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こえめ
です![]()
ちょっと変わった女の子、真矛。
彼女の家に遊びに行くことになった実夏。
さあ、どんなことが起こるのでしょう。( 前のお話 )
―2―実夏
リカさんが森の入り口で立ち止まったので、
あたしは少しほっとしたわ。
それからつないでいた手を離して、
スカートで手の汗をぬぐった。
五月の陽気で、小さなあたしの身体は汗ばんでいた。
緊張してたのかも知れないけど。
リカさんが、ポケットからハンカチを出して、
おでこの汗をそっと拭いてくれたの。
良いにおいがフワッとして、
間近で見るリカさんは、
なんだか思っていたよりずっと若かった。
若いおばあちゃんなんだと思った。
「もうすぐよ」って、また手をつがれた時には
もうさっきまでの怖いって言う気持ちは
すっかり消えていた。
通りから入った森の細道は、思っていたより明るくて、
森の木が黄緑色に光っていて、
風が気持ちよくて、
あたし、急にスキップしたくなっちゃったけど
手を離さないでうまくスキップできるかなとか考えて
……やだ、あたしったら自分のことばかり話してる
ごめん、真矛(まほこ)のことよね。
それから森の奥にの空き地に、
大きなお屋敷があったの。
洋館、って言うんだよね、ああいうの。
真矛は玄関の前に立って待っててくれた。
いつものむすっとした顔で。
その顔を見たら、
リカさんは好きだけど
この子は嫌い、て思っちゃった。
白い襟付きの、シンプルな水色のワンピース着てた。
本当はいつもよりもっとすごいドレス姿で
出てくると思っていたんだけど、
はずれてがっかりしたんじゃなくて、
ああ良かったって思った。
それからさっき家を出る前にママが結んでくれた
ピンクのリボンが眼の端にひらひら見えたから
これでやっと同じだって思った。
馬鹿みたいでしょ? 全然違うのにね。
広い玄関を通って通されたリビングの
豪華な食器棚の中には
うちのママがデパートで、
ため息つきながら眺めていたような食器が、
ずらっと並んでいて、
反対側の本棚には
分厚い緑色の背表紙に、金色の外国の文字。
あたし思わず聞いちゃった、
「ここって外国なの?」って。
リカさんが優しい声で
「こういう家、この辺りでは珍しいでしょう?」
って、あたしと真矛の背中をそっと押して
明るい廊下へ連れ出したの。
その時あたし、見ちゃった。
真矛が頭の横に人差し指で
くるくるって、うずを描いたのを!
馬鹿にされたんだと思ったら、今すぐ帰りたくなっちゃった。
でも、なんていえばいいの?
こんな立派な、彼女の家の中で、優しいリカさんに向って
この子があたしを馬鹿にした、なんて
言えないよ。
廊下の突き当たりのサンルームには
リカさんが焼いてくれたアップルパイが、
丸いガラスケースの中で
ピカピカ光っていた、
今思い出してみても、
あれは確かに光ってたわ。
(つづく) ( 次のお話 )
魔法の真矛ちゃん(16)実夏 March 20, 2009
魔法の真矛ちゃん(15)塔哉4 March 18, 2009
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