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もう5月も下旬になろうかというのに、先月読んだ本についてのまとめパート2。「宵山万華鏡」 著者:森見 登美彦祇園祭前夜の宵山。まさに万華鏡のような宵山の一夜を描いた連作集。万華鏡を少し傾けるとがらりと世界が変わるような、そんな感覚が全編にわたって味わえます。同じ舞台を描いていて登場人物はそれぞれにリンクしているのに、光の当たり方が違い、時におバカなお祭り騒ぎが一転、幻想ホラーチックに変わる森見さんの筆力に改めて感服。読了日:04月16日 「ひなた弁当」 著者:山本 甲士リストラされた50男の再起を描いた小説。さえないおじさんだった主人公が、自分自身が興味をもったことを追求して、それが生きる手段となっていく中盤から、急に物語は「楽しく」なってきます。そして、誰かを蹴落としたりせずに自分自身を生かす道を歩めるという幸福に気持ちが温かくなりました。読了日:04月16日 「図説 江戸っ子と行く浮世絵散歩道 」江戸の古地図と、現代東京の地図、そしてその風景を描いた浮世絵が見開きページにまとめて掲載されていて、まさに「江戸散歩」が楽しめます。気分はちょっと「タモリ倶楽部」か。読了日:04月18日 「学問」 著者:山田 詠美「学問」といっても、フトミ(ひとみの愛称)を中心とした少年少女たちのイタ・セクスアリス。章の冒頭に添付される形の登場人物の死亡記事が、彼らのその後の人生をいろいろ想像させる効果を生んでいて、小説世界がページ数以上の広がりを見せます。フトミとテンちゃん、一言で定義できない関係性に、甘酸っぱいような切ないような記憶を呼び覚まされたような……。読了日:04月19日 「矢上教授の午後」 著者:森谷 明子嵐の晩に大学構内で起きた殺人事件をめぐるミステリー。登場人物がわりに多いので、場面転換が多くてちょっと落ち着かなく、映像化するとわかりやすくて、おもしろくなりそうな感じです。殺人事件がおきたわりには、なんとなくのんきで間が抜けた感が全体に漂っている小説なんですけど(そういうのは結構好きですが)、ならばいっそのこと、もっと徹底的に喜劇的に描かれてもいいかもしれないなあと思いました。読了日:04月20日 「狸汁 銀次と町子の人情艶話」 著者:柴田 哲孝麻布の小料理屋さんを舞台にした「料理小説」。女将さんの貞淑だか奔放だかわからない性格が新鮮でした。イメージはなんとなく鈴木京香かな?印象としては50代以上のおじさま向け小説といった感じです。読了日:04月21日 「三谷幸喜のありふれた生活7 ザ・マジックイヤー」 著者:三谷 幸喜三谷幸喜の朝日新聞連載エッセーの7冊目。彼のシャイで人見知りで出たがりでキャラクターがここでも楽しめます。読了日:04月22日「鶴屋南北の恋」 著者:領家 高子「四谷怪談」で知られる鶴屋南北の晩年が題材の小説。芝居の世界にどっぷり浸かる南北、重兵衛親子、そして元芸者の鶴次の三角関係、その他の登場人物によるサイドストーリーも含めて、1本の世話物を観た気分になります。余計な説明を省いた文章もその小説世界にふさわしく、江戸世界を堪能しました。読了日:04月26日 「時が滲む朝」 著者:楊 逸天安門事件を背景に、一人の中国人青年の青春を描いた芥川賞作品。当事者になりきれなかった「青春のもどかしさ」が描かれています。さらりと読めるけど、さらりと読んだあとに考えさせられました。読了日:04月27日 以上です。
2010年05月19日
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久々の更新。今更ですが、先月読んだ本をまとめて記録。「ベンハムの独楽」小島 達矢連作集といいながら、それぞれ違った趣向のストーリーが展開し、1冊でいろいろ楽める本でした。複数の作家によるアンソロジーみたいな感じでもあるけど、これはこれで。読了日:04月02日 「図説 浮世絵に見る江戸の旅」 佐藤 要人(編)江戸の人は旅好き。なんやかんや理由をつけて旅をしていたようです。広重の描く庶民のマンガチックな顔がツボです。読了日:04月04日 「仮想儀礼(上下)」 篠田節子宗教をビジネスに。生半可な知識で生半可な志で宗教に手を出して大やけどした男たちを描いた長編。人はより強い意思を持つ者に引きずられるわけだから、狂信的信者を御せるはずもなく……。中途半端にいい人だった正彦たちの転落していく様が痛々しい。ラストの1行はコワい。読了日:04月07日 「ソウル・コレクター」 著者:ジェフリー・ディーヴァーいつもように先々が読めない怒涛の如きどんでん返し……というのは、今回はさほどではなかったけど、データ管理される社会というテーマが興味深かったです。。スイカもクレジットカードも図書館カードも……すべての利用状況がどこか1ヶ所でデータが管理されていたら、私の生活はほぼすべて把握されてしまうんだなと思うとコワイ。読了日:04月09日 「メガロマニアーあるいは「覆された宝石」への旅」 著者:恩田 陸恩田陸らしい味付けされた中南米の旅の記録。全く不案内の地域だったので、「なるほど」と思う点も多々。生きているうちに、私もこんな場所を旅することはあるんだろうか?読了日:04月11日 「SOSの猿」 著者:伊坂 幸太郎エクソシストと西遊記とひきこもりと証券取引誤発注……をユング心理学でくるんだ1冊。小説としては、おもしろくなってきそうで、そのままなりきれずに終わった感も。とはいえ、ところどころ考えさせられたり、ひっかかったり。誰もが何かしら抱えている問題に、随所にヒットするようになっているのかも。ユング心理学だし。集合的無意識のもとで人はつながっているんだし。狭い範囲で起きた現象を描きながらも、社会全体を俯瞰しているような作品だと思いました。読了日:04月12日 「元気でいてよ、R2-D2。」 著者:北村 薫すいーっと流すように読んでいて、ラストで「え?」と引き戻されるような短編集。日常の怖い話というのは、さほど怖くないと思っても、自分もそのうち遭遇するような怖さで後々たたります。印象深かったのは「さりさりさり」。読後牛のように反芻してしまいます。読了日:04月13日 「るり姉」 著者:椰月 美智子るり姉を、彼女を愛する者たち(姪たち、姉、夫)の視点で描いた家族小説。夫の開人のバカップルぶりがほほえましくて和む。でも「幸せすぎて怖い」なんて言うから、うっかり深読みしすぎてしまった。ていうか、作者の計算にまんまとはまってしまったというか。読了日:04月14日 ということで、続きは次回。
2010年05月17日
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最近、大リーガー・イチローが出演のヨーグルトのCM。イチローが「君って強気だね~」とヨーグルトに語りかけるという、日常の何気ないひとコマのようでいて、ちょっとシュールでもある内容。←このヨーグルトね 森永「ビヒダス」のCMか……と画面を見て、愕然としました。「ビヒダス」なの? 私はこの商品が発売されて以来30年余り(1978年発売)、この商品名を「ビビタス」だと思っていました。濁音の「¨ 」の位置を勘違いしていたわけですが、スーパーでしょっちゅう見かけているし、何度も買ったことあるし、間近で見ている。でも、30年間以上気付かなかった。その間、私が声に出して「ビビタスヨーグルトをね……」と会話に織り交ぜても、だれからも指摘されたりもしなかった。まあ、さらっと聞き流してしまいがちな程度の間違いだし、気付いてもその程度の間違いを指摘するほどのものでもないし……、てなものですが。それでも、森永乳業の方々からしてみれば、「その程度」では済まされないかも。「鈴木さん」を「すすぎさん」と呼ぶようなものだよなあ、と考えてみると失礼なことのように思えてきます。そういえば、子供のころ、「雰囲気(ふんいき)」という言葉を「ふいんき」だと思い込んでいました。かなり成長するまで気付かないままだったし、普通に会話に「ステキなふいんきよね~」なんて使っていても誰にも指摘されなかったと思います。きっと、ほかにもこの歳になっても気付かないままになっている「勘違い」があるんだろうなあと思います。……、それだけのことなんですが、30年余り気付かなかったことに気付いた自分にびっくりというか、それに気付かせてくれたきっかけとなったCMのイチローの存在感に改めてびっくりというか。そういう、日常のひとコマでございました。
2010年04月27日
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林芙美子 「放浪記」先日、きたあかりさんのブログで、桐野夏生「ナニカアル」が取り上げられていました。その本自体にも興味を持ったのですが、モデルになった林芙美子の小説を読みたくなりました。で、未読である、彼女の出世作で代表作である「放浪記」を手に取った次第です。 「放浪記」昭和初期の文学志望の若い女性のその日暮らしを描いた自叙伝的小説です。様様な仕事(女中、事務員、カフェの女給……)を転々としながら、幾度も恋愛に敗れながらも、いつか文学で世に出ることを夢見ているというか、狙っていると言った方がイメージに合うような、そんなたくましい女性のどん底な日々が赤裸々に日記風に描かれています。昭和初期の痛い青春物語だけど、回りまわって平成の不景気&格差拡大時代にとてもマッチしていることに驚きます。社会の底辺を這いずり回りながら、安易な方向へ流されそうになりながらもそれに抗い、放浪することで自我を維持する女性の姿に、不思議な共感を覚えます。他人に対して不実な部分もあったり、両親に対する愛情は深いながらも親不孝を重ねたり、そんな正直さも悪くないと思えます。昨今、小林多喜二の「蟹工船」がリバイバルヒットしてましたが、こちらの方がより「今」的かもしれません。まさに、描かれているのがフリーター生活を送るネットカフェ難民的な女の子です。だいぶ前に、彼女の「浮雲」を読んで、「この人は才能はすばらしいが、嫌な人かも」なんて、勝手な感想を抱いたことがありました。「放浪記」も、たぶんバブルのころなんかに読んでいたら、主人公しぶとさに辟易したかもしれません。きっと、本には読むのにふさわしい「時」があるのかもしれません。文章は、解説を読んでから想像力で補わないと理解できないくらい不親切です。「もう少し説明してくれ」とも思ったりします。それが日記風文学のリアルを感じさせるともいえるのですが。また、断片的な内容でありながら、それでも人に向けた文章になっていることから、現代のブログ的要素もあるかもしれません。
2010年04月19日
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佐藤友哉 「デンデラ」【内容情報】(「BOOK」データベースより)五十人の老婆が、奇妙なコミュニティを形成する現在の姥捨て山「デンデラ」。ある者は自分を捨てた村を恨み、ある者は生き永らえたことを喜び、ある者は穏やかな死を願う。様々な感情が渦巻く隠れ里は、一匹の巨大羆の襲来により、修羅場と化した。 「姥捨て山」後日譚。村の掟で、年老いたことを理由に山に捨てられる老婆たち。生き残った老婆たちが、ひそかに営んでいるコミュニティーが「デンデラ」です。(時代も土地も特定されていません)しかし、おばあさんたちのコミュニティーは、牧歌的な雰囲気なんて全くありません。そこには、厳しい生存の世界があるばかり。ある意味、死んだ方がよっぽどよかったと思わせる世界です。慢性的な食料不足。イデオロギーの対立による派閥争い。謎の疫病の蔓延。極めつけは、飢えた羆(ひぐま)の度重なる襲撃。これらに対峙して、生き抜こうとする老婆たちの姿は、壮絶そのものです。壮絶も壮絶。文字だけで読んでいると、とうてい老婆たちの物語ではありません。ありえないことだらけの怒涛のストーリー展開です。もちろん、著者もはなっから、リアルなんて追求していないだろうし。村で村人として生きている時は、すべてが村の掟に縛られ、個としてのアイデンティティなどなかった老婆たち。それが、そこから放り出されて 、初めて自分自身と向き合うことになります。剥き出しの生の世界で、それぞれの老婆たちの選択に、いろいろ考えさせられます。そして、最後の主人公・カユの選択には、うなるばかり。生ぬるい生活を送っている私には、目が覚めるような小説でした。
2010年04月09日
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昨日に続き、3月に読んだ本をまとめます。姫野カオルコ 「すっぴんは事件か?」人々の盲点をつくようなエッセイ集。レディスコミック論には大うけしました。なるほど……です。グレアム・グリーン 「ヒューマン・ファクター」78年に発表された「スパイ小説の金字塔」と名高い小説。007のような派手なアクションなんて全くなく、ロンドンの情報局内のお役人スパイたちの姿が淡々と描かれます。読後、タイトルの意味をいろいろ考えさせられました。米澤穂信 「追想五断章」5つのリドルストーリーが、過去に起きた事件の真相に迫る鍵となっているという凝った構成のミステリー。門井慶喜 「おさがしの本は」図書館のレファレンスコーナー担当の司書さんによる本探しミステリー。 姜尚中 「悩む力」人生が年がら年中ハッピーでラッキーであるはずがない。現代という時代、人は悩むという自由と贅沢が与えられたのだと思いたいです。もっと若いときにこの本に出会いたかったです。佐藤友哉 「1000の小説とバックベアード」「小説を書くような心で書いた(本作より引用)」小説論といった感じ。いろんな読み方のできる寓意性の高いシュールな小説です。 杉浦日向子 「江戸塾 特別編」対談集。江戸時代における「粋、通人、野暮、気障」を論じた箇所に「へーへーへー」を20回!(古い) 林芙美子 「放浪記」林芙美子の自叙伝的小説で出世作。昭和初期、文学を志しながらもその日暮しに喘ぐ若い女性の姿を描いたものだけど、時代の変遷を経て回りまわって、今の時代にマッチしていることに驚き。「蟹工船」より、現代的かもしれません。 以上です。
2010年04月05日
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今月読んだ本をまとめて。清水義範 「夫婦で行くイスラムの国々」内容は言うまでもなく、清水夫婦によるイスラム圏の国々の旅行記。作家による紀行文は結構気取ったものが多いけど、本作は普通の旅行者感覚のツアー体験記というところが逆に好感持てます。ただ、清水義範による旅行記なので、かなり「勉強」にもなります。 三崎亜記 「刻まれない明日」ある日突然町から3千人あまりの人々が消失してから、10年。遺された人々の喪失感と再生を描く連作的長編。佐藤友哉 「デンデラ」「姥捨て山」後日談的ストーリー。捨てられた老婆たちが築いたコミュニティーは……。いろんな意味で、すごいです。誉田哲也 「武士道エイティーン」剣道に情熱のすべてを注ぐ2人の女子高生を描いた青春まっしぐら「武士道」シリーズ完結編。「幸田文 台所帖」 青木玉(編)幸田文による台所仕事や料理に関するものだけを集めた随筆集。(小説「台所のおと」も収められてます)これを読んでわが身を振り返ることができません……。 久田恵 「家族がいてもいなくても」「老後」を迎えた人々のエピソードを交えたコラム集。この時代、配偶者がいてもいなくても、子供がいてもいなくても、自立の精神を持っていないと人生を最後まで全うできないかも……と思わされます。 アニカ・トール 「睡蓮の池」ナチスの迫害を逃れてスウェーデンに疎開してきたユダヤ人姉妹を描いた「海の島」の続編。本作は、姉のステフィーの中学生生活を中心に物語が展開。思春期の少女たちの姿はいつの時代も国も共通だなと実感します。ただ戦争の影は、スウェーデンにも及んできます。 道尾秀介 「向日葵の咲かない夏」クラスメートの死の真相を探る10歳の少年の姿を描いたミステリー。賛否両論に分かれた作品だと聞いてましたが、納得……。 ……ということで、続きは次回。
2010年04月04日
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鷺と雪 北村薫「鷺と雪」「街の灯」「玻璃の天」に続く、お嬢様・英子とその運転手ベッキーさんの活躍を描いたシリーズ3作目して完結編。華族の主人が忽然と消えてしまったり、東京の街にブッポウソウの泣き声が響いたり、と、ちょっと不可思議だけど実際に起きた事件を物語に盛り込みながら昭和初期の東京を描いた作品で、3部作の完結編として、クライマックスへ向けて物語が動いていきます。大きく変わろうとする時代の中で、実際には人々の日常生活は変わらず、常に身の回りの瑣末なことにしか向かない。そういう空気感も、本作では描かれています。時代の変化は、過ぎ去ってみないと実感できないものなのだろうと思います。物語でも、大きなことは直接には描かれず、小さな出来事を積み重ねていく手法で、実際に昭和恐慌から二二六事件に向かっていく時代背景があるのに関わらず、穏やかな小説となっています。だから、ラストのクライマックスにおいても、主人公・英子は自分が大きな流れの中にいることをその時点で知ることはできません。読む側にはそれがわかっているだけに、読後にも深い余韻が残ることになります。そんなこともあって、本作は謎解きミステリーとして読む分には、ちょっと物足りないと思う人も多いかもしれません。一遍一遍の連作集としてのバランスとしては、ちょっと悪いような気がするのは否めません。直木賞受賞作品ということで、本作だけを読んだ人にはたぶん面白さはわからないだろうなとも思います。ただ、シリーズとして大きな流れで見ると、これはこれでいいのだろうと納得もできます。連作集というよりは、3冊を大きな長編として捉えると、すべてが、完結に、ラストページに向かっているように思えます。主人公・英子にしても、英子の学校(女子学習院)生活においても学友たちのそれぞれの進路が示唆され、英子と若月少尉とのささやかながら秘めたやりとりが何度か交わされ、彼女の少女時代の終焉が暗示されたりもします。好奇心いっぱいの少女の成長、というシリーズの側面から見ても、やはり終結なのでしょう。そして、ベッキーさんと勝久さまとの会話。シリーズ一作目から二人は意味ありげなやりとりを繰り返してきましたが、本作においての迫り来る時代を問う二人のやりとりは、これこそ著者の思いがこめられたテーマなのだと実感できます。それから、「リセット」でも思ったのだけど、北村さんは「まだ形にならない想い」というものを表現するのが上手いです。英子の無自覚な想いを読者は切なく見守るしかないラストシーン。描かれない「その後」を思うと、胸が詰まります。それにしても、昭和恐慌下の日本は、今の日本に似ていたようです。大学出のエリートが就職もままならずにルンペンになってしまったり、その反面、中学受験はとても過熱していたり、……。経済が破綻した昭和初期の日本は、このあと戦争へと向かっていくのですが、今の日本は何に向かっていくのでしょう。 シリーズ一作目「街の灯」、2作目「玻璃の天」
2010年03月07日
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伊井直行「ポケットの中のレワニワ」上下【内容情報】(「BOOK」データベースより)内緒だけど、レワニワのこと知ってる?第二次レワニワ探検隊は、向洋台団地N6棟にある森島君の家に向かった。そこで何を発見することになるのか知らないまま─。 【内容情報】(「BOOK」データベースより)あなたは、きっとレワニワが好きになる。ティアン、仕事ができるんだかできないんだか微妙な徳永さん、コヒビト、偏頭痛持ちの三浦さん、中年のSEXフレンドあみー、そして、レワニワ。 あらすじを書くのがめんどうなので、楽天ブックスのデータベースをコピペしてみたのですが、上記の内容で理解できる人は皆無な気がします。これじゃ、内容情報を読んで本を買おうなんて人はいないんじゃないかと、かえって営業妨害のような気もしますが。で、仕方ないので、自分で書くことに。と、いっても、簡単にまとめられる話ではないです。(だから、データーベースの内容情報もあんなものになってしまったのかも)あらすじをおおまかに。ワーキングプアの阿賀多は、当然経済的安定もなく、将来の展望をもてないまま20代も終わろうとしている。親を頼ろうにも、実父は他界し、再婚した母とは断絶状態。そのわりにはひきこもりの義弟(継父の連れ子)の面倒は押し付けられる始末。というか、他者とのコミュニケーション不全の義弟は彼にしか心を開かない。幼馴染で、ベトナム難民だったティアンとは、現在の派遣先で再会し、友情以上の好意を持ちつつあるが、上昇志向の強い彼女との関係は進展を望めない。その上、彼女の周りに元難民仲間の胡散臭い連中がつきまとうようになり……。格差社会の申し子のような阿賀多をはじめ、現代における様々な難民が描かれ、重苦しいテーマが突きつけられます。しかし、筆致は重苦しくないし、そこはかとなく飄々としたユーモアも全編に漂ってたりします。たぶん、これが伊井作品の特徴ともいえます。とくにおかしいのが、2ちゃんねらーの義弟コヒビトとの会話。どこかずれていてかみ合わなくて、それがトホホで切ないのだけど、同時に笑ってしまいます。ついでに、何だかいつも的外れな職場の正社員の徳永さんの存在もナイスです。物語は、レワニワが登場してから、ぐっと急展開します。レワニワ。願いをかなえてくれるという爬虫類(イモリみたいなイメージか?)。少年時代に都市伝説的存在だったはずのレワニワが、阿賀多の前に現れるのです。それまで、さんざんなまでに現実そのものだった物語世界に、架空の謎の生命体が侵食してくるのです。阿賀多だって、びっくりです。かといって、物語世界は損なわれません。現実と非現実の交わりが、自然に行われます。この辺は、著者の筆力というものでしょうか。それでもって、レワニワの存在が、うまく現実の世界に入り込んでからは、ストーリーは急加速。終わりまで、一気に駆け抜けて行きます。でも、人生一発大逆転、物事はすべて大団円……てなことにはなりません。やはり現実の人生を描いた小説なのだから。それでも、主人公にも周囲の人間にも少しずつ変化が生まれます。そこには、希望というものも見え隠れします。そして、たぶん、いつの世も、どんな状況でも、人間の生の根源的なものは同じなのだと納得させられます。それは、阿賀多が、レワニワに願掛けする内容とつながってくるわけで、それはどんな人間も欲するものともいえます。「お金とか、女とか、名声とか、わかりやすいことお願いしてくれればいいのに」というようなことをレワニワはぼやくのですが、阿賀多はそれを望みません。そこが、文学ってやつですかね。状況としては、大きな変化のない幕切れなのだけど、読後感は悪くありません。爽やかともいえます。そう感じるのは、読んでいるうちに読み手側にも価値観のシフトチェンジが行われるからなのでしょうか。
2010年03月05日
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昨日の続きです。先月読んだ本をまとめて、の2回目。 佐藤要人・高橋雅夫(監修)藤原千恵子(編)「図説 浮世絵に見る江戸の一日」時代小説などを読んでいて、いまいちわからなかった現代とは違う時間感覚についてなんとなく理解できた気がします。 黒崎敏・ビーチテラス(編)「可笑しな家 世界の奇妙な家・ふしぎな家60軒」本のタイトル通り、世界中の変わった邸宅集。住み心地は本当にいいのだろうか?アニカ・トール菱木晃子(訳)「海の島 ステフィとネッリの物語」ナチスの迫害を逃れて、スウェーデンの小さな島にやってきたユダヤ人の姉妹。姉妹の成長と、里親や島の人々との交流が描かれます。 中島京子「女中譚」林芙美子、吉屋信子、永井荷風の小説より「本歌取り」した連作集。昭和初期の女中さんメイドさん業が垣間見えます。幸田文「きもの帖」青木玉(編)1950年代から70年代にかけて執筆された、きものに関する随筆ばかりを集めた1冊。1冊を通して、生涯和装だけで過ごした著者ならでは「きもの論」になってます。 有川浩「シアター!」ダメダメな弟が主催する借金苦に陥った小劇団を、しっかり者の兄が再建するために奮闘。兄弟の物語であり、青春小説であり、演劇物としても楽しい。定本納棺夫日記3版 青木新門「定本 納棺夫日記」映画「おくりびと」の下敷きになった小説。納棺夫という仕事を通して、「死」そのものに向き合っていく姿が描かれる。 大石学(編)「大江戸まるわかり事典」江戸時代について雑学百科というかんじ。 畠中恵「まんまこと」江戸・神田の町名主のお気楽者の跡継ぎ息子が、町で起きた騒動の解決に奮闘する連作集。こちらは、妖怪は登場しません。
2010年03月02日
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オリンピックも終わり、ブログ復帰です。先日読んだ本を、まとめて。いずれ、おもしろかった本に関しては、改めて書きたいと思います。 誉田哲也「ジウ1 警視庁特殊捜査係(SIT)」「ジウ2 警視庁特殊急襲部隊(SAT)」「ジウ3 新世界秩序(NWO)」対照的な二人の女性警察官が主人公の、警察小説3部作。どちらも友達にはあまりなりたくないタイプだが。有川浩「植物図鑑」食育恋愛小説。 伊井直行「ポケットの中のレワニア」上・下一言では説明できません。「格差社会を描いたファンタジー」で、通じるでしょうか。 佐藤要人(監修)/藤原千恵子(編)「図説 浮世絵に見る江戸吉原」 小林信彦「B型の品格」週刊文春連載のエッセイの単行本化されたもの。政治、映画、アイドル……と多岐にわたるコラムはおもしろいけど、血液型論はどうでもいいような。 北村薫「鷺と雪」昭和初期を描いた「英子&ベッキーさんシリーズ」の3作目にして、完結編らしい。 田中エミ「ダンナ様はFBI」元FBI勤務のダンナさんとの20年にわたる結婚生活を綴ったエッセイ。ダンナさんの危機管理意識やプロ意識は、日本人の甘えを叱責してくれます。 小林朋道「先生、子リスたちがイタチを攻撃しています! 」動物行動学教授によるエッセイのシリーズ3作目。小林先生の動物への愛情は相変わらず微笑ましいですが、同時に野生動物のための環境保全についても考えさせられる1冊です。 山本幸久「床屋さんへちょっと」床屋さんが、ストーリー展開上の重要アイテムになる連作集。 さだまさし「美しい朝」現代の日本人の忘れてしまったことを憂えるエッセイ。いろいろ反省させられます。 字数制限にひっかかりそうなので、続きは次回。
2010年03月01日
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たまには、テレビの話も。夜のドラマはあまり見ていないくせに、昼ドラにはまっています。(ちなみに夜見ているのは「龍馬伝」と「相棒」のみ)「インディゴの夜」フジテレビ午後1時30分~フジテレビのお昼のドラマは、基本ドロドロした人間関係をジェットコースター的展開で繰り広げるという、重いんだか軽いんだかわからないものばかりでした。ドロドロ、というキーワードで見れば、それなりの「お約束」の予想を裏切らない展開だったりするので(それ自体は、ある意味褒めてます)、事前に覚悟を持って挑むことはできるのですが、何せ疲れる。毎日、ネガティブな激情をぶつけ合う人々と共に30分を過ごすのも辛いし、かといって見ないでいると話がとんでもなく進んでいて、過ぎ去った事柄が気になって仕方ない。てな感じで、できる限り見ないようにしてました。逆に一度見てしまうと、、ジェットコースターに乗れば最後まで下りられないように、ドラマが終わるまでずるずると見続けてしまうのです。で、本題。今回のドラマは、どうやら不況の世知辛いこ世に生きる人々の癒しになるべく、「ホットにポジティブ」に方向転換することになったようです(勝手な推測)。「インディゴの夜」原作は、加藤実秋「インディゴの夜」シリーズ(東京創元社)。読んだことはないのですが、人気のミステリーだそうです。原作はドラマにどのくらい反映されているのかは知りませんが、ドラマのあらすじはざっとこんな感じ。主人公は、仕事(花形編集者業)と恋人(外資系証券ディーラー)を一度に失って、恋人の借金まで背負ってしまったアラフォーの高原晶(森口遥子)。彼女は借金返済のために、渋谷のホストクラブ「インディゴ」の雇われ店長となります。あるとき、店のホストが殺された事件を、晶と仲間のホストたちで解決したことをきっかけに、渋谷界隈で起こる様々な事件捜査を請け負うようになるのでした。いうなれば、ホストによる探偵団とか自警団、というかんじ?「お客様のために」「街のために」そして「仲間のために」をモットーに、夜は店で働き、昼は街中を駆け回って事件を追う彼ら。なかなか熱い心を持った方々です。ついでにいつ寝ているのやら。そもそも、店自体が異色。「お客様に夢を与える」という裏表のない接客がモットーの癒し系のカフェ風ホストクラブ。ホストの面々も個性的です。いわゆるギャル男系はいなくて、クールでミステリアスなマネージャー(加藤和樹)熱血アフロ(和田正人)知的な元ナンパ師(天野浩成)プロボクサーもやってるハーフの肉体派(深水元基)アニメ&フィギュアおたく(加持将樹)自称タイ人の子沢山(玉有洋一郎)女の子のようにかわいい美少年(森カンナ)見分けのつかない双子(高木万平&高木心平)一見クールだが実はシャイな正統派の美形(真山明大)トラッドファッションの天然系(田中幸太朗)とまあ、いろんなタイプを取り揃えております(カッコ内は演じる俳優さん)。もちろん、それぞれにイケメンであります。つまり、ドロドロ愛憎劇で日ごろの鬱憤を昇華させるよりも、熱血正義のイケメンたちの熱き友情でハッピーな気分になりましょう、というコンセプトなんだろうなあと。ミステリーとしては、大体5話(実質1話分は20分もない)でひとつの事件を解決するという番組上の制約があるせいか、まあわりとたわいもないというか、誰もが「こうなるんだろうなあ」と思う方向に必ず落ち着くという、これまた「お約束」の展開。でも「お約束」って、なかなかバカにできません。子供が同じ絵本を何度も楽しむように、「お約束」の予定調和って、心の安定を誘うのです。驚愕のどんでん返しだとか、理解できないサイコパスだとか、真昼間から見たくありません。お気楽な設定やストーリーにツッコミを入れながら、イケメンを鑑賞する、これこそこのドラマの正しい見方ではないでしょうか。(たぶん)ちなみに、私のお気に入りは、正統派美少年の樹くん(真山明大)。ちょっと線が細すぎる感もありますが。来週からはエピソード7。女の子のようにかわいいテツ(女の子が演じてます)が中心になりそうです。うーん、「龍馬伝」を語る前に、昼ドラを熱く語ってしまった……。
2010年02月12日
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あるキング「あるキング」伊坂幸太郎天才が同時代、同空間に存在する時、周りの人間に何をもたらすのか?野球選手になるべく運命づけられたある天才の物語。山田王求はプロ野球仙醍キングスの熱烈ファンの両親のもとで、生まれた時から野球選手になるべく育てられ、とてつもない才能と力が備わった凄い選手になった。王求の生まれる瞬間から、幼児期、少年期、青年期のそれぞれのストーリーが、王求の周囲の者によって語られる。わくわくしつつ、ちょっぴり痛い、とっておきの物語。王になるべく生まれてきた男・王求(おうく)。彼の王たる野球人生が、ギリシャ悲劇と「マクベス」の趣で描かれます。つまり、終始ギリシャ悲劇みたいな宿命論的視点で描かれ、「マクベス」の3魔女が何かと登場し、迷惑なまでに不吉な予言を撒き散らすのです。やたらに長い「オデッセイヤ」などを読む必要はないと思うけど、「マクベス」は未読であるなら、読んでから本書に向かう方が楽しめると思われます。「マクベス」のストーリーすら知らなかったうちの夫は、パロディーだったことも気付かず展開の唐突さに「??」だったようです。王は王ゆえに孤独。それは、唯一無二の存在は、だれとも何かを分かち合うことはできないから。王は王の定められた人生を歩むだけで、そこには、何の喜怒哀楽も感慨もない。また、人は天賦の才能を切望するものだけど、実際にその天才に出会ってしまったら?王を求める民衆なら、問題はない。だが、王を目指していた者が、生まれながらの王に出会ってしまったなら?天才として生まれることが果たして幸せなのかどうか、そんなことも考えさせられます。従来の伊坂作品とはテイストが違うけど、これはこれで結構好きです。読了日:01月05日
2010年02月10日
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武士道シックスティーン武士道セブンティーン著者:誉田哲也「武士道シックスティーン」【内容情報】(「BOOK」データベースより)武蔵を心の師とする剣道エリートの香織は、中学最後の大会で、無名選手の早苗に負けてしまう。敗北の悔しさを片時も忘れられない香織と、勝利にこだわらず「お気楽不動心」の早苗。相反する二人が、同じ高校に進学し、剣道部で再会を果たすが...。青春を剣道にかける女子二人の傑作エンターテインメント。 剣道に求める方向性が対極な香織と早苗。二人が出会い、互いの剣道を知り、互いに反発しながらも、徐々に理解しあう。そして、自らの剣道を見つめ直す。根本にあるものは共に同じ。そして、結局は好きだからこそ続ける。そんな青春ど真ん中のスポーツ小説は、やっぱり気持ちがいいです。色恋沙汰が全くないのもこれまたよろし、です。それだけに、ストレートに伝わるものがあります。ひたすら剣道に青春をかける少女たち。親としては安心だろうなあ……なんて。彼女らに感情移入しながらも、親目線でも読んでしまうのは致し方ないか……。なお、本作は映画化されて、今年春に公開されるそうです。キャストは、香織が成海璃子、早苗が北乃きい。若手実力派の二人ですね。読了日:01月06日 「武士道セブンティーン」【内容情報】(「BOOK」データベースより)早苗は成績重視・結果主義の剣道強豪高へ、香織は個人主義から部に忠義を尽くし始める。ふたりの武士道の時代(研究中)が幕を開けた-。新進気鋭が放つ痛快・青春エンターテインメント、正面打ち二本目。 以前、「シックスティーン」の前に読んでしまって、改めて順序良く読み返してみました。話は独立しているし、単独でもそれなりにおもしろかったけど、やはりシリーズ物は順序が大切だと実感。前作があって今作がある。「(登場)人物に歴史あり」です。互いの剣道を認め合って、親の都合で別れ離れになった香織と早苗。横浜と福岡で、それぞれの剣の道を追求していく。香織は武士道を体現するものとしての剣道を。早苗はスポーツではなく武道としての剣道を。それぞれの武士道に邁進していく二人。迷いながらも、自分を曲げずに突き進む二人の姿は痛快です。3作目の「エイティーン」で完結するようですが、二人の剣道の終着点がどこになるのか楽しみです。そして、相変わらず色恋なしの物語展開です。でも、何かと互いに思いを馳せる二人の関係は、まるで遠距離恋愛。 お母さんとしては、そっちも心配よ。(うそです、そんなお話ではありません)読了日:01月09日
2010年02月09日
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1月に読んだ本から、ミステリー3作。先月は、シリーズ物ばかりでした。サム・ホーソーンの事件簿(6)「サム・ホーソーンの事件簿VI」著者:エドワード・D・ホック (創元推理文庫)【内容情報】(「BOOK」データベースより)保安官候補の選挙参謀が、密室状態の丸太小屋で殺害された。第一容疑者は、発見者で選挙のライバルでもあるレンズ保安官。ホーソーン医師は、現場にいた一匹のチンパンジーに注目するが...(『対立候補が持つ丸太小屋の謎』)。そのほか、バリー賞受賞作『夏の雪だるまの謎』など、第二次世界大戦中に医師が遭遇した12の難事件を収録した、不世出の不可能犯罪連作シリーズ最終巻。 著者の逝去により最終巻になってしまった本作。初期のころのクオリティやテンションは落ちてしまったのは、仕方ない……か。何10年もかけて描き続けられたものだし。(読み続けているシリーズ物は愛着がわくので、それだけで評価が甘くなってしまいます)でも、第二次世界大戦下のアメリカ側の銃後の生活がうかがえて、興味深い巻でもありました。やはり、ホーソーン・ファミリー(やっと、結婚したのに)やモースモントの町の行く末を、これ以上見届けられないのは、残念。読了日:01月25日 密室の如き籠るもの密室の如き籠るもの著者:三津田 信三 (講談社ノベルス )【内容情報】(「BOOK」データベースより)猪丸家に突然、謎の女が現れる。その名は、葦子。狐狗狸(こっくり)さんのお告げを伝える彼女が後妻に来てから、何かがおかしい...。そんなある日、屋敷の二階で密室殺人が起きた。惨事の元凶は狐狗狸さんなのか、はたまた...。旧家をおそった凄惨な事件を、刀城言耶が解明する(「密室の如き籠るもの」)。表題作ほか、全4編収録。シリーズ最新作。 【目次】(「BOOK」データベースより)首切の如き裂くもの/迷家の如き動くもの/隙魔の如き覗くもの/密室の如き籠るもの 怪談オタクの作家・刀城言耶が探偵役のシリーズの短編集。長編での、気が遠くなりそうな冗長さ(慣れると、それが魅力だったりするんだけど)はないので、さくさく読めてしまいます。逆に物足りないかもしれません。「迷い家...」や「密室...」の山岳怪談やコックリさんの伝承など、シリーズおなじみの薀蓄話は相変わらず楽しいです。読了日:01月21日 インビジブルレイン 「インビジブルレイン」著者:誉田 哲也【内容情報】(「BOOK」データベースより)姫川玲子が新しく捜査本部に加わることになったのは、ひとりのチンピラの惨殺事件。被害者が指定暴力団の下部組織構成員だったことから、組同士の抗争が疑われたが、決定的な証拠が出ず、捜査は膠着状態に。そんななか、玲子たちは、上層部から奇妙な指示を受ける。捜査線上に「柳井健斗」という名前が浮かんでも、決して追及してはならない、というのだが...。幾重にも隠蔽され、複雑に絡まった事件。姫川玲子は、この結末に耐えられるのか。 姫川玲子シリーズの最新作。今回は、ヤクザ絡みの殺人事件。その中で、強気の女刑事・姫川警部補が恋に落ちる。なかなか進展の見られなかった部下の菊田よりは断然いい男だけど、よりによっての相手。いつものスピーディーで飽きさせない展開で、一気に読まされてしまうけど、よく考えてみると、恋愛に悩んでいるうちに棚ボタで事件を解決してしまった感も。「姫川玲子は、この結末に耐えられるのか。」確かにこの結末はひどいっ……でも仕方ないのか……うーん。 読了日:01月29日 姫川玲子シリーズ長編2作「ストロベリーナイト」「ソウルケイジ」は先月感想を書きました。
2010年02月07日
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先月読んだ本の中からミステリー2冊木練柿「木練柿(こねりがき)」あさのあつこ 【内容情報】(「BOOK」データベースより)刀を捨てた商人遠野屋清之介。執拗に事件を追う同心木暮信次郎と岡っ引伊佐治。時代小説に新しい風を吹きこんだ『弥勒の月』『夜叉桜』に続く待望のシリーズ登場。 時代ミステリーのシリーズ3作目は連作集。長編のような重苦しさは軽減され、より捕物帖的味わい。そして3作目という時間の経過と共に、清之介と信次郎の関係も微妙に変化も見られます。決して友情じゃないけど、相互理解を深める特別感が漂うなあと。読了日:01月03日 同シリーズの前2作です。 「弥勒の月」 「夜叉桜」 ジェネラル・ルージュの凱旋「ジェネラル・ルージュの凱旋」海堂 尊【内容情報】(「BOOK」データベースより)桜宮市にある東城大学医学部付属病院に、伝説の歌姫が大量吐血で緊急入院した頃、不定愁訴外来の万年講師・田口公平の元には、一枚の怪文書が届いていた。それは救命救急センター部長の速水晃一が特定業者と癒着しているという、匿名の内部告発文書だった。病院長・高階から依頼を受けた田口は事実の調査に乗り出すが、倫理問題審査会(エシックス・コミティ)委員長・沼田による嫌味な介入や、ドジな新人看護師・姫宮と厚生労働省の"火喰い鳥"白鳥の登場で、さらに複雑な事態に突入していく。将軍(ジェネラル・ルージュ)の異名をとる速水の悲願、桜宮市へのドクター・ヘリ導入を目前にして速水は病院を追われてしまうのか...。そして、さらなる大惨事が桜宮市と病院を直撃する。 今度は、救急医療の現場が舞台。救急病棟のドン・速水の不正行為をめぐって、大学病院内の主導権争いを描いた1冊。「チームバチスタの栄光」「ナイチンゲールの沈黙」の前2作のような殺人事件も起こらず、病院内の力関係が丹念に描かれます。でも、もともとこのシリーズには殺人事件のような派手な仕掛けは不要だと思っていたので、3作の中ではいちばんおもしろいと思いました。医療問題はそれだけで、部外者には立派なミステリー、です。ただ、速水医師のキャラクターが強くて、残念ながら白鳥の活躍は少なめです。読了日:01月16日 シリーズ前2作 チーム・バチスタの栄光ナイチンゲールの沈黙映像でもお楽しみ。ジェネラル・ルージュの凱旋
2010年02月06日
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先月読んだ本をまとめてみました。最近、江戸時代の浮世絵が、マイブーム。もともと時代小説が好きなのですが、文章だけではなかなかイメージしにくい着物の柄や髪型などの装いのディテールを知りたくて、いろいろ探して読んでみました。「絵で見る江戸の女たち」著者:原田 伴彦,百瀬 明治,遠藤 武【内容情報】(「BOOK」データベースより)江戸時代、版本などに描かれた市井の女性の日常。装い、学び、育て、働く姿を、350点余の収録図版とともに振り返る。 やはり、ビジュアルで説明されると、イメージしやすくわかりやすいです。読了日:01月02日 図説浮世絵に見る色と模様 「図説 浮世絵に見る色と模様」近世文化研究会江戸時代の着物の流行の変遷を浮世絵から知る、という1冊。江戸初期の派手な模様や色合いは上方主導。それがだんだん中期後期となるつれに、地味ながら渋く粋になっていきます。これがいわゆる江戸好み。そういう、その東西の違いは今も残っているなあと思う。関西に行くと、女性の装いは派手……じゃなくて華やかですものね。また、当時のファッション・リーダーは、歌舞伎役者。弁慶格子、路考茶、市松模様……彼らの舞台衣装として考案した柄や色が、そのまま市井の流行となっていくさまはおもしろいです。ちなみに、弁慶格子は、今で言うギンガムチェック。路考茶は、モスグリーンに近い茶。市松模様は、今もそのまま使われる言葉ですね。読了日:01月11日 江戸のきものと衣生活「日本ビジュアル生活史 江戸のきものと衣生活 」著者:丸山 伸彦【内容情報】(「BOOK」データベースより)江戸人のセンス、技術、工夫に驚嘆する。オールカラー、収録図版300余点。江戸のきものの発展から、生産流通、文化まで、すべてがわかる初めての本。 職業別の装いや髪型の違いなども興味深い。また、各地の特産品である絣、また絹、麻、綿以外の素材の着物(紙とか!)とか、着物はほんとに奥深い。江戸時代の着物は、普段着でもあるし、流行の移り変わりもあるし、かなり自由で意趣に富んでいるものだなとつくづく感心。今は、着物そのもののが伝統文化になってしまって、決まりごとばかり。昨今は、「モダン着物」が小ブームなったりしてますが、強力なファッションリーダーというものは不在だし、大きな潮流となることはない……かな。読了日:01月25日 謎解き広重「江戸百」 「謎解き広重「江戸百」 」著者:原信田 実(集英社新書 ビジュアル版 4V)【内容情報】(「BOOK」データベースより)広重の有名な『名所江戸百景』、略して『江戸百』。絵葉書などで今でも大人気の、ご存知江戸浮世絵風景画のシリーズ。だが、実はこれは、単なる名所の紹介ではなく、ある意図を巧妙に隠し入れたジャーナリスティックな連作だったのだ。本書があぶり出すのは、安政の大地震から復興する江戸庶民の喜怒哀楽、そして安政の大獄や明治維新へとつながっていく江戸末期の社会の姿。豊富な資料を基に新説を打ち出した、著者一世一代の作。巻末には本邦初、制作月順の絵索引で全一二〇点を一挙掲載。 広重の「名所江戸百景」にひそかに描き込まれたコードを読み解くという1冊。描かれた時代背景を知って眺めると、浮世絵という2次元の世界に奥行きを感じます。テレビも雑誌もない時代、浮世絵は美術品ではなく、メディアそのものだったわけですね。色彩・構図、ともに斬新で美しい「江戸百」、画集が欲しくなりました。読了日:01月19日
2010年02月04日
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「ぼくと1ルピーの神様」ヴィカス・スワラップ 子安亜弥 (訳)(ランダムハウス講談社 )samiadoさんのブログでお勧めされていたので、さっそく読んでみました。私は観ていないのですが、アカデミー賞に輝いた映画「スラムドッグ$ミリオネア」の原作です。さすが、映画化されただけあって、波乱万丈でハラハラドキドキに満ちた本でした。お風呂で読んでいて、なかなか止められなくて、すっかり長湯になってしまいました。主人公は、インドのスラム街で育った無学で身寄りのない青年ラム。その彼が、大金をかけたクイズ番組でなんと全問正解してしまう。出題されるクイズの答えが、すべて彼の人生の端々で体得した知識だったのだ。……という偶然と奇跡の物語。……という、あらすじは、映画の宣伝などで、ご存知の方も多いかと。映画はどういう展開で描かれるか存じ上げません。小説では、詐欺容疑で逮捕されるラムが弁護士に無罪を訴えて、自分の生い立ちを語るという形式をとります。それが、あえて、時系列ではなく、クイズの出題に沿って語られるところが、ミソ。飛び飛びに提示される彼の人生が読んでいていろんな想像や憶測を生み、あちらこちらの散りばめられた伏線を拾って、パズルのピースをつなぎ合わせるような楽しみもあります。心憎い演出といったところです。しかし、本書のテーマは、「クイズに勝ち続ける幸運」とか「運命の大逆転」とか「人生の奇跡」とかではありません。それ自体は上手いツカミであり、読み手はひきつけられます。でも、実際に見せつけられるのは、「人生そのものの肯定」といったものじゃないかと。そして、「何をおいても生き抜くという力」も。過酷な生活の中、ラムは運任せに漂ってはいません。野良犬のような扱いを受けようとも、精一杯の知恵を働かせて数々の危機を乗り越える。時に不道徳で不法行為があろうとも、その賢くも逞しい姿はとても痛快です。そして、ラムの対峙する状況は、現代インドの抱えるさまざまな問題を反映しています。想像を絶する貧富の差や児童虐待、そしてカースト制度、宗教問題……。作者の本職は、インドの外交官とのこと。おそらく上流階級に属する人なのだろうと思われますが、そんな彼がこれだけの「インドの恥部」に触れている点でも、興味深いです。文章はとても読みやすく、中高生にもおすすめ。「自分の恵まれた環境をありがたく思え」というのではなくて、「世界は自分が思うより広い」ということを実感してみるのもいいんじゃないかと思います。映画も合わせてどうぞ。 『スラムドッグ$ミリオネア』/DVD出演:デーヴ・パテル/アニール・カプール/イルファン・カーン ほか監督:ダニー・ボイル脚本:サイモン・ビューフォイ
2010年02月03日
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「巨匠とマルガリータ」ミハイル A.ブルガーコフinalennonさんのブログで、絶賛されていたのを読んで、興味を持って手にとった1冊です。世界的名作(らしい)なのに存在さえ知らなくて、このまま一生知らないままで終わっていたかもしれない1冊でした。inalennonさんに感謝です。出会えて僥倖だったと実感の本でした。作者ブルガーコフについて、ざっくりと。スターリン体制化のソ連の天才作家。書いたものが片っ端から、体制批判と当局から睨まれ発禁処分。作家としては不遇のまま生涯を終えます。作品が再評価され、世に出たのは1960年代以降、彼の死後です。本作は、1930年代に約10年かけて執筆されたマジックリアリズム大作。宗教を否定した(正確にいうと教会の権威を否定した)ソビエト連邦。その中心の街、モスクワに降臨する悪魔とその子分たち。人々を惑わせ、時には殺し、破滅させる。街を破壊し、はたまた死者たちを集めて大舞踏会を催す。まさしく「悪魔のような所業」。なんだけど、なぜか痛快。だけど、めくるめく展開に、方向性も着地点も見当がつかない。読み手(私)も、幻惑されながらも、ページをめくる手がとまりません。そうこうしているうちに、ようやく主人公が登場。キリストを処刑したローマの提督ポンティウス・ピラトゥスの物語を書いた作家・「巨匠」。(もちろんあだ名に決まってますby阿久悠)共産主義国家で受け入れられるはずなく、心身ともに追い詰められ廃人寸前にある。その巨匠の恋人が、美しいマルガリータ。巨匠を救うためには、悪魔とだって取引するし魔女にだってなる。神を否定して、人間が人間を支配する社会。神はもはや救いの手を伸べることもない。かといって、信仰を説いているわけではないようなんだけど。寓意やアイロニーに満ちたこの作品は、やはり共産主義社会を痛烈に批判した書として、出版を認められなかったのも当然なのかもしれない。しかし、彼が皮肉った相手はイデオロギーに関係なく、20世紀に生きる人々すべてだったのかも。悪魔に翻弄される人々の滑稽で醜いざまは、民主主義の人だって変わらない。そして、一連の悪魔による混乱に対して、なんとか合理的かつ科学的解釈を試みる人々も因習や迷信を捨て去ったまさに20世紀(もちろん21世紀も)的われわれの姿。本当に「悪魔の所業」だったのに……。思わず、そうつぶやいてしまう読者も、実生活においては何か不可解なことがあったら、なんとか合理的説明を見出そうとするだろうし……。それが、いいとか悪いとかじゃなくて、われわれはこれからもそう生きていくのだろうということを見せ付けられているような……。……とりとめのない感想文になってしまいました。私の中では、まだまとまっていない状態です。いろんなことを考えさせられるというか、いろんなこと考えてもいいというか。でも、読みにくいということは全くなくて、ほとんど一気読みでした。映像化もされているようです。
2010年01月28日
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「ヘルプ! 4人はアイドル」1965年監督:リチャード・レスターイギリスビートルズの主演映画2作目。彼ら4人が、彼ら自身を演じるアイドル映画です。異国の邪教集団カイリ党の生贄の儀式に使用される指輪が、なぜかリンゴの手にわたってしまう。リンゴから指輪を取り戻そうとするカイリ党。手段を選ばないやり方は、かなり強引で乱暴。指輪の由来を聞いたリンゴは、彼らに返そうとするが、なぜか指から抜けなくなってしまう。そのため、カイリ党は、リンゴを生贄として付け狙うようになってしまう。一方、指輪を抜こうと科学者フートの手を借りようとしたリンゴたち。指輪は抜けないどころか、その特殊な素材が、フートの世界征服欲を刺激してしまう。かくして、指輪をめぐって、ビートルズの4人、邪教集団、マッドサイエンティストが三つ巴の攻防を繰り広げるのであった。果たして4人は、無事のレコーディングできるのか。……とまあ、そんなあらすじ。読んでおわかりでしょうが、かなりふざけたおバカ映画となっています。ナンセンスなストーリーに、ナンセンスな映像展開、ナンセンスなギャグ。嬉しくなるほど、ツッコミどころ満載で、わたし的にはかなりツボです。笑いは、バカバカしいながらもけっこうブラックでもあり、その辺は英国的です。「モンティ・パイソン」が好きな人なら、楽しめると思います。もちろん、ビートルズのアイドル映画なので、彼らのアイドル映像やサウンドも随所に挿入。アルプスでスキーや橇にいそしみ、バハマで海辺のリゾート。まるでグラビア・アイドルのイメージDVDのノリです。(水着ショットはないけど)ちなみに挿入される曲はヘルプ!-Help! 恋のアドバイス-You're Going to Lose That Girl 悲しみはぶっとばせ-You've Got to Hide Your Love Away 涙の乗車券-Ticket to Ride アイ・ニード・ユー-I Need You ザ・ナイト・ビフォア-The Night Before アナザー・ガール-Another Girl
2010年01月21日
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前回に引き続いて、昨年読んだ本からのチョイス。今回は、海外編です。といっても、日本の作品ほど数多く読んでいないので、ベスト5といたします。いずれも、深い感動を覚えた作品ばかり。日本編と合わせたら、こちらの5冊が上位を占めてしまうくらいです。(だから、分けたわけで……)5位「くらやみの速さはどれくらい」エリザベス・ムーンカテゴリーは、近未来SFとなりましょうか。21世紀版「アルジャーノンに花束を」として賞賛され、2004年ネヴィラ賞受賞。自閉症者ルウの視点で描かれる世界が、新鮮な驚きに満ちています。当たり前に存在していた事象を別な面から光を当て直したような、目が覚めるような感動がありました。読み終えるのがもったないと思えた本。4位「見知らぬ場所」ジュンパ・ラヒリインド系移民(主に2世)を描いた短編集。静かな日常のなかにおいて人々の間に生じる機微が丹念に描かれ、言葉に表現されない感情にはっとさせられます。そして、いずれも得がたい余韻が胸に残ります。3位「タイタンの妖女」カート・ヴォネガット’59年に発表されたヴォネガットの代表作(これは昨年発行の新装版)。滑稽で残酷で、おまけに虚無な「運命」に翻弄される人々を描いたSF。筆致はシニカルかつユーモラス。なのに読んだ後、なんとも言いようもない感動が、じわじわ、じわじわ、じわじわ……。ちなみに爆笑問題の大田光がヴォネガット作品の大ファンで、解説を書いてます。 2位 こちらは映画のDVD【中古】【古本】シービスケット あるアメリカ競走馬の伝説「シービスケット あるアメリカ競走馬の伝説」ローラ・ヒレンブランド1930年代後半、アメリカ全土を熱狂させた伝説の名馬シービスケットとそれに関わった人々を描いたノンフィクション。ノンフィクションでありながら、小説仕立ての臨場感あるものになっていて、とても引き込まれました。競馬とは、速く走ることができる馬たちを半ば強要して競わせるものではない。「誰よりも速く走りたい」という馬たちの本能を最高の状態で引き出してあげることを競うものなのだ。……と、読んでいて強く実感しました。競馬に対し、今ほど科学的アプローチがないだけに、人々の情熱の強さに圧倒されます。 1位 「また会う日まで」ジョン・アーヴィングアーヴィングの自伝的要素満載の長編。一言でいうならば、アーヴィング版「父をもとめて3千里」。長いです。特に上巻は、冗長なまでの長さです。主人公少年期のイタ・セクスアリス部分はうんざりするほどです。しかし下巻になると、その長さが意味ある長さであったことを実感し、まるでオセロのコマをひっくり返すような急展開は、一流のミステリーを読むような快感を覚えます。そして、荘厳で美しいラスト。まるでフルマラソンを走り抜いた者だけにしかわからない(走ったことないけど)、至上の幸福感に包まれました。とても長い旅を終えたような心地よい疲れに、充足感も覚えます。
2010年01月07日
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昨年読んだ本から、ベストテンを選んでみました。今回は国内編。10位「八番筋カウンシル」津村記久子大阪のさびれかかった商店街を舞台に、人生の岐路に立つ幼馴染の3人を描く。地味な物語なのに、おもしろいと思わせる作者の筆力に感服。9位 「テンペスト」池上永一幕末期の琉球王国が舞台のジェット・コースター大河小説。「チャングム」と「リボンの騎士」と「蒼穹の昴」……を足して割ったような……。8位 「隠蔽捜査」「隠蔽捜査2 果断」今野敏警察庁キャリアの竜崎のキャラクターが痛快なシリーズ2冊。3巻目も出ているけど、私としてはイマイチだったので、あえて2冊。7位「ジョーカー・ゲーム」「ダブル・ジョーカー」柳広司日本帝国陸軍内に誕生したと諜報組織―通称D機関のスパイたちの活躍描いたシリーズ。アクションなし、色恋なし、秘密兵器なし、……007とは対極なスパイたちの姿にしびれます。6位 「新世界より」上下貴志佑介1000年後の世界(日本)が舞台のSFホラー。博覧強記の作者の知識を駆使して描かれたエンターテイメントであり、まさに大作。ノスタルジックでありながらグロテスクで、怒涛の展開ながらアイロニーに満ち、最後の最後まで気が抜けない小説でした。5位「錏娥哢〔タ〕(あがるた)」花村萬月一言で言えば、時代伝奇ロマン。忍者小説であり、アクション冒険小説でもあり、ナンセンスコメディーでもあり……。いやもう、脱力するくらい楽しいです。エログロ度高しですが。4位 「チョコレートコスモス」恩田陸恩田版「ガラスの仮面」。かなり前に1度読んでいて、これは再読。それでもおもしろかったです。私的には、恩田作品のベスト3に入る作品。3位 「獣の奏者」全4巻(1闘蛇編 2王獣編 3探求編 4完結編)上橋菜穂子子供だけに読ませるのはもったいない壮大なファンタジー。こういう異世界物はあまり読まないのだけど、すごく引き込まれました。愛と寓意に満ちた稀有な物語。2位「モダンタイムス」伊坂幸太郎ある言葉を組み合わせてネットで検索すると、死が訪れる。そんな都市伝説みたいな事件に巻き込まれる主人公たち。「魔王」「呼吸」の続編にあたり、社会のシステムについて考えさせられる1冊。読んでいて思ったのは、「テーマが村上春樹っぽい」。もちろん、伊坂幸太郎なので、よりテンポよくポップで、痛快で、きちんとすっきり終わる小説になっています。 1位 「1Q84」(book1、book2)村上春樹「やはり、お前もか」と言われそうですが、やはり「1Q84」。book3の発売が待たれます。
2010年01月05日
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引き続き、「先月読んだ本」の3回目。これでおしまいです。さっさと終わらせて、昨年の年間ベストをやりたいです。 ストロベリーナイトソウルケイジ■「ストロベリーナイト」 読了日:12月20日■「 ソウルケイジ」 読了日:12月14日 シリーズ物2冊。若き美人警部補姫川玲子を中心とした警察小説。うっかり、2作目を先に読んでしまいました。ストーリーはそれぞれに完結しているのだけど、2作目ではいない登場人物が実は1作目の途中で……ということを先に知ってしまったので、ちょっと失敗したな、と。「ストロベリーナイト」は、猟奇的連続殺人を追った内容。(猟奇殺人系は苦手なので、殺人シーンは飛ばし読み)「ソウルケイジ」は、死体なきバラバラ殺人事件。(こちらの方が、描写はソフト)どちらもスピーディーな展開で、だれることなく読み進めてしまいます。姫川警部補の神懸り的推理が、ミステリー慣れしている読者たちの思考速度に合わせてストーリーの無駄を省いているのです。もちろん、そうした警官らしかぬ主人公の姿にツッコミを入れる同僚刑事がいるので、フォローも万全。ついで言うと、主人公より、彼女のライバルにあたる刑事たちの方が私は好きです。 著者:誉田 哲也 ダブル・ファンタジー■「W/F ダブル・ファンタジー」あらすじを書くのがめんどうなので、コピペ。【内容情報】(「BOOK」データベースより)奈津・三十五歳、脚本家。尊敬する男に誘われ、家を飛び出す。"外の世界"に出て初めてわかった男の嘘、夫の支配欲、そして抑圧されていた自らの性欲の強さ-。もう後戻りはしない。女としてまだ間に合う間に、この先どれだけ身も心も燃やし尽くせる相手に出会えるだろう。何回、脳みそまで蕩けるセックスができるだろう。そのためなら-そのためだけにでも、誰を裏切ろうが、傷つけようがかまわない。「そのかわり、結果はすべて自分で引き受けてみせる」。 ……なんていうか、果てのない話だなあ、と。テイストは違うけど、昔観た映画「エマニュエル夫人」を思い出してしまいました。どちらも、求道的という点では、似てると言えます。外交官夫人のエマニュエルは、性愛の世界の目覚め、タイでいろんな人とやりまくって(表現が下品ですみません)、現地の人間(つまり黄色人種)ともやった挙句に、勝ち誇る。「わたしは自由になったのよ」そして映画が終わる。(てな、展開だったと記憶する)そして、その後、何編か続編が作られる(観てないけど)。こちらの主人公・奈津は、自由恋愛に明け暮れ、これまたやりまくった挙句に、悟る。「自由はさびしい」……きっと、性愛の極みを求めて突き進む道は、真っ白な灰になるまで彷徨するしかない孤独なものなのだろう、と想像すると、やはりさびしいかもなあと。(という解釈で、いいのか?)本書は、そんな性愛シーンの多さが話題になったとのこと。確かに多いけど、きちんとした描写ゆえか、そんなにエロという感じではないです。大御所・渡辺純一先生の「男の妄想世界」と比べて、より現実的というか身も蓋もないというか。それよりか、たとえば奈津と夫の会話やかけひきの方が、よほどスリリングでドキドキします。穏やかに支配被支配の関係に陥って、息苦しくなっていく夫婦関係の描写はリアルで上手いです。おかれている立場も全然違うのに、すごく感情移入もするし、なんだか身につまされそうな気にもなってくるから、その辺が作者の筆力というものなんだろうと思います。読了日:12月21日著者:村山 由佳 映画×東京とっておき雑学ノート■「映画×東京とっておき雑学ノート-本音を申せば」「週刊文春」に連載中のコラムの単行本化。本書は07年に連載された分が収録されています。小林信彦氏は、私が中学生のころからファンで、彼の小説やコラムを読んで古い洋画や60年代70年代のサブカルチャーなどを学んでおりました。10代の人格形成期に、いちばん読んだかもしれない作家なので、物の見方などかなり影響受けているなあと、今もなお彼の著作を読むたびに実感します。読了日:12月29日 著者:小林 信彦死体に聴け■「死体に聴け - 監察医という驚くべき仕事」ミステリーを読んでいると、よく登場する監察医と呼ばれるお医者さん。なんとなくわかっているつもりでしたが、思い違いしてることも多々ありました。監察医制度というシステムは、思ったより私たちの生活に身近なもののようです。それだけに一部の都市に限られてしまう監察医制度が全国に広がればいいと思うけど。読了日:12月30日 著者:上野 正彦
2010年01月04日
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先月読んだ本のまとめ、の続きです。 獣の奏者(3(探求編))獣の奏者(4(完結編))■「獣の奏者 (3)探求編」■「獣の奏者 (4)完結編」壮大なファンタジー。「闘蛇編」「王獣編」の2冊で一度完結した物語を、さらに押し広げて描かれた「探求編」と「完結編」。作者があとがきでも述べているように、物語は視点が変わります。「闘蛇編」「王獣編」は、エリンと王獣リランという個と個のつながりの物語。それに対して、「探求編」「完結編」は、視点はもっと上から俯瞰したものになって、滔滔と流れる時間の中の生きる人々や獣の姿を描くスケールの大きい物語に転じています。いつの世にも通じる人の営みを描いているがゆえに、物語の着地点はおぼろげにわかってしまう。それでも、物語の強さや、そのうねりのようなものに圧倒されずにはいられません。そして、いずれは歴史の中で埋もれていくであろう個々の生の輝きに、胸が締め付けられ、涙してしまいます。読了日:12月15日 著者:上橋 菜穂子 アントキノイノチ ■「アントキノイノチ」人の悪意に蝕まれ心を病んだ青年が、遺品整理という仕事に就いて奮闘する姿が描かれます。主人公が、死者に対してさえ誠実であろうとする人々の姿に触れ、自分を見つめ直し、未来に生きる力を得ていく過程が、とてもすがすがしくて、感動的です。ラストの旧友との再会シーンは、TPOともにちょっと都合よすぎるのでは?でも、あのシーンがなければ読者もわだかまりを残してしまうだろうなあと思うから、やはり必要かも。読了日:12月15日著者:さだ まさし挑戦するピアニスト■「挑戦するピアニスト 独学の流儀」著者は、社会人ピアニスト。プロと違い限りある練習時間の中で、いかに効率よく曲を理解し、暗譜し、マスターしていくかということを、とても論理的に述べたピアノ演奏方法論となっています。楽曲分析部分は専門用語が多くて難解で、ちっとも読み進められないのですが、それでも現在ピアノを学んでいる身には参考になるところも多々。もちろん、理論がわかったからといって、弾けるようになるわけじゃないけど……。読了日:12月16日著者:金子 一朗 小泉武夫 微生物が未来を救う-別冊 課外授業ようこそ先輩 ■「 微生物が未来を救う-別冊 課外授業ようこそ先輩 」小学生に向けた内容(NHK「課外授業ようこそ先輩」の放送分を編集)なので、発酵学入門書としてとっかっかりがいい1冊。小泉先生の研究に対する情熱や愛情が随所にうかがえ、とてもうらやましくなります。読了日:12月17日著者:小泉武夫あともう1回続きます。
2010年01月02日
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あけましておめでとうございます。元日にブログを更新するなんて、何年ぶりのことでしょう。今年は、もうちょっと更新回数を増やしたいものです。(昨年の更新回数、19回……)さて、月初は恒例の先月の読んだ本のまとめです。本当は、読書以外のことも書きたいのに、更新19回じゃ、なかなかほかのことまで書き切れません。12月の読書メーターより読んだ本の数:14冊読んだページ数:5154ページ非道、行ずべからず■「非道、行ずべからず」江戸の芝居小屋で起きた殺人事件を描いた時代ミステリー。ミステリー自体より、江戸期の歌舞伎の世界を堪能しました。伝統芸能の担い手として、お高いところにいる現代の歌舞伎とはまったく違います。猥雑なエネルギーに満ちていて、もてはやされているけど、同時に蔑まれている。(身分制度のあった時代ですから)華やかだけど、隠微。(陰間とか役者買いとか……)芝居が当たるか否かで、一座の存亡に関わるあたり、当時の芝居小屋の太夫元(座長&興行主)ってNY・ブロードウェイのプロデューサーに近いのかも。読了日:12月01日 著者:松井 今朝子 秋から、はじまる■「秋から、はじまる」甘ったれな女の子(25歳)に目から見た、おば(47歳)の恋。主人公で語り手の「女の子」は、他人の努力の結晶を「ラッキー」の一言で片付けたり、賞味期限を過ぎた40代女性は恋愛するなんてことはありえないと思っている。そんな無知で驕り高い若さに腹立たしいと思いながらも、かつては自分だってそんな若者だったのだろうし……たぶん。それでも、若さとは、「よりよく成長することも可能だ」ということに希望の持てる、ほのぼのした筆致の小説です。読了日:12月03日著者:喜多 由布子ほしのはじまり■「ほしのはじまり-決定版 星新一ショートショート」星新一のショートショート・アンソロジー(新井素子・編)。中学生ころ、星新一を夢中で読んだ時期がありました。それ以来、全然読んでいなかったのですが、ウン10年ぶりに読んで、同じように、いや昔以上に楽しめました。今も作品がまったく古びず普遍的なものになっていることに驚嘆です。「時事風俗を描かない」という作者のポリシーもあったし、作品発表後も何度も表現に手を加えていたりもしていたそうです。(例「電話のダイヤルを回す」→「電話のボタンを押す」)それでも、昭和30年代40年代に書かれた小説のエッセンスや寓意性は十分に今の時代の読者に響くのです。中学生当時、いまいちおもしろさが理解できなかった「殿様の日」。その「上手さ」に気付けたことも含めて、大収穫の読書体験でした。読了日:12月11日著者:星 新一道絶えずば、また■「道絶えずば、また」シリーズ一作目「非道行ずべからず」では、どちらかというと時代ミステリーとして楽しむよりは、芝居という魔力に魅入られた男たちの修羅の世界を堪能したという感じでした。で、今作。たぶんミステリーとしては、こちらの方が練れているし、読みやすい。読んでいて引き込まれる。でも描かれる世界が、芝居小屋にととまらず怪しげな宗教組織にまで広がってしまい、その分、芸道に血道を上げる人々の狂気、みたいなものが薄まってしまったような気がします。読了日:12月13日著者:松井今朝子ということで続きは、また後日。
2010年01月01日
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「先月読んだ本」の続きです。最終目的地■「最終目的地」 (新潮クレスト・ブックス)ウルグアイの片田舎に住む、自殺した作家の妻と愛人とその娘、作家の兄(ゲイ)とその恋人。世界の果てのような土地で、時間を止めたかのように緩慢に生きている彼らの人生が、作家の伝記を手がけたいと希望する青年の訪問をきっかけに動き出します。現代小説なのに、裏表紙に評されているように英国古典小説的味わいです。その上、明確にイメージしにくい南米の土地に多国籍な登場人物たち、という組み合わせには、現実離れした浮遊感も覚えます。さらに、登場人物の内面描写を抑えて会話によってうまくストーリーを運ぶ手法も、滑らかで軽やかです。波乱に満ちたストーリーというのとは対極的な「さざなみ」程度の物語。(登場人物には、「大きなさざなみ」でしたが)だけど、人物の感情変化の表現が絶妙です。その感情のゆれを実感できるだけで、楽しいと思えます。するするとあっという間に最終ページ。心地よい読書体験でした。読了日:11月25日 著者:ピーター キャメロンわが子に教える作文教室■「わが子に教える作文教室」 (講談社現代新書)清水先生っ、この本の通りに実行したら、うちの子の作文能力もなんとかなりますでしょうかっっ(必死)読了日:11月26日 著者:清水 義範みなさん、さようなら■「みなさん、さようなら」団地の敷地から一歩もでることなく、成長する少年。団地という、まるで小宇宙のような、または母親の胎内のような、繭の中のような、そんな閉じられた空間が舞台というのが新鮮でした。団地の興隆と衰退という時代の移り変わりと共に、主人公の世界の移り変わりが描かれるのだけど、普通ならありえない設定での「しばり」の中で、ちゃんと小説的リアリティが成り立つもんだなあと感心しました。読了日:11月26日 著者:久保寺 健彦ラン■「ラン」ファンタジー小説とスポーツ青春小説との融合。主人公がマラソンを始める理由は、たぶん古今東西あらゆる小説の中で唯一じゃないかと思われます。きっかけはなんであれ、走り始めて、走り続けると(または何かを始めて、それを続けていくことで)、停滞してたものが変わっていくのかもしれない、ということに希望が持てます。人は知らず知らずに自分の不幸に依存してしまうのかもしれない。そのことに自覚的であろうとも思いました。読了日:11月27日 著者:森 絵都
2009年12月06日
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先月読んだ本の続きです。冠・婚・葬・祭■「冠・婚・葬・祭」冠婚葬祭、つまり成人式、結婚、葬式、先祖供養、をテーマにした連作集。それぞれに、誰にでも訪れる人生の「ハレ」の場面を描いて、家族や人々のつながりにホッとさせられるお話となってます。それぞれの話の登場人物が、ちょっとずつリンクしているところも、細かく楽しめました。(最後まで読んで、また1話目に戻って確認、みたいに)読了日:11月20日 著者:中島 京子三月の招待状■「三月の招待状」大学時代の仲間同士の5人の男女。それぞれに青春時代の栄光と挫折を引きずり続けた彼らの卒業13年目の「青春時代からの卒業」。付き合いの長い彼らに決して美しい友情だけがあるわけなく、互いが互いを上から目線で見ているあたりも、いかにも「角田光代の小説」という感じです。いやだなあと思いながらも、かといって否定し切れないリアルさが、ついつい彼女の小説を読んでしまう一因だなあと思います。彼女の小説を何冊も続けては読めないけど。読了日:11月22日 著者:角田光代いっちばん■「いっちばん」きちんと調べて読んでいないので、これがシリーズ何冊目なのか、ちょっとわからないし、もしかしたら途中うっかりと抜かして読んでしまっているかもしれません。そもそも、シリーズ第1作目「しゃばけ」を読んだ時に思ったこと。「自身の存在のあり方にブレのない妖と、どうしても悩むし弱いし罪を犯してしまう人間、という対立構造と、その中間に位置する若旦那の成長」というのがテーマで、このテーマでシリーズが進むのだろうな、ということ。よって、「悩める人間」や「悪意ある人間」が登場しない話になってしまうと、単なる幼稚なお化け小説になってしまうのです。それだと、やはり物足りないというか。何しろ、妖怪たちは、自分たちの存在目的が特化している単純生物(?)。だから、彼らが存在自体に疑問を持つことも苦悩することも基本的にはない。そんな彼らだけしか登場しない話だと、ただの騒々しい話に終始してしまう。どこにも共感や感情移入もできないままに。そういう意味では、ここに収録されている「天狗の使い魔」は、「物足りない」。「妖同士の揉め事は勝手にやってくれ」という気になってしまいます。でも、「餡子は甘いか」は、「不器用で大いに悩む人間」と「器用だけど、器用ゆえに悪事を重ねる人間」が贅沢にもダブルで登場。ちょっと妖怪色は薄かった(それはそれで、ちょっと物足りないが)けど、久々に初期の「しゃばけ」シリーズに見出したおもしろさを味わえました。ほろりと泣けました。読了日:11月22日 著者:畠中 恵続く。
2009年12月05日
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先月読んだ本について、ざっと振り返ります。海霧(上)海霧(中)海霧(下)■「海霧」明治から昭和にかけて、北海道・釧路の地に一代で大商店を築いた男と家族の3代に渡る盛衰が、街の発展とともに描かれます。かなりの長編で、しかも密度も濃くて、読み通すのになかなか時間がかかりました。といって、読みにくいというのではなく、いったん読み始めたらなかなか止められなくて、連日睡眠不足になってしまいました。明治時代の北海道の開拓史や、戦前の商家の様子など、ほとんど知らないことばかりだったので、そういった意味でも読む楽しみ倍増でした。読了日:11月06日 著者:原田 康子大奥二人道成寺■「大奥二人道成寺―お狂言師歌吉うきよ暦」シリーズ2作目。今度は大奥の権力争いに巻き込まれるお狂言師・お吉。シリーズ化したためか、主人公を挟んだ三角関係の決着は、つかぬまま。私は、宗助さんの方がいいな。読了日:11月09日 著者:杉本 章子切れない糸■「切れない糸」 (創元推理文庫)父の急死をきっかけにクリーニング屋をついだ青年が、商店街の中で成長していく姿を描く、日常の謎系ミステリー。主人公に共感しながら読むというよりは、見守る気分(年ですかね)。クリーニングの薀蓄は、ためになります。読了日:11月11日 著者:坂木 司ダブル・ジョーカー■「ダブル・ジョーカー」「ジョーカー・ゲーム」の続編。D機関(帝国陸軍内にできた諜報機関)のスパイたちが敵(身内である場合も)を出し抜く姿が痛快なのは前作同様。今回は敵側からの視点でストーリーが展開するだけに、D機関の動きはまさに鬼出電入という感じです。「007」とは対極のスパイのあるべき姿に、しびれます。なりたくはないけど。というか、なれないけど。読了日:11月14日 著者:柳 広司発展コラム式中学理科の教科書(第2分野)■「発展コラム式 中学理科の教科書 第2分野(生物・地球・宇宙) 」(ブルーバックス)検定教科書で扱う内容の加えて、国際的水準ではこの程度のことは知っておきたいという発展的な項目も加えてある中学理科教科書。しかし、この本を大半を占めるのは、「発展」部分なのです。昨今の若者の理科離れの一因は、そもそも彼らが「理科」という教科に触れていないところにあるのでは?と思わせます。私が「中学で習ったよなあ」と記憶することも、今は学校で教わっていないようだし。もちろん、習ったからといって私の今の生活に直接役立っているわけではありません。でも、初めから出会うこともなければその分野に一生を捧げようと思い立つ未来の博士も技術者も生まれないわけです。以前に「1分野」も読んだけど、第2分野の方が、やはり文系人間には理解しやすいです。読了日:11月18日 廃墟建築士■廃墟建築士「建物」がテーマのシュールな4篇。いずれも非日常の世界を描きながらも、現実の行政システムや社会風潮にうまくかみ合って、不思議なリアリティに満ちています。淡々とした味わいながら、読後に切なさといったような余韻が胸にじんわり残りました。読了日:11月19日 著者:三崎 亜記続く。
2009年12月04日
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「サイドウェイ」(2004年 アメリカ)出演: ポール・ジアマッティ(Paul Giamatti)/トーマス・ヘイデン・チャーチ(Thomas Haden Church) 監督: アレクサンダー・ペイン(Alexander Payne) 最近は、日本人キャストによってリメイクされた「サイドウェイズ」が公開されてますが、こちらは、そのオリジナル。アメリカではさまざまな賞を受賞し、アカデミー賞でも主要5部門ノミネートされ、脚色賞受賞という華々しい経歴をもつ映画です。が、映画自体は淡々として地味です。地味さをしみじみ味わうための映画となっているからです。マイルスは、結婚式を1週間後に控えた親友のジャックと、カルフォルニアのワイナリーめぐりとゴルフ三昧という中年男2人の気ままな旅に出る。さまざまなワインを試飲して、カリフォルニアの乾いた美しい景色を堪能しながら車を走らせ、出会った女性たちと美味しいワインと食事を楽しみ、つかの間の恋も生まれる。そんな1週間の旅のようすが淡々とそしてコミカルに描かれるロード・ムービー。美しい風景に、ちょっとリッチなモーテルに、おいしいワイン……、優雅な旅を描いた映画と思いきや、じつは赤ワインのように渋み……といえば聞こえがいいが、ほろ苦さに満ちてます。主人公マイルスは、小説家志望の国語教師で、2年前の離婚のショックから立ち直れないでいる。立派な中年で、腹は出ているし、髪の毛もこころもとない量である。金だってたいして持っていないし、逆に持っているのはワインのありあまる知識。いろんな意味で自信喪失中で、ネガティブシンキングで、恋にも臆病な、典型的なダメ男ぶり。書き上げた本の出版を出版社に打診中で返事待ちであるというのが、今現在の希望の光。結婚式を控えているのに関わらず女性漁りに精出しているジャックだって、かつてはTVスター俳優だったが、最近はパッとしない。だが、マイルスとは正反対な陽気な性格で前向きだし、過去の栄光もナンパの小道具に使ってしまうほど、お気楽。もちろん、人生の岐路に立っていることは意識してもいる。若くない2人だから、その場の勢いのままに人生を変えることはできないし、小心になってしまうし、小ずるい振る舞いもしてしまう。コミカルな映像に中にも、そんな中年の悲哀のようなものが、ちょこちょこと画面ににじみ出ていて、2人の様子を笑いながらも、それは苦笑交じりになってしまう。たぶん、それは見ている自分も彼らとさほど変わりない年齢で、彼らのダメダメぶりを素直に笑えないことに気づいているから、なんだけど……。誰にだって1つや2つ、夢や希望がある。10代、20代はそれを叶えようと夢中で過ごしていけるが、人生の半ばを過ぎた頃には、それまで抱いていた夢や希望の多くが叶わないことを知り、人は愕然とする。自分に残された人生の短さを知って焦りもする。単調な日常の中で息も詰まる。なかなか現実を直視することは難しい。でも、次の一歩を踏み出すためには現実の自分をまず、ありのままに受け入れなければならない。そのためには、ちょっと立ち止まってみること、「人生の寄り道」も必要だ。「サイドウェイ」は、まさにそんな「人生の寄り道」を描いた映画である。(「サイドウェイ」公式サイトより)私が若い時に観てたら、たいしておもしろくもない映画なんじゃないかと思います。いじいじした中年男の魅力なんて、全く見出せないと思います。あの魅力的で美しいマヤが、なぜマイルスに惹かれるのか、今もちゃんとわかっているとは言い難いです。だけど、哀れでさえないマイルスが愛すべきキャラクターであることは、やはりわかります。たぶん日本人ゆえにか、やはり陽気なジャックよりもマイルスにより感情移入することになるのだろうとも思うのです。おまけに、本国アメリカであれだけ高い評価を受けたということは、実は、勝つことばかり求められていてヒーローばかりもてはやされる彼の国でも、大半の人々は「マイルス」なのかもしれません。そして、映画に出てくるさまざまなワイン。成功ばかりしている人生じゃなくても、おいしいワインを大好きな人々と飲んで語り合える時間を過ごすことができるならば、決して不幸ではないと思わせる映画にもなってます。ミルクティーを飲みながらのDVD鑑賞でしたが、ワイン(特にピノ・ノワール種)が飲みたくなったのは言うまでもありません。【2006】ヒッチング・ポストコルク・ダンサーピノ・ノワールサンタ・バーバラ・カウンティヒッチング・ポストハイライナー ピノ・ノワールサンタ・バーバラ・カウンティ[2005] 750ml
2009年11月17日
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テレビ東京のお昼のロードショーでやっていたのを観ました。「シャレード」(02年)監督:ジョナサン・デミオードリー・ヘップバーン主演の名作「シャレード」(‘63年)のリメイク、……なんだけど、結構不思議な出来になってます。離婚を考えていた矢先に、夫の死に見舞われた妻。殺された夫が実はスパイで、妻にさえ正体を明かしていなかったことに愕然とする。その夫がかつての仲間を裏切って独り占めした大金をめぐって、その仲間たち、合衆国政府の役人、フランス警察が彼女につきまとう。金のありかはどこなのか、誰が夫を殺したのか、謎を解く鍵を求めて彼女も右往左往。そして、夫の死の直前に旅先で出会った謎の男に対して疑心暗鬼になりながらも、恋に落ち……。……という、パリを舞台にお宝争奪戦が繰り広げられるサスペンス・ムービー。という骨格はオリジナルと同じで、時代を現代に移したものになってます。大金のありか、も同じです。ただし、オリジナルでは25万ドルだったのが、600万ドルに跳ね上がっているところが現代的。しかし、なんというか、観ていて「私は何の映画を観ているのだろ」という気にさせられる映画です。不可思議なシーンが随所に現れるもんだから、観ていて白昼夢の世界にいざなわれているようです。それって、ヘップバーンのおしゃれ感満載のオリジナルに対抗してなのか。はたまた、舞台がパリだから、フランス映画へのオマージュを決め込んだのか。意図はとくわからないけど、よく言えばサービス映像満載ってとこだけど、つまりは、いろいろやり過ぎた感が否めない映画なのです。オリジナルにおいては、オードリー・ヘップバーンがなにしろ「妖精」といわれた女優だけに、ふつうにサスペンスを製作しても、どこか現実離れしてオシャレでコミカルな得がたい魅力がスクリーンにあふれます。それをリメイクしようとすると、こんなことしなくちゃいけないのかと思わせる暴挙にでることになってしまうようなのです。たとえば、こんなシーン。例1、登場人物がホテルの部屋で、シャア・アズナブール(もちろんシャンソンの大御所で、赤い彗星のシャアではない)のCDをかけると、窓の外にご本人が登場して歌い出す。(よく、本人が出演してくれたと、そっちが驚きだが)例2、ナイトクラブのようなところで、敵味方が一緒になってタンゴを踊りだす。なんだかインド映画のノリのようなシーンが、ストーリーに独立することなく組み込まれてしまうあたり、なんともはや。せっかくのサスペンス感がゆるみまくり、です。おまけに、映画監督のアニエス・ヴェルダが、切れた未亡人役として主演(友情出演?)するあたりで、もはやこれはブラック・コメディーなんではないかと思わせてしまうのです。ラストあたりの彼女が監獄の給仕係として登場するシーン、何かほかの映画のオマージュ(見たことある気がするけど、思い出せない)となっていると思えるのだけど、まったくストーリーには関係ありません。しかし、彼女の迫力あるアップで、気の毒にも主役たちの存在もこれまでの映画のストーリーも見事に吹っ飛んでしまいます。それに畳み掛けるように、またもやシャア・アズナブールが登場、最後にも赤いバラを持って歌って、映画を締めくくってくれます。すごく脱力します。そうそう、キャストについても書いておかねば。オードリー・ヘップバーンが演じたレジーナ役は、タンディ・ニュートン。私は知らなかったのだけど、「ミッション・インポッシブル2」でヒロインを演じたイギリスの女優さんだそうです。黒人と白人のハーフで、スリムでキュート。ヘップバーンとはもちろんぜんぜん似ていないのだけど、バリバリの白人体系の女優がやるよりは、いいのではないかと思われます。かつて「麗しのサブリナ」のリメイクで、ジュリア・オーモンドがサブリナ役をやったとき、あまりのイメージの違いに愕然となりました。彼女が悪いというのではなくて、オードリー・ヘップバーンが白人女性として特殊ということなのでしょう。そういう意味では、タンディ・ニュートンは「妖精」ではないけど、小作りでスリムでキュートで、目が大きくて豊満なセクシー系じゃない、という点で、評価できます。そもそも人種も違うので、わりきれるという気もします。ケーリー・グラントが演じた謎の男ピーター・ジョシュアは、こっちではジョシュア・ピーターズとなってマーク・ウォルバーグ。往年のハリウッドの典型的二枚目に対して、ちょっと猿顔で二枚目といっていいのか微妙ともいえる俳優の起用。現代では美男美女の基準が多様化しているということなんでしょう。おかげで、謎めいた雰囲気はあまりない男にはなってましたが。ついでにウォルター・マッソーが演じたバーソルミューは、ティム・ロビンス。彼もこんな映画に出るんだなあと。ヒロインが無国籍風になったので、それにあわせて、その他大勢様も他国籍に。夫の昔の仲間、白人男3人組は、リメイク版では白人男、黒人女、アジア系男の組み合わせに。そんなかんだで、異国情緒豊かな(アメリカ人にとって)パリを舞台にした無国籍映画となった「シャレード」でした。たぶん、主役2人が現代的な雰囲気の俳優の器用なので、もっとオーソドックスな現代ハリウッド的アクションサスペンスとして製作すれば、それはそれで形になったような気もするけど……。まあ、本邦未公開作品だった、というのも頷けます。
2009年11月11日
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続きです。(これで終わりです)「大きなかぶ」はなぜ抜けた?■「大きなかぶ」はなぜ抜けた? (講談社現代新書)民話を知るということは、その民族を知るとっかかりになるということ。日本にはあまりなじみのない、中央アジアや朝鮮半島の英雄伝にも触れていて興味深い。また日本各地の桃太郎伝説についても意外に歴史が浅く、「村おこし」に利用されたことなんかも知らなかった。全体としては、いろんな研究者による世界の伝承学ガイドといった感。読了日:10月21日 著者:小長谷 有紀http://book.akahoshitakuya.com/cmt/3496272■江戸女の色と恋―若衆好み (学研グラフィックブックス)江戸の女性の若衆(ここでは女装の美少年)好みについて言及。さまざまな春画とともに実例が挙げられるので、そちらにもそれなりに興味津津。ただ着衣のままの、というものが多くて、江戸の人は裸体そのものにあまり劣情は抱かなかったのかとも思う。読了日:10月25日 著者:田中 優子,白倉 敬彦http://book.akahoshitakuya.com/cmt/3705382夢を与える■夢を与える前2作とはかなりテイストの違った作品。夕子の人間としての成長と彼女がチャイルドタレントを起点に芸能界でのポジションを徐々に築き上げていく様が丹念に描かれる。その順調に見えたかと思ったものが、一気に崩れ去るところで終わってしまうのだけど、「その先の夕子」をいちばん読みたいと思うので、過程がおもしろかっただけにちょっと物足りなくて、残念。読了日:10月27日 著者:綿矢 りさhttp://book.akahoshitakuya.com/cmt/37055173日でわかる歌舞伎■3日でわかる歌舞伎 (知性のBasicシリーズ)歌舞伎鑑賞入門書。今度は、明治から戦後にかけての歌舞伎界の歴史について言及したものも読みたい。読了日:10月28日 著者:野上 圭,三隅 治雄http://book.akahoshitakuya.com/cmt/3705833獣の奏者(1(闘蛇編))■獣の奏者 1 闘蛇編 (講談社文庫 う 59-1)読了日:10月28日 著者:上橋 菜穂子http://book.akahoshitakuya.com/b/4062764466獣の奏者(2(王獣編))■獣の奏者 2 王獣編 (講談社文庫 う 59-2)今までファンタジーはちょっと苦手だったけど、読み始めたら止まらなくて一気に1、2巻読んでしまった。異世界物なのに、リアルに満ちていて、それでいて寓意的で、大人も楽しめて考えさせられる小説だった。人間と獣たちとの距離感の描かれ方も説得力あり。読了日:10月29日 著者:上橋 菜穂子http://book.akahoshitakuya.com/cmt/3705914
2009年11月08日
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先月読んだ本のまとめの続きです。世界奇食大全■世界奇食大全 (文春新書)新書ではあるのだけど、著者の「ゲテモノ食い体験エッセイ」といった感じ。いわゆるゲテモノに、偏見を捨てて果敢に挑戦するというのはいいのだけど、完食できないものも多いというのが、ひっかかる。何でもおいしく食べられないのなら、はじめから無理な挑戦してもしかたないのでは?と根本的な疑問が抱いてしまうのだが。読了日:10月11日 著者:杉岡 幸徳http://book.akahoshitakuya.com/cmt/3443307夜叉桜■夜叉桜「弥勒の月」の続編。陰惨な過去を捨てて、商人としてまっとうに生きていこうとする清之介。過去のトラウマも何もないくせに心に虚無を抱える同心の信次郎。どちらも読者としてはなかなか感情移入できるものではないから、バランスのいい岡っ引き伊佐治の存在がありがたい。伊佐治の清之介に対する「商人として生き抜いた果てに穏やかに生を閉じて欲しい」と祈る気持ちは、そのまま読み手の気持ちに通じていく。とはいいつつ、みんな清之介を放ってくおいてくれそうもなく……。読了日:10月12日 著者:あさの あつこhttp://book.akahoshitakuya.com/cmt/3443528競走馬の科学■競走馬の科学 (ブルーバックス)先日「シービスケット」を読んで、がぜん興味を持って手にした本。競馬入門編として勉強になりました。読了日:10月13日 著者:JRA競走馬総合研究所http://book.akahoshitakuya.com/cmt/3443925三匹のおっさん■三匹のおっさん還暦過ぎた3人のおっさんの時代劇調痛快世直し譚。大きく世界を救うのではなく、地域限定というところに読者(私)を取り巻く社会の問題点を改めて考えさせられます。特に「閉じた輪の中の育児」には、身につまされること多々。エンタメながら、学ぶところも大でした。読了日:10月14日 著者:有川 浩http://book.akahoshitakuya.com/cmt/3444043お狂言師歌吉うきよ暦■お狂言師歌吉うきよ暦天保の改革下の江戸。お狂言師として生きる小町娘のお吉が公儀隠密の抗争に巻き込まれていく。現代物を中心に書いている人の時代物はわりに読みやすいけど、時代物専業作家による時代物は、独特なリズムがあるなあと最近思う。読了日:10月15日 著者:杉本 章子http://book.akahoshitakuya.com/cmt/3444207東京箱庭鉄道■東京箱庭鉄道東京に鉄道を作る、という夢のような企画に向けて動き出す人々。結果はともあれ、過程がとても楽しい。東京散歩もできたし、戦後の旧宮家と西武グループとの関わり(これは史実に沿ったエピソードのようですね)や東京交通網の変遷も辿れたり、おまけに、東京のどこに鉄道が欲しいかなあなんて、自分でもシュミレーションしてみたり。読書していて、描かれる舞台をある程度知っていると一層楽しい、ということを実感する1冊でした。読了日:10月19日 著者:原 宏一http://book.akahoshitakuya.com/cmt/3496096字数制限のため、まだまだ続く、です。
2009年11月08日
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1ヶ月ぶりの更新です。先月読んだ本をまとめました。コメントは、読書メーターに書き溜めた読書備忘録からのコピペです。心霊探偵八雲(4)■心霊探偵八雲4 守るべき想い (角川文庫 か 51-4)読了日:10月01日 著者:神永 学http://book.akahoshitakuya.com/b/4043887043警官の血(上巻)■警官の血 上巻読了日:10月02日 著者:佐々木 譲http://book.akahoshitakuya.com/b/4104555053警官の血(下巻)■警官の血 下巻3代に続くの警察官の人生が、戦後の警察機構の歴史と共に描かれるミステリー。それぞれの正義に対して苦悩する三人三様の警察官人生が興味深い。2代目民雄の人生がいちばん過酷。読了日:10月03日 著者:佐々木 譲http://book.akahoshitakuya.com/cmt/3344989世界の葬送■世界の葬送鳥葬、エコロジーでエコノミーでとてもいいかも。しかし日本で実行すると遺体損害の罪に問われるそうです。読了日:10月04日 著者:松涛 弘道http://book.akahoshitakuya.com/cmt/3345018松風の記憶■松風の記憶 (創元推理文庫 M と 2-5 中村雅楽探偵全集 5)表題作、この手の手法は、時代の流行だったのだろうか。謎解きでもないようなサスペンスでもないような、中心がぼやけているような。読了日:10月05日 著者:戸板 康二http://book.akahoshitakuya.com/cmt/3345028ガール■ガール (講談社文庫)「女は生きにくいと思った。どんな道を選んでも、ちがう道があったのでは、と思えてくる」(「ガール」より)。常日頃思っていたことなので、ひたすら頷くばかり。主婦をやっている自分には、「自分が選ばなかった道」を生きている人ばかりの短編集。ある意味となりの芝生です。でも、私も若いころより今の方がかわいい服きてるかも……。読了日:10月06日 著者:奥田 英朗http://book.akahoshitakuya.com/cmt/3345056【中古本】シービスケット あるアメリカ競走馬の伝説/ローラ・ヒレンブランド 奥田祐士■シービスケット―あるアメリカ競走馬の伝説1930年代後半、アメリカを熱狂させた伝説の名馬とそれに関わった人々を描いたノンフィクション。ノンフィクションでありながら、小説仕立ての臨場感あるものになっていて、とても引き込まれました。競馬とは、速く走ることができる馬たちを半ば強要して競わせるものではなく、「誰よりも速く走りたい」という馬たちの本能を最高の状態で引き出してあげることを競うものなのだと、実感させられました。それにしても、当時の騎手の生活は、あまりに過酷過ぎる。読了日:10月07日 著者:ローラ ヒレンブランドhttp://book.akahoshitakuya.com/cmt/3371040アイスクリン強し■アイスクリン強し士族階級の困窮ぶりや貧民窟、コレラ騒動、戦争の影、……華やかな文明開化の世の暗部にも触れているわりには、明るくさらりとした連作集。読了日:10月08日 著者:畠中 恵http://book.akahoshitakuya.com/cmt/3371124踊る陰陽師■踊る陰陽師―山科卿醒笑譚室町末期の京を舞台に、様々な事情で追い詰められた者たちが主人公の連作コメディー。彼らが頼るのが、公家の山科卿なのだが、いずれも彼らが元来望んだ形に事態が向かわないにも関わらず、それなりに問題が収束しているところがミソ。読了日:10月10日 著者:岩井 三四二http://book.akahoshitakuya.com/cmt/3380301まだ続きます。
2009年11月08日
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続きです。title="美女と竹林">美女と竹林読了日:09月16日 著者:森見登美彦屋上ミサイル (このミス大賞受賞作)「このミス大賞」受賞作。巻末の講評には「ご都合主義な井坂幸太郎」みたいに評されていたけど、読んでいて脚本宮藤官九郎あたりでドラマ化したらおもしろいかも、なんて思った。ご都合主義もドラマだとたぶん気にならないし。読了日:09月17日 著者:山下貴光姥ざかり読了日:09月17日 著者:田辺 聖子美女いくさ名家では再婚を重ねることで女も箔がつく。今とは違う結婚観も楽しい。読了日:09月18日 著者:諸田 玲子さよならの扉愛人のいやがらせに怯える本妻(その逆も)、というパターンはよくありがちだけど、本妻に異常なまでになつかれてしまう愛人というシチュエーションは新鮮でした。でも、それはそれで結構コワイ。読了日:09月19日 著者:平 安寿子腑抜けども、悲しみの愛を見せろ (講談社文庫)壊れた人ばかりの集まった家族の崩壊。救いのない話しながら、笑ってしまうしかないような。読了日:09月20日 著者:本谷 有希子先生、シマリスがヘビの頭をかじっています!こんな先生の下で学ぶ生徒がうらやましい。読了日:09月20日 著者:小林朋道訪問者さらりと読める、「嵐の山荘もの」。くせのあるお年寄りがワイワイいて、戯曲にするとおもしろそう。読了日:09月21日 著者:恩田 陸緋色からくり読了日:09月22日 著者:田牧 大和1Q84 BOOK 1読了日:09月25日 著者:村上 春樹1Q84 BOOK 2そうか、あれで終わりじゃなかったんだ。よかった。読了日:09月27日 著者:村上 春樹切羽へすでにできあがった「私」の世界に現れた一人の男。動き出しそうで動かない物語。それゆえに文章に表れないとこで、大きく心が騒いでいる、という感じ、か。これは、自分が若いころ読んでいたらちっともわからなかったかも。読了日:09月28日 著者:井上 荒野狐釣り―信太郎人情始末帖 (信太郎人情始末帖)読了日:09月29日 著者:杉本 章子ロコモーション傍で見ると不幸の見本市のようなアカリの人生。でも、本人にとっては、それはそれで結構幸せのような。幸不幸はひとつの尺度で測れない、だろうけど、共感はもちろんできないです。読了日:09月29日 著者:朝倉かすみ恋細工主人公たちの作った細工物をビジュアルで見てみたいです。きちんと取材されて描かれた職人の世界が興味深いです。読了日:09月30日 著者:西條 奈加読書メーター
2009年10月07日
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ものすごく、久々の更新です。最近、読んだ本のメモ程度の記録を「読書メーター」というサイトに書き込んでいるのですが、至近の1か月分の読んだ本をまとめてくれる機能に最近気付きました。どうやら、月が替われば、かってに翌月に更新されてしまうようなので、消されてしまわないうちに、保存も兼ねて、こちらも「さり気なく」更新してしまうことにしました。半年振りに日記記入画面に入ったら、結構マイナーチェンジが施されていて、ちょっと浦島太郎の気分です。9月の読書メーター読んだ本の数:30冊読んだページ数:10192ページ「お聖さんの短篇」男と女読了日:09月01日 著者:田辺 聖子弥勒の月 (文芸)読了日:09月03日 著者:あさの あつこバゴンボの嗅ぎタバコ入れ (ハヤカワ文庫 SF ウ 4-18)50年代のアメリカの空気がわかると同時に、それを俯瞰するヴォネガットの視点の鋭さにも驚きます。読了日:09月03日 著者:カート・ヴォネガット小川洋子の偏愛短篇箱最後に収められている「お供え」がコワイ。全編通して、「小川洋子・編」たらん、納得の逸品ばかりでした。読了日:09月04日 著者:小川 洋子疑心―隠蔽捜査〈3〉たぶん、読者は竜崎が恋に取り乱す話は必要としていないと思う。それより、警察というタテマエだらけの膠着した組織の中を、超合理性を武器に、空気を読まずに痛快に突き進む話を期待しているのだと思うのだが……。まあ、それでも、竜崎、恋愛の悩みを禅の公案で解決してしまうところが、らしくてツボでした。読了日:09月05日 著者:今野 敏イギリスだより (カレル・チャペック エッセイ選集)読了日:09月05日 著者:カレル チャペック,Karel Capek,飯島 周恋文の技術人って、相手によって自分の見せ方(というか見せたい方向性)が違うのね、というのを、相変わらずの森見節で楽しめる一冊。なんだか手紙が書きたくなった。読了日:09月08日 著者:森見 登美彦徒然王子 第一部読了日:09月09日 著者:島田 雅彦徒然王子 第二部この国の来し方行く末を憂えた寓話。おもしろいのだけど、その終わり方はどうよとも思うのだが。読了日:09月10日 著者:島田 雅彦背の眼読了日:09月12日 著者:道尾 秀介見知らぬ場所 (新潮クレスト・ブックス)インド系移民(主に2世)を描いた短編集。バックグランドの全く違う世界のなのに、すんなり感情移入できる普遍性に驚いてしまう。静かな日常を舞台に人々の間に生じる機微が丹念に描かれ、いずれも得がたい余韻が残る。読了日:09月13日 著者:ジュンパ ラヒリチョコレートコスモス再読。恩田陸の小説の中でいちばん好きかもしれない。一つのお題に対していずれも説得力のあるけど優劣の生まれる複数のアイデアを出さなくてはならないという、作家としても生みの苦しみや楽しみがあったのでは?ここ数年は宝塚歌劇ばかりだったけど、久々にストレートプレイを観に行きたくなった。読了日:09月13日 著者:恩田 陸家日和読了日:09月13日 著者:奥田 英朗劇場の迷子―中村雅楽探偵全集〈4〉 (創元推理文庫)読了日:09月14日 著者:戸板 康二やんごとなき読者日本においては、読書はとてもいいことのように謳われるけど、万国共通ではないのだな、と。文化大革命時の中国でも読書は「人間をバカにする」と禁じられたらしいし。「読書には、それなりの筋力が必要」には賛同。口当たりのよいものばかり読んでばかりじゃいけないと、反省。読了日:09月14日 著者:アラン ベネット
2009年10月07日
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名もなき毒どこにいたって、怖いものや汚いものには遭遇する。それが生きることだ。財閥企業で社内報を編集する杉村三郎は、トラブルを起こした女性アシスタントの身上調査のため、私立探偵・北見のもとを訪れる。そこで出会ったのは、連続無差別毒殺事件で祖父を亡くしたという女子高生だった。 (「BOOK」データベースより)「誰か」の続編です。「誰か」は、事件が解決してもひっかかりの残る作品でした。実際の殺人者よりも、もっと怖い、どの人の中にも(もちろん私の中にも)ありうる悪意をつきつけられたからです。今作は、さらにグレードアップ。いろんな「毒」の形が描かれます。連続毒殺事件を扱いながら、怖いのは、実際の毒そのものよりも人々の心を蝕む「毒」。主人公をはじめ、たぶんみんながみんな、大なり小なり毒に心が蝕まれています。メインの殺人事件が霞んでしまうくらいの、やりきれなさが残ります。その中でも、理屈でも常識でも理解できないトラブルメーカーの女性が登場します。毒に蝕まれすぎて、毒そのものになってしまったような人物です。(具体的な彼女の行動は、本書をお読みください。くらくらします)「常に自分が被害者で常に他者によって自分が傷つけられている」とか、「何事もうまくいかないのは自分ではなく常に他人のせいだ」という考え方をする人は、きっと彼女のような人間になりうるはず。人は、自分の中の毒をきちんと自覚すべきなのかもしれません。(もちろん、私自身も反省させていただきます)しかし、実際に彼女のような人物にうっかり遭遇したら、どう対処したらいいんでしょうね。「どこにいたって、怖いものや汚いものには遭遇する。」ったって言われても困るんだが……主人公・杉村さんの今後も気になるところ。善人である彼は、善人ゆえにすぐに自分で何でも抱え込んでしまう。奥さんを愛しながらも、奥さんとも確実に分かり合えていない。葛藤を飲み込んで、奥さんに微笑んでいる。二人のあいだの微妙な壁(具体的には経済的価値観のものすごい相違)が、これからどうなっていくのやら……。シリーズとしてこの先も続いていくのでしょう。読後感を考えると読みたくない気がするけど、でもきっと読んでしまうと思います。
2009年03月05日
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柴田よしき「小袖日記」またもやsamiadoさんのブログがきっかけで読みました。現代の世のOLが、雷に打たれて平安の世(正確には、パラレルワールド的平安時代)にタイムスリップしてしまい、紫式部のアシスタントとして「源氏物語」執筆のネタ探しに奔走するという連作集。「華麗な平安絵巻」というイメージのお姫様生活は、実は、臭くて暗くて寒くて不自由で……ついでにオカメばかりで……と、現代の視点から見た古典世界がおかしいです。何しろ、当時は、みんなろくに風呂には入れないし、行灯すらない時代だし、密閉性の低い木造建築で床はほとんど板だし(畳は当時まだ座布団みたいに部分敷き)、お姫様は室内で普通に歩いちゃダメで膝立ちで歩くらしいし(これは知らなかった)、それに、絶世の美女ったってオカメ顔なわけで、……。同じように、フィクションである「源氏物語」も現代の視点で捉えられます。「平安京・噂の真相」みたいなワイドショー的趣です。おかげで、とっつきにくい古典世界がぐっと近しいものになります。しかし、ただの歴史SFコメディーではありません。それぞれの話が、事実(小説内でのミステリー仕立ての事件)から物語(「源氏物語」)へと昇華するという形で描かれていて、その過程で、当時の女性の地位の低さや人生の悲哀さが強く浮き彫りになります。つまり華々しい光源氏ではなく、彼に翻弄される女性の側から見た「源氏物語」というテーマが見えてくるわけです。それでも、作者(紫式部であり、柴田よしきである)の不幸な女性たちに対する共感と気遣いがあって、それが、ほんの少しだけ彼女たちの手助けとなり、現実そのものを変えることができなくても、読んでいる方もいくらかほっとさせらる結末になります。時には、男たちの出し抜くこともあり、それもそれで小気味いいです。元ネタには「夕顔」「末摘花」「葵」「明石」「若紫」、という有名どころのエピソードが使われていて、知らなくてもわかるようには描かれてはいます。でも、現代語訳ででも押さえておくと、より楽しいかもしれません。しかし、このペースで2月分の読書記録を書いていくと、まったく終わりそうもないような……。
2009年03月03日
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昨日に引き続き、2月に読んだ本パート2仁木英之「僕僕先生」仁木英之「薄妃の恋」日本ファンタジー大賞受賞作と、その続編の連作集。中国は唐の時代。ひょんなことで、仙人・僕僕先生の弟子となったニート青年・王弁。人の世、物の怪の世、異次元世界まで縦横無尽に旅する師匠にお供して、彼はさまざまな経験を積んでいきます。しかし、仙人と言えど、可憐な美少女の姿をした僕僕先生。王弁は彼女を師と仰ぎつつも、恋心も抱くようにもなってしまいます。仙人との恋は成就するものなのか、という葛藤にも彼は陥る羽目に。そんなもろもろをひっくるめて、茫洋としたニート青年がいかに成長し変わっていくかというビルドゥングスロマンとなっています。道教的世界に史実もいくらか加えられる形で、全体に春風駘蕩としたムードで物語は展開します。描かれる時代も国も違うけど、人でないもの多数登場したり、人と怪異の関わりを描いて、ちょっぴり人の中にある悪みたいなものを描いてみたりしてるし、それでいてほのぼの小説だし、おまけに表紙の絵もかわいくて……と、なんとなく畠中恵の「しゃばけ」シリーズをも彷彿とさせられたりもします。(そういえば、あちらもファンタジー大賞の公募作品としてデビューしてるし)同じように、シリーズがずっと続いていきそうな感じです。齢千年の仙人としがない青年のありえないような恋(?)の行方という、「しゃばけ」シリーズにはない見ドコロ(というか読みドコロ)を盛り込んで、旅はいかに続いていくのでありましょうか? てな感じ?新刊が出れば、読んでしまいそうです。
2009年03月02日
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3月になったので、さっそく「2月に読んだ本」その1三津田信三「凶鳥の如き忌むもの」怪異譚を求め日本中をたずねる小説家・刀城言耶は瀬戸内にある鳥坏島の秘儀を取材しに行く。島の断崖絶壁の上に造られた拝殿で執り行われる“鳥人の儀”とは何か?儀礼中に消える巫女!大鳥様の奇跡か?はたまた鳥女と呼ばれる化け物の仕業なのか?本格ミステリーと民俗ホラーを融合させた高密度推理小説。 (「BOOK」データベースより) 三津田信三「首無の如き祟るもの」奥多摩に代々続く秘守家の「婚舎の集い」。二十三歳になった当主の長男・長寿郎が、三人の花嫁候補のなかからひとりを選ぶ儀式である。その儀式の最中、候補のひとりが首無し死体で発見された。犯人は現場から消えた長寿郎なのか?しかし逃げた形跡はどこにも見つからない。一族の跡目争いもからんで混乱が続くなか、そこへ第二、第三の犠牲者が、いずれも首無し死体で見つかる。古く伝わる淡首様の祟りなのか、それとも十年前に井戸に打ち棄てられて死んでいた長寿郎の双子の妹の怨念なのか―。 (「BOOK」データベースより)怪異譚オタクの作家・刀城言耶シリーズの2巻と3巻。どちらも横溝正史みたいな京極夏彦みたいなおどろおどろしい世界が展開します。ついでに時代背景もそのあたり(太平洋戦争をはさんで事件が語られる)で、時代をそこに置くメリットもふんだんにいかされてます。メリットとは、たとえば、まだまだ迷信深い人が多いとか、警察の科学捜査に限界があるとか、戦争による混乱が及ぼす影響とか、そんなところです。「凶鳥……」の方は、前半はかなり冗長で読み進めるのに、かなり苦労しました。ミステリーを読んでいて、眠くなるという経験は初めてだったかもしれません。ストーリーとしては悪くないと思うので、たぶん筆力とかテンポの問題なのかもしれません。それが、「首無……」になると、かなり筆がこなれてきます。同じ人が書いたのかと思うほど、読みやすくなります。冗長さはあるものの、冗長さを楽しめるだけの描写力があるという感じです。どちらも不可能犯罪的密室ミステリーの形であり、どちらも私にとっては驚愕のトリックであり真相であったりします。ホラーミステリーは、真相がわかってしまうと急に部屋の明かりが20ワットから100ワットになったみたいにしらけてしまうものも多いけど、こちらはどちらも最後まで薄暗くどろーんとした雰囲気が続いてくれるのもいいです。三谷幸喜「役者気取り」朝日新聞連載のエッセイの単行本化第6巻。三谷幸喜の、シャイで大胆、引っ込み思案で出たがりという複雑キャラ全開です。続きは、また後日。
2009年03月01日
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スポーツニュースを見ていると、最近はWBCのことばかりで、少しうんざり。WBCそのものなら、いいけど、練習ばかり見せられても……というところです。(すみません、あまり野球には興味ありません)それでも、ほかに見たいものがなければ、なんとなく見ているわけです。で、気付きました。マリナーズの城島は、メル・ギブソン(当然ながら若いころの)に似ている。ほかには、ソフトバンク・和田投手(代表に落選してしまいましたが)は、水川あさみに似ていると、以前から思っているのですが、どうでしょう?それだけですけどね。
2009年02月25日
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実は、まだ続いていた「1月に読んだ本」。でもこれで完結です。森見登美彦「有頂天家族」京都を舞台に繰り広げられる、狸と天狗と人間(少数の)の乱痴気騒ぎ。まとめて言うと、そうとしか言えないお話です。あの独特な森見節は元々ツボだったので、それはよいとして、狸(もちろんヒトに化けられる)と天狗が京都の町を闊歩して……なんて世界、「なんじゃそりゃ」となかなか話に入り込めずに、どうしたものかとジリジリすること3日(2日あれば楽勝と思ったのに)。ようやく、狸4兄弟の境遇や亡き父の死の真相が明らかになるころから、俄然テンションが上がり、読むペースも上がってきます。どうやらシリーズ化しているようで、「2冊目も出たら読もう」と思えるくらいに読後は楽しい気分に浸れました。samiadoさんご紹介ありがとうございます。(物語の詳しい紹介は、samiadoさんのブログをどうぞ)今野敏「隠蔽捜査」今野敏「果断 隠蔽捜査2」このシリーズのおもしろさは、第1に主人公のキャラクターのすばらしさを挙げられます。まずは、「おいおい……」とツッコミも入れる気になれないほどの、主人公・竜崎(バリバリの警察官僚)の徹底したエリート意識に呆気にとられます。しかし、彼は本音建前もなく、真のエリート道を目指しているし、それを全うすることで自分の使命も果たし、国家のために尽くすことができると信じている。残念ながら、今の世ではそういう人は、変人であり朴念仁とも言えます。。そんな彼が、自分の属する組織(警察ですね)の不祥事に直面しても、保身に走る上司や同僚たちとのしがらみをもモノともせずに、堂々とエリート道を貫き通すのです。このバカバカしいほど徹底したエリート意識は、清清しく痛快です。自分の信義に、揺らぎがないというのは(一瞬だけ揺らぎそうになるのが、またストーリー展開上のおもしろさだけど)、実にかっこいいのです。(「サウスバウンド」(前回分日記参照のこと)のアナーキーパパと対極の人だけど、同じようにかっこいいです)また、家庭人としての竜崎も、なかなかがんばってます。家庭でも朴念仁振りは健在で、子どもに迎合しないけど、さりとて価値観を闇雲に押し付けようとはしない。2冊目になると、家庭人としての彼も相当成長してます。シリーズ1冊目「隠蔽捜査」は、警察庁総務課長としてマスコミ対応担当としての職務を全うする姿、2冊目「果断」では、降格人事で所轄の警察署長となって事件を担当する姿が描かれます。どちらも、痛快です。連城三紀彦「人間動物園」 誘拐事件をめぐる、警察、被害者家族、その周囲の人間たちの人間模様。事件の経過を追って描かれるストーリー展開は、先も読めないし、緊迫感にあふれて、ぐいぐい引き込まれます。でも、ラストはどうだろう。ちょっと脱力……というか、ここまでドキドキしながら読んだのに……という気にさせられました。(ミステリーゆえ、詳しく書けないです、すみません)
2009年02月18日
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今更だけど、1月に読んだ本の続き。(こんなペースじゃ、今月読んだ本は、4月ごろになりそう……)北村薫「野球の国のアリス」講談社ミステリーランド(少年少女のためのミステリーシリーズ)といいながら、これはミステリーというよりはSFでした。パラレルワールドに紛れ込んだ野球少女アリスの活躍、という内容ですが、穏やかで優しさに満ちた北村薫の語り口は、ここではさらにパワーアップです。まるで親戚のおじさんが甥っ子たちに優しく語ってくれるような感じ?清水義範「幕末裏返史」幕末、明治維新……と日本は有史以来の最大の転換期を迎えました。急激な転換だったために、「あの時、こうしてれば、この時、この人が殺されなかったら、その後の日本はよりよい発展をしていたのではなかろうか」という後世の人間が悔いても仕方ない歴史的エピソードもたくさんあります。そんな歴史Ifにお答えした、「もしも」小説です。小さく実際の歴史的事実を変えていく経過が、ちょっと「してやったり感」があって気分がいいです。そんな歴史の修正を積み重ねた結果、日本は……。柳広司「ジョーカー・ゲーム」昭和初期、陸軍特務機関として発足したスパイ養成所。伝説的スパイだった所長、そして育っていったスパイたちの活躍を描く連作集。スパイ小説といっても、「007」のような華々しいアクションもラブシーンも皆無。既存のモラルとか愛国心とかそんなものは一切不要というか、無用というか、逆に邪魔というスパイというあり方にすごくシビアな哲学を持ったスパイ養成小説といった感じです。スパイ同士の裏の裏の裏の裏の裏をかいたような応酬も、楽しいです。シリーズ化するといいのになあと期待。でも、私はスパイにはなれないなあと適性のなさも実感。和田竜「忍びの国」昨年のベストセラー。織田信雄軍による忍びの国・伊賀侵攻を描いた歴史小説。テンポよい展開で読みやすいです。忍びという生き方は、やはり通常の常識が通用しないもので、伊賀の国の人々のそのモラルのなさにちょっと辟易させられるものの、主人公・無門のどこかにくめない可愛げのあるキャラクターが救いとなってます。奥田英朗「サウスバウンド」もと過激派の無政府主義者の父、もと革命戦士だった母という両親を持つ小6の少年の目から見た家族小説。はじめは、国家を否定し続け、社会性のないハチャメチャな父を、主人公の少年同様にうっとうしくじれったく感じます。でも、次第に、何があっても、ぶれないし、群れないし、意思のある彼の生き方が、やはり主人公同様に格好よく思えてきます。全般にコメディータッチの小説だけど、終盤は痛快&感動で気分は大盛り上がり。映画化もされているようです。サウスバウンド スペシャル・エディション [DVD]
2009年02月14日
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山田正紀「マヂック・オペラ」二・二六事件前夜、乃木坂界隈に起きた連続殺人事件。昭和史を探偵小説の形で描く「ミステリ・オペラ」に続く3部作の2作目。二・二六事件の背景がくわしく描かれていて、漠然とか知らなかった事件そのものや、陸軍内のねじれの構造とか、楽しく勉強できました。シリーズとしては、歴史の裏側に暗躍する「悪」の存在と、それを阻止しようとする側の対立がさらに明確になっていて、前作よりはわかりやすく読みやすい印象でした。しかし、めでたいお正月に読むにはあまりふさわしい小説ではないです。井上夢人「クリスマスの4人」クリスマスに誤って人を殺してしまった大学生4人のその後。なんだかシュール感漂うミステリーと思いきや……。恩田陸「『恐怖の報酬』日記」極度の飛行機嫌いの著者によるイギリス・アイルランド紀行(ブラスα)。飛行機に乗るまでの葛藤が事細かに書かれていて、なんだかこちらまで飛行機恐怖症がうつりそうです。あらゆる恐怖症って、たぶん想像力(っていうか妄想力)豊かゆえに起こるものだとは思っていました。なかなか起こりえないような最悪の状況まで想像してしまうから怖いわけですから。だけど、彼女の場合、あれだけの広いジャンルの小説が書けるだけあって、人並みはずれてすばらしい妄想力を発揮してます。それだけで十分にいくつも小説のネタになりそうです。多作の小説家の才能の片鱗を見た気がします。それはそうと、彼女はほんとにビール好き。いつでもどこでもビールを飲んでます。そういえば、小説でもビール飲んでるシーンが多いし。花村萬月「錏娥哢〔タ〕」これは先日感想をかきました。キャムロン・ライト「エミリーへの手紙」早くに妻に死なれ、実の息子と娘と心を通わすことができないまま死んだ老人。彼は、孫娘エミリーに自作の詩集を遺します。エミリーや家族たちは、詩集の中に暗号がちりばめられていることに気づきます。それは、祖父が死の直前まで没頭していた「仕事」を解く鍵となるのですが……。序盤は、宝探しのような謎解きでひっぱられながら、孤独なまま死んだ老人の真情に触れるにつれ、感動的な家族小説に変わっていきます。最初は軽い読み物風だと思っていたけど、不覚にも終盤は涙流しっぱなしでした。矢作俊彦「ららら科學の子」1960年代、学生運動の最中殺人未遂に問われ、罪を逃れて文化大革命下の中国に逃れた「彼」。電気も通らない農村に下放されていた「彼」が30年ぶりに東京に戻ってくる。すっかり様変わりした東京で「彼」は何を見るのか……。30年後の世界は、「鉄腕アトム」で夢見たすばらしき未来ではない。技術の進化に戸惑いながらも、それに翻弄されっぱなしになることはない「彼」は決して滑稽な「浦島太郎」ではありません。むしろ、時代の先端にいるであろう彼らを迎え入れた人々の方が、よっぽど閉塞感にあえいでいるようで、皮肉に感じます。三谷幸喜「冷や汗の向こう側」朝日新聞に連載中のエッセイの第4巻。読み続けていくことで、彼独特なキャラクターにひどく馴染んできます。続きはまた後日。
2009年02月03日
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錏娥哢〔タ〕「錏娥哢タ(あがるた)」 ↓ <托>という字が女偏になった漢字。ネットでは表記できません。著者: 花村萬月 出版社: 集英社 美貌の女忍びが、島原の乱、そして徳川家康の正体に迫る。面白さ天下無双の“平成の忍者小説”決定版。(「BOOK」データベースより) 一言でまとめると上記のような内容の小説と言えます。もうちょっと内容を補足しとくとこんな感じ。時は徳川3代目・家光の治世。伊賀の里に生まれた超が100個つくほどの超美少女であり優れた技を持つ忍者・錏娥哢タ(あがるた)。このけったいな名前は、彼女個人の名前であり、伊賀の忍び一族の救世主的存在象徴する名前でもあります。(そもそもの「アガルタ」の語源は、チベットで信じられている地下にあるという理想郷の名前らしい)その彼女が伊賀一族の存亡の鍵を握り、国の未来を担う救世主として成長していく姿が、島原の乱や徳川幕府の裏側に迫る様子とともに描かれます。……と書くと、すごく壮大な物語のようです。実際にそうなんだけど、それを感じさせない小説となってます。忍者小説というくくりは合ってます。時代伝奇ロマン、言ってもさしつかえもない。ついでにSFでもある。アクション冒険小説の趣もあります。「島原の乱」に関してはかなり詳細な記述で、りっぱな歴史小説とも言えます。そこまではいいのです。さらに進めると、えらくエログロだし、けっこうナンセンスコメディーでもあるし、すごいキャラ立ち小説でもあります。つまりは、そんななんでもありが1冊に詰まった小説、となってます。もちろんちっとも破綻してません。シリアスとナンセンスが同居していて、緊張と弛緩が同時に襲ってくるような感じ。そんな読書体験、なかなかできません。たとえば、主人公・錏娥哢タが2度行う宿命の対決の場面。互いに卓越した技と技をぶつけあい、手に汗握るアクションの連続です。しかし、相手の極めつけの必殺技なんて、超が1000個つくほどすごくて、脱力してしまいます。そういう落としどころが旨くて、だんだん気持ちよくなってしまいます。ツッコミどころも満載で、作者自身も天の声としてボケとツッコミを繰り出しているあたりもツボでした。それに、登場人物も奇人変人ばかり。(その中では、錏娥哢タのお父さんは、けっこうまともかも)主人公からして、けっこう淫乱で、けっこう残虐で、それでいて慈愛に満ちたキャラクターという複雑怪奇です。とくに強烈なのは、伊賀の頭領である「蛆神様(うじがみさま)」なる性別不明の老人。容姿性格いずれもすざましいまでの濃さに辟易します。物語ののっけから、あまりの所業で(ここではいちいち書けないけど)、この先この本を読み進めていいのか迷ったくらいです。で、おもしろかったのかというと、おもしろかったのです。辟易しながらも、ほぼ一気読み。(これは作者の筆力のたまものだと思う)退屈するところは全くございませんでした。ただ万人に受けるかどうかはわかりません。ただし、こんなに波乱万丈でキャラも立っている小説だけど、映像化は無理と思われます超がつく美貌の主人公なんて、だれができるのか思いつかないし。そもそも、エログロ度高しで、こんなの映倫が許すのかと疑問。それに文字で読むこのおもしろさを映像で同じように得られるかというのも、やはりはなはだ疑問です。花村萬月の小説は、初めて読んだのですが、他の作品もこんなん?
2009年01月22日
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今週は、お気に入りのお楽しみドラマが軒並み最終回を迎えます。来週からは、どう生きていけばいいのかわかりません。(ばか)ちなみに「篤姫」……終了「風のガーデン」……木曜日に終了「流星の絆」……金曜日に終了そして「相棒」。「相棒」は、実際は最終回ではないのですが、今回で主人公・杉下右京の「相棒」であるところの亀山薫が番組卒業となってしまい、節目となってしまった放送回でありました。実質的第2主人公が番組シーズン半ばで退く、というのは、珍しいパターンであるのではないかと思うのだけど、シリーズの回を重ねていくとそういうこともあるのかなあとも思えたりも。もともと人気ドラマシリーズで、映画も当たり、水谷豊もブームとなり、番組自体はしばらくは続いていけそうであり、そうしていくのなら、海外ドラマのように登場人物の入れ替えが必要となってくるのかもしれません。もともと土ワイの2時間ドラマのために生まれたシリーズで、水谷豊ありきで企画されたもの。天才・杉下を際たたせるための相手役として、凡人役を求められたのが亀山。冷静に理詰めで事件にあたる杉下にたいして、直感で動く熱血漢の亀山。ファッションも英国紳士風(意地悪なところも含めて)な杉下に対して、アメカジ・亀山。紅茶好きな杉下に対して、コーヒー好きの亀山。ついでに亀山は利き酒の才能もたいしたものです。(彼の実家は、老舗の造り酒屋)杉下の対照的な性格という上に、杉下の天才的ひらめきを持ち上げるために、ワトソン的オトボケも求められる亀山という人間、長年やりつづけるほどに無理が出てきます。あれだけ一緒にい続けているのだから、亀山も亀山なりに成長してしまうのです。いつまでもバカな熱血漢なままでは、逆におかしいし、痛い。それに、俳優たちが年をとってしまうのも、また一因。もともと枯れた味わいが売りの杉下なら、それもアリ。でも常にTシャツ&アーミージャケット姿も、40代半ばを越えた寺脇さんには、そろそろキツイように思えます。そんなかんだで、亀山卒業。番組が始まる前の9月からわかっていたとはいえ、やはり、お名残惜しいです。やはり、亀ちゃん、愛すべきキャラクターでありました。杉下に足りない部分を補って余りある亀山刑事というキャラクターは、やはり杉下の引き立て役だけに収まらない存在感がありました。回によっては、やりきれないようなストーリーもありましたが、そこでも亀山の正義感や良心(もちろん杉下も持ち合わせてはいるのだけど)が救いでもありました。うぇーん、カンバック カメヤマ~っ。でも、殉職じゃないのが、救いです。亡き友人の遺志を引き継いで、発展途上のアジア某国に移住。そのための辞職。今シリーズ第1話「還流」のラストシーン(灼熱の大地に立つ亀山)で、きっと亀山はこの地に戻ってしまうのだろうと思わせられましたが、ほんとにそうでした。仰々しい別れのシーンはなくとも(壮行会もなし)、私は号泣です。あとは、せめて鑑識・米沢さんは辞めないで。(来春、彼が主役で映画化されるそうだが、どうだろう?)
2008年12月17日
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先週の「風のガーデン」に引き続いて。今日放送分の第9話。秘密だった主人公の病気(末期のすい臓ガン)が、今回で一気にみんなの知るところになってしまいました。みんな結構口軽くでいらっしゃる。本人だけがそれを知らなくて、それはいかがなもんだろうと思ったりするのですが。さて。とうとう、主人公・白鳥貞美(男です、中井貴一がやってます)は父(緒方拳)と再会。そして和解。さほど仰々しくなく、それでも切なく、7年ぶりに会う息子と父、という距離感はそうであろうなあと思わせる自然さです。そして、なんとも言えずもの悲しい。父は、息子が余命いくばくもないことを知って、和解しようと思ったわけでない。和解しようと決意した矢先に、息子の病気を知ってしまったわけで。その間の悪さも、非常に哀しいのです。番組HPによると、このシーンはぶっつけ本番だったとのこと。たぶん、こんなシーンは何度も繰り返し合わせちゃダメなんでしょう。俳優たちの緊張感と登場人物の緊張感がいい具合に重なって、ぎこちなさが残るくらいがきっといい。前もって与えられているセリフでも、互いに相手の出方をうかがう芝居であり、きっとアドリブの応酬のような瞬時の判断を求められる。それが、7年ぶりに相手との関係を持とうとしている間柄の会話につながっていくのだろうと。貞美は父が自分と和解しようと思っていることも自分の病気のことを知っていることも、知らない。父は、それをふまえつつ、息子の余命の話をしなくてはならない。その緊張感。緒方拳の肩にトンボがとまったりするのも、ご愛嬌です。初回からずっと見ていて思ったこと。緒方拳は、テンションを上げることなく、表情を大きく動かすことなく、声のトーンを上下させることもなく、すべての感情を表現してます。それでもきちんとわかる。というか、たぶん見ている側も能動的に彼の気持ちを汲み取ろうとしているのだと思います。見ている側を引き込む芝居って、そういうものなのかもしれません。ちょっとおまけ。緒方拳の微笑む顔は、なんだか堺雅人に似ているなあと思ってしまったのは私だけでしょうか。話し戻って。家に戻ってくるように勧める父。終末医療に携わる医師としての勧めでもあります。父は、富良野の逼迫した医療状態をも語ります。そうか、このドラマは「富良野」という土地を描くドラマでもあったのだなと、思い出すシーンです。東京でも「たらい回し」という痛ましい事件が起こるのです。地方が抱えている問題はそれよりも大きいはず。ドラマは社会派部分も見せてきます。「死ぬまでにしたいことがあるか」と父に問いに、貞美は考えてから、搾り出すように答える。娘・ルイ(黒木メイサ)の花嫁姿が見たい。バージン・ロードを共に歩きたい。ルイの喜びの姿を見たい。でも、これは彼女のためというより自分の喜びだ。結局自分のことばかり、とちょっと自己嫌悪に陥る貞美。その後、夜中に貞美は、こっそりルイがいちばん好きだと言うエゾエンゴサクの球根を植える。その姿をたまたま父を訪ねてきたルイに見られてしまう。「来年の春には、いっぱい咲く姿を見せられる」という貞美の言葉に、ルイは涙ぐむがそれを隠して一緒に植え付け作業をする。貞美は恐らくエゾエンゴサクの開花を見ることはできない。これこそ、自分ではなく、ルイだけの喜び。エンディング。短調のメロディアスな歌(原曲はショパンの「ノクターン」)と、画像の妙な明るさの取り合わせが、やっぱりもの悲しいです。書いてて、また涙出てきた……。
2008年12月04日
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11月中に読んだ本、パート2。いちいち感想文を書く時間を惜しんで読書していたので、まとめてのせておきます。コメントはちょっとずつだけ。宮部みゆき「おそろし 三島屋変調百物語事始」心に傷をもち、他人に心を閉ざす娘のために叔父が始めた「変わり百物語」。いろいろ感想を書きたいけど、……まあ、一言。「実におそろしきは、人の心なり」。たぶん、すべてを解決せずに終わっているので、続編出るかな?期待してます。角田光代「予定日はジミー・ペイジ」なんだかリアルな妊娠・出産日記風小説。もちろん、彼女らしく、いちょっと毒のきいたものになってます。石田衣良「夜を守る」上野の街を守るガーディアンズの地道な活躍を描いてます。「IWGP」よりは地味だけど、弱者に優しい物語展開は共通してます。青年たちよ、マコトにはなれなくても、アポロ(本書の主人公)にはなれます。大崎梢「夏のくじら」高知のよさこい祭りにかけるひと夏を描いた青春小説。「踊る阿呆に見る阿呆、同じ阿呆なら踊らな損損」って、これは阿波踊りだけど、読んでいてそんな気分にさせられます。東野圭吾「探偵ガリレオ」ドラマ化映画化されているので、内容を紹介することもないですね。文庫本の解説によると、もともと湯川のモデルは佐野史郎だったそうです。えらく美しく整形されてしまったのね。藤沢周平「孤剣 用心棒日月抄」藤沢周平「刺客 用事棒日月抄」用心棒シリーズ2作目と3作目。藩の密命を帯び、脱藩して江戸で用心棒のアルバイトをしながら糊口をしのぎつつ、使命を果たす青江の活躍。イケメンの剣の達人が、強敵をバタバタ倒し、妻子ありながらも美女とあやしい関係になり、ついで藩の危機をも救うのだけど、やはり藤沢周平だけあって、どうも華々しい感じにはなりません。しょせん貧乏藩の下級武士、上司たちにいいように使われるし、そのわりにはお手当てもなくってバイトしなくちゃ食べていけないし、もともと実直な正確だからあこぎなこともできないし……で、苦労性の剣豪小説といいましょうか。だから、「青江さま、ステキ」になるんですけど。池波正太郎「鬼平犯科帳(10)新装版」シリーズ再読中。文庫本なので、外出のお供として持ち歩いてます。電車の中とか、子供習い事中などの暇つぶしに、という読み方ばかりなので、24巻すべて完読するのはいつの日か。宮部みゆき「孤宿の人(上)」 宮部みゆき「孤宿の人(下)」先月読んだ中のベストで、いままで読んだ宮部みゆきの小説のマイベストです。一言じゃ書けません。改めて、書きます(たぶん)。
2008年12月02日
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11月に読んだ本をまとめて。感想はちょっとずつ。加納朋子「モノレールねこ」 家族の絆を描いた短編集。最終話「バルタン最期の日」、まさかザリガニに感情移入して泣けるとは……。有吉佐和子「和宮様御留」サスペンス仕立ての和宮降嫁にまつわる歴史秘話。真偽のほどは?いけずでもったいぶったお公家さん同士の応酬がいやらしくていいです。篤姫を呼んでこいっ。角田光代「八日目の蝉」愛人の子(赤ん坊)を誘拐した女の逃避行を描いた第1章、その誘拐された子の成長したその後を描く第2章。それぞれの視点から描かれた章が、表裏一体を成していて、小説世界に深みが生まれてます。第1章の逃避行、結構スリリングです。拓未司「禁断のパンダ」グルメ・ミステリー。ミステリーとしては…………だけど、グルメ描写は秀逸。池上永一「バガージマヌパナス」沖縄の小島を舞台にしたファンタジー。といっても、沖縄ならさもありなんと思わせるリアリティもあります。三浦展「下流大学が日本を滅ぼす!」そんな大学全入時代を迎えているのに、じゃあなぜあんなに中学受験とかの教育熱は過熱してるんだ?小川洋子「科学の扉をノックする」理系世界にあこがれる文系人間(まさに私)に送る科学入門書。小川洋子らしい、「想像(妄想?)部分」も挿入されていて、おもしろいです。大村あつし「エブリリトルシング」小説の形をとった一種の自己啓発書って感じかなあ。言ってることは素晴らしいですよ。藤沢周平「用心棒日月抄」宮仕えの下級武士は辛いぜ、のシリーズ第1作。昔NHKでドラマ化されていたから(見てなかったが)、やっぱり主人公・青江は村上弘明を想定して読んでしまいます。レイモンド・カーヴァー 村上春樹・訳 「大聖堂」短編集。人生は、些細なことの積み重ねで、でも積み重ねたからといって、どうにもならならないときはどうにもならないし、逆にほんの些細なことが救いとまで言わなくてもちょっとばかり慰めにもなる。人は脆いし、向上できないことも多いけど、それでも何があろうとも何がなかろうとも、人生は続く。読んでいてそんなことを漠然と思いました。代表作としても名高い(らしい)、表題作「大聖堂」「ぼくが電話をかけている場所」「ささやかだけれど、役にたつこと」の3篇は、確かによかったです。それぞれに違った味わいにがあって、それぞれに違う余韻に浸りました。残り9冊は、また後日。
2008年11月30日
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今クール見ているドラマは、「流星の絆」「相棒」「風のガーデン」のみ。前者2つは録画してみているのに対して、「風のガーデン」はリアルタイムで見ることにこだわってます。子どもが寝て夫はまだ帰宅せず、という「お一人様、イエ~イっ」の時間に、「風のガーデン」は実に贅沢な気分をもたらしてくれます。「風のガーデン」倉本聰 富良野三部作・第三章のフジテレビ開局50周年記念ドラマ「木曜劇場」。緒方拳の遺作のドラマとしても話題です。ストーリーは、シンプル。末期がんに侵された医師が、絶縁していた家族のもとへ戻る。一言で言ってしまえば、それだけの話をとても丁寧に丹念に描いたドラマです。駆け足で行けば2時間ドラマでもいけそうな話です。それをあえて3ヶ月かけてやっているわけですが、そのために決して内容が薄まるわけでなく、より深みを増したものになっているのです。序盤は、ストーリーはあまり動かず、主人公たちのおかれた状況を克明に描かれます。東京に暮らす中井貴一演じるエリート医師と、富良野に暮らす彼と絶縁している家族たち――地域医療に従事する父(緒方拳)、ガーデナーの娘(黒木メイサ)、知的障害のある息子(神木隆之介)――との生活の対比。園芸家の娘が作る「風のガーデン」の美しさ。丁寧さと冗長さが渾然としながらも、それでいて一種の緊張感もみなぎっていて、1時間があっという間にすぎてしまいます。そうこうしているうちに、ドラマは中盤に。序盤での執拗な積み重ねが実に遺憾なく発揮され、実に自然な運びで主人公は富良野の地に立ちます。よけいな説明もないけど、いやないからこそ、映像全体から読み取ろうと貪欲に見てしまいます。息子、娘と次々に再会するするも、陳腐なセリフも陳腐にならず(それまでの伏線が効いているから)、展開も無理がなく、それでいて、何気ないシーンにも見ている方には常に緊張感を求められます。7年ぶりの家族の再会という時間の長さとそれゆえの家族間のわだかまり、そして余命いくばくもない主人公の焦燥感がきちんと伝わるからです。そして、何も「お涙ちょうだい」に走っているわけでなく、ユーモアやウィットにも富んでいるのだけど、毎回ジュワ~と目頭熱く涙ボロボロ……。息子とのとぼけたやりとりにも、今回の「生前葬」にも泣き笑い……忙しいです。そして、平原綾香によるエンディングテーマ「ノクターン」、そのタイトルバックに流れる風にたなびく花々の美しさにも、っていうかそれだけの映像でも泣きたくなってしまいます。涙腺弱すぎるかもしれません。来週は、とうとう父親との再会。中井貴一と緒方拳との二人の俳優の本格的なカラミでもあります。ますます佳境。
2008年11月27日
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ママ友達2人と、昨今気に入っている芸能人の話題で盛り上がったときのこと。1人がボソッと。「ここ2年は、マツケンだな」それに対して、私ともう1人が同時に反応。「暴れん坊のサンバの人?」ちょっと間があいて、「松山ケンイチのほうなんだけど……」と彼女が控えめに答えました。それだけなんだけど、それだけなんだけど、「私って、もはや若くないんだな、やはり」と、思わされた瞬間でした。ちなみに、3人ともほぼ同世代で、松山ケンイチファンが一番年上。音楽携帯とかipodとかのCM見て、あまり自分に関係ないものだとしてスルーしてしまうときも、「私って、もはや若くないんだな、やはり」と思わされます。気に入った音楽を、ダウンロードではなくCDで手に入れたいと思うのもきっと、「私って、もはや若くないんだな、やはり」なんだろうな、と思わされます。ジャニーズJRやHey Say Jumpのメンバーの名前をちっとも言えないことは、別に平気。逆に言えるほうが恥ずかしいだろうし。渋谷の街をもはやまっすぐ歩けない、なんていうのも平気。たぶん、「繁華街を自分の庭のように迷いなく歩けるぜ~」みたいな見栄のようものは、とうに失われているわけで。……そうか、その時点で「私って、もはや若くないんだな、やはり」なのか。見栄張り、ってのは若さゆえかも。まあ、それだけなんだけど。それで落ち込むということもないんだけど。まあ、深みのない感慨という感じです。
2008年11月25日
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