January 28, 2007
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カテゴリ: 折々のバカ
折々のバカというより折々のナゾ、というべきかもしれない。

BSiでやっている吉田類の「酒場放浪記」を見ていて気づいたことがある。

この番組は、イラストレーターの吉田類が、主に東京とその近郊にある庶民的な、しかも個性的な酒場を探訪するというものだ。

吉田類は、まずビールをもらうことが多い。

そうすると、たいていの店が瓶ビールを出す。割合で言うと、ビール・サーバーのある店は10軒のうち2軒くらいだろうか。

その2軒も、見ていると過半の客は瓶ビールを飲んでいる。ホッピーを主にしているところも多い。ちなみにホッピーはノンアルコールビールのような麦芽の味のする炭酸飲料で、焼酎をこれで割るとまあビールに似ていなくはない味になる。

ナゾなのは、なぜこれらの店やこれらの店の客は、生ビールではなく瓶ビールで満足しているのかということだ。

生ビールと瓶ビールは、ビールと発泡酒くらいの違いがある。すなわち、前者は後者と比較にならないほどおいしい。

値段がものすごく違うというならわかる。しかし下町の庶民酒場といえど、瓶ビールでけっこういい値段をとっている。単位あたりの価格はほとんど変わらないと見た。



それでは、東京の庶民酒場の経営者も客も、経済合理的な行動をとることのできないバカなのだろうか。

そんなことはないと思う。

大胆な仮説を立てるなら、要するに東京(を含む本州以南の地域)では、ビールに対する関心が低く、ビール文化のようなものが確立していないのではないかということだ。ビールそのものが軽視されるているだけでなく、できるだけおいしくビールを飲むという文化そのものが一般化していないという気がする。

本州のいなかでは、ビールを頼むとまったく冷やしていない瓶ビールを出されることさえある。ラガータイプのビールは冷やして飲むものだという常識がまだ普及していないのは東南アジア地域と同じだ。

ひるがえって北海道では、そういう経験をしたことがない。よほどの僻地でない限りビールサーバーがあっておいしい生ビールが飲めるし、たとえ缶や瓶しかなくてもきちんと冷えたビールが出る。

居酒屋でビールサーバーをおいてないところなど、ちょっと記憶にないどころか、近所のラーメン屋やそば屋、大衆食堂のようなところさえ、はやっているところはほとんどがビールサーバーをおいている。

今まで飲んだもっともおいしいビール十傑に入るのは、ミュンヘンやアンダルシアと並んで、近所のトンカツ屋のキリン一番搾りだったりする。

人口密度の高い本州、とりわけ首都圏は流通が発達していてボンベの配送は簡単なはずだから、配送コストの問題ではないだろう。

収納コストはどうか。「酒場放浪記」で見る限り、瓶ビールの方が場所をとるように思える。

東京にはビールを飲みながら天ぷらを食べ、そのあと日本酒、最後に蕎麦を食べるという粋な文化がある。こういう文化には、大きなジョッキよりも、小さなグラスに自分で瓶から注いで少しずつ飲む、というスタイルがふさわしいということはいえる。

しかし、見た目は粋かもしれないが、しみったれた印象も持ってしまうのはわたしだけだろうか。暑い地方、たとえばスペインのアンダルシア地方などでは、よく冷えたビールを小さなグラスで飲むが、そうすればいいだけのことだ。


しかし今では、アルバイトの時給の半分から3分の1になった。卵ほどではないが、物価の優等生がビールであり、それは価格の半分近くを税金が占めるのも理由のひとつだ。

ビールを高いとは感じなくなるくらいに豊かになったにもかかわらず、ビールは高い飲み物だというイメージが抜けきらないので、さらに割高なイメージのある生ビールを避け瓶ビールを飲む人は多いかもしれない。

しかしこれは発想というか考え方がさかさまだ。われわれは、おいしいビールを心おきなく飲めるようになるために、一生懸命働いてきたわけだし豊かな社会を築いてきたのである。おいしいビールを我慢し、まずい発泡酒や相対的に劣る瓶ビールで節約を考えるのは、学生ならともかく、人生に対する態度が根本から間違っている。守銭奴のそしりをまぬかれないケースも多いだろう。

近所にある、日本最北と思われる沖縄料理店では、オリオンビールの生を飲むことができる。一方、「酒場放浪記」に出てきた東京の沖縄料理店では缶をそのまま出していたのでのけぞった。

この事態から推測されるのは、やはり本州以南の日本におけるビール文化の不在、人類が生んだもっとも偉大な飲み物のひとつであるところのビールに対する無理解と軽視にちがいない。



食べ物にはいろいろとこだわっているくせにビールを軽視する店主と客たちをバカ呼ばわりするのは、フィールドワークが足りないので控えることにしよう。

ただ首都圏の居酒屋でビールサーバをおいているところが少ないというナゾの背後には、いくつものバカが潜んでいるのは確実と思われる。





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最終更新日  January 30, 2007 02:45:03 PM
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