クルマ、バイク、鉄道模型など趣味で人生を楽しむ

クルマ、バイク、鉄道模型など趣味で人生を楽しむ

2024.03.11
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カテゴリ: 旅行
​北海道の苫前(とままえ)の三毛別(さんけべつ)六線沢で大正4年( 1915 年)に起こった史上最悪の羆(ヒグマ)による7人の惨殺事件をご存知の方は多いかも知れません。
苫前郷土資料館に事件の展示があるほか、「復元現地」も現在の苫前町三渓に整備され、次第に観光地化されてきたので訪れた方もあるでしょう。

​​​ただ、最近では綿密な資料や現地調査もせずに、安易に他のネット記事を無断転用したような記事や表面的な観光地訪問記も増えていますので、私なりに突き止めた真相をまとめてみたいと思います。

事件は大正4年12月9日、北海道天塩(てしお)山地の苫前村六線沢で34歳の太田(内縁 阿部)マユという開拓民の女性と6歳の男子(養子予定)が小屋でヒグマに襲われたことから始まりました。女性は惨殺されて山林まで引き去られ、熊の習性から獲物として一旦雪中に埋められたうえ、最後には頭蓋骨と手足を残して「完膚なまでに」食殺されたと当時の新聞は報じています。
襲撃したヒグマはさらに翌日夜に何と二人の通夜の席上に乱入し、集まっていた6人を襲いました。そして続けて300mほど離れた隣家に集団で避難中の男性1人と女性、子供の計10人を襲ったのです。この現場には斎藤タケという妊婦の女性も居て、隠れていた俵の影からヒグマに引きずり出されて「腹破れんでくれ」「のど喰ってくれ」と胎児の命乞いをしたのですが、上半身を食殺され、胎児は体外に出されていたそうです。
警察や軍隊など200名余りの討伐隊が結成されましたが、何度か追い詰めたにも関わらず、ヒグマを手負いにしながら撃ちそこなってしまい、結局は事件6日目の12月14日に一人で熊撃ちをしていた山本兵吉というマタギが漸く至近距離から撃ち殺しました。

この巨大羆は11月から六線沢に出没して入植小屋にあった干しトウモロコシを獲ったり、事件の数日前には旭川や天塩で女性3人を食殺した同一個体ではないかと言われています。

事件は添付写真解説のように映画化されたほか、ドキュメンタリー小説や漫画でも描かれました。

しかし、実際の事件現場が現在のどこなのか、現状はどうなっているのかはよく分かりません。
この疑問がずっと頭に残っていて、何度も現地調査を繰り返すうち、漸くその全容を解明することができました。
添付写真の最後に一応地図を添付しましたが、現在の復元現地に至る道道1049号線と地図に示した当時の農道は大きく異なっており、三毛別川も改修が行われて蛇行が少なくなっています。復元現地周辺は現在も 居住者無人地帯 で道路も砂利道であり、写真の国有林林道は 立入り禁止 です。
実際の事件現場を探すには1049号線から外れて草木、クマザサの中を踏み進む必要があり、全て 自己責任 にてお願いいたします。熊の被害に遭われても一切責任は負いかねますので、悪しからずご了承下さい。





留萌からサロベツ原野に向けて北上する国道239号線沿いに苫前町庁舎があり、その前にヒグマの看板が立っています。



苫前町庁舎の国道を隔てた反対側に東へ入っていくと苫前郷土資料館があります。
ご高齢の親切なオバサンが案内におられましたが、最後にお会いしたのが2019年で現在もいらっしゃるかは分かりません。


三毛別羆事件の発生経過など、基本情報を収集できます。


惨劇が繰り広げられた入植者の小屋を再現する展示があります。成人男性と男の子がいるので、12月10日に明景家を襲ったシーンと思われます。


何度か訪問していると、入場者からの指摘で照明が暗くされたことに気づきました。


現在の苫前町は海岸沿いにありますが、本州からの入植者による苫前地区の開拓は海岸線から三毛別川を辿って山間部の原野を南東に進む形で進められました。


昭和26年の入植農家の風景ですが、事件のあった大正4年ころと比べると小屋も一部板壁になって、徐々に住環境は改善されているように見えます。



いずれにせよ、事件が起こった三毛別六線沢地区の15軒の入植農家は事件翌年春には1軒を除いて全家離村し、昭和21年に大阪から入植した6軒の入植者も昭和45年を最後に全員離農し、現在は無人地帯になっています。


三毛別羆事件で射殺された羆の写真は残されていませんが、当時の新聞には体長2.7m、体重380kgとあります。三渓地区ではその後も大きなヒグマが射殺されており、こちらは昭和32年の実際の写真です。


昭和55年(1980年)に三国連太郎の主演により「熊嵐(クマアラシ)」という題名でTV映画化されており、そのビデオは郷土歴史館で観ることができます。1時間前後だったと思います。
また、1990年にはこの事件をオマージュにして、家族を羆に殺された娘がマタギになって復讐するという別のストーリで真田広之主演の「 リメインズ 美しき勇者たち」という 映画が制作されています。


復元現場は苫前町から道道1049号線を通って小一時間かかり、かなり山の奥地になります。三毛別三渓地区を過ぎて三毛別六線沢地区に入り、終点に復元現地があります。その先は国有林林道になっており、立ち入り禁止です。

道道1049号線は「ベアロード」と名付けられ、何とも場違いな可愛いいクマのキャラクターの書かれた看板があります。

三渓地区に入ると途中には三毛別事件で羆が最終的に射殺された現場があり、「射止橋(ウチドメバシ)」という地名が忘れていた不気味さを思い起こさせます。
射止橋は元々、木橋で三毛別川のもっと下流側(右側)の旧農道にあったそうで、現在のコンクリート橋は三代目です。実際のヒグマの射殺現場は右前方に山際が見える山林の中腹標高150m当たりの滝の沢というところです。以前は歩道が多少整備されて木製の記念碑も建てられていたそうですが、現在はクマザサが一面に茂っており、危険なので探索は断念しました。


さらに道道1049号線が砂利道に変わる復元現場の手前あたりに、三渓神社があって慰霊碑が建立されています。道を挟んだ向かい側の少し戻ったところに三渓小学校(現在、廃校。当時の三毛別分教場)があり、事件後、六線沢の農民は全員避難していました。


事件による死亡者がこの慰霊碑では斉藤タケが身ごもっていた胎児を含め7名になっていますが、頭部を噛まれて重傷を負い、2年8か月後に後遺症で亡くなった明景梅吉は含まれていません。ネット記事などで死亡者が6名ー8名とばらつきがあるのはこのためです。



観光客向けに国有林を切り開いて整備された三毛別羆事件の「復元現場」ですが、実際の惨殺現場ではありません。事件に巻き込まれた開拓農家15軒があった三毛別六線沢地区は復元現場の奥にも広がっています。






当時の新聞報道が正しければ、身長183cm、体重94kgの私より、身長で1.5倍、体重で4倍になるので、復元現場のヒグマ像は実際より大きすぎると思われます。ただ、襲い掛かるのを見れば、これくらいの凄まじい恐怖を巻き起こす印象だったでしょう。


羆が襲ったのは、開拓小屋の外に干されていたトウモロコシを狙ったのがきっかけと言われています。


復元現場に建てられた入植小屋の内部。壁はワラを巻いただけでヒグマはカンタンに侵入できます。
中で焚火を焚いていたとはいえ、このような簡素な小屋で激寒の冬を過ごしたとは信じられません。ヒグマは火を全く恐れなかったようです。





ここからの国有林林道は立ち入り禁止です。もし、進む場合はあくまで自己責任になります。


この先に斉藤石五郎家、金子富蔵家の小屋跡があります。


ヒグマの足跡です。クマザサやハスが倒されているところは熊が食べた跡なので、見た場合は引き返した方がいいと思います。




12月9日に2人が食殺された太田三郎家跡です。三毛別川の支流である御料川のほとりにあります。



12月10日に5人が惨殺された明景安太郎家の跡です。右下に三毛別川が流れています。水がいかに大切だったかは小屋の立地で分かります。


私が探索時に使っている刃渡り30cmのナタと熊鈴です。ナタは常時手に持って、熊に対する防御だけでなく、クマザサやハスを切り裂きながら歩く時に非常に役立ちます。切り株などでケガをしないよう、手袋と底の厚い靴も必要です。
熊スプレーは5m以内に近づいて噴射しないと効果がありませんが、安全バンドやピンを外す余裕や噴射時間が約7秒前後であること、風上に立って噴射しないと万一自分が噴射を被ると目が開けていられなくなることなども考えておく必要があり、私はいざという時に使えそうにないので、所持しておりません。


この地図は当時の農道と三毛別川です。事件のあった翌年春には図の上のほうにある辻橋蔵家を除き、開拓農家は全員離村しました。その後、昭和21年になって大阪から難波開拓団の6軒が入植しましたが、昭和45年には全て離農しました。現在、この三毛別六線沢地区は ​居住者無人地域​ になっており、一部ある畑は三毛別三渓地区からの通い作です。
現在の道道1049号線は昭和38年に国有林開発計画に基づく縦貫道路として、農道よりさらに右側(東側)​を通るルートで整備されており、三毛別川も当時のようには蛇行しておらず、現在はかなり改修されています。

むやみな立入りを控えていただくために、上記地図には敢えて現在の道道1049号線と三毛別川は書いておりません。現場探索は ​完全な自己責任​ でお願いします。
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Last updated  2024.05.29 07:32:16
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