ちょっと休憩

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2010年03月07日
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テーマ: お勧めの本(7902)
カテゴリ:


鷺と雪

北村薫「鷺と雪」

「街の灯」「玻璃の天」に続く、お嬢様・英子とその運転手ベッキーさんの活躍を描いたシリーズ3作目して完結編。

華族の主人が忽然と消えてしまったり、東京の街にブッポウソウの泣き声が響いたり、と、ちょっと不可思議だけど実際に起きた事件を物語に盛り込みながら昭和初期の東京を描いた作品で、3部作の完結編として、クライマックスへ向けて物語が動いていきます。

大きく変わろうとする時代の中で、実際には人々の日常生活は変わらず、常に身の回りの瑣末なことにしか向かない。
そういう空気感も、本作では描かれています。
時代の変化は、過ぎ去ってみないと実感できないものなのだろうと思います。
物語でも、大きなことは直接には描かれず、小さな出来事を積み重ねていく手法で、実際に昭和恐慌から二二六事件に向かっていく時代背景があるのに関わらず、穏やかな小説となっています。
だから、ラストのクライマックスにおいても、主人公・英子は自分が大きな流れの中にいることをその時点で知ることはできません。
読む側にはそれがわかっているだけに、読後にも深い余韻が残ることになります。

そんなこともあって、本作は謎解きミステリーとして読む分には、ちょっと物足りないと思う人も多いかもしれません。
一遍一遍の連作集としてのバランスとしては、ちょっと悪いような気がするのは否めません。
直木賞受賞作品ということで、本作だけを読んだ人にはたぶん面白さはわからないだろうなとも思います。

ただ、シリーズとして大きな流れで見ると、これはこれでいいのだろうと納得もできます。
連作集というよりは、3冊を大きな長編として捉えると、すべてが、完結に、ラストページに向かっているように思えます。

主人公・英子にしても、英子の学校(女子学習院)生活においても学友たちのそれぞれの進路が示唆され、英子と若月少尉とのささやかながら秘めたやりとりが何度か交わされ、彼女の少女時代の終焉が暗示されたりもします。
好奇心いっぱいの少女の成長、というシリーズの側面から見ても、やはり終結なのでしょう。

そして、ベッキーさんと勝久さまとの会話。シリーズ一作目から二人は意味ありげなやりとりを繰り返してきましたが、本作においての迫り来る時代を問う二人のやりとりは、これこそ著者の思いがこめられたテーマなのだと実感できます。

それから、「リセット」でも思ったのだけど、北村さんは「まだ形にならない想い」というものを表現するのが上手いです。
英子の無自覚な想いを読者は切なく見守るしかないラストシーン。
描かれない「その後」を思うと、胸が詰まります。

それにしても、昭和恐慌下の日本は、今の日本に似ていたようです。
大学出のエリートが就職もままならずにルンペンになってしまったり、その反面、中学受験はとても過熱していたり、……。
経済が破綻した昭和初期の日本は、このあと戦争へと向かっていくのですが、今の日本は何に向かっていくのでしょう。



シリーズ一作目「街の灯」、2作目「玻璃の天」






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Last updated  2010年03月07日 23時25分58秒
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