「チリアーノを歌う悪女!」では、 橘刑事(本郷功次郎)と桜井刑事(藤岡弘、)のダブルキャストに加え、麻薬密売人の男と、その情婦の女が中心となってドラマを展開していきます。
「両雄並び立った」ドラマ
桜井刑事が特命課に復帰して間もない頃だったため、橘刑事とはお互いに良くも悪くも対照的。ただ、以前紹介した「6000万の美談を狩れ!」のように対立させることなく、 それぞれのキャラを際立たせています。
桜井は、密売人の男を徹底的にマークします。取調室でも激しく詰問しますが、元麻薬取締官でもある男は腹が座っており、口を割ろうとはしません。男と男のハードボイルドな対決ぶりを見せつけてくれます。
一方の橘は、情婦の女に張り付き、女の子供(男の実子ではない)と温かく接しながら、女が何か知っているのではないかと探ります。その根底には「女の人生と子供の将来を守りたい」との思いがあったのです。
対決を通して桜井に「男惚れ」した男は、自ら取引先に出向いて麻薬ルート摘発に協力します。橘も、女の家にあった手掛かりの品と子供の証言から取引先を割り出すことができました。
麻薬ルートを壊滅させるという共通の目的に対し、桜井と橘は 全く違うアプローチの仕方だったわけですが、二人のキャラを明確にしたうえで、見事に「両雄並び立った」ドラマを作り上げています。
キャスティングの妙+特別出演も
このドラマに厚みを持たせてくれたのが、男役の 藤巻潤さんと女役の 緑魔子さんです。藤巻さん、桜井(藤岡さん)ともに男気あふれる役柄で、二人のシーンには張り詰めた緊張感が漂い、視聴者を圧倒しました。
緑さんは、男に尽くす女の生き様を、時には気だるい雰囲気で、時には激しい情念をぶつけながら演じています。そんな緑さんの相手役は、若い刑事やおやっさんではなく、やはり橘(本郷さん)でなければ務まりません。
ラストでは、瀕死の状態にもかかわらず、女の子供を人質にした男を桜井が射殺しました。橘は「桜井に撃たれたかったのだろう」と男の胸中を察します。適切な表現ではありませんが、桜井は 「介錯」をしたのです。
最愛の男を失った女は、途方に暮れた表情で橘たちの前から去っていきます。こういう救いようのない結末のドラマこそ、塙五郎脚本の真骨頂でもあり、特捜最前線らしいストーリーだと言えるでしょう。
ドラマでは、番組のエンディング曲「私だけの十字架」を歌う チリアーノ氏が特別出演し、ギターの弾き語りを見せてくれます。哀愁漂うメロディーが、ドラマの物哀しさを一層際立たせているのが印象的です。
余談ですが、リアルタイムで見ていた時、歌手のチリアーノってどんな人物なのか、ずっと謎のままでした。今ならば、スマホでググればあっという間に調べられる・・・便利な時代になったものですね(笑)
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