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緻密な時代考証、大掛かりなセット、超豪華版の女優陣、何より女の嫉妬、野望、愛欲を赤裸々に描いた大作・「大奥(秘)物語」('67年 東映)‥‥大奥秘物語 [ 藤純子 ]徳川六代将軍・家宣(高橋昌也)の時代、江戸城大奥には、三千人あまりの女たちが仕え、彼女たちは美しい装いの下で、火花を散らせていた。そんな中、大奥に上がった旗本のご令嬢付の女中おみの(藤純子)は、ひょんなことで家宣の目にとまり、まさかの同衾役を命じられた。将軍の命には逆らえず、泣く泣く純潔を奪われるおみのだったが、同衾役も回を重ねるごとに、彼女にも大奥での出世を目論む野心が芽生え‥‥この映画は3話オムニバスで、第1話は「出世欲が芽生えた女」、第2話は「レズビアンの果てに」、第3話は「悲恋物語」とでも題しましょうか‥‥題名からして、エロ路線満開の映画を想像される方々も多いでしょうが、残念ながらオールヌードはおろか、セミヌードすらも出てきません。しかし将軍と女たち、あるいは女同士の絡みは、エロティシズムに満ち満ちています。熱い息遣い、のぼりつめた時の表情のなまめかしさ‥‥それを当時の東映の大スター藤純子、佐久間良子や、久保菜穂子、宮園純子、清純アイドルだった小川知子、演技派の岸田今日子が演じているのだから、もうたまりません!そして往年の大女優・山田五十鈴が、大奥の権力を一手に握る役職・お年寄り役なのだから、「恐れ入りましたあ~~!」ってなものです。中でもエロかったのが、岸田今日子と小川知子のレズシーン。本当に愛し合っていた二人という設定なので、ひたむきさと哀しさも全開でした。大奥モノの多くは、エロばかり強調した安手の作品が目立ちますが、この映画は非常に格調高いです。山田五十鈴が若手女優たちに、打掛をまとった大奥の位の高い女性の歩き方を徹底的に指導したこと、将軍家宣役に、顔立ちの上品な高橋昌也を起用したことが、この映画の格を上げているようです。それにしても、今の時代劇はひどいのが多いです。武士も町人も村人も、みーんな同じ歩き方。「○○だわねえ」なんて、明治以降の言葉を使う町娘がいたり‥‥あ、ついでに言うと、時代劇で武家屋敷に表札がかかっている場面‥‥あれもバツです。いくら泰平の世とはいえ、隠密がどこにいるかわからないのですから、いざという時、領内を守る藩士たちが、おのれの個人情報を表に出すことはありえなかったのですから。閑話休題。監督は「893愚連隊」「木枯らし紋次郎」の中島貞夫。男性は生唾ごっくん間違いなしです!
2007.09.30
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「映画ファン」を自称し、なおかつ「SFが好きィ!」と言う若い人たちは多いですが、「じゃ、土屋嘉男を知ってる?」と訊ねると、「え‥?知らない」という答えが返ってくることが、多いそうです。このモイラに言わせれば、「おいおい、日本で初めて宇宙人を演じた土屋嘉男様を知らずして、『SFが好きィ!』などと、寝ぼけたこと言っちゃいかんよ」ってなものです。地球防衛軍 [ 佐原健二 ]価格:2200円(税込、送料無料) (2022/5/29時点)楽天で購入真ん中下の赤いヘルメットにマント姿の宇宙人ミステリアンの統領が、土屋氏です。「チ・キュ・ウ・ノ・ミ・ナ・サ・ン‥‥」という、機械を通したようなモゴモゴ声(モイラはよく真似をしたものです)が特徴ですが、これは土屋氏の発案だとか。当初土屋氏は、主役級の科学者役をふりあてられていたそうですが、かねてよりUFOや宇宙人に多大な興味を抱いていた彼は、本多猪四郎監督に、「顔が見えなくてもいいから、宇宙人役をやらせてください!」と頼み込んだのです。んで、めでたく宇宙人第1号になりました!伊福部昭の「地球防衛軍マーチ」がバックに流れ、地球人と交戦するシーンで、土屋氏は両手の人差し指をピッと上に向ける仕草をしていますが、あれは彼が考え出したアドリブだそうで、以後、彼の宇宙人役の時の独特の仕草は特撮マニアから「宇宙演技」と呼ばれています。もうかなり前のことですが、モイラは家で亡き母とこの作品のビデオを観たのですが、エンドマークが出た時、映画ファンだけど特撮ものはあまり知らない母は、不思議そうな顔で訊ねました。「ねえ、土屋嘉男、どこに出てた‥‥?」ガス人間第1号 [ 三橋達也 ]価格:2200円(税込、送料無料) (2022/5/29時点)楽天で購入これはもう、土屋氏が主役みたいなものです!竹中直人が以前、懐に手を入れてガス人間に変身する時の土屋氏のものまねを持ちネタのひとつにしていたほどです。もっともガス人間のものまねは、特撮ファンにしかわからなかったと思います。怪獣大戦争 [ 宝田明 ]価格:2200円(税込、送料無料) (2022/5/29時点)楽天で購入この映画では土屋氏は、かの有名なX星人統制官役!宇宙演技全開の上、宇宙語(?)まで披露。宇宙人役をとても楽しんでいるのが、スクリーンから伝わってきます。野武士と果敢に戦う若い百姓(「七人の侍」)、義兄の遭難の謎を探ろうとする冷静沈着な山男(「黒い画集 ある遭難」)、大変な秀才でありながら、貧しい人々のために尽くす養生所の医師(「赤ひげ」)、そうかと思えば、鼻持ちならないブルジョア青年(「マタンゴ」)など、役柄の広い名バイプレイヤーです。京都祇園の料亭で、勝新太郎の三味線と、お得意のフラメンコ・ギターのセッションを披露したのは、有名な話です。にほんブログ村
2007.09.28
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大航海時代の幕開けとともに、あっという間に世界中に広がり、ペニシリンが開発されるまでは、治療が大変難しかった恐ろしい病・梅毒‥‥ほとんどの場合、性的接触で感染するゆえ、「忌まわしい」「汚らわしい」と眉をひそめられるこの病が、不幸な偶然から、全く純潔な人間の体内に巣食うようになったら‥‥?この映画は、そんな重い問いかけを観客に投げかけています。黒澤映画ファンの方々なら、もうおわかりですね。「静かなる決闘」('49年 大映)です。 静かなる決闘 デラックス版 / 三船敏郎青年医師藤崎(三船敏郎)は、戦争中、軍医として、南方の野戦病院で負傷兵中田(植村謙二郎)の手術中、急ぐあまり素手でメスを使い、誤ってメスで指先を傷つけてしまった。ところが後日、中田が梅毒に冒されていること、そして藤崎自身も指の傷からスピロヘータが体内に侵入し、梅毒に感染してしまったことを知った。地獄に突き落とされた思いの藤崎。なぜなら彼には、もう長年彼の帰還を待ち続けている許婚・美佐緒(三条美紀)がいるのだ。南方の野戦病院では、当時の梅毒治療薬サルバルサンの注射は手に入らず、戦争が終わって帰国し、父(志村喬)が院長を務める病院に復帰してから、誰にも知られぬよう注射治療を始めるが、その時にはすっかりこじらせていた。美佐緒には本当のことがとても言えず、苦悩に苦悩する藤崎。そんな時、ダンサーあがりの見習い看護婦で、清廉潔白な藤崎をやや批判的な目で見ていた峯岸るい(千石規子)が、藤崎が注射治療をしているところを見てしまう‥‥!原作は菊田一夫の名戯曲「堕胎医」。脚本は黒澤明と、「銀嶺の果て」「紅の海」などの東宝の名監督・谷口千吉。この映画、公開当初はあまり好意的な評価はされていません。「ヒューマニズムが安っぽい」「セリフに頼りすぎて芝居臭が強い」「主役三船の身振りが大げさすぎ」などなど‥‥なるほど、原作が戯曲ですから、セリフに重みを置きすぎた上、まだ若い三船や三条美紀が、セリフの重さに負けている感は否めません。正義感溢れる若き医師といい、そんな彼をあたたかく見守る父といい、類型的と言えば類型的です。でも‥‥とてつもなく重いテーマに挑戦し、そんな重いテーマを掲げているにも関わらず、見終わって、「あ~~、しんどかったあ‥‥!」と、あまり思わせない黒澤監督の演出には、どうしてどうして、眼を見張りましたね。主役の三船さんより、脇役、特に峯岸るい役の千石規子が光っていました。ダンサー時代に放埓な生活を送り、妊娠したけど相手の男に捨てられ、自殺しようとしたのを藤崎に助けられ、住み込みで見習い看護婦になった女で、人生に投げやりで、ふてくされたところが、すごい名演技だなと感心しました。シナリオ第一稿では、ラストは主人公藤崎が梅毒で脳まで冒され、発狂して暴れ回ることになっていたのですが、医師会かどこかから、「このシナリオじゃ、映画を観た人が、怖がって梅毒の治療に来なくなる。第一、梅毒に感染して数年で発狂まではしない」と、ストップがかかったそうです。モイラは戯曲も読みましたが(薔薇座公演。藤崎役は黒澤作品でおなじみの千秋実)、こちらのほうは、ラストはとても悲惨です。稚拙な部分も否めないけど、見応えはありますよ~~!
2007.09.27
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フランス映画界が誇る名優ジャン・ギャバンと、フランスきっての色男アラン・ドロン‥‥この世代の異なる2大スターの共演作品はいろいろありますが、その中でも非常に評価が高いフィルム・ノワールの名作は、これです!【送料無料選択可!】地下室のメロディ / 洋画5年の刑期を終えて出所した老ギャング・シャルル(ギャバン)は、ムショ仲間だった青年フランシス(ドロン)を手下に、地中海を臨むリゾート地カンヌのカジノの金庫を狙う計画を立てた。紆余曲折はあったものの、2人はなんとか金庫の金をゲットすることに成功。し・か・し‥‥!ハラハラドキドキのサスペンス映画ですが、モノクロームの落ち着いた映像のせいか、全体的に重厚な造りと言えるでしょう。そろそろ悪事から引退してもいい年頃の初老の男シャルルと、怖いものなしの行け行けドンドンの若者フランシスの対比が、大変上手に描けていました。そんな2人がエレベーターでカジノの地下金庫へ侵入し、警備員たちにホールドアップする場面は、スピーディでハラハラドキドキの頂点を行っていました。ヨーロッパのみならず国際的に名高いカンヌの町並みや、高級ホテルの様子なども、大変見応えがありましたね。映画ファンの方々はとうにご存知でしょうが、この作品、ラスト・シーンがとても有名です。あっと驚き、笑えるラスト・シーンです。未見の方々のために、詳しくは書きません。フィルム・ノワールとサスペンスの名匠アンリ・ヴェルヌイユ監督の'63年度作品。ミシェル・マーニュのノリの良いテーマ音楽も有名です。★アンリ・ヴェルヌイユ監督作品あれこれ★★アンヌ・ヴィルヌイユ監督っ★『ダンケルク』ジャン ポール ベルモンド主演っ ニュープリント...シシリアンエスピオナージ(DVD) ◆20%OFF!冬の猿(DVD) ◆20%OFF!
2007.09.26
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ご無沙汰してます。映画狂のモイラでございます。PCとルーターがなぜか突然不具合を起こし、3日間ネットもメールもできない状態になっていました。スミマセン‥‥ま、それはともかく、キング・オブ・サスペンスのこの方が‥‥ハリウッドの伝説シリーズアルフレッド・ヒッチコック 「私が撮った作品で最も恐ろしいものです」と銘打った、事実ほんっとにこわい映画‥‥それが‥‥'63年の「鳥」です。鳥 ポスター SI-126気ままなブルジョア娘メラニー(ティッピ・ヘドレン)は、ペットショップで出会った若い弁護士ミッチ(ロッド・テイラー)に惹かれ、彼のために買ったインコのつがいを、彼の邸宅に届けるが、空を飛んでいた一羽のカモメが、突然急降下し、彼女の額を嘴で襲う!それは、世にも恐ろしい鳥の大群の襲撃の幕開けだった‥‥!繁殖率、総数ともに人間を凌駕する鳥類。防衛本能が強く、自らのテリトリーを守るためには、本気で殺し合いをする鳥類。その鳥類がもし人間の敵にまわったら‥‥という、ぞっとするようなテーマを掲げたパニック映画です。本物の鳥を2万羽以上集め、演技をさせ、撮影したというのですからすごい!青空を真っ黒に染めるカラスの大群‥‥地べたにうじゃうじゃうごめくカモメの大群‥‥このモイラは、今までセキセイインコを何羽も飼い、とうとうニワトリまで飼うようになったほどの鳥好きですが、この映画を観たあと、ペットのセキセイちゃんをつくづく見て、「こいつは私を襲ったりしないよねえ‥‥?」と不安に思ったりしました。中でも強く印象に残っているのは、小学校の音楽の授業で、生徒たちが歌っている最中、学校のジャングルジムにカラスが一羽、また一羽飛んできてとまり、女教師がふっと気づいたら、ジャングルジムはカラスの大群で真っ黒になっていたシーン。リフレインを多用した子どもたちの歌が、カラスが次々飛来する恐怖を盛り立てているようでした。名画座の座席でぞお~~っとしながらも、「うまい!さすがヒッチコック!」と内心呟きました。この手法は、他のホラー映画や二時間サスペンスドラマでも、時々使われていますね。パニック・ホラーにありがちなキワモノ的なテイストを感じさせない、格調高い映画です。今さらモイラが書くまでもありませんが、この傑作が後世のホラー映画、ドラマ、漫画に与えた影響は多大なものです。★ミステリアスなヒッチコック・ワールド!★鳥(期間限定)(DVD) ◆20%OFF!断崖(DVD) ◆20%OFF!【送料無料選択可!】世界名作映画全集 30 レベッカ / 洋画ケイリー・グラント/泥棒成金 スペシャル・コレクターズ・エディション
2007.09.25
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黒澤明の遺言『夢』「黒澤作品=大掛かりな時代劇」という図式が頭にこびりついている方が、結構おられるようですが、名もなき人々を主人公にした、ヒューマニズムに溢れた作品を数多く撮ったのも、見逃せません。そのひとつが、 「酔いどれ天使」('48年 東宝)でしょう。DVD 酔いどれ天使 (12/7 発売予定)戦後の混乱が続く東京。飲んだくれの身を持ち崩した初老の医師真田(志村喬)のもとに、松永(三船敏郎)というりゅうとした身なりの羽振りのよいヤクザが、出入りで撃たれた傷を治してほしいと訪ねてきた。真田は松永がしきりに咳き込む様子から、彼が結核を患っていることを知り、ただちに治療しろと忠告するが、松永は内心怯えながらも虚勢を張るばかり。そのうち、松永の病状は次第に悪化し‥‥黒澤監督はヤクザを心の底から忌み嫌い(まあ好きな人はあまりいませんがね)、ヤクザという生き物が、どれほどくだらなく、また哀れな存在かということを、この映画で訴えかけています。それも腕は良いのに酒で身を持ち崩した医師という、非常にユニークな、人の世の裏側ばかりを見てきた、ある意味ヤクザと似た人間の目を通して。自分が結核ではないかと怯えながらも、その怯えをヤクザ特有の虚勢で必死に隠そうとする松永に、真田が怒鳴りつけるセリフが、心に響きました。「バカッ、俺はお前が病気を怖がってるのを笑ってるんじゃねえぞ。怖いものを怖がるのは当たり前だ!それを恥ずかしがるお前の根性がおかしいんだ!」当時は不治の病といわれた結核。それは恐れられていたそうです。人に因縁つけたり、脅したりする時は勇ましいトラでも死に至る病を宣告されたら、たちまち気弱な子猫になる若いヤクザを、デビュー間もない三船敏郎が熱演していました。三船氏はカメラマン助手として東宝入社を希望していたのに、従来の二枚目俳優にはない精悍な容姿が、幹部の目に止まって、ニューフェイスに抜擢。入社試験で「笑ってみて」と言われて、「そんな急に言われたって笑えませんよ」と切り返し、「うーん、こいつは俳優としては不適格。不採用だな」と上層部が言ったのを、「私が全責任をとるから、あの三船ってやつを入社させてくれ!」とお願いしたのが、黒澤監督。まさかこの時は黒澤監督も、三船氏がのちに「世界のミフネ」になるとは想像しなかったと思いますが、今までにないタイプを主役に抜擢するところなんぞは、さすが新しもの好きの監督ですね。結核と闘いつつも明るさを失わない女学生(久我美子)と真田の心の交流のあたたかさは、もう言うことなし。松永の情婦奈々江役の木暮実千代(当時では珍しい四年制大学卒の女優さんです)バラック酒場の女ぎんを演じた千石規子。薄気味悪いヤクザの親分役の山本礼三郎。みな、それぞれの持ち味を出していましたね。★もっと黒澤監督について知りたい方へ‥‥★黒澤明「夢は天才である」黒澤明「生きる」言葉黒澤明と早坂文雄
2007.09.21
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6億円という巨費をかけて戦艦のセットを組んだことが、公開前から大きな話題を呼び、興業的に大成功、テレビ放映視聴率も30%を突破した日本映画界久々の戦争大作「男たちの大和 YAMATO」('05年)‥‥【中古DVD】男たちの大和 特別限定版(初回限定生産)/戦争鹿児島枕崎の漁師・神尾(仲代達矢)のもとに、内田真貴子(鈴木京香)という女性が訪ね、60年前、戦艦大和が沈んだ場所まで船を出してほしいと懇願した。最初は拒んでいた神尾だったが、真貴子が元上官で大和の機銃射手だった内田二兵曹(中村獅童)の養女と知って驚き、彼女を乗せた漁船を沈没した場所へと繰り出した。神尾の脳裏に蘇えるのは、昭和19年春、まだ10代の時、特別年少兵として大和に乗り込んだ時の思い出。激しい訓練、上官の容赦ない鉄拳制裁、炊事班長の森脇二主曹と内田二兵曹との心温まる交流‥‥しかし、戦況は日ごとに悪化し、神尾たち少年兵も激烈な戦闘に加わり、「死ニ方用意」の運命を受け入れるのだった‥‥CGを使った戦闘シーン、お見事とまでは言えませんが、なかなかのものでした。「プライベート・ライアン」のノルマンディー上陸シーンを思わせるような激しさを感じました。大和のミニチュアも'81年東宝の「連合艦隊」のそれには及ばないものの、なかなかしっかりした造りのようでした。コアな軍事オタクに言わせると、当時の米戦闘機が、あんなに急旋回できるはずがないとのことだそうですが‥‥祖国、家族を守るために、あたら若い命を散らす運命を、100%納得できないながらもあえて受け入れる他なかった兵士たちの姿には、涙しました。いくら戦時下で、予科練や特別年少兵がかっこよさの象徴、当時の少年たちの憧れの的だったとはいえ、哀しすぎます。「死ニ方用意」‥‥なんて残酷な命令でしょう。束の間の休暇をもらって、長い間生き別れだった実の母と会う西少年、幼なじみの少女と会い、「死んだらいけん!」と血を吐くような叫びを背に受ける神尾。病院を抜け出していい仲の芸者(寺島しのぶ)と逢瀬を楽しむ内田。寺島しのぶがほんのわずかな出演ですが、いい味を出していましたね。あと士官役の長嶋一茂も、演技力は今ひとつながらなかなか光っていました。ただねえ、内田が規律違反をして、ひそかに大和に乗り込んでいたって設定は、ちょっとどうかと‥‥日本が誇る、否、世界一の戦艦なんですから、停泊中には非常に厳しい警備体制を敷いていたはずですよ。それをどうやって突破したんでしょうかねえ‥‥あざといなあと思いましたね。まああざとさも映画の面白さのひとつだけど。あと気に入らなかったのは、伊藤艦長役の渡哲也、お偉いさん役の勝野洋、本田博太郎などが、た~だ出ているだけで、全然活躍していなかったこと。勝野洋にいたっては、「あんたセリフなんかしゃべったっけ?」って言いたいくらい。いくらお偉いさんが主役じゃないにしても、渋い演技派や大物が全く生かされていないっていうのも、寂しいもんです。この作品、戦争映画と謳ってますが、テーマは反戦です。監督・脚本は、「新幹線大爆破」「君よ憤怒の河を渉れ」の佐藤純彌。★もっと戦艦大和!★ニチモ 1/200 旧日本海軍戦艦大和【ラジオコントロール】【税込】 Nモ RCヤマト [NモRCヤ...YAMATO浮上!-ドキュメント・オブ・『男たちの大和/YAMATO』-NHK DVD「その時歴史が動いた」戦艦大和沈没~大鑑巨砲主義の悲劇~【CRBI-5053】=>10%OFF!NHK...
2007.09.20
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'73年暮れに日本で公開されたこの映画を観て、主役に憧れ、学校の廊下や運動場で奇声をあげながら立ち回りの真似をしたり、おもちゃのヌンチャクを振り回したりした少年たちは、数多くいたことでしょう。その映画とは‥‥アジアが世界に誇る伝説のアクション・スター、ブルース・リー主演、彼のハリウッド初出演作品「燃えよドラゴン」('73年)!燃えよドラゴン ディレクターズカット スペシャル・エディション少林寺門下生のリー(ブルース・リー)は、ある日秘密情報局から南シナ海の要塞島で開かれる武術トーナメントの出場者を装って、島の持ち主でトーナメントの主催者ハン(シー・キエン)の麻薬密造などの悪事を探ってほしいと要請された。たった一人の妹スー・リン(アンジェラ・マオ・イン)を、ハンの配下の色欲から自殺に追い込まれたリーは、復讐の思いから、香港から船で要塞島へと向かった。トーナメントにはロスの黒人武術家ウィリアムズ(ジム・ケリー)、サンフランシスコのローパー(ジョン・サクソン)も参加。そして、リーがその要塞島で見たものは‥‥?!ハリウッド映画出演を夢見ていたブルース・リーが、やっと果たした初出演作品!‥‥にもかかわらず、この映画が世界的に公開された時、彼はもうこの世の人ではありませんでした。死因はアスピリンによる脳浮腫とか、鎮痛剤の副作用とか言われています。冒頭、リーが少林寺で少年僧に言い聞かせるセリフは、あまりに有名ですね。"Don't think!Feel!"(考えるな!感じるんだ!)本編とあんまり関係ないセリフですが、心に残りました。タイトルバックの、まだ貧しかった香港のごみごみした汚らしい風景もグッド!リーのクンフー・アクションは、もう言うことありません。すごすぎる!でもそのリーより印象に残っているのは、ヒゲの空手の達人オハラの怪物ぶりと、妹役のアンジェラ・マオ・インの華麗な立ち回り。オハラの釘を豆腐にでも刺すように分厚い板にスッと刺す映像に、仰天しました。マオ・インは決して美人じゃないけど、目元が涼しく、合気道の黒帯だけあって非常に敏捷で、立ち回りに無駄がなく、大男たちを相手に、奮闘していましたね。でも廃屋に追いつめられて、最後はガラス片で切腹ってのは、いかにもアジアの文化をよく知らないアメリカが考えそうなことですね。「暴漢に貞操を奪われるくらいなら、いっそ‥‥」なんて、70年代のアジア女性の誰が思うでしょう。ハンの邸に泊まったジム・ケリーが、夜、自由にしていい女たちを何人も選ぶシーンなども「黒人はこんなにスケベで精力絶倫」なんて偏見を観客に植えつけたみたいで、アフリカ系の人々はきっと内心苦笑したでしょうね‥‥ともあれ、要塞島の裏側が徐々に明るみになるくだりは見もの。もちろん一番の見ものは、鏡の部屋の大ワルとの対決!ラストまで飽きさせないサスペンス・アクションです!★もっとブルース・リー!★ENTERBAYGAME OF DEATH 死亡遊戯ブルース・リー 12インチ アクションフィギュア(3500体限定)死亡遊戯イエロートラックシューズ映像でつづるブルース・リー/トリビュートDVD-BOX 【0827秋先5】
2007.09.19
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国内が軍国主義に徐々に染まり、青年将校らが軍事クーデターを起こした昭和11年の春、東京荒川の待合で、ガチガチの軍国主義とは対極の、世にも奇妙で残酷、そして何よりエロい猟奇殺人事件が起こりました。世に言う「阿部定事件」です。事件の犯人阿部定(当時32歳)は、事件発覚2日後に、品川駅前の旅館に宿泊中のところを逮捕されたのですが、平成の世になっても語り継がれる猟奇事件を起こし、逮捕されるまでのいきさつと、荒川の待合で繰り広げられた情人との常軌を逸した愛欲の世界を再現したのが、田中登監督、いどあきお脚本の「実録阿部定」('75年 日活)です。実録 阿部定(DVD) ◆20%OFF!流転の人生を送り、田中かよの偽名で東京中野区の鰻屋・吉田屋の女中となった阿部定(宮下順子)は、女好きの主人・吉蔵(江角英明)と不倫の仲になり、駆け落ち。2人は荒川尾久の待合に投宿し、定は「吉さんの匂いが逃げるからいや」と、雨戸を全部しめきり、昼も夜もなく吉蔵と愛欲と情痴の世界にのめりこむ。しかし、吉蔵が「一旦家に顔を出したい」と口にするや、定の心は大きく揺れ、彼女は手にした腰紐を男の首にかけ‥‥全篇の9割がからみのシーンといっても過言ではない、かなり過激な作品です。モイラはこれを20歳の時に、今はなき亀有名画座で観て、けっこう衝撃を受けました。定と吉蔵が互いの秘所に刺身をつけて食べるシーンには、思わず笑いもこぼれましたが(2人の真ん中で花柳幻舟演じる芸者が、いらついたように三味線を弾きながら歌っているのが、おかしかった)、「自分は将来、誰かを深く愛した時に、そんな真似ができるだろうか‥‥?」と、ちょっと悩んだりもしました。でも、ただエロいだけの映画じゃありません。なまじ男心をそそるような容姿をもって生まれたゆえに、芸者、娼妓、妾、カフェの女給と、裏街道を転々とした女の哀しみ、「この男こそ‥‥!」と思ったら、とことんまでのめりこむ底知れぬ情の深さが、存在感あふれる名女優・宮下順子さんの一挙手一投足から、ひしひしと感じられました。この作品、宮下さんが主演でなければ、あまり評価されなかったと思います。てゆーか、田中登監督が彼女のために撮ったような映画ですね。着物や日本髪のよく似合う日本的な容姿、ちょっと鼻にかかったかすれ気味の色気のある声、何より抜群の演技力‥‥ロマンポルノはすごい女優さんを育てたものです。江角英明氏も大変な熱演でしたね。斜に構えているくせに、大ワルにはなりきれない小悪党役がとても上手な人でした。3年前に亡くなってしまったのは、とても残念です‥‥阿部定は逮捕時、ハトロン紙に包んだ吉蔵の局部、それを切り取る時に使った刃渡り15センチの肉切り包丁、吉蔵の褌、猿股、シャツを所持していて、彼女の逮捕の直後、各新聞は一斉に号外を出し、東京地裁で開かれた事件の初公判には、傍聴人の群れが前夜からおしかけたそうです。軍国主義に息苦しさを覚えていた当時の国民にとって、この阿部定事件は、一服の清涼剤だったんでしょうね。ロマンポルノ最強コンビ!田中登&宮下順子[DVDソフト] (秘)色情めす市場発禁本「美人乱舞」より 責める!/宮下順子[DVD]江戸川乱歩猟奇館 屋根裏の散歩者(DVD) ◆20%OFF!
2007.09.16
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戦後まもなく、日本人離れした容姿で、和製ジャン・マレーと呼ばれ、世の女性たちのハートを射止め、'59年にはフランスの巨匠アラン・レネ監督から、「二十四時間の情事(Hiroshima,mon amour)」の主役に抜擢、中年を過ぎてからは主に悪役として活躍、生涯現役の俳優だった岡田英次がこの世を去ったのは、1995年の9月14日です。きょうは、岡田英次氏の出世作で、社会派の名手・今井正監督の名作である「また逢う日まで」('50年 東宝)をとりあげます!【中古】 また逢う日まで/今井正(監督),水木洋子(脚本),大木正夫(音楽),岡田英次,久我美子,滝沢修,河野秋武,杉村春子 【中古】afb価格:2090円(税込、送料別) (2022/7/17時点)楽天で購入昭和18年東京‥‥空襲で地下鉄の駅に逃げ込む人々。そこで大学生の三郎(岡田英次)と、画家の卵の蛍子(久我美子)は出会う。父(滝沢修)は冷徹な判事で、長兄は戦死、次兄は青年将校という、軍国主義の臭いの強い家庭に育った三郎は、リベラルな家庭に育った蛍子に強く惹かれ、蛍子もまた純な三郎を愛するようになる。しかし戦火はますます激しくなり、いよいよ三郎も出征することに‥‥中高生の頃、モイラは「ザ・ヤクザ」の暴力団組長や、「君よ憤怒の河を渉れ」の悪徳病院長役から、岡田英次という人は、根っからの悪役俳優だと思い込んでいました。「あの人は若い頃、すごい二枚目俳優だったのよ」と亡き母から聞かされても、ほとんど信じられず、二枚目は二枚目でも、どうせニヒルな殺し屋みたいな役ばっかりやってたんだろうと、思っていました。そんなもんだから、大学に入ってまもなく、「また逢う日まで」を名画座で観た時は、びっくり仰天しました。「うわ‥‥絵に描いたような二枚目じゃん‥‥!」若い未婚の男女が一対一で逢うのも憚られた時代、若者が夢を語るのも許されなかった戦火の中、不器用ながらも愛を貫こうとした若いカップルを描いた作品ですが、悲恋物語というよりは、反戦のメッセージを高々と掲げた作品ですね。戦時中、今井正監督は当時の他の映画監督たちと同様、映画会社の方針で戦意高揚映画をいくつか撮りましたが、東京帝大時代にマルキシズムの洗礼を受けている人ですから、内心はイヤでイヤでたまらなかったのでしょう、戦後、世の価値観が180度変わった途端、日本共産党に入党、左翼映画人として、名もなき庶民を主人公とし、民主主義を高らかに謳った名作を、いくつも世に残しました。この映画、岡田英次と久我美子がガラスごしにキスをかわすシーンがあまりにも有名で、その後の各国の映画、劇画などでパクられています。ちょっとシャイで、純粋な三郎役は、美青年・岡田英次にぴったりでした。★もっと岡田英次!★二十四時間の情事 ヒロシマ・モナムール HDマスター [ エマニュエル・リヴァ ]価格:1100円(税込、送料無料) (2022/7/17時点)楽天で購入人間魚雷回天 [ 岡田英次 ]価格:2475円(税込、送料無料) (2022/7/17時点)楽天で購入【送料無料】独立プロ名画特選 ここに泉あり/小林桂樹[DVD]【返品種別A】価格:3678円(税込、送料無料) (2022/7/17時点)楽天で購入
2007.09.14
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女子刑務所、女囚というと、梶芽衣子主演の「さそり」シリーズを思い浮かべる方々も多いでしょうが、所変わってドイツでは、ちょっと、いやかなりユニークな女囚たちが登場する映画があります。その名も‥‥「バンディッツ」('98年作品)!「バンディッツ」オリジナル・サウンドトラック女子刑務所に収監中のエマ、ルナ、エンジェル、マリーは、更生プログラムの一貫として、バンディッツというロックバンドを結成し、日々練習に励み、その努力と成果が認められ、刑務所の外でコンサートを開くことになるが、刑務所から会場に向かう護送車の中で、下卑た男の看守に罵倒され、かっとなって看守を殴り、護送車から脱走してしまう。ところが逃避行の最中、レコード会社が勝手に彼女たちバンディッツのCDをリリースし、それが大売れに売れ、4人の女囚はドイツ中の有名人に‥‥彼女たちの音楽のセンスと「脱走中の女囚」というキャッチフレーズが、皮肉にも彼女たちをスターに仕立ててしまったのだった‥‥!ロック映画ととる向きもありますが、モイラにとってこの作品は、ピカレスクですね。キレやすいルナ、コケティッシュなエマ、自殺癖のあるマリー、ちょっと斜に構えたエンジェルと、4人の女囚の個性が光っています。日本の女囚ものは、浪花節が入り、どこかじめっとしていますが、この作品は違いますね。「ワルで結構!あたしたちは自由がほしいのよ!」といったノリが強く感じられます。罪を犯したとはいえ、暴力で彼女たちをねじ伏せる国家権力への抵抗、自由へのあくなき憧れが、生き生きと描かれていました。4人の女囚バンディッツのサウンドは荒削りで、遊びというものがあまり感じられませんが、シンプルなだけに、ストレートに人の心に訴えかけるものがありますね。逃亡中、ドイツを旅行中のアメリカ人の若者を人質にとり、そこからさまざまな波乱があるわけですが、このくだりもなかなかシニカルで、笑えました。監督はカーチャ・フォン・ガルニエ。この作品で日本デビューした女流の新進気鋭監督です。
2007.09.12
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「大日本帝国」‥‥正直モイラは作品の封切の少し前、この題名を目にした時、苦笑すると同時に、嫌悪感すら覚えたものです。「へッ、戦後何十年たってると思ってんの?今さら大日本帝国でもないじゃん‥‥」そしてこの作品を、とんでもない右寄りだと思っていたのです。しかし‥‥それは決め付けにすぎませんでした。あの悲惨な戦争で亡くなった方々、ことに無名戦士たちや、民間人犠牲者たちへの壮大な鎮魂歌でした。【中古】 大日本帝国 /舛田利雄(監督),丹波哲郎,あおい輝彦,三浦友和,西郷輝彦,篠田三郎,関根恵子,笠原和夫(脚本) 【中古】afb真珠湾攻撃から敗戦、戦犯たちの裁判にいたるまでを描いた大作戦争映画。東映が'80年の日露戦争時の旅順要塞での死闘を描いた「二百三高地」の大ヒットよもう一度、とばかりに作ったもので、キャストは丹波哲郎、若山富三郎、田村高広、三浦友和、あおい輝彦、西郷輝彦、梅宮辰夫、篠田三郎、湯原昌幸、仲谷昇、夏目雅子、関根(現高橋)恵子、佳那晃子と、いかにも「東映らしい」オールスター総出演です。特撮に費やすお金がなかったのか、戦闘場面ではニュースフィルムを多用していること、零戦のミニチュアがセコすぎること(糸丸見え)、軍部や政府のお偉方にベテラン俳優を使っているのはいいけど、東條英機役の丹波哲郎以外は、ほとんど生かされていず、「ただ出ているだけ」なこと、以上の三つが気になりましたが、わずか(あえて言います。「わずか」です)3時間という上映時間の中で、太平洋戦争の勃発から戦犯の処刑まで見せてしまおうっていう、途方もなく欲張りで、見方を変えれば無謀な映画作りをやってのけた東映と、この映画の話を引き受けた舛田利雄監督と脚本家の笠原和夫氏には、ただただ感服のほかはありません。これ、むちゃくちゃな意見かもしれませんが、軍部のお偉いさんの話を全部省いて、結婚式の翌日に出征しなければならなかった床屋の幸吉(あおい輝彦)や、戦死した戦友に向かって軍服の上に袈裟を着て読経する僧侶の本堂(小倉一郎)といった無名戦士、クリスチャンというだけで特高に目をつけられ、煩悶の果てに行きたくもない戦地に恋人(夏目雅子)に背を向けてまでも赴く京都帝大生・江上(篠田三郎)といった職業軍人ではない人々の物語に仕立てれば、もっと人間ドラマがクローズアップされて良かったかもしれません。サイパンでの民間人を含めた悲惨きわまりない玉砕のシーンは、あまりにも悲しすぎました。「自決なんか考えたらいかん!そんなこと思ってるんなら、私があんたを殺す!」と、婚約した小田島中隊長(三浦友和)に叫んでおきながら、米兵が上陸したと知るや、恐怖に震えながらも手榴弾で自爆する沖縄出身の料理屋の女将(佳那晃子)に、涙しました。「生きて虜囚の辱めを受けず」ではなく、「虜囚の辱めを受けてもなお生きよ」という人が、一人でもいなかったんでしょうかね。その点、関根恵子は女のたくましさを存分に見せていましたね。新婚一夜明けただけで出征した夫・幸吉の子を一人で生み育て、戦地で負傷したにもかかわらず、「俺だけ除隊になったら、死んだ戦友たちに申し訳ない‥‥」などと呟く幸吉を、「あんたは軍人じゃない。床屋でしょ!床屋が床屋に戻って何が悪いの?!」と、強く叱咤し、「みんなあんたのものなんだよ!」と、着物の胸元を広げて彼の手を導き入れ、夫を兵士ではなく、ただの男に過ぎないことを自覚させるところなどは、思わず唸りました。その頃モイラはまだほんの小娘でしたが、将来もし結婚するなら、こういうたくましいオカアチャンになりたいとさえ思いましたね。この映画を観ると、50代以下の方々は、愛する恋人同士や夫婦、家族が無惨に引き離されたあの戦争の時代に、青春を送らなくてよかったとつくづく思うでしょうね。60代以降の方々は‥‥どうなんでしょう?にほんブログ村
2007.09.10
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'70年代後半から'80年代半ばあたりまで、日本はちょっとした自主映画ブームでして、池袋の文芸座、上板橋の上板東映、銀座の並木座(悲しいことに、いずれも今はありません)などの名画座が、意気の良い若手映画監督をバックアップし、映画製作に乗り出していました。で、今から30年近く前の'80年、並木座の当時の支配人・小泉作一が、自主映画としては破格の3,000万円を投じ、製作されたのが、土方鉄人脚本監督の「戦争の犬たち」(配給・東映セントラルフィルム)です。インドシナ半島の某国の奥地でウラン鉱脈を探していた日本人科学者たちが、地元のゲリラに拉致され、科学者たちを抱えていた某企業の会長は政府首脳との密議の結果、傭兵部隊を組織し、人質の救出に当たらせることを決定した。傭兵部隊の指揮官は自衛隊レンジャー部隊出身の吉成(青木義朗)。「国際ガードマン募集」という触れ込みで吉成のもとに集まったのは、右翼の演説に陶酔した笑顔で相槌をうつ無職の戦争オタク青年・山本(飯島洋一)、元右翼団体の行動隊長・雷電(安岡力也)、謎めいた中国人・李(清水宏)など、ひと癖もふた癖もある世間の落ちこぼればかり。笑いと涙の猛特訓の末、遂に彼らは兵士として現地に乗り込むのだが‥‥撮影は「愛のコリーダ」の名カメラマン伊東英男。プロデューサーは、主演の飯島洋一。この役者は、中村幻児監督の「Kamome」でも、ヒロインを追う刑事を熱演していますね。この「戦争の犬たち」で最初に彼を観た時は、「なんてまあ、間延びした顔のバカ丸出しの男なんだろう‥‥」とあきれましたが、戦争アクション・シーンではまるで別人でしたね。驚きました。出演者は他にも、泉谷しげる、たこ八郎、港雄一、立川談とん(現二代目快楽亭ブラック)と、アンダーグラウンドなテイストが好きな人なら、涙うるうるもの!所ジョージ、梅津栄、佐藤慶も友情出演しています。世間のはずれ者たちが、だまされた形で傭兵にされ、他国で銃をとり、「やっと俺らの居場所を見つけたぜい!」とばかりに、戦争にのめりこむさまは、とんでもなくブチきれていますが、迫力満点、リアリティ満点です。この作品、ビデオ化はされたのですが、DVD化はされていないようです。あ、音楽は怒涛の辛口毒舌シンガー・泉谷しげるです。音楽がまたいいんだな。★モイラが大好きな泉谷しげる氏の作品★【中古】 HOWLING LIVE /泉谷しげる 【中古】afb【中古】 90’Sバラッド /泉谷しげる 【中古】afb【中古】 春夏秋冬 /泉谷しげる 【中古】afbにほんブログ村
2007.09.09
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きょうは世界的にその名を知られる黒澤明監督の命日。多くの日本人が「黒澤明」と聞いて、まっさきに思い浮かべる映画は、やはり‥‥♪ダダダン、ダダダン、ダダダダダダダン‥‥【映画ポスター】 七人の侍 グッズ /おしゃれ デザイン インテリア アート フレーム別 /US-片面 /黒澤 明 /約66×96.5cm昭和29年度東宝作品。あまりにも有名な大傑作ゆえ、今さらモイラごときがコメントすることもないのですが、それでも、あえて言わせてください。制作費 2億1千万円(通常の映画の5本分)撮影期間 約10か月撮影がのびのびになり、世田谷の東宝撮影所のスタジオのほとんどを黒澤組が使ったそうです。これだけでも、黒澤監督がこの作品にどれだけ思いをこめていたかが、よくわかります。シナリオは黒澤監督の他に、橋本忍、小国英雄といった名匠。戦国の世、作物などを奪いに来る野武士の一団を撃退するため、食うや食わずの百姓たちが侍を雇い、自分たちも竹槍などを持って戦うお話ですが、最初、シナリオに登場する七人の侍たちは、みなその日暮らしの浪人ではあるけれど、れっきとした武士という設定だったのです。ところが、それではどうも真面目すぎて面白くない、何か変化球を加えようということになり、生み出されたのが、三船敏郎演じる百姓の生まれの偽侍・菊千代。乱暴者で口が悪いけど、百姓の苦しみ悲しみは肌で知っていて、お調子者だけれど、ひょんなところで機転がきき、村の子どもたちから慕われる、ユニークな登場人物の多い黒澤映画の中でも、際立ったキャラです。モイラがじーんときたのは、侍たちが助けようとした百姓たちの落ち武者狩りの事実を知って激昂するけど、立派な鎧兜を着た菊千代が、逆に侍たちにくってかかるシーンです。「おい、よく聞け!百姓ほど悪ずれした生き物はねえんだぜ!(略)でもな、そんなケチ臭い獣作ったのは誰だ?おめえたちだよ!侍だってんだよ!戦のたびに村ア焼く!田畑踏ん潰す!食い物はとりあげる!人夫にはこき使う!女はあさる!手向かえば殺す!一体百姓はどうすりゃいいんだッ!百姓はどうすりゃいいんだッ!畜生!畜生ッ!」大声でわめき、暴れ、ついには泣き出す菊千代を見て、腹を立てていた侍たちが一言も返せず、しんみりとなる名シーン。この数分間のシーンだけで、武器と権力を手にする者たちが、いかにそれを持たぬ者たちを苦しめているかがよくわかります。黒澤監督一流のヒューマニズムですね。切れ者で腕が立ち、人格者でリーダーシップ満点の七人の侍の総大将・勘兵衛(志村喬)は、下手をすれば、出来すぎていて鼻につくキャラになりかねないところを、そこは抑えた演技のうまい志村喬。しぶくて、かっこよかったですねえ。でも、それよりかっこいいと思ったのは、村の長老・儀作(高堂国典)です。一見、腰の曲がったよぼよぼした老人ですが、声が力強く、村人がいらぬ心配事を持ちかけてきたら、刀で叩き斬るような口調ではねつけ、病気で今にも死にそうな老婆が、よろけながら鍬を持って捕まえた野武士に近づいた時などは、「よーし、倅の仇討たせるだッ!」と、勘兵衛以上のリーダーシップを発揮していましたね。この高堂さん、「七人の侍」と同年に公開の「ゴジラ」でも大戸島の長老を演じていて、その姿が儀作とダブりました。若侍勝四郎(木村功)と百姓の娘志乃(津島恵子)のはかない恋がまた美しく、「たとえ身分違いの恋でも、惚れた男に抱かれたい」という志乃の心情にぐっときました。野武士との戦闘シーンは8台のカメラを駆使した、世界映画史上に残るもの。しかし‥‥この作品はアクションも売りですが、壮大な人間ドラマです。モイラはこの作品を映画館で観たのは、1度きり。日比谷映画(だったと記憶してます)でのたった1日の上映で、2時間も並びましたが、並んでまでも、あと100回以上は観る甲斐のある超名作です。【中古】七人の侍 54年東宝 / 黒澤明【監督】【中古】 何が映画か 「七人の侍」と「まあだだよ」をめぐって / 黒澤 明, 宮崎 駿 / スタジオジブリ [単行本(ソフトカバー)]【宅配便出荷】黒澤明 THE MASTERWORKS 1 RECOMPOSED EDITION [DVD]にほんブログ村
2007.09.06
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野性的だけど、どこかナイーブで、笑顔がまぶしかったけど、どこか翳のあった夭折のスター赤木圭一郎‥‥ポスター集 赤木圭一郎は生きている [ 諸星日出男 ]そんなトニーが熱血記者として、凶悪事件の解決に奔走する映画‥‥それが、「男の怒りをぶちまけろ」('60年 日活)です。男の怒りをぶちまけろ(DVD) ◆20%OFF!新聞記者の三沢十郎(赤木圭一郎)は、取材のためトラックに便乗したが、暴漢にトラックを奪われ、運転手とともに車ごと海に放り込まれた。同日、大阪を飛んだ旅客機が羽田に離陸寸前に墜落、乗客乗員が全員死亡する事故が発生。が、死んだ乗客のうち、2人の死体が見つからなかった。トラック・ジャックと墜落事故は、何か関係があるのではと睨む三沢は、死んだ運転手の妹・幸子(浅丘ルリ子)の協力を得て、事件の真相を嗅ぎ始めるが、事件屋と称する謎めいた男・村西(二谷英明)が、彼の前に立ちはだかるのだ‥‥日活アクションではおなじみのシーンですが、主役のトニーと、渋い脇役のまだ若かりし二谷英明のにらみ合い、かけあいが、観ていて実に小粋で胸がすっとします。「拳銃無頼帖」シリーズのトニーVS宍戸錠のかけあいも、小洒落たセリフに満ちていてグッときますが、二谷英明とのそれは、インテリジェンスもプラスされ、思わず見とれます。トニーの映画では常連さんの藤村有弘も、この作品でまた、独特のイントネーションとなまりのあやしげな日本語を操る計算高くて小ずるいけれど、どこか憎めない三国人やくざを演じています。この人も'82年に、48歳という若さで亡くなっているんですよね。超ユニークな芸達者だったのに、惜しいことです。内田良平、金子信雄、西村晃といった渋めの悪役名優たちも、活躍しています。いやあ、贅沢な配役です。こんな配役の映画を、当時の日活は2週間替わりの2本立てで小屋(映画館)にかけていたのですから、びっくりですよ。ヒロイン浅丘ルリ子が、あんまり光っていないのがちょっと残念ですが、(むしろ脇のヒロイン渡辺美佐子の演技のうまさのほうが光ってた)まあ日活アクションの主役は男ですからね。しょうがないっす。しかしまあ、この時代は大型キャバレーが人気を得ていたようですね。キャバレーの生バンド、その伴奏で歌うシンガー、妖艶なダンサー‥‥日活アクションの名物シーンですよね。この時代はそういうお店が、世の男性にとって夢の世界だったんでしょうね‥‥監督は「夕陽の丘」「手紙」などのベテラン・松尾昭典。★トニーよ永遠に‥‥★【新品】【DVD】拳銃無頼帖コンプリートDVD−BOX 赤木圭一郎赤木圭一郎《スーパー・バリュー》赤木圭一郎
2007.09.05
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今の40、30代は戦艦大和と言われたら、「ああ、宇宙戦艦ヤマトですか」と答え、20代、10代にいたっては、宇宙戦艦ヤマトすら耳にしたことがない、まして山本五十六の名も知らず、連合艦隊という言葉も聞いたことがないといいます。ま、そんなもんでしょうが‥‥戦艦大和や連合艦隊を描いた映画は、これまで数多く作られ、劇映画としてのできばえは、松、竹、梅、論外と、いろいろありましたが、きょうとりあげる'81年東宝の「連合艦隊」は、松の真ん中あたりくらいでしょう。連合艦隊(劇場公開版) [ 小林桂樹 ]昭和14年8月、連合艦隊司令長官・山本五十六(小林桂樹)は、日独伊三国軍事同盟に最後まで反対。だが同盟は強行。ために日本は大国アメリカを敵にまわすはめになり、昭和16年12月8日、山本は、眠れる巨人を起こすも同然の真珠湾攻撃という苦渋の決断をせざるをえなくなった。真珠湾攻撃は一見成功に見えたが、肝心の空母はほとんど一隻も轟沈できなかった。「これからは空母と航空機の時代。もはや戦艦など時代遅れ」と思っていた山本は、巨大戦艦大和の建造にすら反対していたのだが、帝国海軍の威信をかけて建造した世界最高の戦艦大和を戦闘に使わない手はないという、海軍幹部の意見に押されてしまう。しかし戦局は悪化の一途をたどり‥‥前半、ニュース映画のようなナレーションと、やたら多い名前のクレジットが、ちょっとウザかったです。でもまあ、戦後30数年、観客には海軍幹部の名前なんて知らない世代のほうが多数派だろうから、その点を配慮したのでしょう。元海軍下士官で船大工の財津一郎が、普段は飄々としているけど、息子(中井貴一 本作品が彼のデビュー作)をエリート軍人に仕立て、むざむざ死に急がせるはめになって後悔する父親をシリアスに演じていました。驚きましたね。モイラの頭の中では、財津氏と言えば喜劇役者、そして「花のピュンピュン丸」の「キビシ~ッ!」って名セリフ入りの主題歌を歌った人というイメージしかなかったから。山本五十六役の小林桂樹は、淡々とした中にも底知れぬ苦悩を滲ませ、お見事!伊藤整一中将役の鶴田浩二は、かっこいい!これもまたオールスター・キャスト映画です。森繁久彌、藤田進、丹波哲郎、平田昭彦、佐藤慶、藤岡琢也、佐藤允、永島敏行、古手川祐子、長門裕之、奈良岡朋子、小沢栄太郎‥‥400勝投手だった金田正一の息子賢一、丹波哲郎の息子義隆、鶴田浩二の娘・里見奈保(現鶴田さやか)も出演してます。海の特撮は秀逸。何せ9000万円かけて、大砲の数はもちろん、窓の数まで本物と同じ20分の1のミニチュア大和を作っただけのことはあります。モイラは有楽座の試写会で展示されたミニチュア大和の現物を、見ることができました。特撮マニアなら泣いて喜ぶような、それは精巧なミニチュアでした。スクリーンで、夜、大きな岩陰からぬお~~っとその巨大な姿を現わす戦艦大和のいでたちは、迫力満点でした。だけど‥‥空の特撮がいけません。モイラが気づいただけでも4箇所、糸が見えたうえに、零戦の主翼が時々大きくブレるんです。おまけに、真珠湾攻撃のシーンは、「ハワイ・ミッドウエイ大海空戦 太平洋の嵐」から、少し拝借しているありさま。モイラは試写会の少し前に、「太平洋の嵐」を観ていたので、「アッ!」と叫びそうになりました。そしてつくづく思いましたね。「ああ円谷英二大先生、あなたが生きておられて、この映画の特撮を担当しておられたら‥‥」着艦ができず、特攻隊として空母瑞鶴から飛び立つも、敵の軍艦に体当たりできずに、「お母さーん!」と泣きながら撃墜される少年兵が哀れでした。女学生とまだろくに口もきいたことのない子どもまで、特攻隊にかりたてなければならなかった戦争って、いったいなんなのか‥‥?!松林宗恵監督の怒りが垣間見えましたね。脚本は松林監督とは「人間魚雷回天」でコンビを組んだ須崎勝彌。須崎氏は東京帝国大学卒で頭脳はとても優秀でしたが、海軍時代に練習機を三機も壊した、およそ軍人には不適格な方だったそうです。だから特攻隊に選抜されることもなく、生きて日本に帰られたのです。★山本五十六関連映画等★■送料無料+10%OFF■DVD【連合艦隊司令長官 山本五十六】■'05/12/23発売【中古】 名将たちの戦場 山本五十六 vs ニミッツ /(ドキュメンタリー) 【中古】afb図説山本五十六最後に、モイラが大好きな山本五十六の名言をひとつ。「やってみせ 言って聞かせてさせてみせ ほめてやらねば 人は動かじ」
2007.09.03
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みなさんはありませんか? 映画館やテレビで予告篇を見て、「ああ、これはこういう映画だ!」と思い込み、喜び勇んで劇場に乗り込んだはいいけど、いざ映画が始まると、「ええ~~~~ッ!!! 全然違うじゃん!!!」みたいなご経験‥‥きょうご紹介する野村芳太郎監督の「震える舌」('80年 松竹)などは、まさに上記の通りでした!あの頃映画 松竹DVDコレクション 震える舌 [ 渡瀬恒彦 ]価格:2525円(税込、送料無料) (2022/6/13時点)楽天で購入モイラが記憶する限りでは、、予告篇では、不気味な蝶が舞い、そしてこれまた不気味なサンヨウチュウのようなものが、もぞもぞ触覚や足を動かしながら泥を這い、薄赤い夕暮れ時の湿地で遊んでいた幼い女の子のうつろな顔がUPに‥‥そして画面はいきなり暗転、その女の子がベッドに寝て、「うぎゃあああああああああああああ~~~!!!!」と、それはもうこの世のものとも思えぬ絶叫をあげながら身体を弓なりにそらせ、苦しみあがく。まるで悪霊にでもとりつかれたように‥‥いやその絶叫する姿の、恐ろしいことおぞましいこと‥‥公開当時10歳だった従妹などは、この予告篇を見て泣きそうになったと言ってました。モイラも背筋がぞ~ッとしましたもの。今でもちょっとトラウマです。そう‥‥だから恥ずかしいお話ですが、モイラはこの映画をてっきり、エクソシストのようなホラーだと勘違いして、「かなりおっかなそうだけど、これは観ておかなきゃ!」と、怖いもの見たさに映画館へ飛び込んだのです。と・こ・ろ・が‥‥!!!映画の中盤前で、思わずモイラは劇場内で、ベッドで悶え苦しむ幼女より凄まじい大声を張り上げそうになりました。「何よこれ?! ホラーじゃない。難病ものじゃんッッッ!!!」笑って下さい。モイラという奴は大バカだと‥‥だけどさあ、あの予告篇、どう見たってホラーですよ!それも結構キワモノ入ってる!観客動員数を少しでも増やしたい松竹の陰謀だったんでしょうが、それにしても、あざとすぎます。後年リリースされたビデオのパッケージも、ホラー色満載。「インチキこくなよ、こらあ~~!!」と、怒鳴りたいくらいです。作品自体は、まあまあのできばえでしたね。クレジットでは主役の渡瀬恒彦はあんまり活躍していないけど、十朱幸代が、娘の病気が自分や夫にも感染し、一家3人全滅するのではないかと慄く母親役を、うまく演じていました。脇に宇野重吉、北林谷栄など、民芸の大御所を据えたところも心憎い。若いけどキレもので冷静で、なおかつ心優しい医師役の中野良子が、光っていました。ほとんどスッピンで飾り気がないのに、とても美しかったです。だけど、病気に苦しむ幼女役の若命真裕子(わかもり・まゆこ)の前では、大人の俳優たちはものの数じゃないくらいでした。発作で舌を噛んだり、凄まじい絶叫をあげたり、背骨が折れ曲がるほど背中を弓なりにそらせて苦悶したり‥‥この子が苦しんだり、舌を噛まないように医師たちの手で前歯をミシミシ、バキッと抜かれる場面などは、下手なホラー映画よりもずっと怖かったです。「影の車」といい「鬼畜」といい、野村監督は子役の演技力を引き出すのが巧みです。「受難の子ども」を撮るのが得意とも言えますね。でもこれ、モイラの中ではトンデモ映画なんですよねえ‥‥なにせ、予告篇で世間の人をあざむくような作品ですから。
2007.09.01
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