November 10, 2009
XML
カテゴリ: クラシック音楽
東京へ来ている。月に一度は生活圏を離れたいと思っているが、大野和士とリヨン国立歌劇場管弦楽団の当日券(11日)があるというのでふんぎりがついた。

10日はライ・クーダーのコンサートと迷ったあげく、やはりエレクトリックよりアコースティック、しかも二日続けてフランスのオーケストラを聴くというのも一興と思い、トゥールーズのオーケストラを聴くことにした。しかも指揮者のトゥガン・ソヒエフは、まだあまり知られていないが、32歳でウィーン・フィル定期を指揮した逸材という。

ドビュッシーの「牧神の午後への前奏曲」が始まる。フルートのソロは名手として知られる人。細いが明るい音色がサントリーホールにすうーっと広がっていく。このソロは名手でも緊張するが、楽しんで演奏しているよう。続いてホルン、ハープ、オーボエと続き、オーケストラ全体が柔らかいフォルテで鳴る。ああ、やはりフランスのオーケストラはいいなあと思う瞬間で、明るく色彩感があるので多少の音程やアンサンブルの悪さなど気にならなくなる、というより、むしろその方が音楽的とさえ感じるのだから不思議だ。

ソヒエフの巨匠性はこの曲ですでに明らか。ほとんどの楽団員は指揮者より年上だろうが、指揮のテクニックではなく、カリスマ性というか人間性と音楽性で団員から信頼されているのがわかる。この、指揮者と楽団との蜜月が最も印象に残ったことで、非常に幸福なカップルを見ているような幸福感が聴衆にも伝わったと思う。

2曲目は諏訪内晶子のソロでブラームスのバイオリン協奏曲。この曲はソヒエフを「見る」ためにファサード席へ。

オペラ劇場で経験をつんだことがわかる指揮ぶり。細かく振るよりも大きく振り、しなやかな腕や指の動きで音楽の雰囲気や表情を伝えることに重点をおいている。縦の線をぴったりあわせるより、流れを重視しているように見える。それにしてもファサード席で聴くトゥールーズ・キャピタル管の弦楽器は美しかった。奏法が違うのだろうか、すべての音の出だし、頭がとがってなく円いのである。常に弦の上に弓を置いた場所から弾き始めているような音がする。こうした「フランスの弦」はCDでも聞き取れるが、目の前で見て聴くとこれは決してなくしたくない「世界遺産」という気がしてくる。

ソヒエフはウィーン・フィルで指揮したブラームスを「チャイコフスキーまじり」と批評されたそうだが、たしかに彼のブラームスにはそんなところがある。フレーズの終わりをゆっくり演奏することが多いので、実際のテンポよりも濃厚な味わいになる。諏訪内のソロは美音かつ真摯な演奏で以前よりも静かな成熟というべきものを感じたが、あえてブラームスのこの曲をこのコンビでやる意味は見出せなかった。

決して吠えない弦もさることながら、フランスのオーケストラの魅力は管楽器に尽きる。メーンのムソルグスキー=ラベル「展覧会の絵」は、35分の演奏時間が数分に感じられてしまう。とにかく、聴いていて気持ちがいいのだ。どうして日本のオーケストラはあんなに暗い音なのだろうと思うほど音色が明るい。いつもよりステージの照明が強いと錯覚するくらいで、まるで一つ一つの楽器から光が出ているようだ。

立派な演奏だったが、ソヒエフの解釈はダイナミックな表現に偏りがちで、聴き手の耳をひきつけるというより、聴き手にこのオーケストラのすごさを見せつけようとするかのよう。最後の音を弱音で始めてクレッシェンドさせるなど、独自の解釈も散見される。



つまり、指揮者とオーケストラの蜜月には長所と短所の両方があるということだ。

アンコールは3曲。チャイコフスキー「くるみ割り人形」からの大団円の音楽とビゼーの「アルルの女」から間奏曲、カルメンの前奏曲。

つまり、本プロと同じで、ロシアものとフランスもの。指揮者とオーケストラのそれぞれの国の音楽と、このオーケストラの最高の名手である第一フルートの名技を聞かせる曲が選ばれていた。

このチャイコフスキー「パ・ドゥ・ドゥ」がきわめつきの名演だった。指揮がどうとか、オーケストラがどうとか、小ざかしい理性は吹き飛ぶほどのすこぶる豊潤な音楽で、世界中の美酒を同時にぶちまけたような芳醇な香りがホールに満ち、わずか数分が永遠に感じられた。

そういえばサントリーホールを改装後聴くのは二度目だが、音響はかなり改善された。このホールは二階右側前方だけは音がいいことで知られていたが、このあたりの響きは札幌のキタラホールよりもいい音がする。ホールも音楽家と同じで熟成が必要なのかもしれない。

ソヒエフのチャイコフスキーは、彼の師と思われるゲルギエフ(そういえば指揮ぶりはゲルギエフにとてもよく似ている)のそれを過去のものとする可能性がある。わたしがEMIのプロデューサーなら、すぐに録音契約を結ぶところだ。

若いころのグレン・グールドに似た風貌の、あまり背の高くない黒い髪の指揮者の名前は、日本人にとって覚えにくいが、ぜひ記憶しておきたい。 





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  November 11, 2009 09:56:43 AM
コメント(0) | コメントを書く


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

PR

プロフィール

ペスカトーレ7

ペスカトーレ7

バックナンバー

December , 2025
November , 2025
October , 2025

© Rakuten Group, Inc.
Mobilize your Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: