Laub🍃

Laub🍃

2012.09.21
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「あんたにどうしてこんなことする権限が…うげろっ」

 突然喉からにゅっと何かが出てきた。

「ん…ぐぅ……っ」

 慌てて噛み千切ろうとするが、ごりごりとそれの骨に当たるばかり、ついでに言うなら噛めば噛むほど舌が痺れそいつは熱を持って行く。
 やばい、息が、詰ま、る。

「ジラフ、お戻りなさい」
「……」

「すみませんね。うちのお庭で飼っているものですから、少々暴れん坊の気質でして。本来は主人に対して噛み付く犬を矯正するための生物道具なのですけれど」
「笑ってないでくれますか……」

「あくまで協力する事前提なんですね」
「それ以外に選択肢はもとよりありませんわ」

 この女狐が。

 というとまた窒息させられそうなのでやめておく。

「…んで、今の所対処しなくちゃいけないのは何ですか」
「よくぞ聞いてくれました」

 聞かないと話進まねえからな。もういい、開き直ろう。化け物だろうがなんだろうが元の世界に戻れるならそれでいい。

「それでは、我々の昔からの因縁をお話しましょう」
「……ああ、いえ、折角なのですが結構です。それは主観に拠ってしまいそうですし、先入観で色々と台無しにしてしまいそうですからね。それよりも、俺が動ける立場と…それを保障する貴方の立場、今の所の貴方たちのいう課題について教えて下さい。因縁については資料……様々な角度から見られるような複数の資料を見せて頂けるとありがたいです」
「……!分かりました。では、現状の貴方の立場と我々の目的をお話しましょう。」

 やっと本題。ここに至るまでひと月もかかっていたような気がするのは気のせいか。


「なるほど」

 戦国時代の政略結婚、あるいは養子の話を思い出す。すると、この娘の身内に誰か有力だったり、微妙な立ち位置の者が居るのだろうか。

「私の場合は、妹の身代わりのようなものでした。妹は力があったので、母なる『浜の神殿』に留まることになりました。そういった取引がいくつもあり、数千年前からの因縁は少しずつ落ち着いてきていた所でした。……しかし、数千年前の因縁は、神話だと思われていた怪物の復活によってぶり返してしまいました」

 ぱさ、ぱさ、と俺の周囲に本が置かれていく。
 もうこれくらいでは驚くまいと思うのに、びくりと肩を震わせてしまう。


 ぱっと見、赤黒いシルエットだけだ。ド●クエやF●に出てきそうなシルエットに、赤い縫い目が描かれているがマスコットとしてもなかなか通用しそうではある。
 何にしろうさぎは正義とかいう至言があるくらいだ。うちの嫁さんが貰ってきたうさぎにうちの息子は大喜びだった。……話がずれた。
 デスうさぎだとかそういう名前が似合いそうなそいつは、橙色の目をこちらに向けている。

「ええ。その怪物達の大将です」
「……怪物は複数存在するのですか?」
「ご安心下さい、貴方に怪物達の討伐は依頼しません」
「ああ、それは安心……ではなくて…」

「……もしかして、怪物は怪物で一派なのですか…?そいつを倒してもそれはそれで余計な恨みを買うのでは……」

 そうなったら恨みの連鎖だ。きっかけになった者達はとうに死んでいるだろう、今更昔のものが掘り起こされるなんて。忘れられていた方がいいものもあるのに。

「…そうですね。その怪物達は、数千年前に『崖の廃殿』に押し込められていたものたちでした。そして怪物を信望する者も『浜の神殿』にはおりました。いつか怪物が復活するからこそ、『海の神殿』が上、『浜の宮殿』が下という関係でも耐えられると」
「……そうして、神殿側が我慢する事を、宮殿は当然のことだと思っていたと……」
「そうですね。それに、もっと立ち向かわねばならない敵が我々にはおりましたから」
「敵…?」

 第三国の登場。嫌な予感しかしない。

「山の向こうの帝国……彼らはかつて、国を広げ過ぎて周辺諸国から呪いを受けました。そして我々に呪いを押し付けたのです」
「呪いとは…?」

 昔の人々はどうにもできない自然災害を、そう名付けたそうだが。…それか、表ざたにしたくない所…例えば身内…からの攻撃を、そう言ったとか。

「どうあがいても改善できぬ病だったそうです。最後まで動くことは出来るのですが、それ故に感染も広がるだけ広がりきってしまいました。その呪いの発生源…呪われた者の身体や遺灰…を、我々の父祖はここまで運んできたのです」
「……ペストと性病を合わせたような病気だな……」
「……?……とはいえ、呪いを押し付けられた我々の父祖は、追いやられたこの辺境の地、『浜』で良質な資源が取れ、しかもそれによって呪いが解けると分かると徐々に復興していきました」
「なんだ、それじゃあ山の向こうにも呪いを解く方法を取引して教えられますね」
「ええ。けれど、結局はその資源の奪い合いが起こり、呪いが解けたものの、今度は山と浜の決裂が大きくなってしまいました」
「……」

「とはいえ、現在はある程度膠着状態です。廃殿の研究を恐れて彼らは手出しをあまりしなくなりました。時々暴走した愚か者がやってくるのみ。こちらも貴方に解決をお願いすることはありません」
「もしかして、国境をその廃殿教とやらの人達が守っている…いた、のか?」

「ええ。現在も守っていますね。とはいえ、現在は「自分達を殺せば、山の向こうの奴等を抑える者が居なくなる」と宣っていましたが。……以前は、代わりに宮殿が廃殿を守る…というか人質のようにして山岳地帯の国境を守らせていたのですが、今はもうその力は使えません」
「…なるほど。では、現在はどのような取引を?」
「……そうですね。我々の…宮殿の中に居る、神殿の身内を返せと言うことでした。特に廃殿とかかわりが深い者を。数人ずつ返すごとに、山の向こうに対する警備を強化してくれると。けれど、その人数も少なくなってきています」
「成程……宮殿の力を、今蓄えるにしても…」
「……今、それをしているところですが…生憎、平和というか前線から離れて戦うことに慣れた人が多くて……それに、神殿が身内と主張する人々も、共に戦っていた人たちの一部なのですよ。元々架け橋として送られたり、宮殿に取引で引き取られたりして…今ではとっくに宮殿に帰属している人達ばかりです。私の魔法の師匠…マリンさんの妻もそうでした」

 魔法。この世界の魔法とやらがどんなものかは分からないけれど、どことなく日曜朝のヒーロー番組が思い浮かんだ。

「……いっそ完全に融合してしまうというのは」
「それが出来れば苦労しないのですが…どちらも相手に恨みがありますし、神殿派はともかく廃殿派に至っては話が通じません。それを貴方にどうにかしてほしいのです」

 ぱさぱさと、周囲に資料が置かれていく。写真のような似顔絵と、簡単な経緯、周囲との関係など。まるで物語の人物紹介のようだ。群像劇でにっちもさっちもいかなくなった最初からクライマックスの状態で、打ち切り直前で、担当に据えられたような気分だ。いや、書店の編集も担当も小説での知識程度しかないが。
 ……はてさて、どうしたものか。

「では、ロノス様…貴方が思う一刻も急がねばならない事とは何でしょうか」

 乗りかかった船だ、やらせていただくとしましょうか。
 順風満帆じゃなくとも、追い風が吹いてなくとも…逆風でもこの際仕方がない。
 俺の元の世界の知識がどれだけ通用するかも分からない。
 けれど、逆風ってことは、逆に思い切って色々やってもいいっつーことでもある。

 一歩でも歩き出さないと、帰れないんだ。

 富士山の五合目からのスタートからよりも、樹海からのほうが却って気合が入ると言うものだ。

「……すみません、分からない所が分からないのです」

 …………おいおい…。

to be continued... ?





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最終更新日  2017.03.19 18:03:03
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