悠久の唄 ~うたの聴けるブログ~

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ゆうとの428

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2005年10月31日
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   26. 夏合宿〔後編〕  ~突然の誤算~


 「淳一!」
私はもう一度呼んでみた。
真っ黒な水の中から、彼は顔を出した。
「冷てえよぉ…!」
彼は悲鳴を挙げた。
「大丈夫か…?」
彼は岩の上へ這い上がろうとしたが、岩の斜面で手を滑らし、又海の中へ落ちた。
そして打ち寄せて来た波に呑まれ、再び彼の姿は見えなくなった。

「助けて呉れ…。」
彼は云った。
私は手を貸そうとしたが、上手く行かなかった。
淳一は何度も沈んだり、浮かび上がったりを繰り返して、漸く岩の上に這い上がって来た。

 砂浜へ引き返しながら、我々は何度も足を滑らせ、時々海の中へ落ちた。
やがて我々は、海岸へ向かって右側の海水はとても冷たく、反対に左側の海水は温かいと言う事に気付いた。
二人は満身創痍で、何とか砂浜に到着した。
「良かった…。
みんな、心配したのよ…。」
千絵が云った。

 民宿では、男女別に5、6人ずつ部屋割りが行われた。

夜は連日、学年別にコンパが催された。
中には、各部屋を渡り歩いて酒を呑んでいる者も居た。
私が美穂の様子のおかしい事に気付いたのは、合宿4日目の夜だった。
私は当初、美穂が皆の前で余り私にベタベタしないで呉れれば良いが、と考えていた。
然し予期に反して、彼女は合宿の間ずっと、私の側へ寄って来なかった。

美穂とは合宿が終われば金沢へ行く約束になっており、其の時彼女にサービスすれば好いだろうと、私は思っていた。
其れにしても、普段の彼女と比べれば、夏合宿に来てからの彼女の態度は何処かよそよそしく、私を避けている様にさえ感じられた。
唯私は、急度此方の気を引こうと言う彼女の魂胆であろう位に考えて、大して心に止めなかった。
私と淳一は、夜も華麗なる出逢いを求めて外へ出掛け、サークルのコンパには殆ど参加しなかった。
然し、其の夜は、最初から1年の皆と酒を呑んだ。

 「今夜は珍しいわね…。
身体の調子でも悪いの? 
其れとも、もうナンパに飽きちゃったのかしら…?」
千絵が私と淳一に云った。
我々は前の晩、冷たい海の水に浸かって、少し風邪気味であった。
「違う。
実はコンドームが切れちゃったんだ。
千絵、持ってたら譲って呉れないか…?」
淳一が嘯いた。
「知らないわ…。
自分で買いに行き為さいよ。
駅の側に、自動販売機が有ったじゃない…。」
千絵は不機嫌そうに云った。
美穂は私から一番遠い処に坐っていた。
彼女は、隣の横沢と言う男に寄り添う様にして、其の男と愉しそうに話をしていた。
やがて酒が進むと、美穂は横沢の肩に頭を乗せて、相変わらず何か話し込んでいた。
私は彼女から態と視線を外して、周りの者と雑談を交した。
だが、矢張り、内心穏やかでは無かった。
(彼女は一体、どう言う積もりだ…?)
自分の彼女が他の男と、身体をベッタリ寄せ合って居る姿を視るのは、気分の好いものでは無かった。
美穂と横沢の様子は、次第に新密度を増していった。
私と美穂の関係は、一応サークルの者達に隠していたが、勿論知っている者も何人か居た。
私がトイレへ行った時、後から淳一も入って来て、私の隣に立った。
「おい、美穂のあの態度は、どう言う理由だ…?」
淳一が云った。
「俺にも解らん…。」
「彼女と何か有ったのか?」
「否、別に…、思い当たる事は無い。
8月の頭に東京で逢ってから、此の合宿迄逢って無いが、其の間に、彼奴の気が変わったのかも知れない…。」
「まさか…。」

 私と淳一は早々に宴会の部屋を抜け出し、布団の敷いて有る部屋へ行った。
我々は風邪の所為で、熱っぽかった。
「さっき聞いたんだが、美穂と横沢は合宿中ずっとあの調子だったらしいぜ。
お前等の関係を知ってる者の間では、お前と彼女は切れたのかって言う話題で持ちきりだってさ。
知らなかったのは、俺達位だ…。」
布団に潜り込んでから、淳一は云った。
「お前、彼女に捨てられちまったんじゃ無えだろうな…? 
確りしろよ。」
「どうやら、そうらしい…。
横沢に乗り換えたって処だろう…。」
「美穂の奴、男を舐めてんじゃねえのか…? 
はっきり彼女に確かめてみろ。」
「ああ…。
でも、彼女が態度で示そうとしてるんなら、無理に確かめる必要も無いさ。」
我々が眠りに就こうとした時、壁の向う側から、母音の発声が聴こえて来た。
隣は3年の部屋だった。
4年生は就職活動の為、夏合宿には参加しないのが慣例だった。
唯、3年生や2年生は合宿で毎晩、乱交パーティーをやっていると言う噂は、私も聞いていた。
「とても眠れ無えや…。
ウォークマンを取って来る。
お前も聴くだろう?」
そう云って、淳一は起き上がり、廊下へ出て行った。
母音の発声は、次第に大きく、はっきり聴こえて来た。

 「美穂…。」
次の朝、私は洗面所へ行く途中、廊下で彼女を呼び止めた。
「あら、お早う…。」
周りには、他に誰も居なかった。
「一寸、訊きたい事が有るんだが…。」
私は彼女に近付いた。
「君は何か俺の事で、怒ってるのかい?」
「どうして…? 
私、何も怒ってやしないわ。」
「気に入らない事が有るのなら、はっきり云って呉れ。」
「何も無いわよ。
鉄兵、少し変じゃない…?」
「変なのは、君の方だろう…。」
彼女と私は、合宿に入ってから初めて、二人限で口を利いた。
「まあ、いいや…。
ところで、金沢はどうする? 
一応、ホテルの予約は取って置いたけど…。」
微かに、彼女の表情が変化したのを、私は見逃さなかった。
「行きたく無くなったかい…?」
「予約しちゃったの…? 
私、金沢へ行ってみたいとは云ったけど、はっきり鉄兵と一緒に行くって言う約束は、しなかった筈よ。」
私は内心、腹が立って来ていた。
「行くのか、行かないのか、どっちだい?」
「…5日は、友達と約束してるの…。」
「そう。
解った…。
勝手にして呉れ…。」
吐き捨てる様に私は云って、洗面所へ歩き出した。

 彼女の心が、いつ私から離れてしまったのか、私は考えていた。
(北海道から帰って来た時、彼女は自分から求めて来たではないか…。
矢張り、お互い帰省していた間に冷めてしまった、と言う理由か…。
然し、彼女は、金沢へ行くとはっきり約束はしなかった、と云った…。
そう云われれば、そんな気がしないでもないが…。
あの時、否、もっと前から、彼女は冷めてしまって居た、と云うのか…? 
否、そうは思えない…。
矢張り…。)

 美穂の突然の心変わりは、少なからず私に動揺を与えた。
合宿後半の2日間を、私は透明な気持ちで過ごした。
其れは、失恋に変わりなかった。
然し、何よりも問題なのは、ホテルのツイン・ルームの予約であった。
私は旅行のクーポン券を視詰めた。
料金は既に全額、旅行代理店で支払ってあった。
(誤算と云うより、振って湧いた災難だな…。)
私が描いた、夏休みの最後を飾る明るい計画は、音を立てて崩れて行った。
私は淳一に事情を話し、一緒に金沢へ行かないかと誘った。
「彼女の代役か…。
好いぜ。
失恋旅行に付き合って遣ろう…。」
淳一は、急いで東京へ帰る必要も無いからと、快く承諾して呉れた。
「でも、ホテル代は、ちゃんと払えよ。」
私は云った。
「何だ。
只じゃ無いのか…。」
「当たり前だ。」
「金を回収する為に、俺を誘ったのか?」
「他に理由が有るのか? 
誰が好き好んで、男同士の二人旅をする…?」

 明日は合宿最終日と言う、5日目の夜、民宿の大広間で盛大に、全員参加の打ち上げコンパが行われた。
私は、美穂は実は私にやきもちを妬かそうとして、態と演技をして居るのではないかと、心の片隅で考えていた。
今夜か明日になって、「意地悪して御免なさい。一緒に金沢へ行きましょう。」と、私に云う積もりかも知れないと、微かに期待していた。
私は、彼女が私の方に視線を送りはしないかと、其れと無く彼女の様子を窺った。
然し、彼女の態度は前夜と変わりなかった。
横沢にベッタリ寄り添い、仲睦まじく二人で酒を呑んで居た。
彼女が私の方を視る気配は無かった。
私を無視すると言うより、最早私の事等、意識に無いと言う様子だった。
誰かが座敷の中央に出て、春歌を唄って居た。
私は未だ、彼女にフラれたと言う事が信じられない気持ちだった。
否、其れを実感出来ないで居た。
何故なら、彼女は全く普段の彼女だった。
唯、寄り添っている男が、私では無かった。


                          〈二六、夏合宿[後編]〉





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Last updated  2007年02月24日 08時15分41秒
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