SF拡張の原理

SF拡張の原理

2009.06.18
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カテゴリ: SF

アイの物語

山本弘「アイの物語」
AIもの、仮想現実ものの中短編をまとめたオムニバス長編。アンドロイドが地球を支配し、数少ない人間はロボットが人間を戦いで破ったという歴史を信じ、ロボットから略奪行為を行って生計を立てている。そんな若者の一人が、アイと名乗る女性ロボットにとらえられ、いくつもの物語を聞かせられる、という設定の下で、人間とAIやヴァーチャル・リアリティの関係、そこから浮かび上がる人間の不合理さや欠陥と、愛や夢という功罪の両面を描いた7つの物語が語られる。6話までがフィクション、7話が現実の歴史という設定になっている。
「宇宙をぼくの手の上に」★★★
ネット上でのSFリレー小説を趣味とするグループ。そのメンバーが殺人事件を起こし逃走。彼の自殺を食い止めようと、グループリーダーの女性がリレー小説のシナリオを考えながら、彼にメッセージを送ろうとする話。ポール・アンダースン「土星ゲーム」+電車男といった感じ。ベタな感動話ではあるが、読みやすく普通に面白い。
「ときめきの仮想空間」★★★
これもVRもの。VR世界で男性と知り合ったおくての少女がVR世界内での体験で勇気をつかみ、リアル世界で男性と会う話。ベタもベタだが、語り手の属性についてのあるオチがつくことでオリジナリティを出している。
「ミラーガール」★★★
ある少女と鏡に映るAI人格の少女との交流を軸に、少女の成長と、AI技術の発展を描いている。特にオチにひねりがなく物語的な面白さは強くないが、本書のメインテーマを伝えるうえで効果的なつなぎになっている話。
「ブラックホール・ダイバー」★★★

「正義が正義である世界」★★★★
これは傑作。VR世界のAI人格の視点から、リアル世界でのウイルスによる破滅の進行を描述しており、視点の逆転が実に斬新で印象に残る。その中で、正義の名の下に残虐行為を行う人類の愚行への批判が強い説得力をもつという皮肉さがいい。自らが鼻で笑っている「ファンタジー」「妄想」世界の人物から欠点を図星で指摘されてるようじゃ、人類だめじゃん、ってのがすごくいい。

この後2編が本書のための書き下ろし。そしていずれも100ページ超過の中篇。
「詩音が来た日」★★★★★
これはすばらしい。名作。高齢化と老人介護問題という現代的な問題を材にとり、アンドロイド介護士の誕生と成長の過程をじっくり描きこみながら、反射的に人間の本質をあぶりだしているのが秀逸。サブキャラもことごとく生き生きしているし、個々のエピソードも良く考えられていて説得力がある。
「アイの物語」★★★1/2
しめくくりの本編では、AIと人類の間に起こった真の歴史が語られる。VR空間でのバトル目的で作られたAIたちに実体を与えようとする動きに対して、反対派のテロ活動が起こり、相互の憎悪がしだいにエスカレート。これを食い止めようとAIたちがやむなく立ち上がる話。AIのバトルシーンなどがやや無駄に多く感じられるのと、直前の「詩音」の出来が良すぎるのとで、ちょっと落ちる印象だが、人類の愚かさを効果的に皮肉っているという点だけで見るなら、集中で一番だろう。

全体的な印象としては、「決して完全になりえない人類を継ぐのは誰か?」という小松左京の問題意識をそのまま引き継ぎつつも、ラノベやアニメのわかりやすさ、面白さを注入して幅広い読者層にアピールする読み物に仕上げている作品だと思う。作中人物がオタクばっかりなのが気になるところだが、オタク王道を歩んできた作者のささやかな自己主張ということで許せる。





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Last updated  2009.06.19 02:02:38


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