第80話 「新宿ナイト・イン・フィーバー」は、BGMにピンクレディーのヒット曲が効果的に使われているドラマです。音楽の軽快さとは裏腹に、特捜最前線らしい重苦しさがある作品なのです。
暴力団抗争で使われた拳銃が、偶然にも一般市民であるサラリーマン(赤塚真人)の手に渡ってしまいます。普通なら男が警察に届け出ておしまい、となるわけですが、ドラマは悲劇的な方向へと進んでしまうのです。
男は別荘の分譲セールスを仕事とするサラリーマンですが、職場では成績が悪く上司に怒られ、セールスをしても顧客からいいように使われるばかり。鬱積は溜まる一方ですが、解消することもできないという人物像。
拳銃を手にした男は、最初は恐れおののいていましたが、次第に拳銃の威力にとりつかれていきます。そして、自分を傷つけたり、苦しめたりした人々に 復讐をしてやろうと思い立ってしまったのです。
上司や顧客たちは拳銃で脅され、男に対し「何でもするから」と命乞いします。拳銃の存在により、今まで経験したことのない優越感を得た男ですが、結局恨みつらみの思いが強く、相手を射殺してしまいました。
自暴自棄になった男は、最後に自分を裏切った(と思い込んだ)恋人を殺そうと考えます。しかし、吉野刑事(誠直也)らに追いつめられ、自分の命運も尽きたと思った男は、ビルの屋上へと逃げていくのです。
屋上から飛び降りようとした男に、恋人は 「死なないで」と叫びます。その声で、本来の自分の姿を取り戻したのですが、誤って足を踏み外して転落死していまいます。その時放った1発が最後の銃弾でした。
「後味の悪い」ドラマ・・・
特捜最前線という刑事ドラマの凄さは、男が転落死したところで間髪入れずにエンディングに入っていくところにあります。刑事たちだけでなく、 誰にも何も語らせることなく終わる、まさに「後味の悪い」ドラマです。
その代わり、劇中でこの事件の恐ろしさを刑事たちに語らせています。船村刑事(大滝秀治)は、一般市民が拳銃を手にしたことに「恐ろしいのはやくざより、 平凡な人間かもしれない」と事件を暗示していました。
また、連続殺人がサラリーマンの仕業だと知った吉野刑事は 「平凡だからやったのさ」と言い、警察官になって拳銃を手にした時、気持ちが高ぶってしまった自分の経験と重ね合わせています。
ここまで極端な事件は、現実には起こらないだろう、あくまでもフィクションの世界だから・・・と思いつつ、でも、自分にとって理不尽と思えるような社会に不満を持っている人は、決して少なくないでしょう。
ドラマの中のサラリーマンは、そういう鬱積した人をデフォルメして描いており、 赤塚真人さんの名演技もあって、非常に印象深い作品に仕上がっていると感じました。
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