セルクルシェフの備忘録 時の流れに足跡を......

PR

Keyword Search

▼キーワード検索

Profile

セルクルシェフ

セルクルシェフ

Comments

たまご@ 私も映画好きです へえ~ 映画好きなんですネェ 私は劇場…
K-PAN Chef @ Re:超短編小説会からやってきました♪(02/15) たまごさん >驚きましたネェ。 >自己…
たまご@ 超短編小説会からやってきました♪ 驚きましたネェ。 自己紹介のところに「…
ねえさん★★★@ Re:シーフードドリア 私の個人的意見ですが、ドリアよりグラタ…
ねえさん★★★@ Re:常連さんスペシャルディナー 最終回 スペシャルディナー、たまらなく美味しそ…
2008年01月19日
XML
カテゴリ: カテゴリ未分類
「わたしたち、終わりにしようか」窓の外を見ながら、あいつがポツリとそうつぶやいた。
僕の顔をチラリとも見ずに、そして無表情に。
不意打ちを食らったようだが、いつかは切り出されるのではとも思っていた。
決意は固いのか、まだ迷いがあるのか、ほんの気まぐれで出た言葉なのか、その横顔からは見て取れなかった。

僕だっていつまでもこのままで良いとは思っていなかった。
「そうか、少し長すぎたのかな、おれたち・・・。でもチョッとだけ考えさせてくれないか」そう言うのが精一杯だった。

「少し頭を冷やしてくる」僕はあいつの部屋を出て、何処に行くあても無く夕暮れの街を歩きだした。
1月の風は冷たく、空は今にも泣き出しそうに、どんよりとしている。

あいつと僕の出会いは中学生の頃。東京の外れにある中学校だ。

それぞれ種目は違うけれど部活も同じ陸上部、2人とも大した選手じゃなかったが部活は楽しかった。
クラスも一緒、部活も一緒、同じ時間を過ごすことは他のクラスメイトの誰よりも長い訳だ。

あいつと僕は不思議と気が合った。音楽や小説、映画の好みも一緒で、CDや本を貸し借りしていた。
「お前達、そんなに仲が良いんなら付き合っちゃえば?」
「冗談は止めてよ、恋愛対象はべつなの!」
クラスメイトにからかわれる度にあいつはそんな事を言ってた。
実際にそれぞれ好きな子は別にいて(お互いに片思いだったけど)恋の相談などもするぐらいだ。

結局2人とも卒業するまで片思いの恋は実らず、お互いに別々の高校に進学する事になった。
僕は就職率が高い男子校へ、あいつは男女共学の進学校へそれぞれ入学。
学校のある場所もまるで正反対の方角で、お互いに違う路線での電車通学だった。
あいつはまた、陸上部に入って毎日頑張っていたが、僕は部活には入らずダラダラとゆるい高校生活を送っていた。


付き合いだしたのは高校を卒業した年の夏頃から、中学で仲の良かった友達との飲み会がキッカケだった。
あいつは大学へは行かずに就職していた。家庭の事情も有った様だか、早く自立したかったらしい。
僕は学校の就職案内でなんとなく仕事を決めてしまった。

久しぶりに会ったあいつは、思ったほど昔と変わっていなく、なんとなくホッとした。
あいつも僕を同様に感じたらしい。

それからちょくちょく連絡を取り合うようになり、自然な流れで付き合い始めた。

最初の出会いから15年以上の月日が流れた。
結婚を考えた事も無かった訳ではない。あいつもそれとなく、そんな事を言う時もあった。
お互いに勤め先が変わったり、僕のオヤジが他界したりで、タイミングを逃してしまった感もあるが、ずるずると、もうすぐ30才になるところまで来てしまった・・・。

思いを巡らせながら夕暮れの街を歩いていると、頬に冷たいものがハラリと触れた。
見上げるとほんの少しだけど、雪が舞いはじめていた。今年の初雪だ。
ぼんやりと雪を見ているとあの場面の記憶が蘇えってくる。

それは中学2年の2学期がもうすぐ終わる冬休み前のことだった。
窓際の席の僕は何人かの友達と休み時間に雑談をしていた。
そばで窓の外をぼんやり眺めていたあいつが急に大きな声で叫んだ。「あ・雪だ!雪が降ってる!」
別に雪なんて珍しいもんじゃない。皆はさして気にも留めなかった。
「ねえねえ、雪だってば、雪が降ってるよ!」あいつは子供のようにはしゃいで、窓の近くまで僕をひきずり寄せる。
「なんだよ、雪なんて珍しくねーじゃん。」それは、すぐにやみそうな、ほんのチョッとの雪だった。
「はつゆき・・・。」あいつはポツリとそうつぶやいた。
「今年の1月に降ってるからこれは初雪じゃないよ」「違うの、そう言う意味じゃなくってね、生まれてはじめて見るんだよ、本物の雪。だから私にとっては人生の初雪なの!」
2年生になる時に沖縄から転校してきたあいつ。
転校してきたばかりの頃は寂しそうに窓の外を眺めていることが多かった。
あの時の寂しそうな顔とはまるで違う笑顔で、すぐに降り止んだ雪の空をいつまでも眺めていた。
「ねえ、また降るよね雪、今度いつ降るのかな雪」本当に楽しそうに窓の外を見ていた。
「こいつのこの笑顔をずーっと見ていたいな」あの時、僕はぼんやりとそう思ったんだ。
そういえば最近、あいつのあんな笑顔を見ていない。あの笑顔を無くしちまったのは僕なのか・・・。

あいつのわがままは、何故か許せてしまい、それが全然苦痛じゃない。
僕のわがままも、あいつはそれとなく受け止めてくれる。
オヤジが死んだ時も、仕事が上手くいかなかった時も、人間関係で悩んでいる時も、いつも僕のそばに居てくれた。
あいつが辛そうな時は僕もそばに居た。
気が付けばいつも当たり前の様に僕の隣りにいてくれるあいつ。
2人はいつも一緒に居ることが自然なんだ。

部屋に戻るとあいつはまだ窓の外を見ていた。
「なあ、雪降ってるぞ。」
「うん、ほんとだね・・・。」
「一緒に見ようか、今年の初雪」
「・・・うん。」あいつはちょっと戸惑いながらそう答えた。
僕はあいつの隣りに腰掛けて、一緒に窓の外を見ながら肩をそっと抱き寄せた。
「これからもずっーと2人で見ようか、初雪」
あいつは、あの時とまるで変わらない、とびっきりの笑顔でうなずいた。
「うん!」
                               fin








お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  2008年01月19日 22時05分56秒
コメント(0) | コメントを書く


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

© Rakuten Group, Inc.
X

Mobilize your Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: