悠久の唄 ~うたの聴けるブログ~

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ゆうとの428

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2005年10月27日
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   19.隅田川花火大会


 8月1日土曜日の夕方、世樹子が私の部屋へ遣って来た。
「あら、鉄兵君一人?」
「ああ。
香織なら、友達に逢う約束が有るとか云って、昼前に出掛けた。」
「そう。
残念ね。
二人の甘い生活が覗けると思ったのに…。
香織ちゃん、此処へ帰って来るの?」

世樹子は坐ると、部屋を見回す様にした。
部屋の壁には女物の洋服が掛けられ、サイド・ボードの上には沢山の化粧品が置かれていた。ドアの処の板間には、鍋やフライパンが新しく置かれていた。
「此の部屋も、愛の巣になっちゃったわね。
眼が痛くなりそう…。」
本棚の一番下には、仕舞い忘れたコンドームの箱が置かれていた。
「私は一人になってしまって淋しいけれど、香織ちゃんの幸せの為に我慢するわ。
どう? 
同棲生活の味は…。」
「君は若干、勘違いをしている。
俺が仕送りを使い果たしてしまったんで、彼女に生活の面倒を看て貰ってるだけさ。」
「そうらしいけど、香織ちゃんは嬉しそうだったわよ。」

「そんな事無いわよ。
何処へも行けなくったって、鉄兵君とずっと一緒に居られる方が嬉しいに決まってるわ。」
「でも俺の前で、『矢っ張り男は、金を持ってなきゃ駄目ね。』とか云ってるし、俺の事を『鉄ヒモ』って呼ぶんだぜ。」
世樹子は笑った。
「其れは仕方無いわよ。

だけど香織ちゃんは偉いわ…。
あんな事が有った後でも、自分から逢いに行って、おまけに、こうして鉄兵君の世話迄して…。
本当に鉄兵君の事が好きなのね…。
香織ちゃんに感謝してる?」
「金を貸して呉れた事には、充分感謝してる。」
「あら、駄目よ。
香織ちゃんの優しさと深い愛情に、感謝しなきゃ…。」
「愛情では無くて、同情だと思うが…。」
私は煙草に火を点けた。
「愛情よ。
話して挙げるから、聴き為さい。
先週の木曜日、香織ちゃん酷い顔して帰って来たのよ。
青白い顔して部屋に入って来て、私が『どうしたの?』って訊いても、初めは何も答えて呉れなかったわ。
坐って、『私、今から泣くと思うけど、気にしないで。』って云ったかと思うと、本当に声を出して泣き出しちゃったの。
私、吃驚したわ…。」

── 夜になって、やっと少し冷静になった様子の香織は、世樹子に云った。 ──

「其の女の子と部屋で向かい合ってる中に、頭に血が上って来て、帰り際に、捨て台詞みたいな事を云ってしまったのを後悔してるって云ったわ。
香織ちゃんが何て云って帰ったのか、私は知らないけど、香織ちゃんはね、鉄兵君の態度が気に入らなかったって。
其の女の子が浮気の相手なら、未だ許せるって。
いえ、そうならば却って嬉しい位だって云ったわ…。
でも、女の子と自分は同じ立場に在る事が分かって、其れが頭に来たって…。
香織ちゃんは、そう云ったの。
自分が女の子と同等の扱いを受けた事が、悔しいって云ったわ。
だけど次の朝に、全然寝て無い様な顔をして、香織ちゃんは又云ったの。
よく考えてみたけど、矢っ張り自分はやきもちを妬いてるって…。」

── 香織は云った。
「私は、あの人に一番思われる存在で有りたいと願ってるけど、其れをあの人に求めるのは、間違いね…。
相手が自分を一番愛して呉れる事を欲するのは、我儘よ。
いえ、其れを願う事さえ、我儘よね。
行き場の無い願いだわ。
ジェラシーは愛では無くて、…利己心よ。
愛されたいと思うのは、愛情からじゃ無いの。
其処に在るのは、我儘だけだわ。
我儘は、不条理よね。
恋愛に義務など、本当は存在しないのよ…。」
「願う事も、いけないの…?」
世樹子は哀しそうな表情をして、訊いた。
「そうね。
でも私が、自分の恋愛に関しては、そう思う事にしたって言うだけよ。
他人も、そうであるべきなんて、云わないわ。」
「…鉄兵君を許して挙げるの?」
「許す、許さないって言う命題は発生しないって事よ。
要するに、あの人が何をしても、私は其れを責めれないって事ね。
其の替わり、私がどうするかは、私の勝手で、あの人に口出しをさせないわ。」
「…どうするの? 
鉄兵君を見捨てちゃうの…? 
…別れちゃうの?」
世樹子は不安めいた声で訊いた。
「愛されたいと言うのは、我儘だけど、愛したいと思うのは、我儘では無いわ。
私が、あの人をずっと愛していたいと願う事は…、仮令其れが、あの人に取って迷惑であっても…、不条理では、決して無いわ。」
香織は云った。 ──

「…解ったでしょ? 
香織ちゃんは鉄兵君への愛情を、あんな事が有って…、改めて自分の中に発見したのよ。
そして、愛を抱いて、再び此の部屋に来たのよ…。」
世樹子の話を、私は煙草を吹かしながら聴いて居た。
「私、鉄兵君も香織ちゃんを一番愛してると思うわ。
私には解るの…。」
「其れは希望的観測だな…。」
「違うわ。
愛してるから、お金の面倒を看て貰ってるのよ。」
「矢張り、君は勘違いをしている。」
「どうしてよ?」
「君はハッピー・エンドが好きらしいけど、俺は…、他の面も勿論そうだが…、特に恋愛に関しては、最低の男だ。」
「もういいわ。
そんな風に云っても、私には解ってるの。
鉄兵君は香織ちゃんを愛してるわ。」
ふと気が付いて、私と世樹子は時計に眼を遣った。
「…遅いわね。
ヒロシ君…。」
「遅すぎるよ。
たく、何やってんだろ? 
彼奴…。
世樹子が来るって知ってて、遅れるなんて、おかしいな…。」
云ってから私は、世樹子の表情を伺った。
彼女は聴こえない振りの積もりか、無表情だった。

 「遅いわよ。
もう7時になるじゃない。」
アルプス広場に遣って来た3人を見付けて、香織は云った。
「ヒロシが、いけないんだ。」
「許しておくんなせえ! 
おかみさん!」
「此の人だけ、置いて来れば良かったのに…。」
我々は再び電車に乗り、隅田川花火大会を観に、浅草橋へ向かった。

 川原の周辺は物凄い人出だった。
土手の上で涼みながら、のんびり花火を眺めると言う光景を想像していた私は、見当違いも良い所であった。
立ち止まって花火を観る余裕さえ無かった。
我々は人波の流れに任せて歩いた。
「部屋でテレビ中継を視てた方が、情緒が有ったな…。」
私はそう云ったが、誰も返事をしなかった。
横を視ると、ヒロシでは無く、全く知らない人間が横目でチラリと私を視た。
振り返ると、香織と世樹子の姿も消えていた。
周囲を見回したが、3人の姿は無かった。
私は仕方無く、周りの知らない人々と同じ方向に脚を動かした。
(江戸っ子でも無いのに、何で隅田川の花火なんか観に来たんだろう…?)と半分後悔しながら歩いていた時、
「鉄兵君。」
と呼ぶ声が聴こえた。
声がした方を振り向くと、人込みの中に世樹子が立って居た。
「ヒロシと香織は?」
「分からないの。」
「何だ、君も一人になっちまってたのか。」
「良かった…。
急にみんなとはぐれちゃって、とても心細かったの…。」
世樹子は、本当に安心したと言う笑顔を見せた。
「まるで幼稚園児の迷子だな。」
「あら、どうせ…、…ですよだ。」
我々は暫くヒロシと香織を捜した。
然し、二人は見付からなかった。
「二人は一緒なのかな…?」
「分からないけど…、多分そうじゃない?」
「じゃあ、駅の方で待ってるかも知れない。」
「行ってみる?」
「否、折角来たんだから、もう少し花火を観て行こう。」
私と世樹子は、川から少し離れた処に在る歩道橋の上に立ち止まって、夜空を見上げた。
其の歩道橋では同じ様にして、沢山の男女が花火を観ていた。
「然し、横浜の花火大会とは、全然規模が違うな…。」
「行ったの?」
「ああ。
…男許三人でね。」
「どうせ、ナンパしようと思って行ったんでしょう?」
「さあ…? 
忘れた…。」
世樹子は、とても懐かしいものを視る様な顔をして、其れを観ていた。
「子供の頃からずっと観に行ってた、家の近くの川の花火大会とも、全然違うわ…。
鉄兵君の地元にも、有る?」
「勿論。
太田川花火大会は、こんな感じで結構賑わうぜ。」
「そう。
広島市って大きいものね。」
「否々、伊勢崎市だって、中々…小さいよ。」
「うん。
ほんとにうちは、小さな街なのよ…。」
私は群馬県伊勢崎市を、此の眼で視た事は一度も無かったが、遠くを視る彼女の表情から、素朴で純粋な、何処となく親しみを感じさせる様な、そんな街を想像していた。


                          〈一九、隅田川花火大会〉





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Last updated  2007年02月17日 00時34分45秒
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