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2023.06.18
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​​​是枝裕和「怪物」​​

​​​​ 今回の映画は 是枝裕和監督 の話題の新作 「怪物」 です。 SCC番外編 です。見る前から否定、肯定、いろいろ聞こえてきました。で、絶賛だったのが映画を見始めた SCC会員のM氏 でした。​

「よかったよー。才気走って仕掛け満載。メールでは書ききれません! 是枝監督、最高!
​​  ​​​​というようなメールもあって SCC主宰者 としては見ないわけにはいきません。で、見ました。 是枝裕和監督 「怪物」 です。
​​​  見終えて、すぐにメールしました。
​​​​「 少年二人 の哀しさに、 安藤さくら 演じる母の哀しさ(ほんとは、夫に裏切られた女であること)、 瑛太 という俳優演じる学校教員の哀しさ(彼は何も悪くないにもかかわらず、いや、むしろ、いい教員であるにもかかわらず・・・)、 田中裕子 演じる校長の哀しさ(音楽の中にだけしか本当を生きられない)、が、それぞれみんな重ねられているんですよね。​​​​
​​ で、最後に少年二人が明るい緑の光の中を走る。別に、大人たちの世界も、こどもたちの世界も、何も変わっていませんね。でも、観ている客であるボクは、たとえば、まあ、唐突ですが、 大江健三郎 がかつて描いた 「出発の可能性」 のようなもの、初期の作品から、万延元年くらいまで、書き続けながらズーっと求めていたものを、40年経って、ようやく受け取るという体験をしているのですが、​​ ​​ああ、 是枝 が求めているというか、 希求 しているのは、そっちなんだなと、あのラストシーンを見ながら感じて、ホッとしたんです。​​
​​ 映像の中で 子供たちが見上げる明るい空をぼくも一緒に見上げている感じ というか、そういう 「どこかに明るい空があるかもしれない」 というか、で、 坂本龍一のピアノ が、その世界に美しく響くんです。まあ、泣くしかないですよね(笑)。」​​

「近いものでわたしの印象に残っているのは、 ​校長の 田中裕子 が嵐の中じーっと川を見ていたシーン​ と. ​父親の 中村獅童 がやはり嵐の中.道に転ぶシーン​ で、これを象徴と取ってもいいですが、むしろ私は映画の中にこれらの場面をしっかり拾っていることに、かなり感心しました。」


​「そうですね。そういえば、夫と接見している 田中裕子 が折り紙折ってましたね。あれなんかも、そういうシーンかもですね。
​​​​​​​ まあ、登場する一人一人についてシーンとして差し出すけれど判断しないのがいいですよね。ああ、それから、あの二人が 「死後の世界」 にいるという解釈があるそうですが、そのあたりはいかがですか?最近読んだ 大江 「芽むしり」 では、主人公の 「僕」 は、最後に森の闇に身を潜めます。 村上春樹 「ねじまき鳥」 の中では井戸の底に降りた主人公の 岡田 に光が降り注いで、悪に目覚めたように覚えています。ボクは映画を見ながら、主人公の二人の少年の再生というか出発というかを感じましたが・・・。」​
​​​​​​​
​「なるほど、 死後の世界 ですか。でも、それは、いわゆる理に落ちた解釈で、まず私の好む映画文法に好ましくないし、第一、私が実際にあの場面で熱くなった昂りの正体について考えると、かなり違和感を持ちます。」​

「たしかに、二人を探す大人と少年たちは出会えませんよね。そこから、見た人それぞれの解釈が始まるのでしょうが、 Mさんの映画文法 って何?」​

「小説も、読みに関して文法あるじゃないですか。」

「ボクはね、それぞれの存在が、同じ次元にいないんじゃないかって感じました。そこがこの映画の面白さかなって。
 村上の井戸の底のような、上か下か、あっちかそっちかは分からないですが、ズレた場所ですね。
 この映画は、登場人物たちが、互いにズレていることを描きたがっていると思うのです。相手が何者かをカードに書かれている名前というか、言葉というかで見て、了解した瞬間に起こる ズレには気づかないまま成り立っている社会関係を、ぼくらは生きているわけです。
​だから、お互いが、正体不明の 「怪物」 なんですね。 ​​ついでに言えば、見ているこっちも、そのズレを共有していて、実は 怪物 なんじゃないかって。 「怪物だーれだ?」 って言ってましたけど、観客に向かって言っていたんじゃないかなって。
​​
​​​​ で、それに、 直感的に気付いているのが二人 だけなんですね。その気づきは肉体的なというか、 クィア とかで話題になっているらしいのですが、あれって、 同性愛の暗示 なんかじゃなくて、 自己意識 、まあ、主体というか、主観というかを支える 身体性、自然性の暗示 だとボクは思いました。社会関係の錯綜したズレに対して、個を支えている肉体の発見ですね。普通、大人になることで見失って、老人になることで再発見するやつ。だから、映画としては結構大事なシーンだなあと。まあ、そんな、感じですね。」​​​​​
 ​​というようなやり取りをしてよろこんでいると、この映画を見たわけでもないし、あんまり見る気もしていないこと公言している 同居人 が言いました。
​​​「あのね、 是枝 っていう人、 アホか! いうところがないやろ。理屈っぽいっていうか、子どもとかのエエ、ワルイも、よう分かっとってやし、上手に撮ってやけど、 何であんたにわかるねん! って、ちょっと腹が立ついうか、まあ、そんなん思うねん。そやから見いへんねん。」​​​
ナルホドというか、まあ、その通りかもですね(笑)。​

​​ でも、まあ、いろいろ考えさせられたのは、面倒くさくて、理屈っぽいからこそですからね(笑)。というわけで、いろいろ考えさせてくれた 是枝監督 拍手! ですね。​​

監督 是枝裕和
脚本 坂元裕二
撮影 近藤龍人
照明 尾下栄治
衣装 伊藤美恵子
音楽 坂本龍一
キャスト黒川想矢(麦野湊)安藤サクラ(麦野早織・湊の母)柊木陽太(星川依里)中村獅童(星川清高・依里の父)永山瑛太(保利道敏・担任)高畑充希(鈴村広奈・保利の恋人)角田晃広(正田文昭)田中裕子(伏見真木子・校長)
2023年・125分・G・日本
2023・06・16 ・no71・109シネマズ・ハットno28 ​​ ​​ ​​

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最終更新日  2023.08.04 22:28:06
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