェッグマンズの本社は、ニューヨーク州のロチェスターという田舎にある。余談だが、米国の優良小売企業の本社は田舎であるケースがほとんどである。その理由は、田舎で超寡占化を実現し、この金城湯池をベースとして赤字覚悟で他商圏へ打って出ることができるからである。競合が入って来ることのできない、儲かるドミナンスエリア(一定の地域において、他社を寄せ付けない、または取引を有利にコントロールできてしまうようなシェアを意味する)を最低1つ作ることは、チェーンストアにとっては必須であり、この要件は日米に違いはない。
ちなみにウェッグマンズはこの城下町ロチェスターで、食品シェア80%というずば抜けた寡占状態を作り上げているとのことだ。80%という数値は異常に高そうに見えるが、私が知る限り、このレベルの寡占状況を持つチェーンは他にも数社あり、実は米国では珍しいことではない。
日本の小売業は属人的なため急成長が望めない
──日本の小売業が米国の小売業に最も遅れている点はどういったところでしょうか。
藤野: 「スケーラビリティ」です。すべての作業を人手で行うのでは、10店舗程度なら運営できても3000店舗ともなると対応できません。ウォルマートが1日に50店舗ものスーパーセンターを同時にオープンして、年間では500店舗もオープンしているというようなことは日本では考えられないことです。日本の小売業では、多くが店舗の運営やオペレーションを人材に依存しており、経営システムになっていないからです。
例えば中国のマーケットに進出しようとした場合を考えてください。年間100店舗程度の出店なら対応できるでしょうが、500店舗となった場合に日本の小売業が対応できるかというと、おそらく難しいと思います。人材を育てない限りうまくいかないからです。
──日本は米国に比べて相当遅れているということでしょうか。
藤野: 一概に遅れているというわけではありません。日本と米国は、そもそも目指すベクトルが違います。日本では人間技でうまく対応することで結果としてのパフォーマンスが出ていますが、経験と勘が中心の属人的なオペレーションのため、スケーラビリティが足りないのです。 “暗黙知”の世界で“組織知”や“形式知”になっていない。
日本の小売業はすばらしい感性を持っていると思いますよ。感性とデータ、つまりアナログとデジタルというのは決して対立概念ではありません。小売業というのは、結局顧客の心の中に入っていかなければなりませんから、感性は重要なのです。顧客はどういう気持ちでいるのか。たとえ同じものを購入したとしても、それしかないから仕方なく購入しているのか、それともそれがどうしてもほしくて満足して購入しているのかによってその内容はまったく異なります。これは絶対にデジタルでは分かりません。
「商人が漢字や難しいことばでものを考えるようになると、現場から遠ざかっている」というのが私の持論です。
小売業の経営者も、ある程度会社が大きくなると、現場で接客するよりも、銀行とのお付き合いや同業者との会合が多くなります。頼まれて経営理念を講演したり、ものを書いたりする機会も増えてきます。ときには政府から声がかかり、審議会の委員にと言われることもあります。
そうこうしているうちに、漢字やカタカナ、難しいことばが会話の中でしばしば出てくるようになります。そうなったときは要注意です。現場が遠のき、肌身で感じ取ることが少なくなって、商いの活力が失われ始めているのです。
「ひらがなで考える」ことが重要です。「ひらがなで考える」とは、本で読んだり聞きかじって得た知識でなく、実践を通して身に付いた知恵を生かす思考です。
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