Laub🍃

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2011.12.09
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「どうして兄弟の成功を素直に喜んでやれないのかな」

体育座り。
真夜中、ランプに照らされた丘の上の花園は綺麗だ。

何を言っても、誰にも咎められない場所。

「田中先生、どうすればいいかな」
「え、俺?」

だけど、僕は対話をしたかった。

「だって田中先生には100人規模の兄弟に居た存在が居るのだから、分かるだろ?」
「…まあ、いいけども。俺より普通の兄弟姉妹が居る人に聞いた方がいいんでないのか?」

「……まあ、君がいいならいいけど…」

田中先生。
無数と居る田中一郎の一人で、佐藤甘子様用なんて呼ばれている人。
クラスで孤立していた僕だけ何故か、こっちに連れてきてくれた人。

「僕とそいつがもし逆の立場だったら、成功していたのは僕の方だったんだって、そう思ってしまう」
「こんな世界にトリップしてきたのも貧乏くじを引いた結果だし?」
「……否定は、しないよ」

みんなは今頃どうしてるだろうか。
僕らは中学校のクラス単位でこの世界にトリップしてきてしまった。
まさに漂流教室。
違うのは、漂流先がある程度整備されていたということくらいか。


他に選択肢がなかった。
化け物も、なんか変な部族っぽいのも襲ってくるし、そんな中助けてくれた田中サンについていくのは当たり前だ。

だけど、僕以外のみんなは…優しい委員長も、正義感の強い義香さんたちも、みんな実験施設に連れて行かれた。
死ぬことはないと言う。
昔ほど変な実験もしてないと言う。

こんなことなら、あの日学校に来なければよかった。

「僕の病院にかかる費用がなくなって、兄さんと弟はきっと喜んでるだろうな」

大学に行けるようになったから。
二人とも健康で頭がいい。僕と違って。
家族はみんな優しいから声には出さないけど、僕の生命への投資さえしなければあの二人をもっと輝かせることができると思ってるって、分かってた。

「……君の異能は何だっけ」
「えっと、触ったモノの未来をちょっとだけ視る力。といっても、人の運命なんて分からないよ。当たり前の寿命だけ」

内臓がこのペースだったらどれくらい持つのかってことが分かる。
僕自身に必要な力だったけど、どうやら自分には使えないようだった。

「じゃあ、君には佐々木さんの手伝いをしてもらおうかな」
「……佐々木さん?」
「うん。動物を沢山飼っててね、その手助けをしてほしいんだ」
「でも僕、喘息…」
「ああ、そうだね」

確か怪物に襲われた時も、その毛で喘息を起こした。それで皆から、助けないとダメだけど嫌だな、面倒だな、っていう顔で見られた。
いつものことだし、慣れてる。
僕は貧乏くじだ。
そう思ってたところに、田中サンが現れた。

「うーん。通常時は毛のない子の相手をしてもらうし、基本的に仕事の時は防護服着てもらうつもりなんだけど……一度、試してみない?駄目だったら蛙や蛆の世話する子の所で…」
「……や、やります」

うん。やるだけやってみよう。
う、蛆……は、きついけど、か、蛙……なら、なんとか。

田中先生が手を差し出す。
大きくて固い、年季を感じさせる手だ。

僕はそれをしっかりと握って、年齢に見合わないと言われた長身を起こす。

「やり方を、ちゃんと教えてくれますか。隠し事、しないでくれますか」
「……出来る限りね」

自分でも意味不明な拘りだ。
だけど、僕にはそれがとても大事だった。

「あと一つー僕は、……」
「君の思う通りでいいよ」

ここでは大丈夫。
そう言って微笑む田中先生は頼もしくて。
僕もこうなれたらいいなと思った。

to be continued... ?





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最終更新日  2017.04.30 20:35:59
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