Laub🍃

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2017.12.10
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カテゴリ: 🌾7種2次裏
・夏A精神逆行×夏A以外タイムスリップシリーズ・安居編02( 01・安居視点→
・要視点
・要過去話多め
・病み描写・グロ描写あり

//唐突に始まって唐突に終わります//





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ロープとナイフをもう一度 ー第二小節ー

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 百舌戸要は大人を信用していない。




 百舌戸要は子供を信用出来る対象に育てたかった。









 百舌戸要はその名に誇りを持っていた。

 彼の一族は、いずれ隕石によって地上の生物が滅ぶことをなんとかして食い止めなければならなかった。
 未来で必要となるものを世界に残す為に彼は尽力し続けた。

 彼が幼いころから愛するものは一族の使命と、ひとかけらの音楽と、些細な童話だった。
 深読みすればするほど新しい味の現れるそれらを彼は愛し、また添い遂げようとした。

 ノアの方舟の逸話が彼は好きだった。

 ノアの方舟で、乗せられた者達はどうやって選ばれたのだろう?
 人間と同じように動物達にも選別が存在したのだろうか?
 そんな過程を考えることが彼は好きだった。
 ノアの方舟の話を含め世界のあらゆる昔話を詰め込んだ、分厚くて奇妙な絵の沢山乗った緑の本は、はじめ父の書斎にあったが、あまりに要が好んで読むので、父が苦笑しながら要にくれたものだった。

「……父さん…母さん…?」

 本当にあっけなく死というものは訪れる。
 人を選び残す使命と、今地球上に存在するありとあらゆる縁への慕情から引き裂かれた両親は心中した。要と一族を遺して。
 祖父や叔父は両親を弱い人だと断じた。
 要も当然それに倣った。

 父母の遺した多くの言葉は要にとって反面教師のものとなった。
 あの分厚い緑の本は、彼にとって幼少期の象徴となった。

「…父さん…母さん……」

 ナイフで脅され、ロープで縛られた時も、言葉と本は彼を救ってくれなかった。

「……僕は、死なないよ」

 誘拐犯からやっとの思いで逃れ、山の中で彷徨っている最中要は彼らのようになりたくない、使命を自分は果たさないといけないという一心で生き延びた。骨のような根でも、虫の湧いた実でも、酷く濁った何が棲んでいるか分からない水でも、死に欠けの要には宝石のように輝いて見えた。
 夏の山の中、平衡感覚も次第に狂い出して毎日昇っては降りる太陽だけが要を文明社会へと戻してくれる指標であり希望だった。

「貴方たちのようにはならない」

 口をぽっかりと開け舌をでろりと出し汚物を垂れ流し腐臭をまき散らし物言わぬ骸になり遺書では綺麗ごとを書いていたあの人達のようにはならない。
 同じように汚くても僕は泥や毒に塗れてでも生き延びて見せる。

 両親に心の中で助けを求めることも、心の支えにすることもなくなった代わりに、使命が己の心の支えになった。
 要はそのことを歪んでいると自覚していたが、改める気はさらさらなかった。
 すべては強くなる為だった。

 未来では命に予備はない。
 ゆえに、命は有効活用しなければならない。削って、叩いて、強くならねばならない。
 間違っても、両親のように重圧で自殺するなどということがあってはならないし、幼少時の僕がもしかしたら陥っていたかもしれない、何にもなれずに何も為せずに死んでいく事など、あってはならない。

 百舌戸要は両親の墓標の前で毎回それを再確認する。

 絵に描いた餅には、肉を付けることが必要だ。
 それと同時に、理想を捨て、妥協することも同様に大事だ。
 彼らが無防備で無知な内からそれらを植え付けていかないといけない。

 それはある朝、朝食の後に。

「ねえ、要さん。親って何?」
「卯浪先生に聞いただろう?」
「要さんから聞きたいんだよ」
「…親は、人をこの世に産むものだよ。君達もその内なるものだ。」

 彼らには両親は要らない。

「なんでここには居ないの?」
「親っていうのはね、人をダメにしてしまうことがあるんだ」

 僕の両親のように、面倒ごとばかり置いていき、肝心な生きる術をくれなかった人々など要らない。彼らは新世界に行くのだから、そんな古い価値観必要がない。

 また、ある昼、図書室の中で。

「要さん、苗字って何?」
「卯浪が他の先生に、なんで苗字で呼ばせてるんだって言われてた」
「…ああ…そうだね、苗字っていうのはね、親から受け継いだ一族の名前のことだよ。でも君達には必要ないんだ」
「ふうん…要さんが言うんなら、そうなんだよね」
「ああ、そうだよ」

 彼らには親から継いだ苗字は要らない。
 彼らは日本人の子供なのだから、日本人として最大限ありうる苗字にする必要がある。

 ある夕方、絆創膏を眺める目に。

「要先輩、どうして俺達はこんなに大変な想いばかりしているの?」
「それはね、君達が大人が居なくても生きられるようにだよ」

 まともな屋根や壁や床があることを当たり前と思うように、人間にとって親が居ることが当たり前でないのなら、後者を手に入れられない彼らには、せめて当たり前のように前者を手に入れることが出来るようにしよう。

「君達に帰る家はないから、君達が家を造れるようにしないとね」

 ドヴォルザークの『家路』を吹きながら考えるのは、一昨日達成した課題、昨日出来た課題、明日の予定、明後日の夢。
 僕達は過去に立っている。
 未来に行く彼らからしたら遠い遠いノスタルジーの夕日の中に居る。

 だからやれることはやっておき、伝えられることは伝えないといけない。
 伝えるべきでないことで埋もれないようにだけ気を付けて。

 不安が多いのならば、一世代分前から準備を始めよう。


 人権的に難しいと言われるのならば、人権など要らない。

「君達は、外の子供達とは違うんだから……安居」

 そう言うと、目の前の顔が誇らしげに輝く。 

「…はい、要先輩!」

 百舌戸要は目を細める。日の出を目にしたあの夏の朝のように。

 ……こうして、『要先輩』の箱庭は、希望の光とそれに付随する影のもと、造られはじめた。





「…最近安居の様子がおかしい?」


 百舌戸要は子供達の【相談役】だ。

 彼は直接的に手を下したりなどしない。
 子供に信用され、大人に一目置かれる立場を保つ必要がある。
 教師を何気なく止め、得意不得意を認め、弱点を秘密裏に治してあげる。

 教師の後ろ暗い秘密など『知らない』振りをして、共犯者として見られないようにする。
 後輩達の不遇な状態など素知らぬ振りをして、庇い過ぎないようにする。
 そうしてうまく立ち回っているからこそ、今晩もこうして内情をこっそり打ち明けられる特権を得ている。

「…はい。なんだか、ぼーっとしたり、何かを確認することが増えたり、……何かを怖がってたり」
「…そうか…」

 俯き、哀れなまでに縮こまった茂と、考えを巡らす要の目線は近いが遠い。

 まさか…施設を去った子供達の行方について勘付いたのでは。
 いや……それなら、流石に何か確認を取って来るだろう。
 要は微笑を絶やさず、一先ず目の前の子供を安心させる為口を開く。

「…そういえば、僕も最近安居の目線が気になるんだ。何か、もしかしたら僕が信用できないような事を言ってしまったせいかもしれないね。君たちのせいじゃないよ」

 そう言うと、おどおどとしながらも茂はぱっと顔を明るくする。

「じゃ、じゃあ、僕は、安居に何が出来る…でしょうか…考えても考えても、分からなくて」
「……今のままでいいと思うよ」

 普段から安居と互いに支え合っているような茂に、これ以上自分を責めさせるのはマイナスだ。
 茂は放っておくとどんどん明後日の方向に考えを飛ばしてしまう所があるから、安居が導く必要がある。逆に安居は方向性や目的は大方合っているものの、細かい部分を見落としがちだから茂の何気ない声が必要だったりする。

 安居がその導く役を今出来ないようならば、一時的に補ってやらないと。……勿論、ずっとと言うわけにはいかないが。

 安居は、最近様子がおかしい。生来の世話焼き気質や向上心、責任感を使いあぐねているような……
 『未来』という言葉にあまり希望を抱いていないような目。それでいて、どこか懐かしそうな目で周囲を見ていることが多い。
 迷っているのか。未来を追うことを。
 それとも、僕達に全面的な信頼を寄せることを。

 安居が迷い始めるのは珍しいことだ。
 それも、周囲のアドバイスをあまり反映させず相談することもなく黙考するなんてなかなかない。
 『真面目な優等生』をやめて、大人になってきたということなのかもしれない。それなら歓迎すべきことだ。昼休みに流す曲さえ、「そう決まってる」からと選んでいた安居が、自分で決めて自分で行動するようになるのは更に頼もしい成長だ。

 だがそうでなく無為な、少し早めの反抗期だとしたらあまり長引かせるわけにはいかない。

 未来に足を向け、僕達の遺志を継いで貰う為には、そんな下らない意地や反抗など邪魔になるだけだ。

 他のメンバーならいざ知らず、安居はいずれ『リーダー』になる子供だ。
 リーダーが迷ってばかりでは集団はいずれ自壊する。
 父についてきていた部下達が、父の自殺より前から祖父達と言い争っていたようにはさせたくない。

 安居が情緒不安定だと周囲もピリピリするから、丁度いいところでケアしなければならない。
 茂や小瑠璃、繭、のばら達は勿論、涼も気にしない振りをしつつ滑稽なまでに気にしている。

 …涼の場合は、最近妙に気易く接されることへの戸惑いもあるだろうが。

 そういえば、最近の安居は他人に対しかなり神経質になってはいたものの、子供らしく張り合う部分はあまり見られなくなってきた気もする。

 気がかりだ。…だが、地道に気長に付き合っていくしかないか。
 答えなんてものは、求めずに居ることで唐突に降って来るケースもあるのだから。





 要がその声を聴いたのは、子供達が10歳の崖登り試験を終えた少し後…稲刈りの少し前だった。

「……百舌さん…?」

 秋の夜長、要が一人気持ちよく十八番の『家路』を吹いている所に唐突に水が差された。

「…え?」

 いつものように要のトランペットだけが響き渡る草原から、聞き覚えの無い声がした。

「……誰ですか、貴方達は」
「え……」

 要が高台から見下ろした先には星空と僅かな街燈、それを映す点在する池たち。

 暗くてよく見えないが、そこには三人ほどの人影が居るのがなんとなく分かる。
 長身の男性、背の低い…恐らく少女、長身の女性といったところか。
 先ほど声を掛けてきた男性に代わり、長身の女性が優しく口を開く。

「驚かせてごめんなさいね。……私達、貴方の親族から、貴方の話を聴いてきたの」
「…親族……ですか。…誰に?」
「…それは」
「……言わないでと言われているの。ごめんなさいね」

 怪しい。
 怪しすぎる。
 また誘拐犯か。

 要の脳裏に、数年前の夏の夕暮れ、一瞬だけ優し気な声をかけてきた奴らの声が蘇る。
 こちらの機嫌をうかがうような、見えない何かに急かされているような、世界の権力的なもの に疑心を抱いているような声。

「…それは、おかしな話ですね」
「……あ、あのっ!貴方の仕事と、目的の話をきいて、あたしたち、決心したんです…!その、本当に不躾で、本当に恐縮なんですが……っここで、あ、あたし達も、は、働かせていただけませんか……っ?」
「…は……?…ず…」

 危ない、ずうずうしいと言いかけた。目の前の人物がどんな人間なのか分からない状況でそんなことを口にするなんて不用心だ。

 …いや、しかし、ここまで無鉄砲に交渉を持ちかけられるということは…両親の知り合いか…?
 親の七光りならぬ子の七光りというやつか、親のなんてことのない知り合いが、要の挙げている功績に群がって来ることはそう珍しくない。
 それに、要はこの村では子供達と同様名前のみで呼ばれている。
 ここで苗字を連想させ、ことに愛称らしき呼び名で呼んでくる人間など両親や叔父の知り合い、部下くらいしか思い浮かばない。

「……悪いんですが、ここでは紹介者と一緒に、公の場でやって来るのが決まりですよ」
「……すみません…」
「どこからどうやってどんな内容を耳にしたのか知りませんが、あまりにこれは無作法ではありませんか?……それに、人材が足りないとは言え、先生として見繕うにもこちらから出すテストを受けていただかないといけないのですが…」
「テスト…」
「ええ。それに、他の先生方からの面接審査も受けていただきます」

 にこりと笑う。青年と少女は少し狼狽えるが、女性は動じない。…成程、あの女性がリーダーで、青年と少女はこちらの警戒心を削ぐ役と言った所か。
 警戒心、ね。

 …14歳の若造ならば御せると思ったのか。
 それではあまりに無知と言わざるを得ない。
 要はそこらの大人達よりは余程他人に対する警戒心と観察眼を持ち併せているのだから。

「…まあ、心意気は良いと思いますよ。受かるかどうかは別問題ですが、話は通しておきましょう」

 鍛えているとはいえ、こちらは1で相手は3。しかも女性と青年は体格もいい。あまり刺激はしない方がいい。昼間明るい所で切り捨てればいい。
 勿論その席に要は行かない。高見の見物だけさせてもらおうと、要は笑った。

「…ま…待って下さい!」

 相対しつつも警戒心を強く持ち、早々に与太話を打ち切ろうとする要に追いすがるように、青年が叫ぶ。

「……貴方達の子供の育て方だと、いずれ大変なことになります。選ばれた7人が、他の人に危害を与えてしまうんです」
「…本当に、どこから話を聞いたんでしょうか……そうした危惧なら、関係者の中からも出ていますが…大丈夫ですよ。そうならないように、危害を加えない為の教育もしますから」
「教育……?年端もいかない子供を、あんな状況から逃げられなくして育てることが…?」
「…あんな状況…?」

 そこで耳を傾けた要を、要の祖父は正解と言うだろうか、不正解と言うだろうか。

『君は、それを正解だと思うんだね』

 要の脳裏を、叔父との数日前の会話が過った。

「……7分だけ、話を聞きましょう」




「…君達が、未来から来たと…?」
「ええ」

 結論から言ってしまえば、彼らの先ほどまでの話は要から警戒心を削ごうと努力する以外の何の意味も持たず、そして真実でもなかった。
 それらに対して警戒し吟味していた自身の努力も無駄だったというわけだ、と要は眼鏡の蔓を抑えた。

「…百舌さんの未来の姿も、ここの夏え…夏の、選ばれた人の未来の姿も知ってます」
「…隕石が落ちる前に、僕のことを見ていたということですか?」
「いいえ、百舌さんは未来にやってきますよ。そうして、夏の彼らと再会するんです」
「……信じられないな」

 ……この僕までも、未来に行くだなんて。

 要の『信じられない』は、未来の要自身の行動原理についての疑問を示していた。彼は夏がきちんと育ち、自分達の手など必要ないくらいに未来で活躍していることを半ば確信していた。
 それなのに、案外自分にも心配という、どこかの親がやって子供にくさされるようなことをしてしまうということかと要は苦笑した。
 しかし、女性はそれを違う意味に捉えたようだった。

「…信じられないでしょうけれど、何か気になることがあれば、何でも答えて見せます。……因みに、私は『牡丹』。これから、あなたが造る【夏のBチーム】のガイドです」
「同じく、夏のBチームの『嵐』です」
「…お、おなじく、夏のBチーム、『ナツ』ですっ」
「……夏の、B…」
「この時代で育てられている彼らは、【夏のAチーム】と呼ばれています。…エリートなA、社会不適合のB、なんて言われたりもするけれど…片割れ同士として、案外悪くない関係を築いている途中だと思います」
「……そうか…」

 本当に、信じられない話だった。
 だが、次々と彼らはこの施設の状況から、居なくなった子供達の行く末、更に言うならば7人に残った子供達が漏らした子供達の名前や人間関係についても当たらずとも遠からずの発言をしてみせた。
 情報漏洩にしても行き過ぎているそれらの情報を、彼らが世間に公開してしまうのではという危惧が浮かんだ。
 赤い部屋の情景が一瞬頭を過ったが、今はまだ交渉の出来る段階だ。もしかしたら、本当に子供達にいい影響を与える可能性もある。

「…信じられないが…信じるしか、ないか」
「…!そ、それじゃあ」
「僕は、情報を得たらすぐに次に活かす主義ですからね」

「僕の知り合いと言って紹介してみましょう」そう言って笑うと、3人は今度はほっとした表情を浮かべた。

「…所で、いつあなた方はこちらにやってきたのですか?」
「……つい…さっきです。トランペットの音が聞こえて…」
「声を掛けるかどうか、迷ったんですけど…」

 …そういえばずっと昔に母さんが、夜に口笛を吹くと蛇がやってくるのよなんて言っていたっけ。あの本にも、確かそんな話が掲載されていた。

 要は久しぶりにあの緑の表紙を思い出した。

 …さてこの蛇の誘惑に乗って、未だ知らぬ知恵に手を付けることは正解か、不正解か。

「…ありがとうございます、話を聞いてくださって」
「いいえ、とんでもない。……僕も、7SEEDS計画と夏……いえ、夏のAチームの為に全力を尽くしたいですから」

 ……いいや、楽園を『彼ら』にはいずれ出てもらわないといけない。

 ならば蛇にこそ賭けてみよう。



【続】
最終更新日 2018.01.31 06:05:07





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最終更新日  2018.02.19 00:06:32
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