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2012年5月19日の静岡新聞の「窓辺」に当時の早稲田大学総長鎌田薫先生のコラムが載っていて、「わが国では八田與一や鳥居信平の名前はあまり知られていない。」と慨嘆されている。「二宮尊徳の会」では「八田與一と鳥居信平」、「技師鳥居信平著述集」を刊行してきた。あれから11年後の2023年果して、「大規模土木工事を通じて多くの人に幸福をもたらし、長く現地の人々に感謝し続けられる日本人がいたこと」が知られ評価されているだろうか? 「窓辺(静岡新聞2012年5月19日) 台湾西南部の嘉南(かなん)平野は、かつては干ばつに悩まされ続けていった大平原であるが、1930年に烏山頭(うさんとう)ダムと1万6千キロメートルに及ぶ大灌漑(かんがい)水路が完成したことで、台湾随一の農業地帯に変身した。 この大工事を提案し完成させたのが八田與一(はったよいち)である。八田は石川県に生まれ、1910年に東京帝大土木科を卒業し、日本統治下の台湾総督府に就職したが、大工事のために進んで官を辞し、施行組合の技師として玄以に立って陣頭指揮した。 独創性にあふれた大胆な工法で東洋一の大ダムを完成させ、水田面積を従来の30倍に拡大させるなど多大な便益をもたらしただけでなく、土木作業員等に対する誠実で温かい対応もあって現地の人々に愛され続けている。 毎年、八田の命日の5月8日は烏山頭ダムで慰霊祭が行われ、昨年は馬英九総統や石川県出身の森喜朗元首相も出席した(八田は42年、日本からフィリピンに向かう船が米軍潜水艦の攻撃で沈没し死亡。妻は45年、烏山頭ダムの放水口に身を投じて後を追った) 嘉南平野より南の屏東(へいとう)県には八田の3年先輩で、台湾製糖の技師として農業土木工事を陣頭指揮した袋井市出身の鳥居信平が建設した地下ダムや農業用水が現存する。3年前、台湾の実業家から袋井市に鳥居の胸像が寄贈され、両県市は相互訪問も果したと聞く。 わが国では八田や鳥居の名前はあまり知られていない。最近で評判の悪い大規模土木工事ではあるが、それを通じて多くの人に幸福をもたらし、長く現地の人々に感謝し続けられる日本人がいたことは、もっと高く評価されて良いだろう。(鎌田薫 早稲田大学総長)」「台湾を愛した日本人 八田與一の生涯」古川勝三著八田與一は21歳で同級生31名とともに東京帝国大学工科大学に入学した。修業年限3年で9学部30講座あった。広井勇は当時46歳、高知県佐川町に文久2年(1862年)生れで札幌農学校に進んだ。内村鑑三、新渡戸稲造と同期である。21歳でアメリカへ留学し、ミシシッピー川の橋梁改修工事や鉄橋架橋で研鑽を積んだ。帰国後、札幌農学校の助教授となり、明治22年(1889年)工学部教授となる。小樽北防波堤建造は日本最初のコンクリート防波堤である。斜塊ブロックという独創的な工法を採用し、明治42年5月竣功した。100年以上小樽港を守っている。広井勇は常々学生にこう言った。「橋を架けるなら、人が安心して渡れる橋をつくれ。工学はそれを使う人達のためにある」広井は八田與一によく與一の6年先輩にあたる青山士の話をした。「自分は生涯にひとつでよいから、人類のためになるような仕事をしてから死にたい」青山はこういってパナマ運河工事に参加した。與一もまた、人類のためになる仕事をし、後の世の人々に多くの恩恵をもたらすような仕事をしたいと思った。「百年ダムを作った男」斎藤充功著恩師広井勇は港湾工学が専門で、防波堤に働く「波」の力を波圧計で計算する波力算定式を確立した。広井公式は防波堤設計で必ず用いられる公式だという。広井の業績として、コンクリートの強度の経年変化を100年というタイムスパンで研究して耐久試験を行った。札幌農学校で同級生だった内村鑑三は告別式でこう別れを告げた。「広井君が工学に成功したのは、君が天与の才能を利用したに過ぎません。しかしながらいかなる精神をもって才能を利用せしか。人の価値はこれによって定まるのであります。事業のための事業にあらず。勿論、名を挙げ利を漁るための事業に非ず。『この貧乏国の民に教える前に、先ず食べ物を与えん』この精神の下に始められた事業(小樽築堤)でありました。これが異彩をは放ち、一種独特の永久性のある事業であったのであります。」◎八田與一の事業は、恩師広井勇が札幌農学校で注がれたプロティスタンティズムの精神を受け継いで、「事業のための事業でなく、まして名誉や利を漁るための事業ではなく、使う人のための事業、後世の人類のための事業」という一種独特の永久性を刻印されているのかもしれない。💛広井勇は現在朝ドラで放映中の「らんまん」で、万太郎の幼馴染として登場し、東京編で青年の姿を披露した 広瀬佑一郎 のモデルである。 実際には牧野富太郎が上京して東京大学に出入りしていたころは、アメリカにわたって橋梁会社に勤めていたから遭遇はしていないが、「らんまん」では、坂本竜馬やジョン万次郎と会って大きなインスパイア(新しい息吹を吹き込む)を与えていて、それがまばゆくも楽しい。
2023.06.04