【小説】瀬戸内夕凪ドロップス

2017.04.22
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カテゴリ: 小説
――ピーッ……!
「はい、みんな集まれーっ」
 館内にホイッスルの音が鳴り響き、スパイクだのレシーブだのの練習で痛くなった手首を擦りながら先生の元に歩み寄る。
「ちぃーとマラソン大会挟んでしもうたが、まぁみんな基本はできとるみてぇーじゃの。おし! ほいたら今日は試しにAB別れてクラス対抗で試合でも――」
「赤松せんせぇ」
 話を遮るように手を挙げたのはミホだった。
「ん? なんじゃ、杉本」
「あのー、うちらまだ試合に慣れとらんけぇ、先にクラスで練習試合したらダメですかぁ? せーからのんがクラス対抗も盛り上がるんじゃねんかなって」
 なにミホ、えらく熱心な。

 ということで、ミホの提案通りクラス別々で試合をすることになり、あたしたちは指示されたコートの横へと集まった。
「18人おるけぇ、リベロなしの3チームに別れよ。じゃあ、こことこーで――」
 いつの間にやら主導権を握ったミホが、有無を言わさずA組女子を3つのチームに振り分ける。あたしと遠藤さんは同じチームになった。
 にしても改めて意識して見ると、ミホってなんていうかこう、クラスの女王様的な――副委員長だからかもしれないけど、どことなくみんな彼女の意見に流されている節がある。ま、そう気付いたところで、ミホに関係なくあたしは女子に嫌われてるんだろうけど。
「試合じゃけど、1セットマッチで先に15ポイント取った方が勝ちいうことにせん?」
「ミホ詳しいけぇ、任せるわぁ」
「そ? じゃ、まずぁAチームとBチームの対戦っちゅーことで。Aチームがうちら、Bチームが――あんたらぁな」
 端の方でぼんやり話を聞いていたあたしを振り返り、ミホがビシッと指を突き付ける。目が合うとミホはニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
  ……なぜにあたしをダイレクトに指差す。
「ほんじゃ、サーブ権はジャンケンで。――エッコ」
 ミホに指名され、こちら側にいた小柄な女子がどことなく不機嫌そうな顔つきで前に進み出る。

〈大丈夫大丈夫。みんなも慣れてないんだし〉
 隣で不安げな表情を見せる遠藤さんの肩をポンと叩き、ちらりとチームの顔ぶれを確認する。
 遠藤さんと同じく不安そうにしている色白のぽっちゃりした子に、なんだか覇気のないひょろりと背の高い子、それと――
「なんなん、ひとんことジロジロ見て」
「や、なんでも……」

 グロスでテカテカ光る唇をつんと尖らす女子に、あたしはへらりと愛想笑いで返す。
 シャンプー? それとも香水? ほんのりスパイシーな甘い香りがする。クラスに一人、なんか派手な子がいるなーとは思ってたけど……こうして近くで見ると、明るい茶髪につけまつげに小さいけどピアスまで――校則大丈夫なのかっ?
「はぁ、試合やこぉマジてぇぎぃわー。せっかく昨日爪塗り直したとこじゃのに、ちっ。――あぁ、あんた、うちんことアテにせんとってな」
「は、はぁ……」
――プッ、Bチーム終わっとるな。ミホナイス。クスクス……
 ナイスって……このチーム分け、ワザとか!?
 そうこうするうちに、ジャンケンに負けたらしい小柄な女子がボールを持たずに戻ってきた。
「役割は特に決めんとローテーションで回ってきたとこそれぞれ頑張るっちゅーことんなったけぇ。取り敢えず最初のコートポジションはうちが決めさせてもらうわ。じゃあ――」
「平野さん、うち後ろでええわぁ。ふあぁ~……」
「ちょ、今井さんっ」
 欠伸をしながら後衛に向かう、やる気の微塵も感じられないギャル系女子。彼女のマイペースぶりはいつものことなのか、小柄女子は溜息交じりに肩を竦めこちらに向き直る。
「んじゃ山本さん、背高いけぇフロントセンターで。せーで、そん後ろが大谷さん」
 言われるがまま、背の高い女子はふらりとネット前に、ぽっちゃりした女子は自信なさげな様子でバックセンターに立つ。残るポジションはフロント両サイドとバックライト。
「ほんじゃあんた――高槻さん、フロント向こう側入って、うちレフト入るけぇ。遠藤さんは後ろな」
 ほっと僅かに表情を緩める遠藤さん。――点を取ってサーブ権を得たチームは、その都度時計回りに一つずつポジションが移動する。ってことは、相手チーム始まりの試合の場合、最初にバックライトの位置だとサーブの順番は一番最後に回ってくるということで……サーブ苦手だって言ってたもんね。あたしは遠藤さんに小さく笑いかけ、指示されたフロントライトへと足を向けた。
 位置につき顔を上げると、すぐ目の前――敵意剥き出しでこちらを睨みつけるミホとネット越しに視線がぶつかった。先程の屈辱を思い出し、あたしも負けじと睨み返す。
 審判役のCチームの一人が試合開始の合図を出すと、ボムッ……Aチームサーバーがアンダーハンドで打ったボールが大きく弧を描くようにこちら側に飛んできた。
 お、受けやすそうなボール! 頑張れ後衛!
――ボンッ、ボン、ボン……コロコロ……
 へ?
 しーーん……。
「ちょ、ちょー今井さん! なんボーッと見とるん!?」
 小柄女子――平野さんが声を張り上げる。
「はぁッ、うち? 今のんは大谷さん寄りじゃったじゃろ」
「えぇっ、う、うちっ……?」
「どっち寄りとかじゃのーてっ、もっと積極的に動いてくれにゃあおえまーが、二人とも!」
――プッ、クスクスクス……
 失笑の中、再び繰り出される敵方サーブ。大谷さんがつんのめりながらも片手で辛うじて受けたボールは変な角度でこっちに飛んできて、あたしも構える余裕なく咄嗟に片手で打ち上げる。
 は、しまったっ……
 トスが決まらず、ふわりとネットを越えてしまったボールに敵前衛がすかさずジャンプする。山本さんが慌てて手を伸ばすも間に合わず、ボールはあっけなくこちらコートへと打ち込まれてしまった。
「ちゃんとブロックしてぇな、山本さんっ」
「あぁ~ごめん。でもうち、背ぇ高ぇいうても別にジャンプ力あるわけでもねぇし……」
――ププッ、クスクスクス……
「あ~もっ……後ろ、大谷さんも! すぐフォロー!」
「ご、ごめん……」
 平野さんの剣幕に大谷さんは益々委縮する。
 そんなにきつく言わなくても……たかが授業の一環の練習試合に、なにピリピリしてるんだか。
「大谷さんごめんね。せっかくのレシーブ、あたしが上手くトスできなかったから……」
「え……」
 きょとんとあたしを見返す大谷さん――の横で、平野さんがフンッと鼻を鳴らす。
「ほんまじゃ、あんたがちゃんと回してくれんけぇ」
 ……ムカ。
 ネットの向こうでは、ミホがクックッと肩を揺らし笑っている。
 むぅ~~っ、たかが――なんて言ってる場合じゃない! 見てなさいよ、次こそはっ!


      photo by little5am





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Last updated  2017.04.22 18:47:56
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Re:【85】白熱! 練習試合!(1)(04/22)  
千菊丸2151  さん
こんばんは。
ミホの意地の悪さに腹が立ちますね。
こういうタイプの子、嫌いです。
(2017.04.22 21:38:18)

Re[1]:【85】白熱! 練習試合!(1)(04/22)  
yo-ko*Dec.  さん
千菊丸2151さん
>こんばんは。
>ミホの意地の悪さに腹が立ちますね。
>こういうタイプの子、嫌いです。
-----

転校生の紗波を目の敵にしているミホ。
紗波に恥をかかせたくて仕方がないようです…
こういうタイプに目を付けられたら、たまったもんじゃないですね;
それにしてもバレーボール……
全く詳しくないので書くのが大変です(;´Д`A ```

コメントありがとうございました! (2017.04.22 23:09:24)

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yo-ko*Dec. @ Re[1]:【88】目を向ければ見えてくる(2)(05/05) 千菊丸2151さん >周りが敵ばかりと思い込…
千菊丸2151 @ Re:【88】目を向ければ見えてくる(2)(05/05) 周りが敵ばかりと思い込んでいた沙波でし…
yo-ko*Dec. @ Re[1]:【86】白熱! 練習試合!(2)(04/29) 千菊丸2151さん >ミホの悔しがる顔が想像…
千菊丸2151 @ Re:【86】白熱! 練習試合!(2)(04/29) ミホの悔しがる顔が想像できてスカッとし…
yo-ko*Dec. @ Re[1]:【85】白熱! 練習試合!(1)(04/22) 千菊丸2151さん >こんばんは。 >ミホの…

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