ライフキャリア総研★主筆の部屋

ライフキャリア総研★主筆の部屋

2006年02月04日
XML
 最近、耳から離れない言葉がいくつかある。ひとつは、「戦争の手触り」という言葉。みんな、戦争の手触りが分からないから、イラクで起きていることもどこか他人事なのではないか。「戦争の手触り」が分かれば、人は心の底から戦争を起こしてはいけないと思うだろうと。

 もうひとつは、「人間を描く」という言葉。日本軍の残虐行為や、戦争責任について曖昧にしたままの日本政府のあり方を告発する作品は、過去にもさまざまに作られてきたが、そうではなく、「戦争と人間がこんどの映画のテーマだ。僕は人間を描きたいのだ」とその監督は言った。

 ある人材教育専門誌の冒頭を飾る連載エッセイを私が担当していて、インタビューした本人になり代わって「人間への思い」を描くという文章を書いている。

 次号特集がたまたま「中国における人材教育」であったので、ドキュメンタリー映画「延安の娘」で知られる池谷 薫監督にこのエッセイのページでご登場いただくことになり、お会いする機会を得たのだった。

 池谷監督は、中国の現在を描くドキュメンタリーを得意としている。「延安の娘」は、文革のときに延安へ下放されたある紅衛兵の少年少女の禁断の恋によって生まれた女の子の現在を追う。

 一方、「戦争と人間」を描いた次回作――今夏の公開を準備中の次回作「蟻の兵隊」は、「山西残留軍」のひとりである奥村和一さんを主人公とするドキュメンタリーである。

 山西残留兵なんて初めて聞く人も多いだろう。恥ずかしながら、私もそうだった。

 日本が無条件降伏した後も中国山西省に残り、国民党系軍閥の軍隊と共に共産党軍と約4年間も戦った人たちがいた。550人もの人が激しい戦闘の末、亡くなっている。

 彼らは上官の命令で「戦わされた」のだった。



 そんな日本政府に対して訴訟を起こした元残留兵の1人が奥村さんだ。

 もう80歳を過ぎている。金が欲しいんじゃない。どうせ残り少ない人生だ。自分たちがしたことを、多くの日本人に知ってもらいたいからしているのだという。

 私はまだ映画を見ていないけれども、映画の内容を紹介した新聞記事を読み、善良で平凡な普通の人が戦争によって人殺しに変わってしまうことの恐ろしさを感じた。それは「戦争の手触り」だった。

 奥村さんは20歳の専門学校生のときに徴兵され、学徒出陣で山西へ向かった。そのときの人殺し教育のシーンの描写が生々しかった。杭にくくりつけられた中国人に銃剣を突き刺して殺すように命じられた。怖かったし、嫌だったが、やるしかなかった。「もっと突けぇ」の怒鳴り声で繰り返すうち、相手の左胸にすーっと引き込まれるように銃剣が入っていった。「合格」の声が飛んだ。

「自分にも人を殺せるんだ」と、ぼんやりと麻痺したような頭の中で思ったという。

 この「蟻の兵隊」という映画は内容が内容だけに、メジャーに乗るのは難しいかもしれない。しかし、1人でも多くの人に見てもらいたいから、劇場公開を目指して監督ががんばっている。みなさんもどうか応援してください。

 いま公開中の話題作「ホテル・ルワンダ」は、上映館のめどが立たずにお蔵入りしそうになったのだが、ひとりの若者がmixiで呼びかけたのをきっかけに数千人の署名が集まり、公開にこぎつけたそうだ。

「蟻の兵隊」公式HP

「蟻の兵隊」には戦争映画にありがちな戦闘シーンの資料映像はまったく使っていないそうだ。

 中国のいまの風景と、かつて肉親や身近な人々を殺された側と殺した側の出会いの中に、戦争が詰まっていると考えたからだと監督は言った。

 決して告発調の映画ではない。中国への旅を通じて変わっていく奥村さんの姿に、人間の複雑さ、底知れなさ、人間の業、人間そのものが描かれている……と思う。 自分は「絶対的な被害者」だと思い込んでいた奥村さんが、自己正当化のためにかつての残虐な「日本鬼子」の顔をのぞかせる瞬間もあるが、やがては加害者としての自分に正面から向き合っていく。その「人間くささ」が人の心を動かすのだろう。

 さっき、自分の書いた原稿を読み返しながら自分で泣いてしまったのだが、なんとも感動的な赦しのシーンも出て来るそうだ。



 映画の中で、「慰安婦」と呼ばれた中国人女性と奥村さんが出会うシーンがある。奥村さんは、自分が中国で人を殺めたことを妻子にはまだ告げていないのだと告白する。「話せばいいのに」と彼女は言う。「悪いことをしたかもしれないけれど、それは強いられてしたことでしょう。少なくともいまのあなたは悪人には見えないわ」と。

 泣ける。手垢のついた言葉かもしれないが、人間ってすごい、人間っていいなあと思う。





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  2006年02月04日 11時09分46秒
[スピリチュアリティ研究] カテゴリの最新記事


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

© Rakuten Group, Inc.
X

Mobilize your Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: