Laub🍃

Laub🍃

2017.12.09
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カテゴリ: 🌾7種2次表
 →1 

→2  『わけがわからない』
→3  『話せない』
→4  『置いておけない』
→5  『収拾がつかない』
→6  『違えない』
→7  『手段を選ばない』
→8  『知らない』
→9  『受け止めきれない』
→10 『溶けない』

→11
→12 『救われない』
→13 『そつがない』
→14 『聞き捨てならない』
→15 『要らない』
→16 『蒔かない種は生えない』
→17 『夜はまだ明けない』
→18 『仕方がない』
→19 『比べ物にならない』
→20 『出来損ない』/pre>
→21 『気が気じゃない』 



*涼まつ・嵐花などNLがナチュラルに入ります
*涼の安居ラブもナチュラルに入ります
*新巻さんと花、安居とナツが距離近くなりますがカップルにはなりません

*あらすじ:
1~
・外伝後安居・涼・まつりが海で嵐に巻き込まれ乾季直前の混合村にタイムスリップする
絵面的にはオズの魔法使い
・混合村(山中)→未来安居・未来まつり・過去涼達が暮らすことになる

・夏B村(浜辺)→過去要・未来涼・過去安居達が暮らすことになる
16~
・皆に父の仕事が判明した後、無事に村を一時離脱する花
・花と安居・涼の距離を取る取り決めを作る涼、不自由を強いる代わりに花と嵐を会わせる約束をする涼
・花・新巻・ハル再会&旅再開
19~
・一方その頃夏Bは……

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『今日誰かが木陰で休むことができるのは、遠い昔、誰かが木を植えてくれたからなのです』

 投資家のウォーレン・バフェットの言葉だ。



 そして私の育てた彼らにもそうなってほしかった。
 それを生きがいに想えるような人になってほしかった。

 例え家族と呼べる人がほとんど居ない未来でも、見たことのない一般人相手でも、同様の献身を発揮できる、そんな人間になってほしかった。





 -私は失敗したのかもしれない。


********************



********************





 数か月でこの世界で何があったのか。
 私が一番案じていた教え子・安居は、二人に分裂していた。

「何でお前らは平気なんだ!あんな…あんなのが、俺達と同じ夏なんだぞ…!?
 秋の方がまだノルマを目指し働いていた、春の方がまだ根性があった、あんな試験も苦労もしてないような奴等が何故未来に…」
「…その分素直だ。俺は初めあいつらに居丈高に接したが、それでもあいつらは教える側から話を聞こうとした。秋や春と違って、衝突する事も少なかった。武器を互いに向け合うようなことにもならなかった。出会い方が違うせいもあるだろうが、夏Bのあのこちらを油断させる空気はもはや才能だ」
「……あの緩さはこっちを油断させる演技なのか?」
「いや、80%は素だ。…蝉丸と牡丹は、緩いふるまいをしながらもこっちを観察してる気がするし、嵐とまつりと螢は気を遣おうとして敢えて柔らかく振舞ってる節がある」
「……気を遣うだと?あいつらなんかが」
「……実際助かってる部分もあると思うが。……残りのナツとちまきは」
「………ナツはとろくて要領が悪いが、真面目で慎重で嘘が吐けない。
 ちまきはマイペースで他人にどう思われようと気にしない。だろう」
「概ね合っている」

 二人の安居は、たまにこうして話をしている。





「…前はあんな人じゃなかった気がする」
「……」
「要さんはいつからああなったんだろう。
 全部人類の存続の為に捧げて、俺達の犠牲なんてしょうがないって思うような人に…」
「元からだろ。少なくとも俺達が出会った時には既に、あの人はああだったさ」
「…そんなこと」
「だから、お前も俺も、あの人をどうにもできない」
「……前から、あの人はああだったのか」
「そんな事を考えて何の意味がある」
「…あの時の微笑みも、正しいと言って教えてくれた事も全部、あのどう考えてもおかしい信念に裏打ちされていたのか」
「狂気みたいな信条がなけりゃ、達成できないことだってあるだろ。
 俺達が7人に残ったみたいに。…あの人が、シェルターでなく種として俺達を遺したこともそうだ。」




 美帆さんに初めて出会ったのは、シェルターの研究とコールドスリープの研究の要、強靭かつ柔軟な殻を作る現場の見学会だった。

 あの日もゲリラ豪雨が降っていた。

「要くんは立派だね」
「ただ自分に出来る仕事をしているだけです」
「それが出来ない人は、結構多いんだよ」

 そう言って悪戯に笑う彼女は、いつもどこか掴めなかった。
 彼女が貴士先輩と恋仲だと知って、ああやはりな、と思った。

 厳しいことを言う先輩が、彼女にはやりこめられている様を見てなんだか楽しかった。

 そうやって二人を見守ったり、美帆さんの恋愛相談に付き合っていたら、何故か貴士先輩には『美帆が好きなくせに』と言われるようになっていたが、いつも冷静な先輩が嫉妬する様子が面白いのでそのままにしておいた。

「彼らは幸運な子供達だ」

 そう言って美帆さんの膨らんだ腹を撫でる先輩の歪んだ光にも、見て見ぬふりをした。




 絞った服から、ぽたぽたと雫が垂れる。

 水音を聞くと思い出すのは、あの日の安居だ。
 ぽたぽたと誰のものとも知れぬ血を服から垂れ流す彼に、私は風呂に入るようにとだけ告げた。
 ゲリラ豪雨で掻き消された悲鳴、誰に向けるでもない生き生きとした慟哭。
 赤い部屋での振舞いとは裏腹に、そこから出た時の安居の表情はひどく凪いで澱んでいた。

 そして、今。

 未来から来たと言う安居は、ずっと澄んでいるけれど、似た雰囲気を纏っている。
 何か余程ショックなことがあったのだろう。
 そして彼の私への反応を見るに、そのショックには確実に私が関連しているのだろう。
 だから、彼に接する私の脳内は安心と不安を奇妙に同居させている。




 樹海を歩いていて、上部に首吊りの縄がただ揺れている時、下を見てはいけない。

 遺体を回収したケースだけでなく、首と体が腐敗と自重で泣き別れて、下に転がっているだけということもあるからだ。


 同様に罠にかかった獣も、放置しすぎるとこうなってしまう。
 上部でぶらぶらと揺れる縄を残し、無残に眼下に転がるそれはもう食べられなそうだ。

 蠅が大量に集った獣の死体を見て、未来から来た安居は薄く笑った。

「……こうして、みんな、土に還るんですよね」
「ああ、そうだな」


 そう考えて、今までの人生に、境遇に、納得をするしかないのだ。

 足元の死体に感謝をして、腹の中の血肉の養分を吸って、そうして私達は生きている。

 赤い部屋を出た直後の安居の横顔を思い出す。

 あの頃の安居がここに居合わせたら、泣くだろうか。怒るだろうか。笑うだろうか。







 結論から言うと、私は安居の反応を求めていたのではなかった。
 結局私は安居に同じ反応しか期待していなかったのだから。

 要先輩の言うことはいつも正しいと信じ、不承不承ながらも頷いて、次の瞬間には私の指示した方向へと走り出す安居が見たかった。

 それなのに、安居はそれに応えない。
 後ろに居る私の方を振り返り、立ち止まっている。

「俺達は、生まれてからずっとあなた達に監視されて、見守られてきました」
「狂った俺ではあなた達の望む使命を果たせないと思いました」
「同時に、あなた達は本当に使命の為だけに俺達を育てたということに絶望しました」
「俺にとって仲間は未来へ行く為の仲間で、ライバルでした」

 そうだ。その乾きが必要だった。
 真っ直ぐに素直に前へ前へと泳ぎ続ける、群れを一番前で率いる魚のような強さが、きらめきがあの頃の安居にはあった。あの姿に期待した。
 俺達が未来を託すに値すると思った。
 大事な教え子達の前で、更に多くの一般人たちを率いる責任を託せると思った。
 それなのに安居は裏切った。

「だけど同時に、未来へ行けなくても大事にしたい家族だったんです」
「あなた達は俺達を未来へ連れて行ってくれた恩師でした」
「でも同時に、皆を殺した殺人鬼でした」


「分かってます。今更あなたの認識が変わることはない」
「あなたが4歳年上の時すら、あなたは絶対だった。俺達があなた達の用意した型に合わせて変わっていくのに、あなたはずっと何年も変わらず、俺達の頭上で笑っていました」
「あなたが今何歳なのかは知りませんが、あの頃よりも更に遠くに居るんでしょう」
「だから俺は未来であなたと殺し合った後、別れを告げることしかできませんでした」


「俺は殺人鬼です。汚れましたし、歪みました。悪魔と蔑まれても仕方がありません。
 それなのにあなたは神様のままなんです。仲間を傷付けられた事を憤る俺を押さえつけて殺し、仲間を喪って狂った俺を失敗作と言ってまた殺すんです」


「俺は何を言いたかったんでしょうか」


「こんな風に語ってもあなたには何の意味もないと分かってるのに」

なあ安居。気付いているか。
お前は私に、罪を犯した事を、その理由が美しいものであるがゆえに認めてほしがっている。

それは、お前を守るためと言う美しい理由で花やハルを殺しかけた涼と同じだ。

それは、お前達を育てる為、未来をよりよいものにする為という美しい理由でお前達を殺し壊した私達と同じだ。

だから私は美しい理由を守り自分の罪を赦すためにはお前の罪を赦すわけにはいかない。
しかしお前も美しい理由を守り自身の罪を赦すためには私の罪を赦すわけにはいかない。

結局曲げられないほどに老いた私より、まだ更生のきくお前達が、私達の罪も矛盾も呑んで、次に活かすしかないんだ。
だが、私はそれをお前に伝える手段をもたない。

だから、こう言うしかない。

「……お前は、罪悪感を抱かないのか。一般人を殺した事、花を暴行しかけた事、一般人を武器で脅した事を」
「申し訳ない事をしたと思っています」
「狂っていたから仕方ないと心のどこかで思っているんじゃないのか」
「……それは……」
「それは本当に申し訳ないと思っているのか」
「……それは……要さんも一緒じゃないですか」

 意を決したように安居が言う。

「狂っている。今更変えられない。今更罪悪感を本気で抱いたら、もっと狂って、今の形さえ保てなくなるから、だから認められない。
 あんたが俺達にしてきた事に罪悪感を本気では抱けないのと一緒じゃないですか」
「……語っている段が違う。俺は使命の為にやっている」
「俺達だって未来に行く為にやっていましたよ。……ああ、生き残る為にもやってましたけど」


「…ただ、俺にはまだ変わる時間がある。外に行く手段もある。
 まだ出会っていない人もたくさんいるし、見てない世界も沢山ある。
 広い世界を見て、その罪悪感も、狂わずに抱けるようになるのかもしれない。
 だから、俺はあなたに殺される前に外に出て行きます」

「……」

「……逃げるみたいですけどね。
 …ああ、昔俺を避けて村を出ようとしていた花も、同じような心境だったのかな。
 整理できなくて、とにかく距離を置かないとどっちも潰れそうで」

「…安居…」

 特定の個人への執着と愛憎。
 私が抱かないようにしてきた、重荷になる感情。
 生徒たちにも、未来へ持って行かせたくなかったもの。
 だが、花を育てながら、そういった心の育み方を教えられなかった事を想った。
 相手への慈しみ方でなく切り捨て方ばかりを教えてきた事は失敗だったと悟った。

 それでも、今更だ。
 ここまで育て、壊してしまったら、元の無垢な卵には戻せない。

「いつか、死ぬ前にまた会いましょう。
 俺は俺で精一杯やります。…さようなら。

 ……それでは」

 去っていく背中に、かける言葉が思い浮かばない。

 未来で安居と殺し合いをした後、私達は別の道を行ったと聞いた。
 今と同じように陳腐な別れの挨拶をしたのだろうか。
 それとも、何も言わずに離れたのか。

 彼のすっかり大きくなった背中に、出掛ける子供の背中と、引きずられていく小さな背中が重なる。

 『頑張れよ』は失敗した。
 『いってらっしゃい』も『ありがとう』も違う。
 『悪かった』『すまなかった』はあり得ない。

「……またな」

 そう呟くと、安居の肩がぴくりと跳ねた。
 陳腐な再会の祈り。

 死神が言うと演技が悪いか。

 少し笑って、体を翻す。

 彼に、きっともう、私の目は必要ない。








 安居と涼とまつりの乗った船が遠くへ消えていく。
 その時私はナツ達のように声をかけるでなく、静かに今までの事を思い返していた。


 生き物はみな欠落を持っている。
 出来損ないだからこそ進化し、淘汰され、補い合い、次の世代へ進む。

 だが、私は人である為に必要なものを、生きる為に捨てて進化した。

 神になろうとした。

 神で居ることで、誰にも咎められず、ただ相手の欠損を咎めるだけの存在であろうとした。

 だからきっと未来の私は、貴士先輩と美帆さんの幻覚を見たのだろう。

 誰かに諫めてほしかったのだ。
 不特定多数の誰かでなく、真に自分を知る誰かによって、己の欠損を指摘され、それでも追い縋り直したところを見てほしかった。


 それが、きっと、今回、叶ったのだ。


 欠けているがゆえに成したいくつもの失敗を、頭痛に耐えながら思い出す。
 自分では正義で成功と信じていたいくつもの過ちを、目に掌を当てて思い返す。
 神であればする必要のなかった行為だ。


 最後に思い出したのは、幼い頃の自分と、死んでいった弱くて優しかった両親の記憶。


 そうして私は、数十年ぶりに人間に戻れた。





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最終更新日  2018.12.30 18:50:56
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