Laub🍃

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2011.06.30
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カテゴリ: .1次長

自分を憎んで自分が全部悪くて劣っているということにすれば全て諦められるから、今日も苦しまずに笑えるはずだから、姉を癒せるから。

今日も私は自分を貶める。



階段を下から見上げるんじゃなくて登っていけばいいと人は説く。

けれど、改善しようという気も起きない。続かない。そんな人も居る。私だ。

いつか異能がついたらそれでいいのに。それか、私が私であるというだけで愛してくれる人が居ればいいのに。
今日も私には拳の降ろしどころ、気持ちのぶつけどころが見当たらない。
何をしても自分の要領の悪さが気にかかって頑張れない。姉さんとは大違いだ。
それさえもいいわけにして、同じように産んでくれなかった親と同じように育ててくれなかった世界を憎む。
けれどそうやって何かに逃げていても逃げている自分を自覚して自分ってつくづく駄目人間だと思い知る。
他人と比べなければ幸せなのかもしれない。
だけど気が付けばどうしても比べてしまっている。

だけど私は今日も笑う。

外で愚痴も悪口も言わない。
私は最下位を守る神様だから、誰かを憎んだり見下したりは物理的に出来ない。
そうすることで愛を希う。
他の人なら赦されることが許されないのはきっとその地位に甘んじているからだ。

そうして高潔とは真逆の寛容さでもって絶対的な赦しの高みに居れば誰も攻撃しないでいてくれるはずなんだ。引きずり下ろしようもないから。

けれど私は、ここまで落ちてくる癒しを求める人たちを喜んで送り出すほど聖人じゃない。

だから、こんな世界にやってきて私しか頼る人が居ない筈なのにいつものように要領よく他人に頼っている姉が憎らしくてたまらなかった。

頂点に居るからこそいつも疲れた顔をしている姉と、底辺に居るからこそにこにこと笑っている私。噛み合うからこそ私は私を肯定できるのに、どうして姉は他の人に笑わされている。
どうして私の行けない場所で私の知らない相手と笑っている。


李桜。


あなたが憎い。


あなたの傍に居る者を殺したい。





「ああ、上の位の方には分からないのでしょうね。底辺の者がどのような暮らしをしているか」
「お願いします、私の仲間を連れてきてください!私だけじゃ…っ」

姉さんが、李桜が私に気付いたら協力してあげようと思ったのに、李桜が気付く様子はない。
仕方がないとは思えない。あれから何年も経っているとはいえ、たった二人の姉妹なのにどうして忘れられるのか。凸凹のように嵌り合う仲だったのにどうして。

「だからそうやっていいわけをするのですね。逃げようとするのですね。ああ姑息ですわ」
「なんて奴だ…っ」

私の垂らしこんだお貴族様は、単純で自分の正義以外を何も見ようとしない。だから一度ツボを心得ることができれば後は簡単だ。

「ごほっげほっ」
「義母さま!」

血を吐く義母、蒼褪めて抱きつこうとする夫、彼を抑えて涙を流す私、そして狼狽える李桜。

李桜、底の気分が分かるかしら。
どこにも行けないから傷を舐め合うだけの想いが。





祈りも虚しく義母が亡くなって、嘆き狂った夫に李桜は殺された。

そして李桜を薦めた私もまた、怒りに任せて城下に追い出された。
殺されなかっただけ、ましだというものだろう。
もっとも殺されても構わなかったのだが。

李桜が消えて、下からねめ上げていた光が消えてから、私はどこかおかしい。

「ふふふ……うふふふ」


彼女が最期まで歌っていた歌が耳にこびりついている。
彼女の唄には麻酔作用と幻覚作用がある。きっとそれを引きずっているんだ。そうに違いない。

「あは…らら、ららら……うふふ……」

まるで阿呆のように、笑い、歌い続ける。


「キョウスケ、ここじゃない!?」
「ああ……!」

そんな私を一瞬だけ正気に戻したのは、かつて想っていた人の声だった。
李桜を連れて行った、今ではとても憎い人の声。


「あっ、あれ!あの人、もしかして……」

「……あれぇ?ひさしぶりぃ。姉さんに、会いに来たの?」

謳うように言うと、そいつらはびくりとしてから、一瞬後に凄まじい殺気を発し始めた。

本能だろう、背中を冷汗が伝う。けれど私の表情は未だに壊れている。

「……その、そっくりな声は…」
「っふふふ!……私に、そっくりな姉さんは、殺されたわ」
「!う、嘘だ!嘘だ!!」

戸惑ったように泣き喚くガキと、呆然としてる女と、何かを悟ったような顔の、憎い人。


「私が、殺させたのよ。気持ちの行き場がないなら、私をーーーーーーー」


 言い終わる前に、その人の剣が私の喉を貫いていた。

「はっ…かっ……」
「もういい。……もういい」

その人が泣いているのを、初めて見た。

目の前で悲劇を三人が展開している中、私は笑いが止まらなかった。
声は出ない。笑い声も歌声も発せない。



けれど、顔には今まで一度も浮かべた事のない満面の、心からの満足に拠る笑みが浮かんでいた。








ああ、なんて幸せなんでしょう。

愛おしくて憎い人と同じ血と泥の底に、憎くて愛おしい人の手を汚して逝けるなんて!




底に意識が沈んでいく。
泥のような眠りの底へ。



大事なあの人が眠るそこへ。






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最終更新日  2017.03.26 15:23:37
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