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【カーラ3】
カーラはリカムの腕の中で支えられながら、
雑踏のなかに視線をさまよわせていた。
(あの方に会って、これをお渡ししなければ……)
カーラはこの前のことを、思い返していた。
数日前カーラは、
懐かしい友人に会いに行くだけだ、
すぐ近くであるから心配いらないと、
就いてきたがる側近たちを無理に説き伏せ、
単身、城を出た。
(みんなごめんなさい。すぐに帰るわね)
カーラは魔術で、見えない気流となって空を飛びながら、
遠ざかる城を後ろに見送り、
流れの先へと急いだ。
*
カーラは、いきなり背中を押されて
転びそうになった。
「ふらふら歩いてんじゃねえよッ!」
その声に思わず「無礼者!」と言いそうになり、
そうかと気づくと同時に、
すぐまた目の前の人間にぶつかった。
慌てて横の開いた空間に足を踏み出そうとして
またぶつかった。
「っぶねぇ!」
カーラは人の波に呑み込まれるようにして
ポーター気流に乗って
人間界と魔法界との境目を通り抜けた途端、
スクランブル交差点のど真ん中に、
放り出されたのだった。
(こんな人ごみの中に、まだ空門(くうもん)が残っていたなんて)
それにしてもこの街は、どうしてこんなに人間が多いのかしら。
歩くのにも、人がぶつかってくるようで、片時も気が抜けないわ)
それは、側近を伴わない、
正真正銘、掟破りのお忍び視察であった。
側近が先回りをして安全を確認したスペースに、
あとからポーター気流で移動するだけの今までとは
まるで勝手が違う。
カーラには以前からある考えがあった。
魔法びと達はこのごろ、ますます堕落してきていた。
(以前はあんなふうじゃなかったのに……。
魔法界にも、もっと新しい風を入れなくては。
たとえば、そう、人間界との交流を)
だがそれを口にすれば、誰よりも敬愛する父王に、
異を唱えることにもなる。
だから然るべき時が来るまではと、
兄のように慕うリカムにさえ話さず、
今はまだ、カーラひとりの胸にしまってあった。
彼女にとってこのお忍びは、その下調べの意味を兼ねていたのだ。
これまでの、数度のお忍びについて、
周囲の者達は、単なる姫の興味本位としか思っておらず、
側近と一緒では、人間との交流もままならないのだった。
人間界のルールらしきものは、
これまでの経験から、一通り心得ているつもりだった。
人と乗り物は別の道を通る事。
道の上の色板が緑に光ったら、
とにかく急いで、向こう側に渡らねばならないこと。
昼間たくさんの人間たちが、四角い箱のような城の中で
いやな事を我慢しているということ、など等。
見知らぬ街を 誰にもとがめられず、
勝手気ままに歩き回るのは、実に楽しかった。
ふとカーラは、のどが渇いていたことに気が付いた。
かなりの時間が経っているようだった。
カーラは、以前側近のものがそうしたように、
「CAFE」という文字を見つけだし、そのドアを開けた。
案内が出てこないので、あぁそうだったと思い出した。
空いた席に座ると、足をテーブルの下に投げ出し、
ほっとひとつ、小さなため息をついて、
さぁ、次はどうしたものかと考えた。
テーブルの上に載ったメニューに気づいたが、
魔法界の文字とは違う。
(この前、ジークはなんて言ってたかしら)
それを思い出す前に店員がきたので、
とにかく飲み物らしい絵の部分を、指で示した。
「これをお願いいたしますわ」
その咲き誇る花のような笑顔に
店員は真っ赤になって戻っていった。
(つづく) 【次へ】
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