商売の世界では、「要領がいい人」「地頭がいい人」が成功を掴む
──これは昔も今も変わらない真実です。
けれど、伎芸『ぎげい』型おもてなし商売道の現場で私が出会ってきた人たちを見ていると、
もう一つの力が成功を左右していることに気づきます。
それが、「素直力(すなおりょく)」です。
伎芸型の商売道は、舞台の上の演者のように、相手の反応を五感で感じ取り、心で寄り添う世界。
要領のよさや地頭のよさよりも、「学びを吸収する柔らかさ」と「改善を恐れない謙虚さ」が何よりの財産になります。
つまり、“素直に学び、素直に動き、そして臨機応変にアドリブで応える”ことこそ、芸の道であり、商いの道でもあるのです。
お客様との出会いは、毎回が本番、そして台本のない舞台です。
同じセリフでも、相手によって伝わり方がまるで違う。
たとえば、道の駅で常連さんが来た時は「おかえりなさい」、初めての観光客には「ようこそ、常総へ!」。
その場の空気を読む“メースバイケース”の一言が、お客様の心を温めます。
伎芸型おもてなしでは、この「アドリブ力」こそ、素直さの延長線上にある芸なのです。
一方で、多くの人は「自分流」にこだわりすぎてしまいます。
プライドが邪魔をして、先輩の教えを素直に受け取れなかったり、注意されると心が曇ってしまったり。しかし、本当に一流の商人(あきんど)は、状況に合わせて“変化できる人”。
それは媚びではなく、心の柔軟さ──相手に合わせて自分の表現を変える勇気なのです。
「いらっしゃいませ」と言わずに、
「今日は遠くからありがとうね」「雨の中よう来てくれたね」──
この一言にこそ、“素直力×アドリブ力”が宿ります。
マニュアルではなく、心で感じ取ったものをその瞬間に表現する。
それが伎芸型おもてなしの光であり、人の心を打つ「舞台の一瞬」です。
天才的なセンスを持つ人はほんの一握り。
けれど、素直に学び、状況に合わせて変化できる人は、どんな天才にも勝る“地力”を育てていきます。
「まずは言われた通りにやってみよう」──そこから始まる経験が、やがて“自分の型”へと昇華していくのです。
伎芸型おもてなし商売道とは、才能の競い合いではなく、心の柔軟さを磨く「人間修行」。
そして、素直力とアドリブ力を兼ね備えた人こそ、
凡人を超えた笑倍(しょうばい)人。
今日も笑顔で、お客様の心に寄り添いながら──
一笑賢明(いっしょうけんめい)に、即興と真心の舞台に立ち続けたいものです。