SF拡張の原理

SF拡張の原理

2009.06.16
XML


ギリシャの都市国家をイメージさせる奴隷制のある都市国家群が舞台。しかし主人公が黒人の奴隷少年であったり、近現代の社会情勢を反映させるようなもろもろのアレンジが設定上施されている。
話の大筋は、幼いころ奴隷狩りにあってつれ去られた少年が、主人の方針によって高い教育を受けながらも、横暴な主人の息子によって姉を殺され、逃亡の途上、さまざまな人々と出会いながら成長し、やがてかつて予見した憧れの詩人と出会い、自分の道を切り開くまでのさまざまな冒険を描いている。この少年の持つ絶対記憶能力と、未来の記憶を幻としてみる能力という2種の能力がSF的な要素として組み込まれてはいるが、この能力はSF的な道具立てというよりも、少年が未来を切り開いていく指針のようなものとして機能している。設定こそ架空でありファンタジイ的ではあるが、実質的な内容は普通小説に近い。
少年が姉を殺され、屋敷を逃げ出すに至るまでの生活描写がかなり長く、最初の50ページぐらいはやや冗長に感じられる。このスロースターターぶりはルグィンの作品全般に見られる特徴だ。しかし、姉を殺されるというショッキングな事件を境に、物語が急激に動き始めると俄然面白くなる。魅力的で生き生きとしたサブキャラが次々と登場し、次々と追っ手に追われるサスペンスフルな展開も手伝って、奴隷制と奴隷解放の問題のみならず、暴力的な革命理論の功罪、男女差別や性的暴力、児童虐待、戦争、妄信的な信仰、都市と農村の対立、力による支配と相互信頼による平和の優劣、ドラッグによる精神開放、歴史学や文学の効用、などなどの様々な論点について考えさせながらぐいぐいと読ませ、感動的なラストへと至る。思想的な面で作者の旧作で展開されたものに付け加えている部分はないものの、それらの集大成的な内容になっている。
正直、この作者の90年代以降の作品の大半は、70,80年代の作品群に比べると切れ味が鈍っている印象が強く、さすがのルグィンも寄る年波に勝てずぼけてきたかと思っていたが、80歳にもなるのにまだまだ健在どころか、かえってレベル上がってねえ?と思った。
これならシリーズの他の2作品も読んでみたいと思う。





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  2009.06.17 04:02:58
[ホラー・ファンタジー] カテゴリの最新記事


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

PR

×

Keyword Search

▼キーワード検索

Profile

楽天SF

楽天SF

Calendar

Favorite Blog

まだ登録されていません

Comments

コメントに書き込みはありません。

© Rakuten Group, Inc.
X
Mobilize your Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: