悠久の唄 ~うたの聴けるブログ~

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ゆうとの428

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2005年10月27日
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   20.世樹子の夢


 駅にヒロシと香織は居なかった。
「先に帰っちゃったのかな…?」
「とうとう、本当にはぐれちゃったわね…。」
私と世樹子は二人で電車に乗った。
「でも鉄兵君、同じ二人ずつにはぐれるのなら、私じゃ無くて香織ちゃんの方が好かったわね。」
「ふむ…。
其れは云えるな。」
「御免なさいね。

「否、俺じゃ無くて、ヒロシに取って、其の方が好かったって事さ。」
今度は聴こえぬ振りは出来まいと、私は世樹子のリアクションに注目した。
「ヒロシ君、香織ちゃんが苦手なの…?」
彼女は何処までも、惚ける積もりらしかった。
此れ以上勝手に深入りするとヒロシに怒られると思い、私は諦めた。
「男は皆、彼女みたいなタイプを苦手なんじゃない?」
「そうなの? 
どうして? 
香織ちゃん綺麗だし、優しいし、料理は上手いし、言う事無いじゃない。」
「女から見てどうなのかは知らないけど、あくが強すぎるんだよ。
きつい事をサラッと云って除ける処もあるし…。」

鉄兵君は、まさか違うんでしょ?」
「俺だって苦手だよ。」
「嘘。
付き合ってるのに?」
「俺、どうして付き合ってるんだろ?」

其処が香織ちゃんの魅力なのね。」
「柳沢はそうらしいな…。」
「そう言えば柳沢君、今頃彼女とルンルンしてるのかしら?」
「リンリンしてなきゃ好いけどな…。」
「してる理由無いじゃない。
鉄兵君こそ、見境無く浮気してると危ないんじゃないの?」
「…君は耳年増なのか? 
其れとも既に経験が広がってるの?」
「失礼ね。
私は耳の色素細胞しか、沈殿はしてないわ。」
私は笑った。
そして小さな驚きを持って、彼女を視た。
「君も香織に劣らず中々云うんだね…。
意外と言うか、見直した。」
「私のは全部、香織ちゃんとフー子ちゃんの請け売りよ。
いつも入れ知恵されてるの。
三栄荘に出入りするからには、此れ位知っとかないと、鉄兵君達に好い様に扱われるわよって…。」
「ほお…。
まるで、幼気な少女をいたぶる大悪党の様な云われ方だな…。
じゃあ訊くが、君はバージンかい?」
世樹子はためらう事なく、唯視線を落として答えた。
「ええ。
そうよ…。
…信じる?」
「勿論、信じるさ。
そうじゃないかと思ってた。」
「私が子供っぽいから…?」
「違う。
君は子供っぽく見られ易いかも知れないけど、精神年齢は急度、可なり高いと思う。
バージンだと思ったのは、君の恋愛に対する考え方から、対する態度を推測してさ。」
「私には香織ちゃんの様な、深遠で高尚な恋愛論を持てる頭が無いわ。
私のは幼稚なの…。」
電車は飯田橋を出た。
「君の恋愛論を是非聴きたいな。」
「大体想像が付いてるでしょ…? 
恋愛論って名が付く程のものじゃ無いの。」
「うん。
想像は付いてる。
君の場合は、論理では無くて、感性だ。」
「感性でも無いわ…。
…夢よ…。」
「夢…?」
「そう。
恋愛が夢なの…。
可笑しいでしょ…? 
普通はみんな、やりたい事とか、なりたいものとか、スケールの大きなものを、夢として持ってるけど…、私の夢は…、細やかなのよ…。
ちっちゃ過ぎるって言うか…、恥かしいんだけど…、私の夢は、愛を叶える事…。」
「…愛を叶える事、其れが夢…か。
恥かしい事は全然無いよ。
大きな夢さ。
愛が夢なんて…。」
「小さいのよ。
本当に…。
多げさなものじゃ無いの…。
唯、好きな人の側に…、ずっと居る事が出来れば好いの。
其れが願いなの。
そして其の人に愛される事が、夢なの…。」
「矢張り君は、感性の人だった…。」
「無理に感心しなくても好いわ。
笑って呉れて好いのよ。
情けない夢だけど…、仕方無いの。
私には其れが全てなのよ。
他に何も無いわ…。」
電車はいつの間にか新宿を過ぎていた。
「感性の人って云えば、矢っ張り香織ちゃんよ。」
「確かに彼女は変わった感性をしているが…、センスの良い言葉と感性とは、関係無いぜ。」
電車は中野駅に到着した。
北口の改札を抜けてから、私は云った。
「ところで、君の夢の調子は今どうだい?」
「そうねぇ…。
良くも無いけど、悪くも無いわ…。
片思いなの…。」
「夢半ばって理由か…。
でも言い寄って来る男は、沢山居るだろう?」
世樹子は黒目勝ちの綺麗な瞳をしていた。
「全然居ないわよ…。」
我々は、サンモール商店街やブロードウェイの東側に平行している路地を、北へ向かって歩いた。
「今夜は思い掛けず二人限になれたから、少し飲んで帰ろうか?」
「そんな事して、香織ちゃんに悪かない…?」
「厭かい?」
「…好いわよ。
道草しましょう。」
彼女は笑顔を浮かべた。
路地の両側には、各種飲み屋やゲーム・センターやパチンコ屋が並んでいた。
我々は「サウスポー」と言う名の店に入った。
私はビールを、彼女はブルー・ハワイを注文した。
「鉄兵君の恋愛論も聴かせてよ。」
「俺のは、『如何にして良い女と寝るか?』さ。
其の為に、先ず作戦をたて、次に接触を謀り、そして全存在を賭けて事に取り組む…。
何より集中力が大事だと思うな。
其れと、実践を積む事も…。」
「其れは、ナンパ論でしょ…?」
「ワン・ナイト・ラブを馬鹿にしてはいけない。
一夜で燃え尽きるなんて、素敵な事だ。
少しずつ逢って、恋愛を長持ちさせようとするよりは、余っ程増しさ。
其れに、初めて逢った其の夜にお互いが本当に感じ合うって事は、結構難しいんだぜ。
テクニックを持ってないと駄目なんだ。
気心の知れた女と何度セックスしたって、余り上達は望めない…。」
世樹子は、「訊いた私が馬鹿でした。」と言う様な顔をして、横を向いていた。
「何の話だっけ…?」
私は云った。
「もう、いいわよ…。」
彼女はストローを指に挟んだ。

 深夜に近い時刻の街を、私と世樹子は三栄荘に向かってゆっくり歩いていた。
「鉄兵君の理想の女性は、矢っ張り香織ちゃん?」
「俺の場合、女性である事が、既に理想なんだ…。」
「鉄兵君と香織ちゃんて、私の理想のカップルなのよ。」
「…でも俺は両刀使いでも無ければ、人間以外の生物とセックスをしてる理由でも無い…。」
「本当に二人は似合ってるって言うか、見ていて素敵だなって思うの。」
彼女は既に、私とスムーズに対話する要領を把握していた。
「二人は私の理想なのよ…。
こんな事云うと、恋に恋してるみたいでしょ? 
確かに去年までは、そうだったわ。
自分でも、唯素敵な恋愛に憧れてるだけだったと思うもの。
今でも香織ちゃんとかには、そうだって云われるけど、…でも、今は違うの…。
本当に違うのよ…。」

 ヒロシと香織は既に三栄荘へ帰って居た。
「何処へ行ってたの? 
二人でいなくなったりして…。」
香織が訊いた。
「違うさ。
俺と世樹子は、別々にはぐれて、其れから一緒になったんだ。」
「あら、計画的な逃亡だったんじゃないの?」
「違うって…。
俺達の方だって、捜してたんだぜ。」
私は香織よりも、ヒロシの顔色を気にした。
「其れにしても、随分遅かったじゃない?」
「ああ…、花火をずっと最後迄観てたんだ。
花火から恋愛論を帰納法的に導き出せないかって考えてさ…。」
世樹子は唯笑っていた。

 「鉄兵ちゃん、とうとうヒモになったんだって?」
ヒロシが云った。
私は口へ運び掛けたグラスを途中で止めた。
香織と世樹子は笑い出した。
「ああ…、まあな…。」
「好いなあ…。
俺、憧れちゃうなあ…。」
「ヒロシもやれば…?」
香織が云った。
「やりたいよぉ。
相手が居れば…。」
「ヒロシ君も早く彼女を作り為さいよ。」
世樹子が云った。
「あなたも、早いとこ彼を作るべきよ。」
香織が世樹子に云った。
「ヒロシと世樹子が付き合えば、済む事じゃない?」
私は云った。
「好い考えだわね…。」
「他人事だと思って、簡単に処理するみたいに云わないでよ。」
ヒロシは何も云わず、笑っていた。
「まるで、ラブコメね…。」
香織が云った。


                           〈二〇、世樹子の夢〉





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Last updated  2006年03月25日 19時27分10秒
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