June 14, 2014
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カテゴリ: 映画
副題は「報道写真家・福島菊次郎90歳」。キネマ旬第1位など2012年の映画賞を総なめにしたドキュメンタリーをやっと見ることができた。

福島菊次郎の写真集はかつて何冊か持っていた。社会評論社の「戦場からの報告―三里塚 1967-1977」「原爆と人間の記録」は衝撃だった。タイトルは忘れたが学生叛乱、フーテンやウーマン・リブ運動、公害をテーマにした写真集も見た記憶がある。

そういえば消息を聞かないと思っていたら90歳になっていて、この映画の公開に合わせてあちこちに招かれて講演などもしているらしい。その「福島菊次郎を囲む集い」に行った千葉の知人におしえられてこの映画の存在を知った。

記憶にある彼は、たくましい壮年のカメラマンというもの。だがこの映画に出てくるのは、やせ衰えた老人。しかし目の力と光は強い。語る言葉にもムダとウソがない。ホンモノの人間だけが持つ迫力があって画面からいっときも目が離せない、というか離したら負けだという気がする。

知らないことはあるものだと思った。

驚いたことは三つ。ひとつは、1921年生まれの彼は招集されたが骨折事故に遭い、除隊になり戦死せずに済んだということ。彼が所属していた部隊は全滅したという。

もうひとつは兵器工場内を取材し、隠し撮りして公表した後、何者かに襲われて重傷を負い、自宅を放火されたという事件があったということ。これは彼が有名になる前と思われる。ネガは娘が持ち出して無事だったという。その娘も登場するが、しっかりした高潔な人格の感じられる人だった。

防衛庁と暴力団や右翼の癒着を匂わせる事件だが、白色テロリストを内部で養成する専門機関があるのかもしれない。殺さず重傷で済ませるあたりがきわめて練達なプロの技術を思わせるし、捕まれば死刑か無期になる現住建造物放火を計画的に行えるのは捜査機関から黙認されることが条件になるはずだからだ。

もうひとつは文明を拒否して1982年から自給自足の生活を目指して瀬戸内海の無人島に住んだこと。消息を聞かなくなったのはそのせいだが、ある女性との出会いと別れ、彼女の死といった大きな事件もあったらしい。



彼の出世作となったのは終戦から10年かけて撮影されたヒロシマの写真集「ピカドン」である。被爆者の生活がこんなにも悲惨なものだったとはかれの写真を見るまで知らなかったが、この撮影のためにかれはショックで精神病になったという。ミナマタとヒロシマは棄民において共通している。

かれはいま「フクシマ」に情熱を傾けているらしい。

自分の写真を前にかれは言う。「日本全体が嘘っぱちの嘘っぱち」だと。映画のタイトルはここから来ている。

政治や行政の話だけをしているのではない。

「嘘っぱちの嘘っぱち」に立ち向かわないならば、その人間は「ニッポンの嘘」の一部になる。

世界に誇ることのできる日本人もいるのだということを伝える貴重なドキュメンタリーであり、わたしが文部科学大臣なら各国版を作って世界中の図書館などに寄贈するところだ。





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最終更新日  June 22, 2014 12:09:34 PM
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