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印象に残ったのは古い教会の廃墟。天井にぽっかりと穴の開いた空洞があります。聖女の顔の部分が、崩れた壁に残っています。このシーンは物語の初めと終わり、二度出てきます。ベルリン、パリ、ユーゴスラビア。ヨーロッパのあちらこちらの都市が、それぞれの映像の舞台になりますが、最後はポーランドの田舎の村の、この教会の廃墟に戻ってきます。
時間は1949年から、ほぼ15年間の、現実の歴史のなかで流れていきます。「冷戦」という題が、まず示しているのは、この時間の流れであることは間違いないでしょう。
ピアニストである男は、やがて、歌手でありダンサーに成長する女と、オーディションで出会います。そこで女が歌った歌。
「母が禁じた恋に、命を懸けた娘」を歌った「あの歌」の運命が恋する娘を待っていました。
民謡、革命の歌インターナショナル、民族舞踏、スターリン賛歌、ショパン、モダンジャズ、映画音楽、ロックンロール。そして母が禁じた恋の歌。
ポーランドの田舎町からワルシャワ、ベルリン、モスクワ、パリ。ヨーロッパを転々とする二人を描いたこの映画の最高の見せ場は、「ロック・アラウンド・ザ・ロック」に合わせて、パリの酒場のカウンターの上で、女が踊るツイストのシーンでした。
モノクロの暗い画面には,煙草の煙なのでしょうか、不安と苛立ちが充満しているように見える中で、女は破滅へと転げ落ちそうな危うさで輝いていました。映画ですね、このシーンは。
ここから破局へとまっしぐらを予感させるムードの通り、 「資本主義」が求めるものに「愛する歌」をささげることができなかった女は
愛する歌を生んだ祖国へ帰ります。帰ることを禁じられていた「反革命」の男は女の後を追います。
十数年の後に、やっとのことでたどり着いた、故郷の、あの教会で二人は変わらぬ愛を確かめ合うのですが、「愛」は二人に生きることを禁じていました。
何だか、わけのワカラナイあらすじを書いていますね。お話はそんなに難しいわけではありません。「共産主義」という政治思想に限らず「国家」や「政治制度」、「宗教」というような共同幻想が、個々の人間の「愛」という幻想を抑圧せざるを得ない構造的な不幸を描いているにすぎません。
映画そのものが、どこかで聞いたことがある思わせぶりのトーンを響かせて続けてい、とても古めかしいものだと思いました。モノクロという方法も、ぼくには、シーン、シーンの美しさを支えるはずの「物語」の弱さのようなものを露出していたように感じました。
感想も、わけがわかりませんね。まあ、困っているわけです。でも、そういう作品だったというのが正直な感想でした。
監督 パベウ・パブリコフスキ
製作 ターニャ・セガッチアン エバ・プシュチンスカ
製作総指揮 ナタナエル・カルミッツ リジー・フランク
キャスト
ヨアンナ・クーリグ(ズーラ)
トマシュ・コット(ヴィクトル)
ボリス・シィツ(カチマレク )
アガタ・クレシャ(イレーナ )
セドリック・カーン(ミシェル )
原題「 Zimna wojna 」 2018 年 ポーランド・イギリス・フランス合作
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