SF拡張の原理

SF拡張の原理

2009.11.15
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カテゴリ: 文学
アドルフォ・ビオイ・カサーレス『日向で眠れ/豚の戦記』集英社 ラテンアメリカの文学

「日向で眠れ」★★★★1/2(9/10点)
73年の第5長編。『モレルの発明』『脱獄計画』につづく、マッドサイエンティストもののSFミステリだが、SFネタであることは終盤まで伏せられている。妻を精神病院に入れた男。退院した妻はすっかり性格が変わっていた。はじめは妻の外見、イメージを愛していたと思っていた主人公は、次第にこの妻のあまりの性格の変わりように疑念を抱き始め、精神病院を訪ねて治療内容を尋ねる。しかし自らが病室にとらわれの身となってしまう。はたして、この精神科医が行っている治療とは?
SFアイデアの奇想性は前2作に比べて減退し、普通の脳科学ネタになっているし、結末もすっきりと辻褄が合い、メタフィクションとしての多義性・幻惑性も減退(逆に言うと、すっきりした結末を好む読者にはかえって読みやすいだろうが)。つまり、「普通のホラーがかったSFミステリ」により近づいている。
しかし本作の読みどころは、むしろ結末に至るまでの過程の描写にある。前2作と異なり、本作品は市井の平凡な人間の日常生活の中に異常な要素が入り込み、それを通じて主人公と妻との微細な心の揺れ動きが非常にリアルに描き出されている。その分、前2作のような作り物っぽさが消え、普通の文学作品としての読み応えを感じさせる作品になっている。超現実的な人工設定での幻想(初期2作)と、よく見知った日常生活の観察(第3,4長編)という両極を経て、本作において、両要素のバランスのよい統合が実現したのだとみる。
やはりカサレスの作品にはずれはない。全作読むべき作家だ。
「豚の戦記」★★★★(8/10点)
69年の第4長編。中高年(50代ぐらい?)にさしかかりながらも、まだまだ若い気分が満々の主人公が、老人(中高年も含んでいる)に対する嫉妬からテロに走る若者たちとの「戦争」に遭遇し、命を狙われながらもしぶとく生き延び、女をものにするという、作者自身の願望充足および当時のアルゼンチン社会に対する風刺的描写を兼ねたタイプの作品。世代間の戦争というイヴェントがSF的ではあるが、あくまでも社会造形から演繹的に導き出された設定として位置づけられうるに過ぎず、作者が一貫して書こうとしているのは「青春の欲望を保持している中高年たちがどう生きていくべきか」である。この問題意識は今の日本社会にもそのまま当てはまる先取り的なものでもあり、より興味深く読める。作者の真骨頂はやはりSF三部作のような奇抜な人工社会を舞台にした観念的スリラーにあると思うが、それに比べると地味とはいえ、作者の違った側面を見ることができ、意外な才能の奥の深さを確認することができた。





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Last updated  2009.11.16 03:14:03


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