蟻とキリギリスに学ぶ 笑倍と商いの調和について
子どもの頃に読んだ「蟻とキリギリス」のお話。
夏の間、一生懸命に働いて冬に備えた蟻と、歌をうたいながら日々を楽しんだキリギリス。
物語の最後では、準備を怠ったキリギリスが困ってしまい、
「だから遊んでばかりじゃダメ」と教えられた方も多いのではないでしょうか。
けれど大人になった今、私はこのお話を少し違った角度から眺めるようになりました。
どちらの生き方も、実は人生にとってとても大切なのではないかと。
2つとも、大切な生き方だと考えるようになりました。
蟻のように真面目に働く姿勢は、信頼や安心につながります。
素晴らしいことです。
商いにおいても、仕込みや準備、気配りは欠かせません。
一方、キリギリスのように「今」を楽しみ、心を解き放つことも、
私たちの暮らしに潤いを与えてくれます。
たとえばお客様に笑顔を届けたり、ほっとする時間をつくることも、大切なおもてなしの一つです。
キリギリスは、音楽会を開き、
皆さんの心を癒していました。
両方とも、正しい生き方だと思います。
この両方の心を持ち合わせること ―
それが「笑顔が倍になる=笑倍(しょうばい)」であり、
「商いの調和」なのだと思うのです。
私たちの毎日も、実はこの繰り返しです。
朝は蟻のように準備をし、開店と同時にキリギリスのように軽やかにお客様を迎える。
商品知識や清掃などの見えない努力のうえに、自然な笑顔とおもてなしが生まれます。
伎芸(ぎげい)型のおもてなしも、まさにこの調和の上に成り立っています。
演出や工夫、声かけ一つにも「技」と「心」が宿る。
お客様の「また来たい」を引き出すのは、ただの販売ではなく、
人と人の温かなやりとりなのです。
真面目に備え、しなやかに楽しむ。
働くことと喜ばせることは、決して別のものではなく、
つながっていると気づいたとき、
日々の仕事も、人生そのものも、少しだけ優しく、
誇らしく感じられる気がします。
さあ、今日も笑顔を忘れずに。
蟻の心とキリギリスの心、その両方を胸に、
「笑倍」の一日を紡いでいきましょう。
