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2020年04月14日
日本政府の「胆力」では 残念ながら「人類の危機」とは闘え無い
日本政府の「胆力」では
残念ながら「人類の危機」とは闘え無い
〜現代ビジネス 近藤 大介 4/14(火) 7:01配信〜
何時迄この顔を見なくては?・・・写真 現代ビジネス
人類全体が試されている
新型コロナウイルスがアジアに押し寄せる直前、昨年末から今年1月に掛けて、日本の周辺国・地域を逍遥(しょうよう)した。具体的には、香港・マカオ・北京・台湾だ。コロナ発生源と為った武漢にも高速鉄道で立ち寄った。各地で様々な立場の人々に話を聞いて、2020年のアジアは「大乱の時代」に為ると確信した。
それ等の見聞と思索をまとめて『アジア燃ゆ』と云う新書を先週上梓した。新型コロナウイルスの発生で、中国国内で一体何が起こって居たのかに付いても、可成り踏み込んで書いた。どうぞご高覧下さい。
普段アジアを研究して居る身としては「日本の事は日々、多くの論客が侃々諤々(けんけんがくがく)語って居るからそれで十分でしょう」と、遂遠慮勝ちに為ってしまう。だが、コロナウイルスと云う「大乱」は、今や日本も渦中に在る。ソコで今回は、諸外国と比較しながら日本の事も述べたい。
今年1月23日、新型コロナウイルスの蔓延を受けて、中国湖北省の省都・武漢が、世界に先駆けて「都市封鎖」を行った。900万人の武漢人が、4月8日に封鎖を解かれる迄、計76日間に渉って閉じ込められた。
文 近藤 大介『週刊現代』特別編集委員
この初期の頃、私は色んなテレビ番組に呼ばれて武漢の解説をした。武漢へは、北京駐在員時代を含めて、これ迄約20回訪れて居り勝手知ったる都市だ。ソコで、各テレビ番組が要望する角度から、武漢と中国の危機に付いて述べたが、必ず最後にコウ付け加える事にして居た。 「でも、今日の武漢は明日の日本ですよ!」 この一言で、テレビスタジオの「空気」が一変する。 「エッ、マサか!」 と云う感じに為るのだ。
或る番組では、司会者から 「そんな大袈裟な事言わ無いで下さい」 と叱られた。別の番組では 「これは飽く迄も近藤さんの意見ですから」 と、キャスターが断りを入れた。
番組終了後にディレクターから 「世間の不安を煽る様な発言は、為るべく控えて下さい」 と注意を受けた事もあった。今ご活躍の西村稔康コロナ担当大臣(経済再生担当大臣)共会食する機会が在ったので、大臣にも直接申し上げた。 「一刻も早く対策を取ら無いと、日本は第二の武漢に為ります」 と。
何故そんな事を言い続けたかと言えば、中国の惨状を日々・中央電視台・CCTVのインターネット・チャンネル等で見て居て、これは単なる 「中国の災厄」 では無い。そうでは無くて 「人類全体が試されて居る」 と思えたからだ。
詰り今回の危機は、地球の生態系から人類への「警告」であり「復讐」なのだ。だから、地球上のどの地域も災禍を免れる事は出来無い。
マクニール教授が説いた「生態復讐論」
シカゴ大学の著名な歴史学の大家である故 ウイリアム・マクニール教授 は、1976年に名著『疫病と世界史』(邦訳は中公文庫)を著した。
この2020年の災禍を予見して居る様な大著は、46億年の地球の歴史上初めて、人類は一つの種に依る地球支配を実現したものの、その対価として強力な疫病の脅威に晒される事を運命付けられたと説いて居る。
《 言語の発達に伴って人類の文化的進化が、古来の生物的進化と衝突し出して以来、人類はこれ迄存続した自然界のバランスを崩壊させてしまう事が可能に為った。これは病気が、一人の宿主の体内の自然的バランスを壊すのと軌を一にして居る 》(上巻56ページ)
《 ヒトの数が増えると感染の度合いも高く為る。人口密度が高く為るに従って、寄生体が宿主から宿主に移動する機会が増大するのだ。ソコで、或る決定的な限界を突破すると、感染症は奔流の様に過剰感染と為って爆発する》(上巻59ページ)
マクニール教授も説く 「生態復讐論」 を分かり易く言えば、地球が人間に対して怒って居ると云う事だ。人間は勝手に地球全体を支配し、自然破壊や都市建設を行って居る。自然をブチ壊して、コンクリートを敷いたりビルを建てたり、地下鉄を掘ったりする人類は、人間以外の動植物に取ってみれば、地球上の生態系をブチ壊すウイルスに他なら無いと云う訳だ。
そんな人間が恐れるのは最早人間だけ、即ち戦争だけと云う状況だ。ソコで、この人間の横暴をトッチメルには 「ウイルスにはウイルス」 で、細菌を繁殖させて一気呵成に人間の数を減らしてしまうのがベストだと云う訳だ。
何だか滑稽にも思えて来る論理だが、理屈は通って居る。過去数万年位の「地球の現代史」を繙(ひもと)くと、人類が農耕や牧畜を始めるに従い、ウイルスは生態系の中で居場所を失い、農地用水や家畜等に付着する様に為った。そし時折、地殻が大地震を起こす様に、ウイルスも大繁殖を起こして人類を苦しめる・・・。
国家の「胆力」の差が露(あら)わに
新型コロナウイルスの話に戻ろう。コノ3ヵ月近くと云うもの、世界中の国々がコノ人類の新たな難敵に対峙する事を迫られ「胆力」を試された。ソコで分かって来たのは、国家の「胆力」の差に依って、被害が拡大したり鎮静化の方向に向かったりすると云う事だ。
では「胆力」とは何か。私は、次の二つの要素が含まれて居ると思う。 第一に 、 中央政府の強力なリーダーシップ である。最初に発生した中国では当初、新型コロナウイルスは「武漢市と湖北省の問題」だった。処が事態の深刻化に伴って、春節の直前、正確に言えば1月20日に習近平主席が指令を出してから、国家の最重要緊急課題と為った。以後は、完全に中央政府が主導して対処を進めた。
前述の武漢封鎖・2月初旬の火神山病院(1,000床)と雷神山病院(1,300床)の竣工・2月13日の蒋超良湖北省党委書記(省トップ)と馬国強武漢市党委書記(市トップ)の更迭・3月10日の習近平主席の武漢視察・・・そして遂に先週4月8日、武漢市の封鎖を76日振りに解除した。
中国では4月12日現在、8万3,523人が感染し3,349人が死亡したと発表して居る。本当はモッと遥かに多いと云う説も有るが、兎も角感染のピークを押さえ込んだのは事実だ。今や中国人の知人にコロナの話を聞くと逆に日本の事を心配される。
中国が感染のピークを押さえ込めたのは 中央 > 地方 と云う力関係を前提にして 中央 ⇒ 地方 と云う明確な指示系統が機能して居た事が大きかった。
社会主義の強引さとも言えるが、例え法律や前例がどう在ろうと、トップの習近平主席が「やれ!」と号令を掛ければ遣るのだ。
韓国も同様のケースだ。韓国は社会主義国では無いが大統領の権限が強大で 「国を挙げたスピーディな取り組み」 が可能である。ソモソモ韓国の憲法は、日本の「平和憲法」とは対照的で、 準戦時憲法 の様で有る。過去70年以上、北朝鮮と対峙して居て、男子に2年近い徴兵制を敷いて居る事もあり 臨戦態勢 が整って居るのである。その為、一度危機が起こるや大統領の命令一下、国民が総動員する。
ニューヨークでの感染拡大の背景
逆に、失敗例はアメリカである。アメリカは、正式名称を「アメリカ合衆国」と言う様に、50州から為る「合衆国」である。夫々の州の権限が強大で州兵組織迄有る程だ。しかも、現在の大統領は「地球環境に優しく無い」言動を繰り返して居るゴジラの様なドナルド・トランプである。
この「怪物大統領」に最も強い抵抗を見せて来たのが、ニューヨーク州とカリフォルニア州だった。共に東西の民主党の金城湯池である。
現在、最も深刻な事態に陥って居るニューヨーク州は財政が豊かで、且つトランプ共和党政権に対する反発も在って、当初はニューヨーク州の力だけでコロナ問題を解決しようとした。処がウイルスの猛威にニューヨーク州の医療設備が対応出来ず、ギブアップせざるを得無く為った。
アンドリュー・クオモ州知事 は毎日午前11時から記者会見を開いて頑張って居るけれども、どうにも為ら無い。その内、ウイルスは全米に広がり出し、株価は急落・底値を着けた3月23日には、ダウ平均が1万8,591ドルと、トランプ大統領の就任時(2017年1月20日)を大きく割り込んだ。
又失業者も、途轍も無い数に上って居る。アメリカ労働省は4月9日、過去3週間の失業保険の申請者数が1,600万人を超えたと発表した。リーマン・ショック後のピーク時も、一週間で66万件が最高だから、コレは1929年の世界恐慌ペースだ。
この為、マルで対岸の火事の様に高を括って居たトランプ大統領も、このママでは秋の自分の再選が危うく為る事を悟って、3月13日には 国家緊急事態 を宣言した。そして3月27日には、アメリカで過去最大と為る2兆ドル・約220兆円規模の景気刺激策法案に署名した。
だが、ニューヨークは自身の故郷で有るにも関わらず、4月14日現在、只の一度も同州の病院等を慰問に訪れて居ない。「どうせ何を遣ってもニューヨークは民主党の基盤だから」と思って居るのではないか。クオモ知事も会見で、州民には口を酸っぱくして様々な事を訴えて居るけれども、トランプ大統領に直訴する為ホワイトハウスには行って居ない。
同じニューヨーク人では有るけれども、互いに顔を見るのも嫌なのではないか・・・この様に、ニューヨークで感染が拡大した背景には 中央vs.地方の対立 の構図が在るのである。
バージョンアップした蔡英文政権
「国家の胆力」 の 二つ目の要素 は、 IT(情報技術)とAI(人工知能)を駆使する能力 である。ITとAIの活用に成功して居る国と地域は、感染のピークを比較的早期に食い止める事が出来て居る。アジアで言うなら、中国・台湾・香港・韓国・シンガポールが「合格点」だ。
逆に、欧米の先進国は、100年・200年と云う技術の蓄積が有るが為に、返って最新のITとAIの技術が浸透して居ない。これは経済用語で言う 「Leapfrog現象」 だ・・・詰り、先進国で何十年も前に建ったビルに最新技術を継ぎ足して行くよりも、発展途上国の更地に最新技術を備えたビルを建てた方が先進的なものが出来ると云う論理だ。
スマートフォンを発明したのはアメリカだったが、それにAIを組み込んだアプリを応用し発展させたのは東アジアだった。今回のコロナウイルスの災厄で、そうした IT+AIの技術 が、東アジアに於いて感染防止に如何無く発揮されたと云う訳だ。
具体例を挙げれば、中国は 「健康グリーンカード」 為るものを国民のスマホに搭載させた。4月8日に武漢が解放された時、中国の或る関係者に「武漢は本当に大丈夫なのか」と聞いた処、こう答えた。
「武漢に居た900万人のビッグデータを綿密に解析した結果、問題無いと結論付けた。今後『健康グリーンカード』を持った武漢人が中国全土に散らばっても、彼等の詳細なデータを把握出来るので大丈夫だ」
詰り、武漢解放を可能にしたのはAI解析による「科学」だと云うのだ。同様に、韓国は詳細な 「感染者位置情報」 をスマホで適宜、公開する事に依って、健常者が感染者に接近し無い様にした。
こうした結果、例えば4月12日の新たな感染者数は32人で、同日の日本の感染者数743人の4.3%に過ぎない。韓国はコノご時世に、15日に全国で総選挙を実施すると云うのだから驚きだ。
又、台湾もコロナウイルス対応では並々為らぬ「胆力」を示して居る。私は1月に総統選挙の取材で台湾へ行き、新著『アジア燃ゆ』で詳述したが、ソコで見たのは蔡英文民進党政権の「進化」だった。
2000年に民進党が初めて台湾で政権を取った時は、その主張に実行力が伴って居なかった。だが20年を経た現在、民進党はしなやか且つ老獪に為り、加えて ITとAIを駆使した先端技術 も「搭載」した。
今回のコロナ騒動では、バージョンアップした蔡英文政権は、一早く「マスク配給制」を実現。他にも、病院情報の詳細なアプリとか、韓国同様の感染者位置情報アプリ等を次々に展開して行った。その結果、4月12日現在で、台湾の累計の感染者数は385人と、日本の一日の感染者数の半数強に過ぎ無い。そして、矢張りこのご時世と云うのに、4月12日には台湾プロ野球が開幕した。
東京は第二のニューヨークに為るか
サテ、そうした中で日本である。日本は4月9日に緊急事態宣言が発効した。今や深刻な顔がスッカリ定着した感の有る安倍晋三首相が8日夜、1時間余りに渉る記者会見を行って緊急事態を宣言した。コロナ危機の「津波」が、4月に入って遂に日本にも襲って来たのだ。
それでは、国家の「胆力」を示す 日本政府のリーダーシップ、及びIT&AIの活用能力 はどうか。先ず、日本政府と地方自治体の関係は微妙である。日本は一応、中央集権国家と云う事に為って居るが、47の地方のトップで有る都道府県知事の権限も強大である。
例えば、日本政府と東京都の関係を見ると、安倍首相やその側近達と小池百合子都知事の関係は、明らかにギクシャクして居る。或る首相官邸関係者は、小池都知事をこう扱き下ろした。
「小池は、安倍総理を3度も裏切って居る。一度目は2007年の第一次安倍内閣で 防衛大臣 を務めて居た時。二度目は2016年に勝手に 東京都知事選に出馬 した時。三度目は2017年の衆院選の 『クーデター未遂』 だ。
だから本来なら、今年7月の都知事選挙で強力な自民党公認候補を擁立し小池を永久に葬って遣る積りだった。それが、降って沸いた様にコロナ騒動が起こって小池が息を吹き返した。自民党が公認候補擁立を断念した事で、事実上の小池続投が決まった。今小池が連日、パフォーマンスを繰り広げて居るのは、7月の都知事選挙用と云うより次期首相を狙い始めて居るからだ。
都知事選を過去最多得票数で勝ち抜き、それをテコに一度は諦めた首相の座を再び獲ろうと云う事だ。その野心がミエミエだから、安倍政権としては、コロナは退治したいが、小池の得点には絶対にさせたく無い」
こうした話を聞くと、何と無くトランプ大統領とクオモ知事の「冷たい関係」を髣髴(ほうふつ)させるのである。即ち 「東京は第二のニューヨークに為るのでは無いか」 との懸念が沸いて来るのだ。
日本は未だ20世紀
第二にITとAIをコロナ防止に活用 する点である。日本は20世紀にはアジア唯一の先進国だったが、21世紀に入って前述のLeapfrogに依ってITとAIの発展が出遅れてしまった。その為日本では、スマホを駆使したコロナウイルスの対策も、アジアの周辺国・地域に較べて大きく劣って居る。(北朝鮮を除く)
ソモソモ、日本政府がマイナンバーの発行を始めたのは2016年の事で、今年1月現在の統計でも、国民の14.9%しか持って居ない。政府が国民を把握出来て居ないのに的確且つ早急な対策を打てる筈も無いのだ。
4月1日のエイプリルフールの日に、安倍首相が 「国民にマスク2枚を配る」 と宣言した時、アメリカのブルームバーグ通信が「アベノミクス」を捩(もじ)って 「アベノマスク」 と酷評した。この時、私が或る外国メディアの東京特派員に感想を求めると 「アホノマスク」 と、更に悪辣に酷評して居た。続いて 「日本は未だに20世紀ナンですね・・・」
トモアレ、日本は政府の リーダーシップも心許(こころもと)無ければ、IT&AIの活用も心許無い 。即ち国家としての「胆力」が乏しく本格的に襲って来つつ有るコロナウイルスとの戦いに悲観的に為らざるを得無いのである。責めて国民が賢く為って、自己防衛を心掛けるしか無いのかも知れない。
近藤 大介『週刊現代』特別編集委員 1965年生まれ 埼玉県出身 東京大学卒業 国際情報学修士 講談社『週刊現代』特別編集委員 明治大学国際日本学部講師(東アジア国際関係論)2009年から2012年迄、講談社(北京)文化有限公司副社長 『パックス・チャイナ 中華帝国の野望』『対中戦略』『日中「再」逆転』『中国模式の衝撃』『活中論』他 著書多数 近著に『未来の中国年表』(講談社現代新書)『2025年、日中企業格差』(PHP新書)『習近平と米中衝突』(NHK新書)がある
【管理人のひとこと】
ナカナカ平衡感覚に富んだ方だ・・・近藤大介さん。この方とは田原総一朗氏の「あさなま」で何度かお顔を観て居る。身を以て現地を取材し的確な情報を、それも核心を突く切り口で物事を判断できる有能な人の様に思われる。そして、一番にアジアに対する心からの愛情が感じられる。中国や韓国にその他の途上国を蔑視せずに正当に評価出来るのが平衡感覚に富んだ方とした理由だ。
昨今の評論家やコメンテイターは、何かそれ等の国々を意味無く卑下し論(あげつら)うのが高等な評論だと勘違いし、意味の無い優越感に浸り満足する傾向が多い。その様な人達と一線を掻き、正当に評価し中には称賛する態度も隠さない・・・実に見上げた人だ。
確かに彼が評する様に、日本の先端情報技術は何時の頃からこの様に遅れてしまったのだろう・・・ネットや携帯費用が他国に比べて高く・行政の規制が複雑で強く、自由な競争を阻んで来た経緯も有るだろうし、積極的に推進しなかったツケが今に為って情報後進国へと為り下がったのだろう。
国会を初め殆どの企業からぺーパーは無く為らず書類とハンコの文化が未だに残って居る・・・20世紀の文化そのママなのだ。企業・学校のIT化も遅々として進ま無いママだ。コロナ禍を契機にテレワークへと誘導して居るが、未だに環境は進んで居ない・・・韓国より相当遅れて居る感じがする。無論台湾やシンガポール等も最先端を走って居るのだろう。実に情けない話だ。これも矢張り・・・と思わずを得ないのだ。
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