SF拡張の原理

SF拡張の原理

2009.09.10
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カテゴリ: SF

脱獄計画

「モレルの発明」の延長線上にあり、かつ、更に精緻度を高めた大傑作。
表面的なストーリーは、「モレル」と同様、ウェルズの「モロー博士の島」に対する一種のオマージュであり、孤島物のマッドサイエンティストSFである。ある非常に魅力的なSFアイデアが謎の核心として存在している。それは「モレル」と同様、人間の認識、知覚の本質、現実とはいったい何なのかといった、認識論や存在論の哲学的領域にまで踏み込むアイデアであり、例えばSFで、プリーストやディックが追究しているのとも共通する。しかも、ウィリアム・ジェームズの認識論や、共感覚現象に関連したそのアイデアは、「モレル」のそれよりも、奇想度においてかなり上回っている。
この作品が更に凄いのは、メタミステリ、メタフィクション的な構成の徹底にある。「モレルの発明」も「信頼できない語り手」物の一面を持っていたが、本作ではその要素が更に前面に押し出され、作品全体を支配している。すなわち、本作品は、表面的な主人公であるアンリ・ヌヴェールが語り手ではなく、彼が伯父に書き送った手記をもとに、その伯父がアンリの行動を日記形式で描写する、という凝った構成をとっているが、この一族の内部対立を反映し、叙述内容が故意に歪められている。その結果、ここに叙述されている内容が事実かどうか自体がすでに疑わしい。冒頭に付されている日付も不自然で年号も明らかでなく、叙述される出来事や人物像などもことごとく、どことなく辻褄が合わない。解釈のしようでは全く違った世界像が見えてきそうな錯覚に陥る。
そしてこの不確かな感覚が、まさに終盤で明かされるメインアイデア(ちなみに、それは作中で起こる密室殺人?のトリック解明をも兼ねている)の内容、メインテーマと密接に結びつき、作中のマッドサイエンティストの核たる主張が、そのまま作品全体の構成としても表現されているという凝った構成になっている。
叙述トリック系のメタミステリが好きな人、ジーン・ウルフの「ケルベロス第五の首」やプリーストの一連の作品が好きなSFマニア、哲学的な小説が好きな文学マニア、いずれにも勧められるマルチな内容を持った大傑作。
10/10点。





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Last updated  2009.09.10 14:26:10


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