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2022年08月30日
ドラマのBGMで使われている懐かしの歌謡曲、フォークソング
今回は作品を掘り下げるのではなく、 ドラマのBGMに使われている音楽について書きます。特捜最前線が昭和の刑事ドラマだということを実感できるのも、BGMがあってこそなのです。
著作権などの権利関係がどうなっているかといった専門的なことは分かりませんが、昔のドラマでは挿入歌やオリジナルメロディーのほかに、ヒット中の歌謡曲やフォークソングがBGMとして使われていました。
例えば「新宿ナイト・イン・フィーバー」という回では、当時人気絶頂だった ピンクレディーのヒット曲が次々にBGMとして使われ、しかもドラマのストーリーに効果的な選曲までされていたのです。
この回は、平凡なサラリーマンがふとしたことから凶悪な犯罪者になってしまうという話ですが、犯罪を犯した時には「モンスター」、指名手配のニュースが流れた時には「ウォンテッド」が挿入されました。
私だけの特捜最前線→40「新宿ナイト・イン・ フィーバー〜一般市民を凶悪犯に追い込んだ拳銃の魔力」
このほか印象的だった回を挙げると、「手配107・凧をあげる女!」の回では中島みゆきの「この空を飛べたら」、「殺人伝言板・それぞれのクリスマス!」の回ではアリスの「帰らざる日々」が流れていました。
また、橘警部(本郷功次郎)の親子物語を描いた回「父と子のブルートレイン!」では、中森明菜の「少女A」をBGMだけでなく、橘が口ずさんでいたのも印象に残っています。ついでに時代も感じました(笑)
最後にBGMで忘れてはならないのが、エンディングのテーマ曲 「私だけの十字架」です。イタリアの歌手・チリアーノさんが歌う哀愁を帯びたこの曲は、ドラマの名場面をいくつも彩ってくれましたね。
※このコラムは、note版では第39タイトルのコラムとして掲載しています
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2022年08月29日
私だけの特捜最前線→49「東京,殺人ゲーム地図!〜推理を楽しめる刑事ドラマの正統派ストーリー」
※このコラムはネタバレがあります。
特捜最前線には、社会派もしくは人情派のドラマが多いですが、この「東京,殺人ゲーム地図!」は、刑事物の原点である推理とサスペンスにあふれた 「正統派」とも言えるストーリーが展開されます。
連続通り魔事件を推理する叶刑事
東京都内で、女と男が交互に相次いで襲われる連続通り魔事件が発生します。特命課が捜査を開始しますが、その捜査をテレビで先読みしてしまう男が現れます。元警察官の犯罪研究家(小林昭二)です。
犯罪研究家は、通り魔事件を次々と予告していきます。その言動に苛立つ 叶刑事(夏夕介)は、犯罪研究家と直接対決しますが、「今の警察機構では、この犯罪は解明できない」と断言されてしまいます。
マスコミを通じて、現行刑法を改正し、戦前の特高警察を復活させろとの主張を繰り返す犯罪研究家。その間にも通り魔事件は続き、ついには警察官の拳銃が奪われ、被害者が射殺される事態になってしまうのです。
叶刑事は、通り魔事件には法則性があることに気づき、それが碁石を使った競技 「連珠」であることを見つけます。犯人は、女を黒石、男を白石に見立て、連珠の打ち手に沿った場所で事件を起こしていました。
おやっさんの協力で、次の打ち手、すなわち事件が予想される現場を探る特命課。そして、その場所に犯人が現れた瞬間、特命課は恐るべき犯罪者の上をいき、犯人を現行犯逮捕できたのです。
刑事ドラマの娯楽性とメッセージ性
この回は、純粋に刑事ドラマを楽しめるという点で、特捜最前線のなかでも傑作の一つに挙げられています。犯人の人間性の部分には全く触れず、冷徹な事件を繰り返す犯罪者としてクローズアップしました。
犯人たちの狙いは、警察機構を 戦前の特高警察のような強圧的な組織に戻すことにありました。犯人の一人は「現行法では、証拠がない私に一歩も触れられないだろう」と開き直る発言をするほどです。
それに対し、神代課長(二谷英明)は「現行法があるからこそ、人々の人権が守られ、警察は民主的でありえるのだ」とキッパリ言い切ります。これは、特捜最前線の肝になる部分であるともいえます。
刑事ドラマとして、事件を推理する娯楽性を持たせながら、同時に警察のあり方について一家言加えるストーリーは見事の一言に尽きます。メインライターの長坂秀佳氏の面目躍如といったところでしょう。
犯罪研究家役の 小林昭二さんは、ウルトラマンのムラマツキャップ、仮面ライダーの立花藤兵衛としてもお馴染みですが、ここで見せた威圧的かつ説得力あふれる演技が、ドラマを一層引き締めてくれました。
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私だけの特捜最前線→48「フォーク連続殺人の謎!〜大事件を予感させつつ、最後は人間ドラマへと」
※このコラムにはネタバレがあります
「フォーク連続殺人の謎!」は、 橘警部(本郷功次郎)の警察学校同期生で、今は全国の警察に散らばっているエリート警察官たちが、謎の人物に次々と殺されていくという話で始まります。
最初の犠牲者は、出世頭だったFBI出張中の警部。一時帰国した警部を橘たち同期生が歓迎しようという日に、フォークで胸を一突きされてしまいます。同期生たちは犯人逮捕を誓い、特命課と合同捜査を開始するのです。
警部が国際シンジケートの事件を追っていたことから、組織犯罪が疑われますが、やがて同期生が次々と犠牲になっていき、新聞は 「幹部を狙った警察への挑戦」と書き立てていくのです。
仲間たちが殺されてしまい、自分の無力さを痛罵する橘。神代課長(二谷英明)は「お前の思い込みが過ぎる。それは我々も同じかもしれない」と、犯行動機について視点を変えた洗い直しをアドバイスしました。
警察官だから許せなかった
橘は、殺された同期生たちが3年前に警部の送別会で、最後まで飲み歩いたメンバーだったことに気づきます。彼らは終電車に乗るため、最寄り駅にやって来ました。そこで、動機に直結する出来事に遭遇していたのです。
階段の近くで初老の男性が倒れていました。しかし同期生たちは、よくある酔っ払いだったと思い込み、終電車へと急ぐため、そのまま放置しました。しかし、男性は頭部を打って昏倒しており、亡くなってしまいます。
連続殺人の犯人は、男性の息子だったのです。息子は「放置した男たちが警察官だったから、余計に許せなかった」と犯行を計画。警部が一時帰国するというニュースを聞き、計画を実行に移したのです。
一方、メンバーの一人だった警察幹部(長塚京三)は 「警察官がミスを犯した・・・その償いをしなければ」と、単身で男性の墓前に向かいます。息子は幹部を狙いますが、すんでのところで橘が駆けつけました。
フォークを使った特異な犯行から、動機を悟って自分を逮捕してほしかったという息子。橘は「殺された警察官の妻や子は、誰を怨めばいいんだ」と怒気を強め、自暴自棄で幹部を殺そうとした息子を撃ったのでした。
語らないことがドラマを深くする
ドラマの脚本はメインライターの 長坂秀佳氏で、警察幹部が相次いで狙われた大事件かと思わせながら、実は個人的な恨みからくる単独犯行だったというストーリーにもっていっています。
その恨みも「昏倒していた父親を誰も助けてくれず、見殺しにされた」という、青年の悲しくも独りよがりな動機で、「われ関せず」という世知辛い世の中の風潮をドラマの中へ見事に織り込んでいます。
クライマックスで警察幹部は、墓前に手を合わせたまま、犯人が殺そうとしても、橘が犯人を撃っても、その姿勢のまま動かず、一言もしゃべらないままにエンディングを迎えるという演出は素晴らしかった・・・
何も言わなかったことで、警察幹部の複雑な心境を見事に見せつけてくれました。もちろん、長塚京三さんの名演技あってこその名場面です。ちなみに橘警部も狙撃後は、一言も口をきいていません。
殺人になぜフォークを使ったのか、という謎解きをしたのは、桜井刑事(藤岡弘、)でした。その種明かしをするのは、ネタバレのやりすぎですし、ヤボなのでやめておきましょう。作品をぜひご覧ください。
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私だけの特捜最前線→47「ダイナマイトパニック?T・?U〜1本で2つのドラマが楽しめる前後編」
※このコラムはネタバレがあります
「ダイナマイトパニック」は、?Tと?Uの前後編に分かれており、サブタイトルとして「?T・殺人海域!」「?U・望郷列島!」が付いています。特捜最前線らしく、前後編が全く雰囲気の異なるドラマになっているのです。
「?T・殺人海域!」は、謎の組織から「どこかの駅に爆弾を仕掛けた」との予告が入り、ある実業家が所有する高額な絵を要求するという話。組織が何者か分からず、要求の意図も不明で、特命課は翻弄されます。
一癖も二癖もある実業家との交渉も難航し、爆発予告時間は徐々に迫ってくるというスリリングな展開に終始します。そして、ドラマの後半で組織の正体、さらに実業家との関係が解き明かされていくのです。
組織と思われた犯人は単独犯の男で、伊勢志摩の同じ島の出身である友人を殺された仕返しに実業家本人を狙っていました。「?U・望郷列島!」では、島を舞台にしたさらなる真相へと深入りしていきます。
事件の背景には、 男と友人が慕う女性の存在がありました。女性は過去に、実業家が目論んだリゾート開発に反対し、抗議をしたことで逆に実業家の一派から乱暴され、自殺未遂に追い込まれていたのです。
男と友人は女性を励ますとともに、自分たちが東京へ出て成功し、数年後に再会することを誓い合います。しかし、実業家の犯罪を立証しようとした友人は、権力の前に屈し、ついには殺害されてしまったのです。
男がどのようにして実業家に復讐するのか、その女性は今どこで何をしているのか、実業家は男の言うとおりに行動するのかなど、クライマックスに向けて、ドラマはスピーディーに展開していきます。
このドラマでは、実業家役の神田隆さんが「嫌味ったらしい権力者ぶり」を見事に演じています。事件を起こした男が「警察はいつでも権力者の味方で信用できない」と言わしめるほどの敵役ぶりを見せつけます。
交渉役を務めた船村刑事(大滝秀治)は、何度となく実業家に振り回され、苦虫を噛む思いをさせられました。その中で、実業家たちが男の友人を殺した証拠をつかみ、ついに実業家に手錠をかけたのです。
船村は「貴様のようなやつがいるから、こんな事件が起こったんだ」と激しい口調で実業家を罵倒します。視聴者としては 「よくぞ言ってくれた」と拍手を送りたくなるような場面でした。
前編では爆弾による大量殺人の恐怖を見せ、後編は一転して友情や哀しみといった人間ドラマを描くという、長坂秀佳氏の脚本とダイナミックな演出の素晴らしさには脱帽させられましたね。
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私だけの特捜最前線→46「深夜便の女!〜衝動殺人を犯した男の動機を、妻の姿から語らせたドラマ」
※このコラムにはネタバレがあります
今回紹介する 「深夜便の女!」は、とても切ないストーリーです。主役となるのは、東京へ仕事を探しに出かけたまま数カ月も行方不明になった夫を探しに、単身上京してきた妻(長内美那子)です。
110円のために殺人を犯してしまった男
通勤途中で若いサラリーマンが殺害された事件を捜査する 紅林刑事(横光克彦)は、現場に散らばっていた50円玉1個と10円玉3個を発見します。犯人が落としたものだとみて、証拠品としました。
そんななかで、神代課長(二谷英明)の友人という大企業の専務宛に、事件を起こしたことを示唆する脅迫状が届きました。その筆跡が、妻が探している夫のものと似ていたため、紅林は妻の夫探しに協力します。
結局、事件の犯人は夫だったのですが、そこに至る過程が非常に切ないのです。夫は事件当日の朝、面接を受ける会社までの電車賃100円と会社にかける電話代10円だけを持って簡易宿泊所を出ます。
夫は、専務が仲介してくれた会社なので再就職がほぼ決まりだと思っていました。しかし、会社に電話すると「聞いていない」との返事。続けて専務に電話をしたら「忘れてた」とあっさり言われてしまうのです。
絶望に打ちのめされる夫に、通勤を急ぐサラリーマンがぶつかり、 なけなしのお金をばら撒いてしまいます。罵声を浴びせるサラリーマンに激情し、思わず近くにあった鉄パイプで殴りかかってしまったのです。
事件の遠因を作ったのは専務でした。この男はふだんから「上から目線」で人を見下すような態度を取っていました。専務が夫に対して、あまりにも無責任だったことに紅林は怒りをあらわにします。
紅林を制しつつ、神代は静かな口調ながら「たった110円のために人を殺す男もいる。その気持ちがお前にわかるか」と怒りをぶつけます。二人の姿に、専務も事の重大さをようやく悟るのでした。
妻の存在がドラマに厚みを持たせる
さて、このドラマの主役である妻について触れておきましょう。妻は、事件とは全く関係がありません。しかし、事件を起こしてしまった夫の身の上を語る上で、 妻の存在が重要な位置づけになっているのです。
紅林刑事との会話を通して、夫が仕事探しに出てきた理由、夫と専務との関係、そして重要証拠となる脅迫状を入れた封筒の持つ意味、それらが少しずつ紐解かれ、やがて事件の動機へとつながっていきます。
夫を思い続けるけなげな妻を演じる 長内美那子さんは、まさにはまり役でした。夫の消息がわかり、安堵してコップ酒を飲む姿・・・その直後、夫が容疑者として逮捕されるのを見て、絶望に打ちのめされる姿。
そして、夫が現場検証に立ち会うのを物陰から見守る姿。現場検証を終え、被害者が倒れた場所に手を合わせ「許して下さい」とつぶやく姿。と、その時、妻はおもむろに植え込みの中で何かを探し始めるのです。
不思議に思う紅林に、妻は 「夫が落としたお金、10円足りないんです」と言います。確かに、夫の手元には90円残っていたはずですが、現場に落ちていたのは80円。これには私も思わずハッとしました。
妻は植え込みから10円を探し出し、笑みを浮かべます。その10円玉に、夫の姿を見たのかもしれません。「後味の悪いドラマ」がウリの特捜最前線ですが、久々にスッキリ感の残ったラストシーンでした。
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私だけの特捜最前線→45「窓際警視の靴が泣く!〜神代課長と蒲生警視のライバル関係」
※このコラムはネタバレがあります。出演者は敬称略
「窓際警視の靴が泣く!」は、特捜最前線のセミレギュラーで、窓際警視シリーズの主役だった 蒲生警視(長門裕之)が出演したドラマです。今回、蒲生と絡むのは紅林刑事(横光克彦)でした。
警察官の県人会に出席した紅林は、自慢の高級靴を誰かに間違えられ、紛失してしまいます。靴探しを所轄署に依頼したところ、引き受けたのが蒲生警視。蒲生は再び、窓際族に戻っていたのです。
特命課は連続強盗殺人事件を追っていましたが、その犯人が失くした紅林の靴を履いていたことが判明。ひたすら靴探しをしていた蒲生に紅林は協力し、靴の行方、すなわち犯人の足取りをたどっていったのです。
容疑者にたどり着いた蒲生ですが、逆に刺されて重傷を負ってしまいます。紅林は、蒲生が履いていた汚れだらけの靴を履き、容疑者が現れる現場へと向かい、ついに容疑者を逮捕したのでした。
このドラマの大きな見どころの一つは、靴をキーワードに 蒲生と神代課長とのライバル関係が語られているところです。かたやエリートコースを歩んだ神代、かたや叩き上げの蒲生。二人はそれぞれ若い頃を回想します。
神代は、蒲生から指摘された「靴がピカピカじゃねえか」という言葉に、エリートの自意識が高すぎた自分を恥じ入り、刑事や捜査とはどうあるべきかを顧みるきっかけになったとも言います。
一方の蒲生は、だんだんと差をつけられていた神代に対し、「俺があいつに対抗できるのは、脚を使うことだけだ」と紅林に話します。それは、神代の才能を高く評価していたからこそ、出てきた素直な感情だったのです。
互いに相手の力量を認め合いつつ、それでも「あいつには負けたくない」という神代と蒲生。理想的なライバル関係であると同時に、 ゆるぎない信頼と友情があることを見せてくれたドラマでした。
また、このドラマでは、紅林が警備局長(中谷昇)直々に警備局への栄転を打診されますが、蒲生のひたむきな捜査を見た紅林は栄転を断ります。「自分には現場が似合っている」と改めてやりがいを感じたのでしょう。
紅林は、神代課長のようなエリートコースではなく、蒲生のような叩き上げを選択したことになるわけですが、それが彼の人生で吉と出るか否か・・・余計なおせっかいでしょうかね(笑)
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私だけの特捜最前線→44「手配107・凧をあげる女!〜母と子の愛情と憎しみが交錯する辛口のストーリー」
※このブログはネタバレがあります
第152話「手配107・凧をあげる女!」は、 塙五郎脚本の神髄ともいえる非常に重苦しいドラマです。その主役となったのは母親(有吉ひとみ)と下半身が不自由で車いすを使う子供(少年、おそらく中学生くらい)。
「憎しみが生きる力になる」
母親が事件に巻き込まれ瀕死の重傷を負います。時を同じくして、母親は子供を障がい者施設に入所させることを決めていたのです。母親が死んだら自分は生きていけないと思った少年は自殺を図ってしまいます。
母親は結婚式場で働く一方、裏では売春婦をしていました。桜井刑事(藤岡弘、)は、売春組織の男の取り調べのようすを少年に聞かせます。母親の裏の顔を知った少年は、母親に激しい憎しみを持ってしまいます。
なぜ、少年にそんなひどい仕打ちをしたのか。憤る高杉婦警(関谷ますみ)に対し、桜井に代わって神代課長(二谷英明)がこう言います。 「人を救うのは、愛情だけでなく、憎しみもある」。
神代は、目の前で娘を銃殺された過去がありました。「私は犯人を憎んだ。その憎しみが私を支えてくれたのだ」と振り返り、母親への「憎しみ」が少年の生きる力になってほしいと願うのです。
ただ、神代は「危ない橋でもある」とも言っています。もしかすると、その憎しみがとんでもない方向に向かってしまうかもしれない。桜井のとった行動に、全ての責任を自分が負うという覚悟を見たのでしょう。
母親の本心を知らされない少年
ストーリーは、さらに辛口になっていきます。母親は昔の愛人と再会し、男に貢ぐために売春をしていたのです。その男に刺されて瀕死の重傷を負い、治療の甲斐なく亡くなってしまいます。
桜井に向かって母親が最後に口にした言葉・・・「私は男と一緒になりたかった。だから、 子供を捨てようとした」。つまり、施設へ入所させようとしたのは、子供と決別し、男を選んだからだったのです。
母親に憎しみを持った少年は、母の死を悲しむことなく、施設の車に乗り込みます。その車中で、母親の形見である家計簿の中から、一枚の切符を見つけました。施設のある新潟までの切符だったのです。
「母親は自分を見捨てたわけではない」・・・そう思った少年は、桜井にこのことを告げます。少年の語り口から、母親への憎しみが消えたことを悟った桜井でしたが、硬い表情を崩しませんでした。
なぜなら、その切符は桜井が用意した 「偽装工作」だったのです。
書いているだけでも重苦しくなるようなストーリーで、特捜最前線おなじみの「後味の悪いドラマ」です。中島みゆきの「この空を飛べたら」がBGMで使われており、ドラマの重さに一層拍車をかけています(苦笑)
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私だけの特捜最前線→43「誘拐II・果てしなき追跡!〜サスペンスあふれる尾行だけを描いたドラマ」
※このコラムにはネタバレがあります
「誘拐?T」「誘拐?U」として前後編で放送され、前編は「誘拐1・貯水槽の恐怖!」と題し、事件発生から身代金受け渡しまでを描いています、身代金を受け取った犯人を追って・・・というところで後編に続くのです。
犯人は異常なほど猜疑心が強いとの設定で、特命課の刑事たちは絶対に悟られないように尾行するという命題を課せられます。現場で直接指示を与えるのは橘刑事(本郷功次郎)です。
ドラマの大半を 「尾行する刑事たち」に費やしているのが、この回の特徴。逃げられそうになったり、気づかれそうになったりと、そのつど視聴者をハラハラさせる物語の展開は、さすが長坂秀佳脚本です。
最大のピンチは、滝刑事(桜木健一)が犯人に詰め寄られるシーン。そこにカンコこと高杉婦警(関谷ますみ)が現れ、デート中の喧嘩を装って危機を脱出します。もっとも、神代課長(二谷英明)が命じたのでしょうけど。
これが、前任の玉井婦警(日夏紗斗子)だったら、デートではなく違ったシチュエーション(例えば痴漢を追う婦警とか)だっただろうと思うと、キャスティングの妙もよく考えられた場面だと感心させられます。
スリリングな尾行劇の一方で、桜井刑事(藤岡弘、)だけは犯行の動機を捜査し続け、ついに容疑者を特定します。さらに、誘拐された子供の救出のために大掛かりなローラー作戦の指揮を取るのです。
このドラマでも、 橘、桜井が特命課の二枚看板として活躍していることがうかがえます。その二人をうまくコントロールしているのが神代課長であり、特命課のチーム力を見せつけた作品とも言えます。
この作品では、誘拐された子供が実は犯人の実子だったという伏線が張られていました。しかし犯人は逃亡の末、車にはねられて死んでしまうのです。そして子供は、父親と桜井によって救い出され、九死に一生を得ます。
父親は「この子は私の子です」と泣きながら刑事たちに話しかけます。桜井はじめ紅林、吉野、津上、滝、カンコはその姿を笑顔で見つめていますが、 橘だけは厳しい表情を崩していません。
橘は、結果として本当の父親である犯人を死なせてしまい、将来子供が真実を知る時がきたら、どうなってしまうのか、という思いがよぎっていたのでしょう。現場責任者として、とても笑う気になれなかったと思います。
決してハッピーエンドだけには終わらせず、「後味の悪さ」をちょっとでも悟らせる演出・・・さすがは、特捜最前線だなとうならせました。
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私だけの特捜最前線→42「チリアーノを歌う悪女!〜橘と桜井のキャラが際立ったストーリー」
※このコラムにはネタバレがあります
「チリアーノを歌う悪女!」では、 橘刑事(本郷功次郎)と桜井刑事(藤岡弘、)のダブルキャストに加え、麻薬密売人の男と、その情婦の女が中心となってドラマを展開していきます。
「両雄並び立った」ドラマ
桜井刑事が特命課に復帰して間もない頃だったため、橘刑事とはお互いに良くも悪くも対照的。ただ、以前紹介した「6000万の美談を狩れ!」のように対立させることなく、 それぞれのキャラを際立たせています。
桜井は、密売人の男を徹底的にマークします。取調室でも激しく詰問しますが、元麻薬取締官でもある男は腹が座っており、口を割ろうとはしません。男と男のハードボイルドな対決ぶりを見せつけてくれます。
一方の橘は、情婦の女に張り付き、女の子供(男の実子ではない)と温かく接しながら、女が何か知っているのではないかと探ります。その根底には「女の人生と子供の将来を守りたい」との思いがあったのです。
対決を通して桜井に「男惚れ」した男は、自ら取引先に出向いて麻薬ルート摘発に協力します。橘も、女の家にあった手掛かりの品と子供の証言から取引先を割り出すことができました。
麻薬ルートを壊滅させるという共通の目的に対し、桜井と橘は 全く違うアプローチの仕方だったわけですが、二人のキャラを明確にしたうえで、見事に「両雄並び立った」ドラマを作り上げています。
キャスティングの妙+特別出演も
このドラマに厚みを持たせてくれたのが、男役の 藤巻潤さんと女役の 緑魔子さんです。藤巻さん、桜井(藤岡さん)ともに男気あふれる役柄で、二人のシーンには張り詰めた緊張感が漂い、視聴者を圧倒しました。
緑さんは、男に尽くす女の生き様を、時には気だるい雰囲気で、時には激しい情念をぶつけながら演じています。そんな緑さんの相手役は、若い刑事やおやっさんではなく、やはり橘(本郷さん)でなければ務まりません。
ラストでは、瀕死の状態にもかかわらず、女の子供を人質にした男を桜井が射殺しました。橘は「桜井に撃たれたかったのだろう」と男の胸中を察します。適切な表現ではありませんが、桜井は 「介錯」をしたのです。
最愛の男を失った女は、途方に暮れた表情で橘たちの前から去っていきます。こういう救いようのない結末のドラマこそ、塙五郎脚本の真骨頂でもあり、特捜最前線らしいストーリーだと言えるでしょう。
ドラマでは、番組のエンディング曲「私だけの十字架」を歌う チリアーノ氏が特別出演し、ギターの弾き語りを見せてくれます。哀愁漂うメロディーが、ドラマの物哀しさを一層際立たせているのが印象的です。
余談ですが、リアルタイムで見ていた時、歌手のチリアーノってどんな人物なのか、ずっと謎のままでした。今ならば、スマホでググればあっという間に調べられる・・・便利な時代になったものですね(笑)
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私だけの特捜最前線→41「死んだ男の赤トンボ!〜流れ弾に当たった被害者を徹底的に深掘りしたドラマ」
※このコラムにはネタバレがあります
特捜最前線は、「事件が発生し、犯人を逮捕する」という 本筋から外れたところで、ストーリーを作っていくというドラマを時々見せてくれます。今回紹介する「死んだ男の赤トンボ!」もその一つです。
特命課の刑事たちが麻薬取引の現行犯を逮捕する際、犯人が撃った流れ弾に当たって浮浪者風の男性が命を落としました。ドラマは、事件そのものではなく、男性が何者なのかに焦点を当てていく展開になります。
男性は一代で財を成した大企業の社長でした。外出した車から突然降り、そのまま行方不明になったと思ったら、浮浪者風の姿で死亡していたのです。 なぜ、男性はその場にいたのか?謎は深まります。
辣腕経営者だった男性は、労働組合員など多くの人たちと敵対していました。側近である幹部に対しても、容赦なくカミナリを落とすようなワンマンぶりで、「殺されても仕方ない」と陰口を叩かれるほどです。
しかし、紅林刑事(横光克彦)らが身辺を調べてみると、辣腕経営者の外面とは違う、家族思いの父親像が浮かんできました。そこには、貧困が原因で幼い時に生き別れになった妹への情愛が根底にあったのです。
40年ぶりに再会した妹は、男性の会社が立ち退きを迫る児童養護施設の職員という皮肉な立場にいました。男性が施設を強制的に取り壊そうとすると、妹や子供たちは 「赤とんぼ」を歌って抗議の意を表したのです。
「赤とんぼ」は、幼い妹をあやす時に男性が歌っていた子守歌でした。その郷愁の思いは男性の胸の奥底に残り、ある時、突然フラッシュバックして、男性を射殺現場となった公園へといざなっていったのです。
紅林刑事がメインとなったドラマですが、主役は男性役を演じた 西村晃さんです。様々な顔をもつ男性像を見事に演じ分け、回想シーンでの登場ばかりという中で、圧倒的な存在感を見せつけてくれました。
「流れ弾に当たって死んだ男」というだけの被害者を、徹底的に深掘りしていくドラマは、特捜最前線ならではと言えるでしょう。脚本、演出、そして名優あってこそ、名作として残る作品になったのだと思います。
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