SF拡張の原理

SF拡張の原理

2009.07.19
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カテゴリ: SF

生きている脳

スウェーデン作家の脳SF。マッドな企業が詐欺のような手段で脳培養実験を開始する。奇書だと思う。文体といいプロットといい、英米のエンタメ小説とは全く違う異質さ。ストーリーが単調で普通なら退屈しそうなものなのに、比較的論理的で明晰な文体の中で、時折現出するいわく言いがたい奇想的イメージの数々が興味を引き付ける。培養されている脳の視点からの一人称で、大部分が研究室・培養槽内部の描写で占められるのだが、たとえばこの脳は限定的な運動能力があって水槽の中を泳ぎまわるし、(意識とは物質ではなく電磁場に宿るものであるという前提の下にだが)テレパシーや念動力に近い能力を持っていて、担当の女性にテレパシーで話しかけたり、同じ研究室で培養されている手を、遠隔操作で動かしたりできる。しかも終盤に至ってこの脳はなんと脱走を計画するのだが、その方法というのが手を操作して水を流し、排水溝に流れ込むというものだったり、電気的方法で電場のパターンを移植して移動するというものだったりと、あるいは荒唐無稽だったり、あるいは高度にSF的だったりする。こういったシリアスとギャグが渾然一体となったグロテスクな悪趣味さが、たとえば後期の安部公房作品のようななんともいえない作品世界の不安定さを演出していて、忘れがたい味を持っている。
終盤で現れる右脳同士の接続、胎児脳の培養などのディテール描写もなかなか強烈だ。しかしこの本格SF的展開のあとに、「胎児脳をいかに効率よく培養しても、蜂の巣の計算能力には到底かなわない」という人を食った展開が待っているなど、一筋縄でいかない(作者は医者の資格を持っており、明らかに荒唐無稽とわかっていてこういうネタを投入しているのだ)。予想通りのバッドエンドも含めて、とにかく英米エンタメSFとの異質が歴然としていて強烈としか言いようがない。ジャンル文法にのっとった予想通りの展開をする小説に読み飽きた向き、東欧SFのようなユーモラスな奇想小説が好きな向きにはお勧めできる作品。
この作者はほかに「洪水のあと」というポストホロコースト小説が訳されているようだ。こっちも同じぐらい変なのだろうか? ぜひ読んでみたい。
削除修正ストップ再開ごみ箱sage





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Last updated  2009.07.19 22:16:27


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