SF拡張の原理

SF拡張の原理

2009.09.05
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カテゴリ: SF
パオロ・ヴォルポーニ「怒りの惑星」松籟社 イタリア叢書

核戦争後の荒廃した地球。サーカス団を抜け出したマントヒヒ(ボス)、鵞鳥、象、奇形の小人(もと糞拾いで一番の下っ端)の「4人」が、荒廃し殺伐とした世界をさまよいながら、「理想の王国」建設を目指し、圧制的な文明社会の残党のボスである総督モネータ(4人組が馬鹿にして勝手につけた名称で、「お金」という意味)の一派と戦う話。設定だけ見れば普通のポストホロコーストSFに見えるのに、糞尿まみれのグロテスクで強烈な文体や情景描写のゆえに、ぶっ壊れたダークファンタジー風の寓話になっている。序盤、顔に手を突っ込めるほどの穴があったり、心臓の下がたるのように膨らんでいたりする小人の風体、四六時中糞をする鵞鳥、暇さえあれば自慰しているマントヒヒ、トイレでの糞便を通じた小人とマレー人尼の性描写など、強烈な変態的描写のオンパレードに若干辟易し、解説の著者や作品の解説などを参照して予備知識補填。この作者はオリヴェッティという企業の第一線でバリバリ働き、社長にまで抜擢されたのにそれを断って作家になったという変わった経歴の持ち主で、企業人時代の体験がよほど嫌だったのか、徹底的な反文明主義者、反科学技術主義者、自由主義者、実存主義者となり、発表するほとんどの長編で一貫して商業主義・企業主義の文明に対する違和感を描き、その挙句、本作でリアリズムの手法を完全に捨てて、反リアリズム的手法で痛烈な文明主義批判、自然賛歌を謳いあげた、ということらしい。この予備知識によって初めて本作の製作意図が腑に落ちた。動物や奇形の人(小人)を見世物にするサーカス団はまさに差別主義的、反自然的な企業文明の象徴であり、そこから脱走する小人と動物が本作の主人公として、文明と戦うという構図はまさに<自然対文明>という対立図式そのままである。この4人組の中で小人がいちばん下っ端としてその地位に甘んじるのも、人間と動物の地位を転倒させることで反文明主義の立場をよりいっそう明確にする意図があるかもしれない(少なくとも作者の潜在意識で)。糞尿・性・殺戮などの執拗な描写は、汚穢や性などの文明によって禁忌化される領域を故意に解放することで、自由主義の立場をより明瞭化するものであろう。そして、小人の思考と、鵞鳥の糞尿とが類似する存在として捉えられ、糞尿を躊躇せずその場で垂れ流す行為は、文明の抑圧によって鬱積した思考(憤懣)もまた躊躇せず垂れ流す行為を象徴するものであるかのように描かれていると思われる。小人が敬愛する人物が<様々な鳥の歌を歌える男>であることは、鳥の歌=自然に耳を傾け理解する能力を持った人間こそ、文明化による地球と人心の破壊に抵抗し、自然と調和する道を切り開く力を持った人間なのだという作者の主張を暗示している。この作者の徹底した文明憎悪の思想は、終盤のラスボスとの死闘において小人がラスボス(総督)に対して投げる言葉の中で、明確に表示されている。
「お前は、偽も本当も、人間なんかじゃあない。お前なんか人間の終りの人間でしかないんだ。お前は人間の本性をゆがめ、ほうり棄てた人間だ。だからお前は糞なんだ、糞にすぎんのだ!・・・・・・お前はばかでかい糞なんだ、なぜならあの憲兵かサツかの野郎が三百人のその大隊全員でたったひとりの哀れな反乱奴隷を攻撃しに出かける前に本部でチョコレートを盗み、空豆や、プラム・ケーキや・・・・・・をたらふく腹に詰め込んだからさ。それとも、判事の陰気で忠実なペ**から憲兵のケ*の穴に入れられた秩序と進歩の息子たる糞だ!・・・・・・お前はもちろん自然のサイクルとしての糞じゃあない。お前は無理な流通によってためこまれた糞の山だ。・・・・・・研究や学問としてではなく、権力の人為的な理由としての人工だ。・・・・・・権力として自然から遠ざかり続けなければならないんだ」
そして、ボスのマントヒヒは総督を倒したあと、超小型核ミサイルで命を落とす。残された3人は文明の足枷をようやくかなぐり捨て、3つのデタラメに動く月を目指し、完全な自然、自由の王国へと踏み出してゆく。このことを象徴するように彼らは結末部において、体内のすべての糞便を排出しつくす。
ラファティのユーモラスでマッドな寓意性に、ウィリアム・バロウズの過激なパンク精神と破壊衝動を結合した、まさに怪作にして、文明憎悪・自然回帰賛歌の快作である。この作者、他に「メモリアル」「アンテオの世界」が訳されているが、邦訳に限らず未訳作品まで含めて読んでみたい気がしている。





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Last updated  2009.09.06 01:06:34


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