悠久の唄 ~うたの聴けるブログ~

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ゆうとの428

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2005年10月30日
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   25. 夏合宿〔前編〕


 階段に差し掛かると、ベルが鳴り始めた。
私はバッグを抱え、息を切らせながら走り続けていた。
ホームに駆け上がると「あっ、来た! 早く!」と言う叫び声がして、私は「ひかり」の一番近いドアに飛び込んだ。
私の背後で、ドアは静かに閉まった。
其の朝、私は香織の悲鳴で眼を覚ました。
起床を全く彼女に任せていた私は、前日迄の疲れの所為で、安眠の底を漂っていた。
香織が寝過ごすと言う事は非常に珍しかったが、彼女も前夜の、久し振りとは言え4回に及ぶ連続遊戯に疲れていたのかも知れない。
8月30日、我が「徒歩旅行愛好会」は、夏合宿に向けて、東京駅を出発した。


5泊6日の旅で、民宿を渡り歩き、昼間は観光、夜はコンパと言う内容を繰り返すのである。
81年度の行先は能登半島で、参加人数は30名程度であった。
名古屋で新幹線を降り、特急に乗り換えた。
サークルの中には、旅行する場所について、前以て書物を読む等して、知識を携えたり歴史を勉強して置いたりする者も居たが、私等は予備知識は愚か能登と言う以外、自分が何と言う地名の処へ行こうとしているのか全く解らなかった。

 「おい、運試しに遠征して来ないか?」
私は、向かい合って坐って居る、淳一に囁いた。
「好いぜ。」
私と淳一は席を立った。
「あら、二人揃って何処へ行くの?」
千絵が訊いた。
「一寸、トイレへ…。」

仲の良い事で…。」
千絵は疑わしげに云った。
殆どサークルの貸切状態となっている車輌を抜け出してから、私は云った。
「道具はちゃんと持って来ただろうな…?」
「もち…。」

夏休みも終わり掛けの時期であったが、車内には結構、旅行風の若い連中が居た。
そして、若い女性も沢山見掛けた。

 「すいません、トランプしませんか?」
唐突に、私は声を掛けた。
明るい服装をした二人の女性は、驚いた様に私の方を見上げ、其れから、お互いの顔を見合わせた。
「僕等、旅に出たは好いんだけど、もう暇で今にも死にそうなんです。
迷惑で無かったら、どうか助けると思って、僕等とトランプして下さい…。」
空かさず、淳一がフォローを入れた。
二人連れの女はクスクス笑い出した。
「好いわよ…。」

 旅の挟間で見知らぬ女性と会話する事を、至福とする我々に取って、団体で有ると言う事は、何故か心に余裕を与えた。
列車の中では、トランプが最強の武器になった。
「何だ、じゃあ、俺達と同じ駅で降りるんじゃない…。」
淳一が云った。
我々は「大富豪」をやりながら、会話を盛り上げる事に労を費やした。
彼女等の其の夜の宿泊地は我々と同じ処だった。
(此の旅行はツいてるな…。)
私は内心そう思った。
然し、未だ旅の序盤であり、運を蓄える為にも、彼女等の宿を聞き出して押し掛けて行く約束を取り付ける、と言う様な深入りは避けた。
目的地が近付き、私と淳一は、我々が泊まる民宿の名前を教えて、
「良かったら、遊びに御出でよ…。」
と、誘いの言葉を残して、引き揚げた。
「彼女達、来るかな…?」
淳一が云った。
「さあな…。
どっちでも好いさ…。」

 私と淳一のコンビは、行く先々の観光地で、次々と女性を漁った。
其処では、カメラが必需品だった。
「あれに、しよう…。」
淳一が云った。
向こうから、若い女が二人、此方へ歩いて来るのが見えた。
其の二人連れが我々の側迄遣って来た時、淳一はスッと彼女達に近付いた。
「すいません…。
一寸、シャッターを押して貰えますか…?」
「好いですよ。」
彼女等は其々、ピンクと黄色のサマー・セーターを着ていた。
ピンクを着た女の方が、淳一からカメラを受け取った。
「オート・フォーカスですから…、押すだけで好いです。」
私と淳一は海をバックに並んで、無駄な写真を一枚撮った。
「そうだ…。
折角だから、良ければ一緒に写真に入って貰えません…?」
私は云った。
淳一がカメラを持ち、私は彼女等と寄り添ってポーズを取った。
「はい、チーズ…。」
次に淳一が、彼女達の間に入った。
「淳一。
表情が硬いぞ…。」
私はファインダーを覗きながら云った。
「もっと柔らかく、スマイルを作れよ…。」
淳一は歯を出した。
「もっと自然に笑えねえのかよ…?」
私はカメラから顔を離した。
「美しい女性の側だと、緊張してしまうんだ。」
私は再びファインダーに眼を近付け、シャッターを押し掛けて、又云った。
「お前、髪が乱れてるよ。」
淳一は自分の髪に手櫛を入れた。
私はシャッターを切ろうとして、又カメラを下げた。
「おい、顔に鼻クソ付いてるぞ…。」
「えっ…?」
淳一は手で自分の顔を触った。
「あの…、鼻クソ付いてます?」
彼は女達に尋ねた。
「いいえ…。」
彼女等は笑いながら答えた。
「じゃあ、撮るぞ。」
私はカメラを構えたが、又しても顔を上げた。
「淳一…、」
「おい、いい加減にしろよ。」
淳一は怒った様に云った。
「否、ポーズがつまらないからさ、せめて、肩位抱いて差し上げろよ…。」
「そうか…?」
淳一は二人の肩を抱き、私はシャッターを押した。

 淳一はピンクと、私は黄色と肩を並べて歩いた。
「何処から来たの…?」
私は訊いた。
「東京…。
あなた達は…?」
「風の街から…。」
「そう。
東京ね…。」
「どうして解った…?」
「だって、東京弁で喋ってるじゃない…。」
東京を出る時には雨模様だったが、能登へ着いてからはずっと晴天に恵まれた。
眼を凝らさないと、空と海の境がよく判らなかった。
「私、日本海を視るの、生まれて初めてなのよ。」
彼女は云った。
「矢っ張り、太平洋とは違うのね…。」
「そうかい…?」
「色も香りも、全然違うわ。
急度海の上を吹いている、風が違うのね…。」
「君は俺と違って、旅をする資格の有る人間だね。」
「どう言う事…?」
「旅心が有るって事さ。
俺には、下心しかない…。」
バスの出る時間になった。
彼女達は「悪いのだけれど、写真を送って頂けないかしら?」と云い、我々は承知して二人の住所と電話番号を書いて貰い、別れを告げた。

 合宿3日目の夜、海辺の砂浜で花火大会が行われた。
海の上に、岩だけで出来た小さな島が見えた。
砂浜から其の島迄、細い岩の路が続いていた。
陸に据えられた1本の大きなライトが、岩の路を照らし出していた。
「あの島迄行けると思うか?」
私は淳一に云った。
「どうだろう…? 
でも行ってみたいな。」
「一寸…、馬鹿な事考えるのは、止し為さいよ…。」
千絵が云った。
然し、私と淳一の心は既に高鳴っていた。
危険だから止めた方が好いと言う、サークルの皆の声を無視して、我々二人は出発した。
岩の上は非常に滑るので、途中からビーチ・サンダルを脱ぎ、裸足になった。
暫く進むと、急に波が高くなった。
岩の路の左側から、海水が音を立てて打ち寄せた。
我々は足元に注意を払いながら前進した。
島と陸の中間辺り迄遣って来た。
「カメラを持って来れば良かったな…。」
少し余裕が出て来て、淳一が云った。
砂浜の方を振り返ると、全員が我々を見詰めている様子だった。
私は彼等に手を振った。
何人かが手を挙げて応えていた。
私と淳一の他に一人位、後を付いて来る者が居るだろうと思ったが、誰も来なかった。
「勇気の無い奴等だ…。」
波は益々激しく打ち寄せて来た。
島は直ぐ近くに見えた。
「もう少しだな…。
此の分なら、何とか辿り着けそうだ。」
私がそう云った時、突然、海岸から我々を照らしていたライトが消えた。
辺りは真っ暗になった。
「…! 
どうしたんだ…!?」
我々は反射的に両手を付いて、四つん這いになった。
何も見えなかった。
暫く其の場にじっとして居たが、再びライトが点く気配は無かった。
「参ったな…。」
「どうする…?」
「仕方無い…。
引き返そう。」
闇の中で、波の音だけが響いた。
我々は初めて、身の危険を感じていた。
慎重に足場を確かめながら、我々は海岸へ引き返し始めた。
「気を付けろよ…。」
全く予期せぬ事態に、私は動揺していた。
遣って来た時よりも格段に遅いペースで、二人は岩の上を歩いた。
「うわっ…!」
私の前を歩いていた淳一が、足を滑らせ、身体のバランスを崩した。
彼は背中から、海の中へ落ちて行った。
「淳一! 
…!」
私は叫んだ。
あっと云う間に波に呑まれ、彼の姿は黒い水の中へ消えた。


                          〈二五、夏合宿[前編]〉





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Last updated  2007年02月22日 23時58分40秒
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