Laub🍃

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2010.12.07
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山本息吹は、動物が好きだった。
金も、言葉もなくただ身体一つでやりとりをするそんな獣が好きだった。
金は暴落する。
言葉は裏切る。
心は見えない。

身体だけはただそこにある。

山本息吹は、獣のように体一つを鍛えていた。

だから身体が頼れない時、山本は酷く不安定になった。
そんな時いつも山本の傍に居たのが、山田だった。




山本がこの世界にやってきたのは誕生日の過ぎた直後だった。

おかしな世界に連れてこられた山本は、一緒に来てしまった山田と一緒にこの世界の神とやらに反抗をした。

そいつとの間に大きな大きな山を造った。

風に乗ってやってくるそいつのかけらから隠れる為二人で穴倉に籠った。

いつにか、その世界にもともと居た人ーあるいはもっと昔この世界に連れてこられた人々の子孫が近くに住み着いたけれど特になんとも思わなかった。

『昨日ちゃんと祝ってないからまだ…』

家族の言葉がまだ持続している気分になる。

山田が何度も何度も祝ってくれた。
山本の人間不信を解くように笑わせて、楽しませて、話を聞いてくれた。

しかし山本は、自分の身体が馴染んだあの場所に帰りたかった。

この世界に来てから自分の身体がおかしな『異能』とやらに侵されて居ることも。

自分が鍛えたわけでないそれをありがたがる住民も、全てがバカバカしかった。

それでも、放任がちではあったが山本は住民達に肉体言語を伝えてきた。
周辺の強者に対抗する方法を。常に隣に山田が居たからできたことだった。

山本のケアに住民の増幅する欲求へのフォロー。
無理をし過ぎた山田が倒れるのは時間の問題だった。


山田は異能の代償とやらで、身体を石に変えられてしまった。
動けない山田の隣、山本は更に引きこもりの度合いが強くなった。
外との扉も、年を追うごとにますます開かなくなっていった。

住民はそれでも山本の潜む天岩戸に声をかけ続けた。

じきに山本は山神、生き上人と呼ばれるようになった。
山本の異能が『不老不死』だったこと。
そして信仰の対象か生き証人の在処となるか絶妙なタイミングで姿を現してきたことが主な理由だった。
皆、拠り所と全てをぶつける場所が欲しかったのだ。

天岩戸が相談と言う名の愚痴を吐く為の場所と化した頃、効果は表れた。

『自分が教え込んできた、そして山田が育ててきたあらゆることが滅ぼされようとしている』
これを聞いた時、山本は久しぶりに立ち上がった。

許せなかった。

病の元を憎んだ。
何故ならそれはこの世界の病だからだ。


この世界の病ならば、この世界に連れてきた邪神が一番知っているだろう。


そう考えた山本は、ぼそりと、本当にぼそりと漏らしてしまったのだ。


「山の向こうにそいつらを…」


この山の中は山本の許せるもので。
許せないものを消せないのなら、山の外に追い出せばいい。
その後は、知らない。


山本はただ守りたい。

「海など全て蒸発させてしまいたいくらいだ」

「山田。お前のせいだ。お前が言うから、この世界をまだ私は守らなくてはいけない」

そしていつか、生き返った山田と一緒に帰りたい。



山本涕は、ある時海に行かせた者たちが『あらゆる病を治す異能』を得たと信者から聞く。

「そいつを連れてこい」

山本は山田を助けたい。

諦めきれないしがらみと、諦めなくていいと思う希望に、山本の心は今日も生かされている。
そこに自分と山田以外を思い遣る回路など残っていなかった。


to be continued... ?





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最終更新日  2017.05.05 03:23:27
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