hikaliの部屋

hikaliの部屋

August 3, 2007
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 趣味の都合で、北関東一円を周る旅をする。
 埼玉から、群馬県の伊勢崎に出て、太田に出て、そこから足利(栃木県)を経由して、久喜に出て(埼玉県)、小山に行き(茨城県)、また戻ってきて、越谷(埼玉県)が最終目的地。
 そこから、帰宅。
 日帰りの旅である。
 地図を見れば分かるが、北関東をぐるっと回る。
 駅から各目的地まで、往復1時間は歩くから、恐ろしいほど時間がかかる。
 バスはない。
 企画をしたときは、熱でもあるんじゃないかと思ったのほど、気の狂った旅程なのだが、案外満足して、脚をぼうにして帰ってきた。
 朝十時に出て、帰宅は終電。

 やってみるとわかるけれど、気が遠くなる旅である。
 ショートカットする方法はない。
 どんなに努力しても、旅程は短くならない。
 普通は耐え難い。

 わたしの両親は7泊でイタリアを旅行し、わたしにさんざんに土産話を聞かせてくれた。
 これは以前書いたので、 詳細はそちら を参考にしてほしいのだが、その中で、面白い気付きがあった。

「そういえば、日本に旅行に来てた外国人がうれしそうに言うんだって」
 という話が出た。
「一昨日北海道から着きました。昨日の日光もいいけど、浅草もいいですよね! 明日は瀬戸内海です」
 常識的な日本人だったら、
「おいおい、その調子で、京都・奈良・東京・大阪・九州まで見るのか!?」
 と感じるだろう(笑)。しかし、これは逆転すれば七泊のイタリア旅行、わたしの読んだジオグラフィックの記事が正しければ、最低二年住まないとナポリの良さは分からないとのことで、母が聞いた話をが本当であるならば、トスカーナの良さはよそ者が一生住んでも分からないらしい。

 7泊でイタリアを回るだなんて、すごいショートカット(笑)という話なのだが、よくいう海外旅行は、超高速で走り回る旅である。そういう旅もあるだろうと思う。
 とおいようでちかい旅。
 昔だったら、イタリアなんて船しかなかったからとんでもない旅だったのだが、技術の進歩はふつうのおじちゃん、おばちゃんが気軽に出来る旅にしてくれた。
 わたしの妹は、卒業旅行でパリ・ロンドン・ローマに行ったらしい。


 この二つの旅を見比べてみると、大きく違うのは移動速度だ。
 さまざまなところを周ることは変わらない。
 方や電車とバスであり、方や航空機を利用している。
 たとえばわたしが、北関東をヘリコプターで回ってれば、たぶん夕食には間に合う時間に帰ってこれただろう。しかし、そんなお金はわたしにはないし、第一、ヘリコプターが着陸する場所が整えられているわけではない。
 現代という世界を俯瞰してみると、ちかくてとおい世界と、とおくてちかい世界が混在していることが分かる。

 お金さえあればニューヨークは近いが、お金がどんなにあっても小笠原諸島は遠い。
 御蔵島は天候が悪いと入れてもくれないのだけど。
(御蔵島でググッてね)

 どんなに努力しても、どんなにお金をつぎ込んでも、そのとおさがちかくならない場所というのはどうしてもある。
 どんなに走っても、どんなに疲れても、それは徒労である場所がある。
 たとえば、伊勢崎から太田までは、実は1時間に一本しか電車がなかったりするので距離に比べてすさまじく遠いのだが、タクシーを使うならともかく、それ以外の方法で、電車より早く移動する方法はない。
 太田からは、特急が走っているので、700円払って久喜まで気楽な旅をすればよい。
 なので、わたしがしたような旅をしなければならないのであれば(そんな人はいないだろうが)、すさまじく地道でながいながい気の遠くなるほど長い旅をしなければならないことを飲み込まなければいけない。
 まっくら森のようにちかくてとおいのだ。
 それを飲むこむ覚悟がなければ、こういう旅に出ることは、あまりお勧めしない。

 開発の分野にも、ちかくてとおい分野ととおくてちかい分野がある。
 前者は基礎研究に分類される世界であって、後者は実装方法の模索にちかい。
 前者は研究所の仕事で、後者はマーケティングの仕事である。
 一見すると、後者はたくさんの距離を移動しているから、いかにもえらいたくさんの仕事をしているように見える。しかし、7泊のイタリア旅行を思い出してもらえばわかるとおり、移動距離が長いことはとおいこととイコールではない。逆に言うと前者はとてつもなく狭い世界を移動しているように見えるが、ツアー旅行よりは果てしなく冒険に満ちた、苦難続きの世界である。
 わたしははやい仕事も、おそい仕事も経験したことがあるけれど、わたしの性格はどうもおそい仕事に合っているようだ。
 はやい仕事は、お金と人数を持って、力技で勝つことができる。
 おそい仕事は、どんなにお金を注ぎ込んでも、たったひとりのキチガイのながいながい旅に勝つことはない。
 青色ダイオードを作ったのは、赤も、緑も、黄緑もあったダイオードを青くするためだけに世界中の研究者が競争していたのだが、結局成し遂げたのは一人の奇人であったことは著名な事実だ。
 社長が、このダイオードを青くしろ、青がいいと言って、すぐに青くなるわけではない(笑)。マーケットが青を求めても、青くなるわけではない。
 血まみれになっても、青くはならない。
 泣いても、叫んでも、何兆円を積んでも青くはならない。
 それほど、基礎研究の世界は残酷だ。
 それは徒労である。
 盛大な無駄だ。
 この両者はまったく流儀が違うのだ。
 なぜか最近はマーケ屋や、ブローカーばかりが多くなって来たせいか、地道な努力をしている人が非難されやすくて、つらい。
 それでこんな文章を書いているのだけど。

 さて、ちかくてとおい旅をするには、実は分かりやすいコツがある。
 もちろん、気長な性格である必要がある。
 上手くいかなくても、諦めない粘り強さが必要である。
 遠回りをいとわないことも重要かも知れない。
 その上で、こういう旅を楽しむときは、ながくながく長い旅であることを覚悟して、それから、一石二鳥、三鳥、四鳥、五鳥を狙っていく、用意周到さがたぶん損をしないコツである。
 たとえば、大型書店に出る用事があったとしよう。これは自分が単に行きたいだけであるから、別にいつ行ってもいいはずである。だから、行きたいと思っても、衝動的に行動するのではなく、
「あー、新宿でなくちゃいけないのか・・・。本屋だけのために出るのもなあ・・・」
 という、一見怠惰な見える理由で先延ばしにするのである。
 そのうち、
「あー、映画見に行きたいなあ・・・、でも、映画と本屋のためだけに出るのもなあ」
 と、また先延ばしにする。
 そして、ついに、
「あー、旨いラーメン食いたいなあ・・・。よし、じゃあ、ラーメンと映画と本屋のために新宿でるか!」
 という感じでやるのである。
 これは何が重要かというと、やりたいことを常日頃からずっとストックしておいて、いくつかの条件が重なるまで実行に移さない、ということが重要なのだ。
 たとえば、わたしは今、イタリアに行きたいか、といわれれば、さすがに行きたい。
 でも充分に今すぐ行きたいか、と言われれば、別に3年後でもよい。
 問題は、その3年間、イタリアに行きたい気持ちを、同じ温度のままで、ずっと保持し続けることが出来るか、その熱意を持ち続けることができるか、ということなのだと思う。気長に20年間保持し続けることが出来るか、という事だと思う。
 チャンスが来るまで、ずっと待てるか、ということなのだと思う。

 もし、それが出来るのであれば、そのための準備を20年間掛けて用意周到にすることが出来る。
 本を読み、イタリア語を覚え、出来ればイタリア人の友人を作っておく。
 とてつもなく極端な例なのであれなのだが(笑)、その上で、イタリアに一ヶ月間滞在したとしたら、どれだけ有意義な時間が作れるだろうか。もし都合がつくなら一年間いてもいいし、何なら永住してもよい。
 少なくともパック旅行の7泊よりは楽しいはずだ。
 もちろん、それだけの努力を払ったからその成果を受け取る資格があるだけであって、べつにパック旅行を否定したいわけではない。単純に、この両者は流儀が違う、と言いたいのである。
 わたしは、ちなみに北関東を旅しながら、
 原稿を書いていた(わたしは移動中は筆が進むのである)、
 こもりっきりだったの運動がしたかった、
 ずっと旅行にいっていなかったので旅行に行きたかった、
 定期的に発生する「特急乗りたい病」を解消したかった、
 新しいMP3プレイヤーの耐久テストをしたかった、
 刺激が欲しかった、
 というようなことをついでにやった。
 やりたいことのストックリストを見ながら、それが揃う条件を探しながら、タイミングを計っていたのである。これがもし、目的を達成するためだけにやらなければならないのであったとしたら、ぜったいに耐えられないであろう。
 わたしは越谷で道を間違えて2時間ぐらい歩いて数駅はなれた駅にやっと辿り着いた。
 そういうことがひんぱんに起こりうる、長い旅をするのであれば、そういうことが起こっても耐えうる大量のモチベーションが必要だ。
 たぶん、みんな、やりたいことはとてもたくさん常に生まれていると思う。
 もし、つぎつぎと新しいものに飛びつく性格であれば、ちかくてとおい旅は向かないかも知れない。とおくてちかい旅がお勧めだ。それも楽しい。
 ちかいととおいを冷静に判断した方がいい。
 でも、ずっとその熱さを持ち続ける自信があるのであれば、辛抱強く待ってみてはどうだろうか。チャンスをつかみさえすれば、どんなにつらくて長い旅でもきっと耐えられると思う。
 そう、一石五鳥ぐらいの旅であれば。


 【参考エントリー】
Life is beautiful: 私がMBAを取得することにした10の理由

 この旅が、よい旅である事を、祈りつつ。
 これを読む多くの人が、よいお手本をしっかりとみて、そうかと思うことを祈りつつ。






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Last updated  August 3, 2007 11:20:21 PM
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まなかなまなかな@ Re: 三井アウトレットパーク入間へ行ってきた。(01/18) 蘊蓄野郎だな!うざい。
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